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平等社会へ
前夜
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食事の後、自分の部屋に戻ると、作戦の最終確認をした。
と言っても大した策は無いのだが。
碧野双薔はミーティングをしようと言ったが、カーミラがそれを遮った。
当然だ。
奴らは俺たちの会話を機材で盗み聞きしているかもしれない。
それにしても……
俺はやっと蝠岡の言っていた言葉の意味を理解した。
いや、彼だけでは無い、なぜリベリオンが俺たちの世界に来たのか、なぜ本堂は俺たちに悪意を向けたのか。
頭に刺さって抜けなくなっていた疑問が、さっぱりなくなってしまったような気がする。
神なんていなかった。
そして、そこに存在したのは、自分達を賢者だと思い込んでいる愚者の集まりだ。
この世界は何かが、おかしい。
俺の鳥頭では理解できない。
だがこの世界は気持ち悪かった。
俺たちの全てを否定されているようで。
神族も、悪魔も、聖も、呪術使いも契約者もいなければ、戦争は起こらなかった?
憎しみも悲しみも全部無かったことになったか?
俺たちの世界の人間は、手を取り合えていただろうか?
分からない。
何も。世界は俺が思っていたよりもっと複雑で壮大だった。
俺はベットに倒れ込む。
柔らかいベットの弾性力が俺の体を押し返す。
そして天井に向けて右手を伸ばす。
「千代…… 」
ますます俺は負けられなくなった。
いや、恐怖しているのだ。
昼間の暴行事件を見て。
手錠と足枷をされた能力者に、桐生慎二という能力者が重なる。
その度に鳥肌が立った。
本堂は言った。『君たちが負ければ、全人類は私たちの奴隷だ。』
聖や契約者、セル帝国の悪魔術使いたちは、もれなくブレスレットがプレゼントされるであろう。
いや、無能力者の一般人ですら、安全とは思えない。
昼間の平等社会人の残虐性を垣間見た後で、彼らが俺の世界の人間を対等に見てくれるとは、考えにくかった。
平等社会人たちのあの嗜虐的な顔を思い出して、また身体が震える。
西郷と戦った時と同じ感情。
「俺は臆病だ。」
「怖いのは俺も同じだよ慎二。」
俺は飛び上がると、ベットに尻をついた。
「ファッ!! 槍馬。」
というかなぜ彼は俺の部屋の鍵を持っているのだ?
「おい、部屋に入る時ぐらいノックをしてくれよな。」
「悪い悪い、昼間のお前の顔を見てたらよ、放って置けなくてな。」
「フロントで鍵を借りてきたぜ。」
「そりゃどうもご親切に。」
槍馬が俺の隣に座った。
「なぁ慎二、怖いか? 」
いつもの俺なら強がっていたかもしれない。
「怖いさ。全部が。」
「千代がいなくて不安だ。彼女がどこか手の届かないところに連れて行かれてしまうんじゃ無いかって。」
「俺の腕に……いや、お前や美奈の腕にも、あの手錠がはめられるんじゃ無いかって。」
槍馬は笑った。
「何がおかしいんだよ。」
「いんや? 極東を抜け出して、黒澄やら俺たちを置いて行ったお前がそれを言うのがおかしくてさ。」
「ま~だ根に持ってんのか。あん時は悪かったよ。」
槍馬は本当に強い。
昔からそうだった。
彼だけでは無い。坂田一族の強さとは、技量や力による物ではなく、精神性から来ているような気がする。
昔、弓館おじいちゃんから聞いた。
槍馬の親父の剣城は、俺のオヤジに能力が無くなった時、二十日間、寝ずに二十四時間昼夜戦い続けたらしい。
グランディルの七英雄たちと。
「強いな槍馬は。」
彼は首を横に振る。
そして苦い顔をしながら、言葉を吐き捨てた。
「怖いさ俺だって。今だって自分の恐怖を隠すことで精一杯だ。だって俺は坂田家の人間だから。どんな敵であろうとも、足が竦むなんてことは許されねえ。許されねえんだ。」
「だけど、俺は逃げねえよ。」
彼は立ち上がった。
「だって横に、もっと大きいもん背負っている奴がいるからよ。」
俺は思わず自分を指差した。
「俺? 」
「そうだ。お前はいつも良いところを持っていきやがる。極東を裏切ったくせにハムサが極東に来た時は、タイミングを測っていたかのように現れるし、神様は倒しちまうし。お前に良いとこばっかり取られちまうのも癪だからな。」
俺は肘で彼をこづいた。
「なんだよ。悩んでいたこっちが馬鹿みたいじゃ無いか。」
コイツと話していると調子が狂う。
「俺も負けられねえな。」
「負けるんじゃ無い。勝つんだろ? 」
「敵に勝って、お前に勝つ。そして、俺が丹楓村の真の英雄だってことを証明してやる。」
「もう、尾鰭に背が付いているなんて言わせねえからな。」
「望むところだ。」
俺と槍馬は、互いに拳を合わせると、そのあと、寝衣に着替え、目を瞑った。
難しいことは分からない。
だが、今すべきことは……寝ること。
寝不足では力もろくに発揮できない。
* * *
「はっ、今何時だ。」
幸いにも寝過ごしたと言うことは、無かった。
俺は他の仲間たちと顔を合わせると、顔を洗い、喉に通らない朝食を取る。
フロントに出ると、宜野座が律儀にも待っていた。
少し安堵が見える。
「昨日は何事もなくて良かったです。皆さん外出はなさらなかったようですね。」
と言っても大した策は無いのだが。
碧野双薔はミーティングをしようと言ったが、カーミラがそれを遮った。
当然だ。
奴らは俺たちの会話を機材で盗み聞きしているかもしれない。
それにしても……
俺はやっと蝠岡の言っていた言葉の意味を理解した。
いや、彼だけでは無い、なぜリベリオンが俺たちの世界に来たのか、なぜ本堂は俺たちに悪意を向けたのか。
頭に刺さって抜けなくなっていた疑問が、さっぱりなくなってしまったような気がする。
神なんていなかった。
そして、そこに存在したのは、自分達を賢者だと思い込んでいる愚者の集まりだ。
この世界は何かが、おかしい。
俺の鳥頭では理解できない。
だがこの世界は気持ち悪かった。
俺たちの全てを否定されているようで。
神族も、悪魔も、聖も、呪術使いも契約者もいなければ、戦争は起こらなかった?
憎しみも悲しみも全部無かったことになったか?
俺たちの世界の人間は、手を取り合えていただろうか?
分からない。
何も。世界は俺が思っていたよりもっと複雑で壮大だった。
俺はベットに倒れ込む。
柔らかいベットの弾性力が俺の体を押し返す。
そして天井に向けて右手を伸ばす。
「千代…… 」
ますます俺は負けられなくなった。
いや、恐怖しているのだ。
昼間の暴行事件を見て。
手錠と足枷をされた能力者に、桐生慎二という能力者が重なる。
その度に鳥肌が立った。
本堂は言った。『君たちが負ければ、全人類は私たちの奴隷だ。』
聖や契約者、セル帝国の悪魔術使いたちは、もれなくブレスレットがプレゼントされるであろう。
いや、無能力者の一般人ですら、安全とは思えない。
昼間の平等社会人の残虐性を垣間見た後で、彼らが俺の世界の人間を対等に見てくれるとは、考えにくかった。
平等社会人たちのあの嗜虐的な顔を思い出して、また身体が震える。
西郷と戦った時と同じ感情。
「俺は臆病だ。」
「怖いのは俺も同じだよ慎二。」
俺は飛び上がると、ベットに尻をついた。
「ファッ!! 槍馬。」
というかなぜ彼は俺の部屋の鍵を持っているのだ?
「おい、部屋に入る時ぐらいノックをしてくれよな。」
「悪い悪い、昼間のお前の顔を見てたらよ、放って置けなくてな。」
「フロントで鍵を借りてきたぜ。」
「そりゃどうもご親切に。」
槍馬が俺の隣に座った。
「なぁ慎二、怖いか? 」
いつもの俺なら強がっていたかもしれない。
「怖いさ。全部が。」
「千代がいなくて不安だ。彼女がどこか手の届かないところに連れて行かれてしまうんじゃ無いかって。」
「俺の腕に……いや、お前や美奈の腕にも、あの手錠がはめられるんじゃ無いかって。」
槍馬は笑った。
「何がおかしいんだよ。」
「いんや? 極東を抜け出して、黒澄やら俺たちを置いて行ったお前がそれを言うのがおかしくてさ。」
「ま~だ根に持ってんのか。あん時は悪かったよ。」
槍馬は本当に強い。
昔からそうだった。
彼だけでは無い。坂田一族の強さとは、技量や力による物ではなく、精神性から来ているような気がする。
昔、弓館おじいちゃんから聞いた。
槍馬の親父の剣城は、俺のオヤジに能力が無くなった時、二十日間、寝ずに二十四時間昼夜戦い続けたらしい。
グランディルの七英雄たちと。
「強いな槍馬は。」
彼は首を横に振る。
そして苦い顔をしながら、言葉を吐き捨てた。
「怖いさ俺だって。今だって自分の恐怖を隠すことで精一杯だ。だって俺は坂田家の人間だから。どんな敵であろうとも、足が竦むなんてことは許されねえ。許されねえんだ。」
「だけど、俺は逃げねえよ。」
彼は立ち上がった。
「だって横に、もっと大きいもん背負っている奴がいるからよ。」
俺は思わず自分を指差した。
「俺? 」
「そうだ。お前はいつも良いところを持っていきやがる。極東を裏切ったくせにハムサが極東に来た時は、タイミングを測っていたかのように現れるし、神様は倒しちまうし。お前に良いとこばっかり取られちまうのも癪だからな。」
俺は肘で彼をこづいた。
「なんだよ。悩んでいたこっちが馬鹿みたいじゃ無いか。」
コイツと話していると調子が狂う。
「俺も負けられねえな。」
「負けるんじゃ無い。勝つんだろ? 」
「敵に勝って、お前に勝つ。そして、俺が丹楓村の真の英雄だってことを証明してやる。」
「もう、尾鰭に背が付いているなんて言わせねえからな。」
「望むところだ。」
俺と槍馬は、互いに拳を合わせると、そのあと、寝衣に着替え、目を瞑った。
難しいことは分からない。
だが、今すべきことは……寝ること。
寝不足では力もろくに発揮できない。
* * *
「はっ、今何時だ。」
幸いにも寝過ごしたと言うことは、無かった。
俺は他の仲間たちと顔を合わせると、顔を洗い、喉に通らない朝食を取る。
フロントに出ると、宜野座が律儀にも待っていた。
少し安堵が見える。
「昨日は何事もなくて良かったです。皆さん外出はなさらなかったようですね。」
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