神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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報復

交渉

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 荒野を風が撫でた。
 ローランドの祭壇。
 神が人間に力を与えた場所であり、俺が転界に登った場所。
 そこに奴は一人で立っていた。
 炎道と西郷の姿は見えない。
 先に逃げたか、あるいは……
"考えることは同じというわけか。"
「よく来たな桐生慎二。」
「早速だが…… 」
 俺は背中に背負っていた二つの寝袋を取り出すと、中から九条念と金川練華を取り出す。
 そして、麻酔の腕輪……
 俺はスイッチを押すか押さないか躊躇って。
 それから玉鉄に向けて叫んだ。
「おい、お前らの人質を出せ。」
 彼は迷うことなく、眠らされている黒澄を取り出すと、優しく地面に寝かせた。
「この二人はお前らに返す。」
「ここのスイッチを押せば、麻酔が切れる。奴らは目を覚ます。」
「が、スイッチには触れるな。」
「俺が良いというまでな。」
 玉鉄は千代を拾い上げると、ゆっくりこちらに近づいてきた。
 それに合わせて俺も、二人を担ぎ上げ、一歩、また一歩彼に近づいていく。
 奴との距離が、三メートルほどまで縮まる。
 俺はそこで二人を下ろすと、右手を差し出した。
 千代の表情は穏やかだった。
 スースーの息で寝ている。
 その瞬間だった。
 目を覚ました金川が、自分で腕輪を解除し、それを九条にも行う。
 地表が熱せられ、円を描くと、地中から西郷と炎道が出て来る。
「しまった!! 」
 俺が油断した隙に形勢が逆転する。
 玉鉄は、千代の首に能力で作り出したナイフを押し当てると、ゆっくり下がっていく。
 裏で待機していたカーミラたちが、一斉に飛び出す。
 金川が二つの手錠を物質変換で鋭利な刃物に変える。
 俺の首にクナイが飛んでくる。
「凛月ッ!! 」
 俺は彼女を操作して、小太刀を鞭のように振るい、クナイを弾いた。
「テメェ。最初から起きてやがったのか。」
「玉鉄は剣術バカだが、頭は回る。俺は奴を信じた。リーダーもな。」
 戦況がグチャグチャになる。
 俺は千代を優先すべく、彼女に鎖を伸ばした。
「キンッ!! 」
 それも乾いた音と共に、金川に弾かれる。
「お前の相手は俺だ。」
「ウオオオオオオオ。」
 後ろから雄叫び。
 槍馬が玉鉄に攻撃を仕掛ける。
 玉鉄が千代の首をかき切ろうとした、その瞬間!!
「カンッ!! 」
---虚影斬タキオンブレード---
 天沼矛が未来を斬り、玉鉄のナイフを弾く。
 そして、千代の髪が少し斬れた。
「槍馬!! 」
 俺は思わず彼を怒鳴ってしまった。
「口を動かす前に手を動かせ。」
 俺の視界を、粒子転移した金川が覆う。
「またあったなぁ!! 」
「慎二ィ。」
 プラズマの刃が俺を襲う。
 俺はそれを必死に避け続けた。
「ホラホラホラ!! どうした? あん時みたいに動いてみろよ!! 」
「俺を追い詰めた時みたいによぉ!! 」
 地面が隆起する、空から氷の刃が降り注ぐ。
 地面が割れ、水が噴き出す。
 雷が落ち、俺の体を焼く。
 そうだ。
 俺はこうなることに薄々、気がついていた。
 千代をとるか、自分の命をとるか?
 こんなことになるなら、あの時決めておくべきだった。
 どうするべきだったか。
 俺はヤケクソになって、ホルスターから銃鬼を取り出す。
"頼む銃鬼、俺に力を貸してくれ!! "
「させねえぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
 金川の顔が激しく歪み、悪魔の本性を現す。
 彼の右手から放たれた竜巻が、俺の右手を弾いた。
 宙を舞う銃鬼が軽い金属音と共に地面に落ちる。
「ハハハハハ、させるわけねぇだろ!! 」
「先手必勝ぅ!! 」
 腕が鞭のように変形する。
 身体を反らせ、跳び上がり、腰を捻る。
 当たる直前、彼の腕は金剛に変わる。
 掠っただけでも、骨に響くような衝撃が俺を襲う。
「ンッ!! 」
 避けるだけでは対処しきれないと踏んだ俺は、凛月を振り回して、彼の攻撃を防ぐことにした。
「フンっ!! 」
「フンっ!!」
「ふガァぁぁぁぁ。小賢しいなぁぁぁぉぁお前はぁぁぁぁ。」
 凛月をつかもうとして、彼の腕が絡まった。
「アークソっ!! 」
 彼は絡まった腕を解こうと躍起になっている。
 俺はそのうちにバックステップで銃鬼の元へと迫った。
「カチャッ。」
 九条と戦っているカーミラが、それを足で蹴飛ばしてしまった。
「すまん、慎二!! 」
「構うな!! 前だけ見てろ!! 」
 金川の元に振り返ると、彼は両手を引きちぎり、再練成しようとしていた。
 銃鬼を拾い上げ、側頭部を撃ち抜く。
 彼の腕が迫る寸でのところで、時間が引き伸ばされる。
---再空壊リ・ブースト---
「ズキンッ!! 」
 心臓に激痛が走る。
「こんな痛みッ!! 」
 俺は自分を奮い立たせて、一歩踏み出す。
 そして、金川を真っ二つにした。
 彼はこの程度では死なない。
 今度は一刀両断し、四つに分かれる。
 彼はまだ斬られたことに気づいていない。
 もっとだ!! もっと!! もっと早く!!
 加速した世界の中で、さらに時間を加速させる。
「終わりダァぁぁぁぁぁぉ。」
---微塵ー荒斬ミジン・アラキリ---
「ズキキキッ。」
 まるで歯車に拍車がかかったかのような音。
 それと共に、胸の中で、何かが擦り切れたような痛みが襲いかかってくる。
「ぐっ。」
 再空壊が切れる。
 世界が元に戻る。
 跡形も無くバラバラになるはずの彼が身体を再錬成させ、不敵に笑っている。
「千代ッ。」
 俺は彼女に手を伸ばした。
 がっ届かない。
 俺の真上で強烈な殺意を感じる。
 ダメだ立たなきゃ。
 しかし身体は動かない。
 俺はこのまま終わるのか。
 彼女に何も返せないまま。
 いや、彼女だけではない。
 協力してくれた仲間たちや、千代のクソ親父に、妹。
 そして、俺に活路を見出してくれたオヤジ。
 俺は不意に鬼影の言葉を思い出した。
 俺の半身が最後の最後で俺にかけた呪い。
---慎二!! 死ぬなnever・die---
 どこからも無く、声が聞こえる。
 奴だ。
 間違いない。
 奴は今も、俺の中で生きている。
 失ってなどいなかった。
---さぁ慎二ィ。もう一度刻むんだ!! 魂ィのビートを!! ---
 そうだ。
 まだ死ねない。
 それが鬼影との契約。
「俺は!!---死なねえよ don't die---」
 ___心臓が再び動き出す。
 命のゼンマイが巻き取られていく。
---ガーハッハッハ!! ゲへへへへへへへへへへへへへへへッ---
 俺はもう一度銃鬼を手に取る。
---さぁ慎二よ!! もう一度立ち上がるのじゃ ---
 彼女が俺の右手を支える。
 そして、彼女と共に引き金を引く。


---時空壊クロック・ブレイク---
 

 師匠と修行し、手に入れた呪術。
 世界が何十倍にも引き伸ばされる。
 俺はもう一度立ち上がった。
 

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