神の壜(カミのフラスコ)

侵略者

平等社会とは？

「慎二ッ。」
　彼女がこちらに走ってくる。
　暖かい。
「もう、心配したんだから。」
「それはこっちのセリフだ。一人で勝手に出て行くなよ。」
　彼女の目からは涙が溢れていた。
「でもありがとう。」
「イテテ。」
　身体強化が解けて、一気に鈍痛がやって来る。
　そこに美奈たちがやって来た。
「慎二、敵は？ 」
　槍馬が天沼矛を構えて辺りを見渡す。
「悪い。逃げられちまった。」
「それは良い、死者は？ 」
「居ない。負傷者ならあそこで処置を受けているぜ。」
「悪いな、周りの人間を守りながら戦うことは、能力的にも、いや、精神的にもキツかった。」
「ちょっとカッとなっちまったんだ。」
「コレからどうしましょうか？ 」
　羽々斬が不安そうに首を傾げる。
「昔の知り合いにあって来る。」
　槍馬が声を上げる。
「俺も行く。」
　ミシマッシュ、テロリストと極東の将軍である彼が直接会うのは国際情勢的に不味いだろう。
「いや、お前は職務に戻っていてくれ。」
　理由を察した彼は、美奈と一緒に旅客機へと急いだ。
「なら俺たちは、引き続き現場の調査だな。」
「待ってくださいよ麻川さ～ん。」
　羽々斬が麻川の後を追う。
「斥はどうしてる？ 」
　彼女はヒソヒソ声で答えた。
「病室で鏡子さんと二人っきりです。くれぐれも邪魔をしないように。」
「分かった。」
　俺と黒澄だけが残った。
「南メリゴ大陸にはポータルが通っているのか？ 」
　彼女は首を横に振った。
「南メリゴ大陸はワーメリゴンを含む原住民たちの特別区だから、通っているのは鉄道だけ。」
「長旅になりそうだ。あの、その、さ。」
「もちろん私も行くわよ。」
「そうなるよなぁ。」
「だって慎二がどんな人たちと一緒に暮らしていたのかって気になるし。」
　俺は屋台で今度こそジェラートを買うと、鉄道の切符を買って、ホームに立つ。
「モノポール。コレも草薙剣の技術か？ 」
「そうそう。発電所にも使われているんだから。」
「もうメリゴの家電に交流専用のモノは置いてないわよ。家電に博物館が立つぐらいだし。」
「時代の流れには逆らえないと言うわけか。」
「凄く差別的な言い方ね。ワーリゴンよ人たちだってテレビは見るし、車にも乗るわよ。」
　俺たちは前から三番目の車両に乗った。
「私のストロベリー食べる？ 」
「俺のスカイハイが気になってるんだろ？ ホラやるよ。」
「それって間接……」
「まだ口つけてねえから。」
「で、でも…そ、それを慎二が食べるんでしょ。」
「ああ、うっせえな。こんなんならスプーンの一つや二つでも貰っとくべきだったなアーン。」
「ああ！！ 」
「美味しいじゃねえかこのストロベリーって奴。フレッシュだな。こう言うのは、人工甘味料で味と色をつけたパチモンが多いけどよ。ちゃんとイチゴの味がするぜ。」
「やったわね！！ 」
「俺のコーンから水色の塊が消え去る。」
「わぁくぃーんでする。」
「俺のアイスガァ！！ 」
「オイ、今すぐ吐き出せ今すぐ！！ 」
「"んッ。」
　彼女はスカイハイ味のジェラートのように青ざめている。
「喉に詰まったのか。」
　俺は彼女の胸部を押さえて、背中を引っ叩いた。
「ハァハァ。」
「このバカァッ！！」
<お客様、車内ではお静かにお願いします。>
　怒られてしまった。
　そうこうしていると、鉄道はメリゴ大陸を結ぶ陸橋に差し掛かっていた。
「綺麗。」
「俺は端末を取り出すと、写真を撮った。」
「私も撮って撮って。」
　俺は彼女の写真を撮る。
　改めて見ると、彼女は本当に美しい。
　そうだ、コレを家宝にしよう。
　一生大事にしよう。
「何考えてるの？ 」
「おい、もうすぐ着くぞ。」
　俺たちは終点で降りた。
　ここから少し南に行った場所にある森の奥地に彼らはいる。
　凛月で、草木をかき分けながら進む。
「ここだ。」
　畑では梓帆手では無く、どこか見覚えのある青年が、土を耕していた。
　彼は俺を見ると、驚いた様子でこっちに駆け寄って来た。
「なぁ、慎二だろ。久しぶり。僕だよ僕。」
「檜牡丹。」
　相変わらずパーソナルスペースを守らない奴だ。
　隣で黒澄が凄い顔で俺たちを見ている。
「アルブさんたちにも知らせて来るね。」
「慎二、アンタって。」
「アイツはああいう奴なんだ。誰に対してもな。」
　奥から懐かしいメンバーたちが出てくる。
　Mとアルブ、ミーチャと伊桜里、そして牡丹と亜星だ。
「久しぶりだな慎二君、ところでそちらにおられるのは？ 」
「コイツは黒澄千代、俺の元同僚だ。」
「アポ無しですまない。最近世界で怪死事件が増えていてな。それについての情報が欲しいから急遽ここに来たんだ。」
　Mは二マリと笑った。
「それなら心配ない。ちょうど私たちもその件について調べていた。」
「そろそろ君たちが来ると思っていたところだよ。」
　亜星が前に出てくる。
「さぁさぁ、立ち話もなんだし、中でしようよ。」
　俺は新鮮な彼女の生声に唖然としていた。
「どうしたの？ 私に惚れちゃった？ 」
「いや、ちょっとびっくりしただけだ。お前の声を生で聞くのは初めてだったから。」
「イテテ。」
　何かと思えば、黒澄が俺をツネッたんだ。
「誰？ あの人。」
「言っただろ。協力者だ。」
「ふーん、随分と仲がよろしいこと。」
「あのなぁ。」
　俺たちはミシマッシュの隠れ家へと入った。