神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

決別

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「本当にあれで良かったのかい? 」
 バックドアの向こう側に牡丹が立っていた。
「槍馬は……だからアイツは嫌いなんだ。俺は悪い奴なのに。人殺しなのに。俺のことを信用しすぎるから。」
「お父さんのことも? 」
「今更どのヅラ下げて極東に帰るって言うんだ。カーミラにはなんて言えば良い? 仇が生きていたなんて。それにドミニクは父を殺してなど居なかった。」
 全て受け入れると決めたのに。なにも躊躇することは無いはずなのに。
 揺れる自分がいた。
「……ダメだな俺は。まだ捨てきれないでいるんだ。弱い自分を。」
「慎二!! 」
 牡丹は何か言いたげだったが、俺はそれを振り払うと、クラウソラスをアルブの元へと持っていこうとする。
「やぁ少年。」
 いつもと変わらない口調。
 彼女には、なにが起きても動じないような、そんな胆力があった。
 実際、アジトが襲撃にあった時も、一番落ち着いていたのは彼女だったし。
 伊桜里に処置を行っていた時も、冷静沈着で、恐ろしいほどだったらしい。
 俺が彼女にクラウソラスを見せると、彼女は魚のように食いついた。
「おお、やってくれるじゃ無いか。ハハ、今度の話し相手は君かな? ほうほう、どれどれ。いやぁぁぁ、装飾ではトライドランちゃんに一歩及ばないが。すごい光沢だね。ツヤツヤ。どんなもの食べたらこんなにツヤツヤになるのか。教えて欲しいな。お姉さんに教えて欲しいな。」
---ダメでしょ。人のものを勝手に取っちゃあ---
 優しく温かい声が、俺を叱った。
 トライドランとはまるで反応が違った。
「ほうほう、聖剣たちの人格にも個性があるのか? 」
「ん? 人格? この子は剣であるのに? 妙だな。」
---低脳なアンタたちにも受け入れられるようなカタチになっているだけ。だって上位種が下等生物に施しを与えてるのは義務でしょ---
 すごい含みのある言い方をしているのは、トライドランだ。
 いつのまにか俺の影から出て来ていた。
---そのようじゃ勝手に逃げても問題なさそうね---
「い"がな"い"でぐれぇ。」
 アルブがトライドランに抱きつく。
「ねえねえ捨てないで。お姉さんを捨てないで。もっと研究させてえよぉ。お姉さん、トラちゃんがいなくなると生きていけないよぉ。」
"うわッ。"
 俺も流石に引いた。
 修行の時もそうであったが、クールな彼女も、自分の探究心をくすぐられると、途端に面倒臭い女に早変わりする。
---泣かないでアルブちゃん。私はずっとここにいるからね---
---ヒーッその汚い聴音機閉まって!! 分かったから逃げないから。もう許してぇ---
「トライドランは俺たちに受け入れられやすいように、わざと人格を作っていると言っていた。」
「君たち二人とも好きだ私は!! 」
「つまりアレか? 宇宙外生命体が、人類とコンタクトを取るために、人型に擬態するアレ。」
「……もういくのかい? 少年。」
「次の任務を聞きに行く。ここからが正念場だからな。」
 残る聖剣はカーミラが持つアルテマとジゲンキリ、そして七宝が持つアウラと六本の剣。
 俺は彼らから全てを奪い取り、転界に登る。
 そして、この世界を作ったやつの顔を一発ぶん殴る。
 それだけだ。それだけでいい。
 その後のことはどうだって……
 俺は事務室の前に立っていた。
 ノックをすると。
「どうぞ。」
 という亜星の声が聞こえる。
「どうしたの? 慎二。」
「次の計画を聞きに来た。次はどうするんだ? どいつから狙う? 」
 亜星は少し困った顔をした。
「随分と前のめりだね。ムリはいけないよ。時が来ればマスターから指令が来る。その時まで体力を温存する。それが私の使命。」
「やっぱり、気にしてるんだね。坂田槍馬の件も、父の件も。」
 自分でも驚いた。
「俺、今、そんなに焦っているように見えるか? 」
「分かるよそんなの。」
「だって私は、テレパス使いだから。」
「パーン!! 」
 乾いた音がユグドラシル中にこだまする。
 衝撃で木々が揺れていた。
 俺は亜星を庇ってから、揺れが収まると、それを放り投げての元へと急いだ。
「相変わらずね。レディーの扱いがなってないわよ。」
「そこに隠れてろ。動くな。通信も控えろ。探知されるかもしれない。」
<気にしないで。コレが私の仕事だから。>
<ユグドラシル様の場所でしょ。>
「もう覚えた。あまり喋るな。敵に聞かれているかもしれない。本体をやられれば本格的にヤバい。」
<もっとヤバいことになってるかもコレ。>
<カーミラ・ブレイクがいる。いや、君の父も、それに……七宝剣……>
「クソっ。最悪だ。」
 俺は方向転換し、根の方へと急いだ。
「奴らの場所を教えろ。俺がしんがりをする。みんなを安全な場所に。」
<君は……>
「黙ってろ。コレが最善策だ。俺は絶対に帰って来る。」
<うん……分かった。君を信じるよ。>
<次の角を右に曲がって。アルブさんにはもう指示を出したから。そこに聖剣たちがいるはず。>
「分かった。」
 俺は聖剣たち向けて走り出した。



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