神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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報復

責任

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「いや~君を信じて送り出したんだが、このザマとはねぇ~ 」
 大内裏の応接間、ニタニタしながら洒落た長机の周りを廻っているのは、坂上だ。
 そして俺はその長机に腰を下ろして、ただ一点を見つめている。
 不思議と焦りは無く、落ち着いていた。
 自分が彼女を必ず救い出せると高を括っているのか、それとも、父がリベリオンのリーダーと幹部の二人を人質にとってくれていたからか?
 いや、やめよう。
 今は自分に出来ることを考えるのだ。
 一人じゃ何もできない。
 その教訓を、俺は嫌というほど刷り込まれたはず。
 クルクルと回る坂上が、俺の集中を掻き乱す。
 まるで俺の邪魔をして楽しんでいるようだ。
 奴の性格が鬼畜そのものであることは重々承知の上だが、ここまでとは思わなかった。
 契約者が人質に取られたということは、極東の技術が敵の手に渡ったということである。
 冷酷無情な彼にとっても、これは由々しき事態な、はずなのである。
 この後に及んで彼はまだ余裕を見せている。
 何か奥の手でもあるというのか?
 自壊スイッチ? 
 その考えが頭によぎった瞬間、彼を睨んだ。
 そしてそんな畜生のような思考が頭によぎった自分を憎み、唇を噛む。
「お前だな。うちの娘を安易敵の手に渡らせたのは!! 」
 ズガズカと応接室に入ってきた黒髭の男が、俺の胸ぐらを掴む。
「ガタッ。」
 吊り上げれたことで、椅子が倒れる。
 多分千代の父親であろう。
 この反応は親として当然であるし、悪いのは俺である。
 だがしかし、千代の父親のこの態度に俺は我慢ならなかった。
 散々彼女を厄介者扱いしていながら、自分の気が変わったら、家に連れ戻し、オマケに彼女を、家の道具として使おうとしたのだ。
 こんな屑からは勿論、娘を心配する気持ちなど、これっポチも感じられなかった。
 彼の瞳は、娘を心配する親の目ではなく、商品を気にする商人あきんどのそれだ。
「なんだ!! その目は!! 」
 そこにヘラヘラした坂上が割って入る。
「まぁまぁ落ち着いて、こちらにも強力なカードがあります。いざという時はそれを切りますよ。」
「当たり前だ!! 」
 彼は俺に向けていた怒りの矛先を、今度は坂上に向けた。
「会議の時間までまだ三時間ある。」
「カーミラ殿下たちが来るまで、裏で打ち合わせでも。」
 坂上が千代の父親を手招きする。
 彼はそれに応じたので、応接室には俺一人になってしまった。
「こんにちは、おぃ兄さ~ん。」
 千代の声が聞こえたので、ハッと我に返った。
 と思ったが、よく見ると彼女ではない。
 身長は千代より少しだけ低いし、何より他人を小馬鹿にするような挑発した態度を彼女は取らない。
「うわ、こっち向いた。」
「お前か? 千代の妹っていうのは? 」
「お兄さん、会議まで暇でしょ? 私も暇なの、ちょっと付き合ってくれるかしら? 」
「断る。」
 その言葉を聞くと、彼女は二マリと笑った。
 何か企んでいるような狡猾な顔。
 女狐とはまさにこの女のためにあるようである。
 すると、彼女は俺の右手をグイッと引き寄せて、自分の胸に押し当てた。
 そして耳元で囁く。
「来ないと。声を上げるけど。良いの?お兄ぃ~さ~ん? 」
 俺は彼女を振り払った。
「チッ。」
 
      * * *

「何が目的だ? 」
 日が登り始め、極東の虫が鳴き始める。
 初夏の蒸し蒸しとした熱気が漂い始めた。 
「貴方ね。お姉様が言っていた運命を決めた人っていうのは? 」
 俺は首を傾げた。
「人違いだ。」
 少なくとも彼女は俺をそんなふうに見ていない。
 なら俺をあんな下僕のようには扱わない。と思う。
「お姉様ね。お父様に婚約を突きつけられた時、『私には運命を決めた人がいる。』って言って、家を飛び出していったのよ。」
 それは羽々斬から聞いた。
 実家でお見合いさせられそうになって、家から飛び出してきたっていう。
 しかし、まぁまざかそんなことはないだろう。
「ねぇ、姉さんから私に乗り換えない? 」
 俺は彼女に心を見透かされたようで、一瞬動揺した。
 しかし、すぐに反論する。
「何のために? 」
 彼女はクスクス笑う。
「もちろん、お姉さまから全てを奪うためよ。」
 俺は積もりに積もった怒りを爆発させた。
 周りに異常者しかいないせいで、自分の正気を疑った。
 自分の失態に動揺し、正確な判断が出来なくなっているのではないかと、自分をそう疑った。
 しかし、異常なのは彼女たちだ。
「お前らっ。」
 拳を彼女に振り上げ、そして振り下ろす。
 色々な感情が駆け巡る。
 これまで彼女を蔑ろにしてきたことへの怒り、そして、彼女をモノとしてしか見ていない父親に向けての怒り、そして、姉が危険な目に遭っているというのに、場違いなことを抜かす妹に向けての怒りだ。
 彼女は抑えきれんとばかりに吹き出した。
「何がおかしい!! 」
 彼女は俺の怒りを宥めた。
「いやいや、ごめんなさいね。こんな試すような真似をして。」
 それから彼女は優しく微笑んだ。
「お姉様、男運が無いから心配になったのよ。どこぞの不良少年と恋に堕ちるなんて、妹として心配でしょ。」
「余計なお世話だ。」
 どこまでも失礼な奴だ。
「お姉様のこと。よろしくね鬼神様。」
 そうだ。
 彼女は俺をどん底、カビ臭い豚箱から引き摺り出してくれた。
 なら、今度は俺が彼女の手を取る番だろう。
「パーパッパー 」
 ファンファーレが鳴る。各首脳が大内裏についた合図だ。
 予定より幾分か早い。
 俺も当事者として会議に加わることになっている。
 俺は彼女に無言で手を振ると、応接室に戻った。

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