124 / 145
報復
悔恨
しおりを挟む
「クソっ。」
絶対領域の効力が切れ、動けるようになった右を硬い大地に叩きつける。
彼女にあと少しで手が届くところだった。
やるせない気持ちで、雄叫びを上げる。
あの時、千代を置いて町に出なければ。
部屋に戻った時、再空壊を発動させていれば。
もしくは、彼の足止めをしていれば。
彼女を救えたかも知れないのに。
今から追いかけるか?
いや、追いかけて行ってどうする?
今の俺じゃ彼には勝てない。
いや、ここにいる全員が、彼に対抗出来なかった。
能力を無効化してくる能力者はこの世界には居なかった。
ゆえに対抗策も見つからない。
「慎二…… 」
槍馬が心配そうに俺へと手を差し出している。
「悪い、槍馬。取り乱してしまった。」
そうだ。怒りに身を任せている場合では無い。
だが、このやり場のない気持ちを、どこにぶつけて良いか分からなかった。
彼女を助けるために、祭壇へと来たのに、いつのまにか俺たちはこの世界の命運を背負わされていた。
絶対に勝てない相手に、一方的な交渉を持ちかけられた。
それができるのも、彼がここにいる人間の誰よりも強いからだ。
セイと分離したカーミラが、エクスカリバーを杖にして、コチラにやって来る。
「とりあえずアスィールさんと、坂上さんに連絡を。」
* * *
会議には多くの主要人物が出席した。
表向きは、国際交流会。
それも周りの人間たちを刺激させないためである。
そして驚くべきことは、三国だけでなく、各地域の長、テロリスト認定されていたミシマッシュのリーダー、Mまでもが、この会議に呼ばれていたことだ。
「人質を取って彼らとの交渉を優位に進めるつもりが、逆に人質を取られて主導権を握られるとは。」
いつもニタニタしている坂上ですら、今は唇を噛んで、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「このことは、くれぐれも国民には内密に。」
「賛成です。今、公にすれば、世界各地で暴動が起こって、世界が混乱するでしょう。」
「そういう状態になったところに平等社会人は漬け込んでくるはず。間違いないです。」
とカーミラ。
その言葉にメリゴ大陸支部の羽々斬は疑問を呈した。
「でも、もし仮に私たちが負けたら? 彼らは……何も知らないまま奴隷にされてしまうんですよね。」
それを否定したのは槍馬だ。
「そうはさせない。絶対に俺たちは勝ってくるから。」
その言葉を肯定的に捉えた人間は少ない。
彼自身も、あまり自信のこもった口調では無かった。
そこで口を開いたのはMだ。
「ルールは? その平等社会の人間はどのような勝負を持ちかけて来た? 」
ルールは彼らが祭壇で自分の世界に帰ってから二時間ほど経ってから来た。
たぶんあの大男が寄越した者だろう。
一羽の鳩が、坂上向けて手紙を届けに来たらしい。
「五対五の団体戦。白星が多い方が勝利。」
「判定条件は、相手が戦えるかどうか。それはジャッチが判断するそうだ。」
つまりジャッチが戦えると判断した状態であれば、どのような状態でも試合は続行される。
俺は手を上げた。
「なんだね慎二くん? 」
「負ける気なんてさらさらないが。降参についてはどのような記述が? 」
「……ちゃんと記述があったよ。原則禁止。ただ、戦闘が続行不可能ならそれもジャッチが判断すると。」
つまりそういうことだ。
「ジャッチが、そう判断を下さなければ、ソイツは嬲られ続けるわけか。」
「死ぬまで…… 」
大男に勝てなくても、俺たちは勝利できるかも知れない。
だが、例えそうだったとしても、誰か一人が殺されるかも知れない。
「奴とは俺が戦う。」
カーミラが飛び上がった。
「無理だ。だって今の君は。不死であるわけでもないし、エクスカリバーだって。」
「僕がやるよ。」
コレだけは譲れない。
全部俺のミスだ。
自分の尻ぐらい自分で拭かなくてはならない。
「慎二ッ。」
槍馬も俺を止めようとしている。
「いや、あながち悪くない作戦だろう? 」
「どうせ術式も神器も無効化されるんだ。」
「ならカーミラ。お前は他の人間と勝負しろ。」
「お前は? 」
父はなんの術式も発動させずに、時空壊かそれ以上の速さで動いていた。
それに俺は西郷に追い詰められた時、父の肋骨、思念から、身体の使い方を少し習った。
俺にもできるのだ。
おそらく、この中で術式を使わずに一番動けるのは、俺。
父のようにできるか分からない。
だが、俺はやらなければならなかった。
「勝機はある。任せてくれ。」
「私にも参加させて。」
そう名乗り出て来たのは、ハムサの器だった碧野双薔。
「危険だ。アンタは悪魔の力を使えるかも知れない。」
「だが今はもうただの人間だ。どうなるか分からないぞ。」
「それ。貴方がいう? 」
アスィールは頭を抱えて、双薔の意見に対して、肯定も否定もしなかった。
「いや、やらせて。私たち国民の命運もかかっているの。」
「私にだってその責任を負う権利がある。」
ごもっともな意見だった。
アスィールはため息をついて、それから答えた。
「頼んだぞ。双薔。」
皆が退出する。
俺が会議室を後にすると、千代の父親が立っていた。
俺はまた怒鳴られるのではと、身構える。
だが、彼は俺の前に跪くと、命乞いを始めた。
「頼む。なんとかしてくれ。」
俺は坂上の方を見た。
「教えたのか。平等社会のこと。」
「黒澄くんのことを話すのに、話さざる追えなかった。」
千代の妹も心配そうな顔で俺を見ている。
そうだ。
千代のことだけで何も見えていなかった。
双薔の言うとおりだ。
俺はみんなの命運を背負っている。
俺に過去を振り返る時間なんてない。
聖剣を集めていた時もそうだった。
勝つこと。
ただそれ一点のために。
保身のクズ。
それでも彼は千代の父親で、守るべきこの世界の住人。
俺は彼の背中を優しくさすった。
「大丈夫ですお義父さん。僕が世界も、千代も、護って見せますよ。」
「ありがとう。ありがとう。」
「あと!! 」
「お前にお義父さんと呼ぶことを許可した覚えはない!! 」
怒られてしまった。
が、彼らの不安は吹き飛んだようである。
俺は彼らに手を振ると、大内裏を後にした。
絶対領域の効力が切れ、動けるようになった右を硬い大地に叩きつける。
彼女にあと少しで手が届くところだった。
やるせない気持ちで、雄叫びを上げる。
あの時、千代を置いて町に出なければ。
部屋に戻った時、再空壊を発動させていれば。
もしくは、彼の足止めをしていれば。
彼女を救えたかも知れないのに。
今から追いかけるか?
いや、追いかけて行ってどうする?
今の俺じゃ彼には勝てない。
いや、ここにいる全員が、彼に対抗出来なかった。
能力を無効化してくる能力者はこの世界には居なかった。
ゆえに対抗策も見つからない。
「慎二…… 」
槍馬が心配そうに俺へと手を差し出している。
「悪い、槍馬。取り乱してしまった。」
そうだ。怒りに身を任せている場合では無い。
だが、このやり場のない気持ちを、どこにぶつけて良いか分からなかった。
彼女を助けるために、祭壇へと来たのに、いつのまにか俺たちはこの世界の命運を背負わされていた。
絶対に勝てない相手に、一方的な交渉を持ちかけられた。
それができるのも、彼がここにいる人間の誰よりも強いからだ。
セイと分離したカーミラが、エクスカリバーを杖にして、コチラにやって来る。
「とりあえずアスィールさんと、坂上さんに連絡を。」
* * *
会議には多くの主要人物が出席した。
表向きは、国際交流会。
それも周りの人間たちを刺激させないためである。
そして驚くべきことは、三国だけでなく、各地域の長、テロリスト認定されていたミシマッシュのリーダー、Mまでもが、この会議に呼ばれていたことだ。
「人質を取って彼らとの交渉を優位に進めるつもりが、逆に人質を取られて主導権を握られるとは。」
いつもニタニタしている坂上ですら、今は唇を噛んで、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「このことは、くれぐれも国民には内密に。」
「賛成です。今、公にすれば、世界各地で暴動が起こって、世界が混乱するでしょう。」
「そういう状態になったところに平等社会人は漬け込んでくるはず。間違いないです。」
とカーミラ。
その言葉にメリゴ大陸支部の羽々斬は疑問を呈した。
「でも、もし仮に私たちが負けたら? 彼らは……何も知らないまま奴隷にされてしまうんですよね。」
それを否定したのは槍馬だ。
「そうはさせない。絶対に俺たちは勝ってくるから。」
その言葉を肯定的に捉えた人間は少ない。
彼自身も、あまり自信のこもった口調では無かった。
そこで口を開いたのはMだ。
「ルールは? その平等社会の人間はどのような勝負を持ちかけて来た? 」
ルールは彼らが祭壇で自分の世界に帰ってから二時間ほど経ってから来た。
たぶんあの大男が寄越した者だろう。
一羽の鳩が、坂上向けて手紙を届けに来たらしい。
「五対五の団体戦。白星が多い方が勝利。」
「判定条件は、相手が戦えるかどうか。それはジャッチが判断するそうだ。」
つまりジャッチが戦えると判断した状態であれば、どのような状態でも試合は続行される。
俺は手を上げた。
「なんだね慎二くん? 」
「負ける気なんてさらさらないが。降参についてはどのような記述が? 」
「……ちゃんと記述があったよ。原則禁止。ただ、戦闘が続行不可能ならそれもジャッチが判断すると。」
つまりそういうことだ。
「ジャッチが、そう判断を下さなければ、ソイツは嬲られ続けるわけか。」
「死ぬまで…… 」
大男に勝てなくても、俺たちは勝利できるかも知れない。
だが、例えそうだったとしても、誰か一人が殺されるかも知れない。
「奴とは俺が戦う。」
カーミラが飛び上がった。
「無理だ。だって今の君は。不死であるわけでもないし、エクスカリバーだって。」
「僕がやるよ。」
コレだけは譲れない。
全部俺のミスだ。
自分の尻ぐらい自分で拭かなくてはならない。
「慎二ッ。」
槍馬も俺を止めようとしている。
「いや、あながち悪くない作戦だろう? 」
「どうせ術式も神器も無効化されるんだ。」
「ならカーミラ。お前は他の人間と勝負しろ。」
「お前は? 」
父はなんの術式も発動させずに、時空壊かそれ以上の速さで動いていた。
それに俺は西郷に追い詰められた時、父の肋骨、思念から、身体の使い方を少し習った。
俺にもできるのだ。
おそらく、この中で術式を使わずに一番動けるのは、俺。
父のようにできるか分からない。
だが、俺はやらなければならなかった。
「勝機はある。任せてくれ。」
「私にも参加させて。」
そう名乗り出て来たのは、ハムサの器だった碧野双薔。
「危険だ。アンタは悪魔の力を使えるかも知れない。」
「だが今はもうただの人間だ。どうなるか分からないぞ。」
「それ。貴方がいう? 」
アスィールは頭を抱えて、双薔の意見に対して、肯定も否定もしなかった。
「いや、やらせて。私たち国民の命運もかかっているの。」
「私にだってその責任を負う権利がある。」
ごもっともな意見だった。
アスィールはため息をついて、それから答えた。
「頼んだぞ。双薔。」
皆が退出する。
俺が会議室を後にすると、千代の父親が立っていた。
俺はまた怒鳴られるのではと、身構える。
だが、彼は俺の前に跪くと、命乞いを始めた。
「頼む。なんとかしてくれ。」
俺は坂上の方を見た。
「教えたのか。平等社会のこと。」
「黒澄くんのことを話すのに、話さざる追えなかった。」
千代の妹も心配そうな顔で俺を見ている。
そうだ。
千代のことだけで何も見えていなかった。
双薔の言うとおりだ。
俺はみんなの命運を背負っている。
俺に過去を振り返る時間なんてない。
聖剣を集めていた時もそうだった。
勝つこと。
ただそれ一点のために。
保身のクズ。
それでも彼は千代の父親で、守るべきこの世界の住人。
俺は彼の背中を優しくさすった。
「大丈夫ですお義父さん。僕が世界も、千代も、護って見せますよ。」
「ありがとう。ありがとう。」
「あと!! 」
「お前にお義父さんと呼ぶことを許可した覚えはない!! 」
怒られてしまった。
が、彼らの不安は吹き飛んだようである。
俺は彼らに手を振ると、大内裏を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる