神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

ブレイブ・ブレイク

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 根のバックドアを開けて、砂の海に出る。
 辺り一体見渡す限り、砂、砂、砂。
 それゆえに周りをよく見渡すことが出来た。
 死角と言えば、そこら一体にポツポツ浮き上がっている小さな岩の影ぐらいだ。
 向こうから無数の人影がこちらにやって来ているのが分かる。
 隊列の先頭には、神族……セイの姿も見えた。
 まだ神格化は行っていない様だ。
 人型で歩いている。
 多分、体力を温存させるためだろう。
 なら、なおさらこちらにしては好都合だった。
俺は走って隊列の前に仁王立ちすると、隊列を指揮しているブレイブ・ブレイク向けて叫んだ。
「ブレイブ・ブレイクはいるかぁ!! 」
 軍隊の中からも焦燥するものが現れる。
「台与鬼子がなぜ? 」
「処刑されたんじゃ? 」
「んなわけねえ。」
「プラウドさんもコイツに襲われたに違いねえ。」
「私です!! 」
 彼は金色の髪をさすると、俺をキッと睨んだ。
「失望しましたよ。ここまで鞍替えが得意な人だったとは。」
「それどころか、昔のような、どこか何かを追いかけているような信念もない。」
「今の抜け殻のようなあなたには別のモノが押し込まれているようです。」
「あまり私をガッカリさせないでいただきたい。」
 彼は首を振った。
「随分と上から目線の論評、ありがとよ。まぁ。俺がここに来た理由。言わんでも分かるだろう? 」
「クラウソラスは渡しませんよ。コレは父から頂いた大事なモノです。やはりあなたですね。プラウド兄さんからトライドランを盗んだのは。」
「どーした? なら俺を天秤にかけっか? 」
「いえ、何を勘違いしているのか分かりませんが。天秤の上に乗ることは権利です。あなたにはその権利すらない。ここで処分します。」
「ケッ、グランディル人らしいトンチな考え方だな。」
「ブレイブ!! 」
 セイが複雑な表情で彼を見ている。
 カーミラのことが心配なのだろう。
「分かってます。ここは私に任せて下さい。軍を引き連れて。」
「弟は任せました。」
 彼がそういうと、セイは軍を引き連れて、セル帝国へと向かっていった。
「大丈夫か? 随分と余裕なようだが。」
「いえ、やっと邪魔者が消えてくれましたよ。」
「ここには草木もない。動物も少ない。遠慮なく力が使えるってものです!! 」
 彼が腰の剣を両腕で引き抜くと。
 その光が俺を焼く。
 条件反射的に、影呪術を発動させて、光を吸収する。
「ッ くそったれ。」
「どこまで耐えられますかね? 」
 このままじゃ押し負ける。
---影結エイケツ---
 自分の体に影を融合させる。
 そのまま中に潜ると、彼の背後へと回り込んだ。
「おっと。」
 彼は、わざとらしく俺を避けると、再びクラウソラスをこちらに向けてくる。
 剣鋒が一瞬彼の手と並んだが、彼の手から血が噴き出すことはなかった。
"安全装置付きかよ。自爆を狙うのは無理っぽいな。"
 俺は再び地面に潜ると、自分も武器を出すべく叫んだ。
---裏斬レーヴァテイン---
---慎二!! 雷斬を出せ!! ---
「雷斬はクラウソラスと相性が悪すぎる。」
 そこにエネルギー体が降ってくる。
 俺がバックステップでそれを避けると、
 目の前に光の柱ができ、地面に大きな空洞が出来た。
 砂が熱で固まり、黒ずんでいるのが分かる。
 俺は雷斬を生成するイメージで、妄劔ー紅を生成する手順を踏んだ。
 引き金を引き、左手を掲げる。
 俺の掌を貫いてできた血飛沫が、薄く形状を変化させ、刀の形になる。
---雷斬ー紅ライキリ・クレナイ---
 紅電の時と同じ、真紅の稲妻が迸る。
 俺はその禍々しい刀を左掌に収めると、
 地上に飛び上がった。
 奴の顔が歪んでいる。
 あれは勝利を確信した顔だ。
 空中で方向転換することは難しい。
 そんなことぐらい俺も分かっていた。
 だがあえて俺は空中に飛び上がった。
 光が俺を貫かんとする。
---十握・乱舞ノ宴トツカ・ランブノエン---
 回転しながら光を斬り、書き分けながら進む。
 こぼれた光が、俺の頬を掠る。
 上段、下段、切り下ろし、その次は斜め、回転し、水平斬り。
 光速を超える勢いで、光がこちらに届く前にかき消す。
 ついに俺の裏斬が奴のクラウソラスと鍔を合わせる。
 そのまま奴の剣を押し退け、叩きつける。
 光が再び地面を貫き、足場が悪くなる。
---時空壊クロック・ブレイク---
 すかさず脳天をぶち抜き、身体強化を行う。
 溢れんばかりの光で目が焼けそうだ。
 反転した世界で、俺と奴はやり合った。
 奴が俺に光を放ってくる。
 俺はそれを二振の刀で弾いたり、落ちてきている岩で防御したりした。
 弾いた光が明後日の方向へと飛び、砂の壁をジュッと音を立てながら焼く。
 燻った匂いが俺鼻口を刺激する。
 その度に、どこか燃えているところは無いかを本能的に確認してしまう。
 クラウソラスが開けた大穴も終わりに差し掛かっている。
 俺が磁力を使い、頭とつま先を入れ替えると、奴はクラウソラスの力を使い、ゆっくり降りてきた。
 大穴は大きな大空洞へと繋がっていた。
「ほう、こんなところに洞窟ですか。」
 背後で強烈な殺意を感じる。
 左に避けた。
 光が全身を焼く
 が、ロープの部分だけは、少し布が焦げただけで無事だった。
"早すぎんだろ。"
 目が焼け、視界を奪われる。
 奴はで動ける。
 時空壊など屁でもない速さ。
 光の速さは、この世の限界。
 物理法則の極地。
 次の攻撃が来るまでの体感一秒、その隙に雷斬から一瞬手を離すと、銃鬼を取り出し、引き金を引いた。
---燠見アウェイク---
 光が飛び交うこの世界で、燠見を出すことは自殺行為だ。
 だが、このままでは……
 視界が赤とそれ以上の光に統一される。
 赤以外必要ない。
 他の色は識別するのに遅すぎる。
 それでも、彼の攻撃は、色が遅れてやって来る。
 ここまでやって、ようやく読み合いにまで持って来られる。
 右上段、斬り下ろし、
(空洞の岩肌が欠ける。)
踏み込もうとしている。水平斬りか? 
(壁を抉るような嫌な音。)
 回転、左上段からの斬り下ろしだ。
"守っているだけじゃ勝てねえ。"
 攻撃を左に避ける。
 耐性を低くした。
 頸をクラウソラスの光が焼く。
"奴を二本の刀で抉り取る!!"
 最後の大技を放つべく、全身を思いっきり捻った。
 奴の表情は見えない。
 俺が見ているのは赤のその先だけだ。
---紅電斬スプライト・スプラッシュ---
 超高層紅色型雷放電が血飛沫を上げる。
 彼の上半身は転がり、岩石にぶち当たると、やがて動かなくなった。
「ゴゴゴゴゴ。」
 土砂崩れのような地響き、ここも崩れる。
 クラウソラスが放った光の断片が、少しずつこの空洞を削っていたのは分かっていた。
「剣は……渡し…ま…せんよ。」
 ハメられた。
「どうせ…死なないんでしょ。」
 さっきので全部出し切ってしまった。
「私も…蘇生して貰えばなんとかなります。」
 動け!!
「一緒に…生き埋め……」
「動けぇぇぇぇ。」
 重い身体が、想像もできない速さで動いた。
 なんだやれば出来るんじゃないか。
 俺は奴の下半身を引っ張り上げると、動かなくなった上半身を持ち上げ、天井の大穴へとジャンプした。
 壁を走る。
 磁力操作で重力を操る。
 岩の破片を避けながら、地上を目指す。
 焼けて固まっていた砂が、砕け、大穴に流れ込んでくる。
「届けぇぇぇぇ。」
 壁を思いっきり蹴り上げて跳躍する。
 地上に出られた。
 砂が大穴に吸い込まれていっている。
 足を止めると、また大穴に落とされそうだ。
 足で筋がブチブチ言っているのを感じながら、全速力で大穴から遠ざかった。
  
      * * *

 気がつくと、砂漠の真ん中で仰向けに寝転がっていた。
 水、そうだ水が欲しい。
 俺は咄嗟に影からトライドランを取り出した。
 そして剣をポンポンと振ると、大量の水が俺か顔に掛かる。
---プププ、無様ねオマエは---
「オマエが助けてくれたのか? 」
 あの時、確かに血の巡りが異様な速度になっていたことを感じた。
 時空壊の影響かとも思ったが。
---助ける? お前を私が? ---
---単に面白そうだったからそうしただけよ。必死に足掻く姿。さいっこうだった---
 俺はブレイブの死体を見た。
「このままじゃ腐っちまう。埋めてくるのが正解だったか? 」
---腰にグランディルの発煙弾があるはずよ---
 言われるがままに彼の上半身を探った。
 白い銃鬼のようなもの。
 使い方は銃鬼とほぼ同じだったので分かった。
 銃口を側頭……ではなく空に向ける。
「パーン。」
 乾いた音と共に、空に煙幕が上がる。
 白い煙。
 多分救援要請の合図なのだろう。
 煙幕が上がったことを確認した俺は、彼の死体からクラウソラスを拾い上げ、その場を後にした。







 
 
 
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