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ローランド大戦
北を目指して
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「……二、慎二!! 慎二!! 」
「慎二!! 」
彼女の呼び声で再び俺は現世二戻ってくる。
そうだ。俺は死ななくなった。
ヤツとの約束だ。
死なないって。
再び命のゼンマイが巻き戻された俺は、ムクっと起き上がると、右手で頭を抱えた。
「悪い。どれぐらい眠ってた? 」
「ちょうど5分ぐらいだ。任務に差し支えはない。」
アスィールだ。
「死んだから埋めてやろうと思ったが、穴を掘り始めたところから、体の傷が時間が巻き戻るように治っていき。」
「それで元通りスッキリってわけだな。バケモノめ。気持ち悪い。」
彼は俺に一通の手紙を投げ込んでくる。
「なんだコレは? 」
「泥封は破ったぞ。どうせもう必要ないものだ。」
そこには、俺の恩赦に対する槍馬の直訴文が書かれていた。
「おめでたい奴だなアイツは。元よりお前を殺すつもりなんて無かったみたいだぞ。」
「そりゃそうですよ。槍馬は俺が死なないことを知っていたし、なんせ布津御魂の呪いが働いていない。俺はこうして復活しているわけですし。」
アスィールは、手をパンパンと叩いて、叛逆者を呼ぶ。
「なんですか、アスィール様。」
「そこで伸びている二人をセル帝国まで運べ。丁重に扱えよ勘違いバカ。」
「ハハ、仰せのままに。」
ヤテンは二人を担ぐと、セル帝国の方へと真っ直ぐ走り出した。
[北へ向かえ。]
Mが、亜星の能力で俺たちに指示を出した。
「全く、厄介な奴らだ。」
「でもコレでリームたちの誤解が解けますね。」
と双薔。
「本当になんともないの? 」
「ああ、おかげさまでな。槍馬が本気で殺しに来ていたら俺は負けていた。てか死んでたよ。」
「鬼影の呪いごと斬られていた。」
とくに異常はない。
未知術も健在だし、虚数魔力もいつも通り、鬼影に取られた身体の半身も、いつも通りだ。
というか、この呪いが断ち切られた時点で、俺から鍵穴は無くなり、俺と凛月の契約は、破棄されるはずなのである。
「槍馬に斬られてれば、極東にとっても、
ミシュマッシュにとっても無価値な人間になっていたわけだ。」
「それは違うだろ。」
斥が否定する。
「戦争を止める。そうだろ桐生慎二。」
そうだ、忘れていた。
俺には魔法の触媒になるという大切な役割がある。
「そうだ。父さんから受け継いだこの力。」
俺は拳を握りしめて、北へと掲げた。
「しっかし冷え込んできたな。」
斥が体を震わせて、背中から防寒用の軍服を取り出す。
同時に俺は、ミシュマッシュのロープを取り出して着込んだ。
「ねぇ、それ、辞めなよ。」
千代が心配そうに俺の肩を叩いた。
「やだよ寒いし。それにアッチの軍服は持ってくる暇がなかったからな。急に連絡が来たからよ。」
「ほら。」
千代は俺のロープを剥がすと、身体に抱きついてくる。
「コレで暖かい。」
「やめろ。さっきみたいな奇襲に対応できない。」
「いや? 」
「嫌じゃないけど。」
どちらかと言うと罪悪感の方が大きい。
「っくしょん。」
双薔がかわいいクシャミをする。
「ねぇ、アスィール様、なぜ創造主様たちは、ローランド大陸を寒く作ったのかな。」
「さぁな。私は神ではない。だが、神族たちには、どうやら罪人の流刑地として使われていたようだ。」
「良かった。ハムサ様は暖かい場所に送られたのね。」
「ああ、ハムサは仮にでも神族だ。人間と扱いが違うのも納得できる。」
「現地で、罪人たちと結託して、反乱を起こされても困るだろうし。」
「だが、反乱は起きた。そうだろ。だから今この世界には神族がボイド家しかいないんだ。」
「そうだ。カーミラの父、シド・ブレイクも流刑者だった。彼が農民ならまだ良かった。貴族の身であった彼に、肉体労働は過酷なものであっただろう。」
アスィールは俺の顔を覗き込んだ。
「どうした? 同情しているのか? 今は亡き彼に? 」
「別に。同情なんてしねえよ。俺の村を襲わせた奴なんかに。」
「ただ思ったんだ。なんで人は人の痛みが分かるのに、人を傷つけようとするんだろうな。」
「シドだけじゃねえよ。極東の連中もグランディルの連中もみんなそうだ。」
アスィールはそれを鼻で笑った。
「そんなこと、とうに答えはもう出ている。」
「余裕が無いからだ。」
「余裕が無いから他者からモノを強引に奪い。」
「余裕が無いから他者を騙してまで、自分を守ろうとする。」
「余裕が無いから他者に攻撃的になり。」
「余裕が無いから殺し合う。」
「今回、戦争が起こったのも、両国が難民を抱え、自国に余裕が無くなったからだ。」
俺は彼の言葉を理解できなかった。
「結局なにが言いたい? 」
「戦争を、醜い争いを止める方法。そんな方法、一つしかないだろ。」
彼の人差し指は真っ直ぐ俺の方に突きつけられた。
「君が満たせば良いんだ。彼らを。力を持って生まれてきた君が。」
「俺が……みんなを。」
俺は今この時、アスィールが組んだ魔法というモノがどのようなモノか理解した。
強大な力で、両者を傷つけることでも、恐喝し、畏怖させることでもない。
「俺が、人間の底なしの欲求を全て? 」
「出来るかじゃない、やるんだ。そのために君はここにいるんだろう? 」
* * *
俺はアスィールの問いに答えることが出来なかった。
迷っているわけではない。
ヤル気だ。
ただ、俺は心配なのだ。
復讐を誓ってから、いらないプライドを捨て、今日に至るまで、俺は人を傷つける事でしかなにもなしてこなかった。
当然、美奈や槍馬のような気の利いたことができない。
術は自己暗示だ。
もし俺の術式に俺の心の奥底の獣が反応したら。
魔法陣は思わぬ方向に暴走してしまうかもしれない。
俺は野営のために建てた簡易キャンプに戻ると、寝床に入り横になった。
それから目を閉じる
「慎二!! 」
彼女の呼び声で再び俺は現世二戻ってくる。
そうだ。俺は死ななくなった。
ヤツとの約束だ。
死なないって。
再び命のゼンマイが巻き戻された俺は、ムクっと起き上がると、右手で頭を抱えた。
「悪い。どれぐらい眠ってた? 」
「ちょうど5分ぐらいだ。任務に差し支えはない。」
アスィールだ。
「死んだから埋めてやろうと思ったが、穴を掘り始めたところから、体の傷が時間が巻き戻るように治っていき。」
「それで元通りスッキリってわけだな。バケモノめ。気持ち悪い。」
彼は俺に一通の手紙を投げ込んでくる。
「なんだコレは? 」
「泥封は破ったぞ。どうせもう必要ないものだ。」
そこには、俺の恩赦に対する槍馬の直訴文が書かれていた。
「おめでたい奴だなアイツは。元よりお前を殺すつもりなんて無かったみたいだぞ。」
「そりゃそうですよ。槍馬は俺が死なないことを知っていたし、なんせ布津御魂の呪いが働いていない。俺はこうして復活しているわけですし。」
アスィールは、手をパンパンと叩いて、叛逆者を呼ぶ。
「なんですか、アスィール様。」
「そこで伸びている二人をセル帝国まで運べ。丁重に扱えよ勘違いバカ。」
「ハハ、仰せのままに。」
ヤテンは二人を担ぐと、セル帝国の方へと真っ直ぐ走り出した。
[北へ向かえ。]
Mが、亜星の能力で俺たちに指示を出した。
「全く、厄介な奴らだ。」
「でもコレでリームたちの誤解が解けますね。」
と双薔。
「本当になんともないの? 」
「ああ、おかげさまでな。槍馬が本気で殺しに来ていたら俺は負けていた。てか死んでたよ。」
「鬼影の呪いごと斬られていた。」
とくに異常はない。
未知術も健在だし、虚数魔力もいつも通り、鬼影に取られた身体の半身も、いつも通りだ。
というか、この呪いが断ち切られた時点で、俺から鍵穴は無くなり、俺と凛月の契約は、破棄されるはずなのである。
「槍馬に斬られてれば、極東にとっても、
ミシュマッシュにとっても無価値な人間になっていたわけだ。」
「それは違うだろ。」
斥が否定する。
「戦争を止める。そうだろ桐生慎二。」
そうだ、忘れていた。
俺には魔法の触媒になるという大切な役割がある。
「そうだ。父さんから受け継いだこの力。」
俺は拳を握りしめて、北へと掲げた。
「しっかし冷え込んできたな。」
斥が体を震わせて、背中から防寒用の軍服を取り出す。
同時に俺は、ミシュマッシュのロープを取り出して着込んだ。
「ねぇ、それ、辞めなよ。」
千代が心配そうに俺の肩を叩いた。
「やだよ寒いし。それにアッチの軍服は持ってくる暇がなかったからな。急に連絡が来たからよ。」
「ほら。」
千代は俺のロープを剥がすと、身体に抱きついてくる。
「コレで暖かい。」
「やめろ。さっきみたいな奇襲に対応できない。」
「いや? 」
「嫌じゃないけど。」
どちらかと言うと罪悪感の方が大きい。
「っくしょん。」
双薔がかわいいクシャミをする。
「ねぇ、アスィール様、なぜ創造主様たちは、ローランド大陸を寒く作ったのかな。」
「さぁな。私は神ではない。だが、神族たちには、どうやら罪人の流刑地として使われていたようだ。」
「良かった。ハムサ様は暖かい場所に送られたのね。」
「ああ、ハムサは仮にでも神族だ。人間と扱いが違うのも納得できる。」
「現地で、罪人たちと結託して、反乱を起こされても困るだろうし。」
「だが、反乱は起きた。そうだろ。だから今この世界には神族がボイド家しかいないんだ。」
「そうだ。カーミラの父、シド・ブレイクも流刑者だった。彼が農民ならまだ良かった。貴族の身であった彼に、肉体労働は過酷なものであっただろう。」
アスィールは俺の顔を覗き込んだ。
「どうした? 同情しているのか? 今は亡き彼に? 」
「別に。同情なんてしねえよ。俺の村を襲わせた奴なんかに。」
「ただ思ったんだ。なんで人は人の痛みが分かるのに、人を傷つけようとするんだろうな。」
「シドだけじゃねえよ。極東の連中もグランディルの連中もみんなそうだ。」
アスィールはそれを鼻で笑った。
「そんなこと、とうに答えはもう出ている。」
「余裕が無いからだ。」
「余裕が無いから他者からモノを強引に奪い。」
「余裕が無いから他者を騙してまで、自分を守ろうとする。」
「余裕が無いから他者に攻撃的になり。」
「余裕が無いから殺し合う。」
「今回、戦争が起こったのも、両国が難民を抱え、自国に余裕が無くなったからだ。」
俺は彼の言葉を理解できなかった。
「結局なにが言いたい? 」
「戦争を、醜い争いを止める方法。そんな方法、一つしかないだろ。」
彼の人差し指は真っ直ぐ俺の方に突きつけられた。
「君が満たせば良いんだ。彼らを。力を持って生まれてきた君が。」
「俺が……みんなを。」
俺は今この時、アスィールが組んだ魔法というモノがどのようなモノか理解した。
強大な力で、両者を傷つけることでも、恐喝し、畏怖させることでもない。
「俺が、人間の底なしの欲求を全て? 」
「出来るかじゃない、やるんだ。そのために君はここにいるんだろう? 」
* * *
俺はアスィールの問いに答えることが出来なかった。
迷っているわけではない。
ヤル気だ。
ただ、俺は心配なのだ。
復讐を誓ってから、いらないプライドを捨て、今日に至るまで、俺は人を傷つける事でしかなにもなしてこなかった。
当然、美奈や槍馬のような気の利いたことができない。
術は自己暗示だ。
もし俺の術式に俺の心の奥底の獣が反応したら。
魔法陣は思わぬ方向に暴走してしまうかもしれない。
俺は野営のために建てた簡易キャンプに戻ると、寝床に入り横になった。
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