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報復
もう一度
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唖然とする金川の間抜けな顔。
俺は右手で彼を押し退けると、気絶している彼女の元へ一歩一歩踏み出していく。
カーミラが、九条と善戦している。
槍馬は能力を使い、徐々に玉鉄を追い詰めていっていた。
美奈たちが、炎道と西郷を無力化している。
誰も彼女に注意を引いている者はいなかった。
あと五メートル、三メートル。
もうすぐ。
もうすぐ彼女を抱きしめられる。
彼女の温かみを感じられる。
「《エクステンド》」
【絶対領域】
謎の男の声で、再び世界が元に戻される。
筋肉と関節に強烈な負荷がかかり、軋ませている。
他の能力者たちも例外ではなかった。
槍馬にカーミラ、美奈はかろうじて立っていられてているものの、その重圧に苦しめられていた。
驚くべきことに、その能力の効力は、平等社会の人間にも及んでいることだ。
玉鉄は、握っていたエモノが消滅し、地面に叩きつけられている。
九条はうつ伏せになり、芋虫のように必死に足掻き、金川は呆れたように力無く笑っていた。
炎道と西郷に至っては気を失っており、苦しそうな表情を浮かべている。
つまりこの空間は、能力者の能力を無効化する空間となっているということだ。
「ほう、これが蝠ちゃんが創った世界ねぇ。」
絶対領域の中で、一人、涼しい顔をして、荒野を歩く大男が一人。
彼だ。
これは彼が発生させているのだ。
男はゆっくり千代に近づくと。
「千代に触るなっ。」
肺の奥底から声を絞り出す。
「おーい。大丈夫か? 」
男は彼女の頬をツンツンする。
俺の中でドス黒い感情が目覚めた。
こんな気持ちは……
母が殺されたとき以来だ。
感情に支配され、術式を練れば練るほど、身体は動かなくなっていく。
俺は冷たく尖らせた殺意で、静かに立ち上がった。
そして肋骨に教えられた通り、己の力のみで、地面を蹴る。
左肩で、彼の巨体を吹き飛ばす。
「おうおう、いったいなぁ。」
「ホラ!! お返しだよッ。」
視界が反転する。
後頭部を二、三回打ち、岩石に叩きつけられる。
「ったく。能力者っていうのは、どうしてもこう…… 」
「お前がっ…そうさせてるんだろうが!! 」
彼は首を傾げた。
「何が? 君たちがどう感じているのかは知らないけど、コレが普通。平等社会ではね。」
「能力者は世界に争いを産む社会の癌だ。我々無能力者たちがしっかり管理して。世界の秩序を守らねばならない。」
「そうやってコイツらにも同じことをやって来たわけか。」
「侵害だなキミィ。社会の秩序を乱しているのは彼らの方だ。そんな奴らに人権があると思うかい? 」
「賢い犬にはソレなりの扱いを取っているよ。見たまえ。そこにいる女は能力者だが、腕輪がないだろう? 彼女は能力の制限を免除されている。その功績を讃えられてね。」
男のことで気付かなかったが、男の他に、二人の平等社会人がいた。
一人は180センチほどの強面の男で、腕には手錠がされている。
犯罪者? か。
もう一人は、その能力制御を免除された女。
身長は130センチほどしか無い。
その童顔も相まって、幼く見えるが、実年齢は定かでは無い。
「俺は、俺たちはお前の犬なんぞにならない。」
男は少し悩んだ。
それから答えた。
「そうか。」
彼は千代を担ぎ上げる。
「返せっ!! 千代は渡さない。」
「間違いは正せば良い。」
「我々が間違っているというのなら、君たちが正しいということを証明したまえ。」
「方法は……そうだな。平等社会人として、あまり喜ばれるやり方では無いが。」
「『力』で。君たちの得意分野だ。それで勝負してやる。」
「どうだい? コレぞおもてなしの精神だろ? いやいや、自分でも恐ろしいよ。この自身のサービス精神がね。」
「君たちが勝てば、この女は返してやる。」
「しかし、我々が勝てば、この女は…… 」
「いや、この女だけでは無いな。」
「この世界の人間、全てが平等社会人の奴隷だ。」
この男は何を言っているだ。
秩序を語っておきながら、他者から大切なものを奪い、一方的に取引を要求し、さらには俺たちを奴隷にすると言った。
この男に対する底知れぬ怒りが湧いてくる。
が、しかし俺は思い出した。
奪われる者の屈辱。
なぜ俺は奪われ続けて来たのか。
弱いからだ。
自分に力が及ばないから俺は今膝を付いている。
同様に俺は、自分より弱い人間を、自分のエゴで蹂躙してきた。
憎むべきはこの男ではなく、自分自身。
「おーい、北条君と鵞利場君よ。そこに倒れているリベリオンを運んでくれ。」
「っと。九条念、と二人の女が見当たらないな。」
「逃げたか…… 」
男は、玉鉄を。女は金川を担ぎ上げる。
そして祭壇に手をかざすと、次元が捻れ、虚空が口を開ける。
「決戦は三日後、こっちに来てくれ。ご馳走とか揃えてまってるからさ。」
「来ない時は? そうそう、国際政府にはもう軍を要請しちゃってるから。」
大男が虚空に消え。続いて女が入る。
男はというと、一瞬コチラを振り返り、難しい顔をしてから、後に続いた。
憐れみか、もしくは罪悪感か、彼の心境を察することはできなかった。
俺は右手で彼を押し退けると、気絶している彼女の元へ一歩一歩踏み出していく。
カーミラが、九条と善戦している。
槍馬は能力を使い、徐々に玉鉄を追い詰めていっていた。
美奈たちが、炎道と西郷を無力化している。
誰も彼女に注意を引いている者はいなかった。
あと五メートル、三メートル。
もうすぐ。
もうすぐ彼女を抱きしめられる。
彼女の温かみを感じられる。
「《エクステンド》」
【絶対領域】
謎の男の声で、再び世界が元に戻される。
筋肉と関節に強烈な負荷がかかり、軋ませている。
他の能力者たちも例外ではなかった。
槍馬にカーミラ、美奈はかろうじて立っていられてているものの、その重圧に苦しめられていた。
驚くべきことに、その能力の効力は、平等社会の人間にも及んでいることだ。
玉鉄は、握っていたエモノが消滅し、地面に叩きつけられている。
九条はうつ伏せになり、芋虫のように必死に足掻き、金川は呆れたように力無く笑っていた。
炎道と西郷に至っては気を失っており、苦しそうな表情を浮かべている。
つまりこの空間は、能力者の能力を無効化する空間となっているということだ。
「ほう、これが蝠ちゃんが創った世界ねぇ。」
絶対領域の中で、一人、涼しい顔をして、荒野を歩く大男が一人。
彼だ。
これは彼が発生させているのだ。
男はゆっくり千代に近づくと。
「千代に触るなっ。」
肺の奥底から声を絞り出す。
「おーい。大丈夫か? 」
男は彼女の頬をツンツンする。
俺の中でドス黒い感情が目覚めた。
こんな気持ちは……
母が殺されたとき以来だ。
感情に支配され、術式を練れば練るほど、身体は動かなくなっていく。
俺は冷たく尖らせた殺意で、静かに立ち上がった。
そして肋骨に教えられた通り、己の力のみで、地面を蹴る。
左肩で、彼の巨体を吹き飛ばす。
「おうおう、いったいなぁ。」
「ホラ!! お返しだよッ。」
視界が反転する。
後頭部を二、三回打ち、岩石に叩きつけられる。
「ったく。能力者っていうのは、どうしてもこう…… 」
「お前がっ…そうさせてるんだろうが!! 」
彼は首を傾げた。
「何が? 君たちがどう感じているのかは知らないけど、コレが普通。平等社会ではね。」
「能力者は世界に争いを産む社会の癌だ。我々無能力者たちがしっかり管理して。世界の秩序を守らねばならない。」
「そうやってコイツらにも同じことをやって来たわけか。」
「侵害だなキミィ。社会の秩序を乱しているのは彼らの方だ。そんな奴らに人権があると思うかい? 」
「賢い犬にはソレなりの扱いを取っているよ。見たまえ。そこにいる女は能力者だが、腕輪がないだろう? 彼女は能力の制限を免除されている。その功績を讃えられてね。」
男のことで気付かなかったが、男の他に、二人の平等社会人がいた。
一人は180センチほどの強面の男で、腕には手錠がされている。
犯罪者? か。
もう一人は、その能力制御を免除された女。
身長は130センチほどしか無い。
その童顔も相まって、幼く見えるが、実年齢は定かでは無い。
「俺は、俺たちはお前の犬なんぞにならない。」
男は少し悩んだ。
それから答えた。
「そうか。」
彼は千代を担ぎ上げる。
「返せっ!! 千代は渡さない。」
「間違いは正せば良い。」
「我々が間違っているというのなら、君たちが正しいということを証明したまえ。」
「方法は……そうだな。平等社会人として、あまり喜ばれるやり方では無いが。」
「『力』で。君たちの得意分野だ。それで勝負してやる。」
「どうだい? コレぞおもてなしの精神だろ? いやいや、自分でも恐ろしいよ。この自身のサービス精神がね。」
「君たちが勝てば、この女は返してやる。」
「しかし、我々が勝てば、この女は…… 」
「いや、この女だけでは無いな。」
「この世界の人間、全てが平等社会人の奴隷だ。」
この男は何を言っているだ。
秩序を語っておきながら、他者から大切なものを奪い、一方的に取引を要求し、さらには俺たちを奴隷にすると言った。
この男に対する底知れぬ怒りが湧いてくる。
が、しかし俺は思い出した。
奪われる者の屈辱。
なぜ俺は奪われ続けて来たのか。
弱いからだ。
自分に力が及ばないから俺は今膝を付いている。
同様に俺は、自分より弱い人間を、自分のエゴで蹂躙してきた。
憎むべきはこの男ではなく、自分自身。
「おーい、北条君と鵞利場君よ。そこに倒れているリベリオンを運んでくれ。」
「っと。九条念、と二人の女が見当たらないな。」
「逃げたか…… 」
男は、玉鉄を。女は金川を担ぎ上げる。
そして祭壇に手をかざすと、次元が捻れ、虚空が口を開ける。
「決戦は三日後、こっちに来てくれ。ご馳走とか揃えてまってるからさ。」
「来ない時は? そうそう、国際政府にはもう軍を要請しちゃってるから。」
大男が虚空に消え。続いて女が入る。
男はというと、一瞬コチラを振り返り、難しい顔をしてから、後に続いた。
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