神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

魔天戦争

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「ほーら起きろぉ。」
 身体を譲られる。
「んーもう食えんぞアップルパイ。」
 なぜ自分はこのような言葉を発したのか、自分でも分からなかった。
 起き上がり、少しずつ視界が戻る。
 そして体が目覚めていくのが分かる。
 亜星だ。
「は、入ってくる時はノックしてくれって言っただろ!! 」
「それどころじゃ無いの。今すぐ会議室に来て。みんなもう待ってる。」
「わ、分かった。」
 安眠を邪魔されたことは不快ではあったが、みんなを待たせるわけにはいかない。
 俺は極東の軍服を着ようとしたが、そこにあったのは、黒のマントだ。
---どうした慎二、軍服なら昨日、牡丹がそれと取り替えていったぞ。ボロボロだったからな---
 そうだ、俺の服は、二度の激戦でボロボロになっていた。
 七宝に脱獄の際、貫かれた穴も、カインズとの戦闘でできた穴も、牡丹が修繕してくれていたらしい。
 だが、今回は違った。
 そこに置いてあるのは、ミシュマッシュのみんなが着ている服だ。
---名残惜しいか? ---
「んなわけねえだろ。ただちょっと動きにくそうだと思っただけだ。」
 俺は彼女が用意してくれた肌着、インナーを着込むと、マントを羽織った。
 そして、ベットに横たわっている銃鬼を握る。
 右の腰あたりにホルスターがある。
 俺のために特注されたものだ。
 俺はそのまま自分の部屋を後にすると、会議室へと急いだ。
 いつもの円卓。
 その周りに各々のメンバーが集まっている。
 Mは息を切らした俺の顔を見ると。
「始めようか。」
 と一言だけ呟いた。
「一体何が起こったんだ? 」
 みなの緊迫した表情から、一人だけ状況を理解していない俺は焦って、自然にそう言っていた。
 代わりに亜星が答える。
「セル帝国に、極東と同盟を組んだグランディルが宣戦布告をしたわ。」
 なぜ? 極東では無くグランディルなのだ?
 彼らは中立条約を結んでいたのでは無いのか?
「アスィールがカーミラを捕らえたの。」
 どうやって?
 騙し討ちか?
 奴らのどこに聖剣を二本持っている男、しかも代行者を生捕にする力なんて? 
「カーミラがそんな簡単にやられるわけ……」
「桐生慎二、コレを見てくれるかな。」
 極東式のスクリーンが光り、目の前に形容し難い……そう神族が映し出された。
 いや、コレは神族……なのか?
 神格化したセイの様にも見えるし、美奈の様にも見える。
 頭には光輪があり、額には白毫、肩甲骨からは三対の翼が生え、その後ろに光背が聳え立っている。
 右手には槍、左手には錫杖が握られている。
 そして、足元には巨大な蓮華。
「なんだ……コレは…… 」
「この画像を見せた途端、ここの全員が君と同じ言葉を放ったよ。」
「まざか、コイツがハムサか? 亜星の言ってた。」
 Mは頷いた。
「そうだ、コレが我々の元クライアントであるハムサ。二百年前、グラン帝国を追放され、それからはこの、セル帝国がある土地に追放された悪魔。」
「つまりセイや美奈と同じ神族ってわけか。」
 俺はスクリーンの画像をマジマジと見ると、あることに気がついた。
「この雨雲は……凛月? 」
 なんでアイツが凛月の力を?
 彼女が放っているのは紛れもなく雷神砲だ。
 雷を圧縮して敵に向けて飛ばず未知術。
「ごめんね。メリゴ大陸で君の凛月を奪ったのもこのため。」
「全てはハムサを転界に送るためだった。」
「おい、ちょっと待てよ。」
俺はあることに気がついた。
「ならハムサの目的は、他の契約者とコンタクトを取り、能力を吸い取るつもりだろ? 」
「魔具の力を取られた契約者は……」
 亜星は一呼吸置いて答えた。
「死なない……とは思う。だって現に君は生きているじゃ無いか。」
「そう言うことじゃ無い。」
 契約者の中には、生命維持に関わる器官を真具で補っているものも少なくは無い。
「能力が無いと、呼吸すらできない奴だっているんだ。」
 そこでMが俺を宥めた。
「落ち着きたまえ。一つ気がかりなことがある。」
「ハムサはおそらく羽々斬風見の能力も有していると言うことだ。」
 なぜ? 彼女とハムサの接触は無かったはず、いつその能力を手に入れたと言うのだ。
 それよりも、羽々斬の鍵穴は肺、魔具の力を取られれば、ひとたまりもないはず。
 なのに彼女は今も生きている。……はずなのだ。
「とにかく、ハムサに能力を奪われても、死ぬことは無いんだな。」
「そのはずだ。」
 Mは咳払いをして落ち着いた。
「話が逸れたな。それより本題に入ろう。聖剣保持者の動向についてだ。」
 俺は生唾を飲んだ。
 宣戦布告したと言うことは、セル帝国に奴も来るだろう。
「四男のブレイブ・ブレイクがセル帝国に向かっている。」
「おそらくカーミラを救出するためだろう。」
 俺は質問した。
「救出する前、救出した後、どっちを叩けば良い? 」
 ブレイブにはおそらくセイが付いている。
 彼らがカーミラを助け出す確率はむしろ高い方だろう。
 そこを狙って弱っているカーミラから二振の聖剣を奪い取ることもできる。
「前に行ってくれ。リスクが多すぎる。下手すれば三本の聖剣は全てハムサの元に集まるかもしれない。そうなれば詰みだ。」
「忘れるな、彼女は今や代行者をも下す能力を持っている。極力抗戦は避けたたまえ。」
「七宝や、オヤジに会ったときは…‥.どうすれば良い? 」
 Mは手を組むのを止めると、アルブの方を見た。
「君が取ってきてくれたトライドラン。しっかりと研究させてもらったわけだが……」
は強情でね。何も教えてくれなかったさ。危なくなったらこの子を使うと良い。君は英雄の息子だ。それに今は父の思念も付いている。」
「君にならこの力が使いこなせるはずだ。いや、使いこなさなければならない。」
 そうだ。俺はなにかと理由をつけて、トライドランに触れることを拒否していたが、俺が聖剣たちと契約し、ゆくゆくは一つになった神器エクスカリバーを使いこなせる様にならなければならない。
「そうしなければ、この世界を創ったクソ野郎に殴り込むことすら夢のまた夢だ。」
 俺はその重たい三叉の剣を受け取った。
 やはりあまり良い気はしない。
 他人の魂が流れ込んでくる様である。
 俺が拒んでいるのでは無い。
 剣の方から、俺が主人になることを拒んでいる。
 剣は確かにそう言っている。
 俺は剣を鬼影の影にしまうと、出口へ向けて歩き出した。
「善は急げ。だろ? 早速行ってくるぜ。」
「バックアップは我々に任せてくれ。そして危なくなったら逃げて来なさい。」
「頑張って慎二。」
 俺は無言で手を振ると、会議室を後にし、セル帝国付近に繋がっている根を探した。
 



 

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