神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

舌の回る国王だ。

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 俺は謝った。
「先に謝っておく。俺は仲間を助けるためにお前を傷つけねばならない。」
 なぜ謝ったか。
 それは誰かを守るためには誰かを傷つけてなければならない事を知ったからだ。
 なぜ誰かを傷つけねばならないか。
 それは自分にそれだけの力が無いからだ。
 俺は自分の能力を過信していた。
 慢心していた。
 だから失敗した。
 美鬼が死んだ。
 慎二はあんな風になってしまった。
 息子に悲しい思いをさせてしまった。
 だから決めた。
 俺は極東を取るために全てを切り捨てる。
 それが英雄のあるべき姿。
 目的のためにひたすら他者を傷つける存在。
 それが英雄だ。
---能力反転リバース---
 ハムサの身体から彼らの能力が元あるべきところに帰る。
 彼女は慌ててそれを掴もうとする。
「私の!! 私の能力たちが!! 」
「お前のじゃ無いだろう? それは俺が友人に託した物だ。」
「七宝刃……なるほど、あの時の娘さんか……お前、身体を喰ったな。」
「ふん人聞が悪いわね。アスィールとの契約よ。彼女の人格もちゃんとある。それが契約だからね。アイツとの。」
 俺は疾走し、彼女の喉笛に凛月を突きつける。
 首から血が垂れている。
 少しして、彼女はようやく身の危険を感じ取ったようで、「ヒッ。」という小さな悲鳴をあげた。
 そこに男の影がひとつ。
---雷刃ライジン---
 俺の魔具が反応し、喉仏に自身の刃が突きつけられる。
「お前、コイツとも契約していたのか。」
 魔具から焦る声が聞こえる。
---違うの慎二郎!! コレはね---
「もう良い。お前は鼻から信用していないからな。」
---慎二郎……---
「これはこれは英雄様。」
 アスィールが律儀に挨拶をする。
「失礼いたしました。別に極東を刺激するつもりは無かったのですが。」
 目に余る軍備拡張を行っておきながら……
「グランディル帝国は我がセル帝国と中立条約を結んでいたもので……それで、ちょっと釜をかけたくなってみた。それだけです。」
「貴方たちに危害を加える意図はありませんでした。」
「今ここで引き下がれというのか? 」
「ええ、英雄殿も、無益な争いはお好きでは無いでしょう? 」
「……ああ、分かった。」
「カーミラ殿下はお返しします。」
 そう言って彼は異空間からポットを取り出す。
 俺は急いでポットを開けた。
 中の人間が、首を押さえて息を吹き返す。
 おそらく真空状態で長時間監禁されていたと考えられる。
 セイという神族が慌ててこちらにやって来る。
「カーミラ!! 」
彼女は少年に抱きついた。
「ありがとうございます。あの……貴方は? 」
「俺は桐生慎二郎だ。それ以外に語ることはない。」
「君はブレイク家の末子だと聞く。どうだ? 長男のドミニク君は元気かね? 」
 彼は大変難しい顔をした。
 何か悪いことを言ったのかもしれない。
「兄は、台与鬼子に殺されました。それも、蘇生が不可能なぐらい徹底的に。」
"息子が? 我が息子がそんなことを。"
 なぜ。
 遠くで白のノロシが上がる。
 俺は考える間も無く、そこへ向けて走った。
 そこには、上半身と下半身を真っ二つにされた男の死体が。
 美奈ちゃんがこちらに走ってきて「ブレイブ兄さん。」と叫ぶと、時間遡行の魔法を使い、生き返らせる。
 彼は起き上がると、「一本取られましたなぁ。」
 と一言だけ放ち、腰の辺りを探った。
「どうやら私も彼に聖剣を奪われたようですね。」
 彼とは誰だ。
 そこにセイがやって来る。
「台与鬼子は私たちから聖剣を奪ってる回っているんです。」
「なんだって!! 」
 息子が何をしようとしているのか検討もつかなかった。
 だが、これは許される行為ではない。
 息子を信じたいと思う反面、正しく導いてやらねばという感情も湧き上がった。
 それよりも、奴はドミニクを……
 足跡が残っている。
 俺はその足跡を辿り疾走した。
 砂の海に、一つの人影が現れ始める。
 息子だった。
 満身創痍の体で彼は何かを目指していた。
 そして、何もない空間から扉を出現させる。
「待て!! 」
 動揺を隠すために強い口調になってしまう。
 槍馬もこちらまで走ってきた。
「慎二!! 俺はまだお前が何をしようとしているのか分からない。」
「だが、これだけは言える。お前は人の道を外れている。帰ってこい。極東に。」
 息子はゆっくり振り返った。
「今更父親ヅラかよ。それに、アンタも俺も人じゃないだろ。」
「なぜそれを……」
 隣で槍馬が叫んだ。
「慎二、なぜ、なぜ極東を出ていってしまったんだ? 」
 息子は振り返り、出現したドアをくぐろうとしている。
「なぜ? 元々アソコに俺の居場所なんて無かったじゃないか。」
「お前を助けるために美奈がどれだけ苦労をしていたと思っているんだ? 急に居なくなって。」
「……槍馬。ずっと嫌いだったよお前のそういうところが。」
 俺は息子を叱ろうとした。
 が槍馬がそれを制する。
「慎二ぃぃぃぃぃ。」
 彼は疾走すると、息子の服の袖を掴む。
 息子の服にはもう、襟など無いのだから。
「お前がそんなこと言う訳ねえだろ。なぁ極長に何か言われたんだろ? そうだろ? 」
 俺も息子に訊いた。
「なぜなんだ? 極長に何を言われたんだ? 」
「だから父親ヅラすんなって言ってんだろうがぁ。」
 息子は槍馬に電撃を放つと扉をバタンと閉めた。
 俺は、息子がいた場所を探る。
 俺のせいだ。
 俺があの子をちゃんと見てやってやれなかったから。
 自分の罪から逃げてあの子を遠ざけていたからだ。
 ちゃんと生きていることを伝えてやっておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。
 
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