神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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報復

作戦会議

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「おい、バカ侍? 」
 某のことをバカ侍と呼ぶのは、リベリオン幹部の炎道零子だ。
 彼女は感情の起伏が激しい。
 普段は本を読む寡黙なおんなであり、無鉄砲なリーダーのいわばブレーキ役であるが、戦闘中になると、己の炎を爆発させて、このような気性の荒い性格になる。
「人質は一人でいい。」
「それでリーダーと粘土こねこねボウヤを取り返せるのか? 」
「今は下手に動かない方が良い。リーダーと金川が同時にやられた。この意味が分かるか? 」
 その問いに答えたのは西郷だ。
「私たちじゃどうやっても太刀打ち出来ないってことでしょ。」
 某はコックリ頷いた。
「そうだ。我々は少々、この世界の人間たちを甘く見ていた。今下手に動いて、彼らを刺激してはならない。」
 西郷が不安そうな顔をした。
「もし、向こうの人間がどちらか一人しか渡さないと言ったら? リーダーか金川が国際政府に送られちゃうかも知れないわよ。」
 「この女を使って脅す。」
 炎道零子が鼻で笑った。
「サムライらしからぬ卑劣な方法ね。」
 某は唇を噛んだ。
 最悪の状況。
 こんなことになるなら、この世界に来ない方が良かった。
 が、それも自分の責任。我らリベリオンの責任。
 リーダーの言葉に賛同した我々の責任でもある。
 罪は濯ぐ。
 異世界の泥でな。
「某は侍だ。だが、リーダーと金川のためなら汚くもなれようぞ。」
「ふん、ご立派なこと。」
 と西郷。
「どこへいくつもり? 」
 某は北を目指している。
 異世界と平等社会をつなぐ門。
 人質を交換した後、我々にどのような結末が待っているかは想像したく無い。
 リーダーと金川を背負ったまま、無傷で帰れるとは思えない。
 だから、出来るだけ生存の可能性を上げる。
「奴らには手紙を送った。」
 西郷の息が切れかけている。
 某と炎道はそれに合わせる。
「帰ったとして、どうするの? 装置は既に公安の手に落ちているはずよ。」
 その後は……
 考えていなかった。
 しかし、その問いに冷静になった炎道が答える。
「蝠岡が創った世界は、何もこの世界だけじゃ無い。」
「逃げましょう。他の世界に。」
 そうだその手があった。
「リーダーはどういうか分からない。だが某もその作戦に賛成だ。」
「ちょっと待って、アンタたち強い人間はそれで良いのよ。したっぱたちは? ここに置いていくつもり? それとも。」
「それなら私が端末で全員に作戦を送ったわ。」
「『別々の世界に逃げろ』って。」
 西郷がしょぼくれて答える。
「リベリオンは…… 」
 それは違う。
 某は首を振って否定する。
「今は散り散りになってしまうかもしれない。」
「だが、」
「またいつか復興する。自由を取り戻すために。」
 某たちは北を目指した。

      * * *

 長机には錚々たるメンバーが集まった。
 グランディルの皇帝、カーミラ・ブレイクとその妻のセイ・ボイド。
 セル帝国からは、碧野双薔の姿は見えないものの(恐らく国内の防衛のためだ。カーミラの側近シャルル・アイシャが来ないのも、そのためだろう。)皇帝アスィールがわざわざ極東まで足を運んだ。
 そして極東は、極長の坂上と、千代の父親。
 美奈と槍馬。
「首脳会談の後だというのに、わざわざ呼び出してしまって申し訳ない。」
 アスィールが紅茶を一口飲み、皿に戻すと、口を開いた。
「お前の尻拭いをさせられるとはな桐生慎二。」
 ぐうの音も出なかった。
「しかし、我々が委託した任務中に起こってしまった。いわば労災だコレは。我々に責任がないわけでは無い。」
「この場を借りて国民の代表を代表して謝罪するとしよう。」
「すまなかった。」
 予想外の彼の言葉に、俺は一瞬戸惑った。
 凛月の件でイザコザが起こった時の彼の印象は俺にとってあまり良いものでは無かったし、彼もハムサを殺した俺を恨んでいるはずだ。
 だが、そんな表情は一片たりとも見せなかった。
 双薔に能力を引き継がせ、ハムサを俺に殺させる。そこまでが計画だった?
 というのは考えすぎだろう。
 俺が言葉を発せずにいるので、カーミラが口を開く。
「それよりも、今は時間がない。具体的にはどうするんですか? 」
「慎二郎が捕らえた二人の人質……元々外の人間との交渉を有利に進めるためのものであったが……」
 チラチラと俺の方を見てくる。
「彼女を助けるための交渉材料に使っても良いかな? 」
「秘密裏にそんなことを……」
「一言連絡をいただければ、私たちも協力したというのに。」
 だが、それに反対する者は居なかった。
「アンタたちの国の人間が捕らえた人質でしょ。なら好きに使ったら? 」
 と、セイ・ボイド。
「交渉役は? 誰がやるんだ? 」
「もちろん俺がやる。」
 迷いは無かった。
 ただ、彼女を助けたいという気持ち一心でだ。
「なら僕たちは、何が起こっても良いように、遠くで待機しているから。」
 と、カーミラ。
 槍馬たちも静かに頷いた。
「決まりだね。それじゃあ解散。」
 極長が手をパンパンと叩く。
 その数時間後、リベリオンからの電子メッセージが、極東へと届く。


____北の祭壇にて待つ

                 玉鉄



 



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