神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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ローランド大戦

嘘つきは泥棒の始まり

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 結局俺は、彼女に本当のことを言えなかった。
 言えるわけが無かった。
「なんなこと言えば、絶対に千代は反対する。」
「千代ちゃん悲しむよ。勝手に居なくなったらさ。」
 伊桜里が俺の肩をツンツンする。
「お前にだけは言われたくない。」
「それより。」
「良いの。そんなこと。アイツはホラ。楽しそう。私が居たら邪魔になっちゃうかなって。」
 そこで、Mから通信が入った。
[すまないな君たち。セル帝国の国境から、直接ローランド大陸を目指してもらうことになる。]
 奴らを止めるためなら、直接ローランド大陸に飛べば良い。
 ただ、ユグドラシルのバックドアの場所が極東にバレれば、ミシュマッシュのみんなは危ないし、牡丹は彼らに何をされるか分からない。
「「了解。」」
 俺は亜星と立ち話をしている千代の手を引いた。
「ちょっ、ちょっとなに? さっきから。」
「ホラ。いくぞ。一緒に来るって言ったのはお前だろ。」
 彼女は一瞬ムスッとしたが、次第にしたり顔へと表情を変えていく。
「私が、椿井さんとはなしているから? 嫉妬しているの? 女の子同士なのに? えっ、おっも。」
 はっ。コイツは、自意識過剰にも程があるとは思わないだろうか。
 少し、ほんの少しだけ寂しかったよ。
 だって俺、極東で仕事クビになってから、全然彼女と話してなかったんだぜ。
「ああ、そうだ。だからいくぞ。」
 コレで彼女と一緒にいれるのは最後かもしれない。
 だからこそ、彼女の温もりをできるだけ長く感じていたかった。
 俺たちは順番にバックドアから外の世界へ出ていく。
 そこは、セル帝国領の荒野のど真ん中だった。
「ウッソだろ。なにも見えねーよ。どっちが南の海で、どっちがローランド大陸に繋がる北海なのか。」
 斥が右手を額に添えながらキョロキョロしている。
「私についてこい。」
 アスィールはマントをたなびかせると、まっすぐ歩き出した。
 その後を、双薔がトコトコとついて行く。
「おい待てよ。」
 見覚えのある声。
 幻聴……ではない。
「槍馬、それに新潟か。なにしに来た。」
 わざわざ聞くほどでもないだろう。
「慎二、ここは私たちが引き受ける。双薔さんたちと、先に。」
「いいんや、双薔は渡さん。」
 めんどくさい奴がもう一人。
 彼はアスィールを軽蔑した目で見下している。
「アスィールさん。なぜ貴方が、台与鬼子と行動を共にしておられるのですか? 」
 彼は振り返り、フードを払いのけると、真っ直ぐ彼を見た。
「そうする必要があるからだ。側近のお前なら分かるだろう。そうする必要があるのなら、私的感情を全て無視するし、そうする必要がなければ切り捨てる。」
「それが王である私の仕事だ。王というものは、感情に縛られてしまってはいけない。国の、歴史の奴隷でなければならない。」
 伊桜里が腰のナイフを抜く。
 同時に俺も腰から凛月を取り出した。
「慎二…… 」
「お前は戦わなくていい。新潟とも、槍馬とも。」
「ただ、俺が危なくなったら援護してくれ。」
「チキショウ。こんなところで足止め喰らっている暇なんてねえのによ。」
「ふふふ、美しくないな。ないよ君たち。」
 斥も鏡子もやる気だ。
「慎二ぃぃぃぃぃぃぃ。」
 槍馬が目を赤くして俺に飛びかかってきた。
 彼は本気だ本気で俺をかりに来ようとしている。
 俺が鬼でなくなった今も、あの、怪異狩りの家系の血は健在というわけか。
 彼の天沼矛の上段斬りの構えが見えた途端、俺は凛月のチャクラムで『それ』を受け止めた。
 天沼矛と戦う時のコツ。
 それは出来るだけ先を読むこと。
 簡単だ。
 簡単だが難しい。
---時空壊クロック・ブレイク---
 心臓のリミッターを外した。
 荒野の砂の一粒から、奴の血管の血の流れまで鮮明に見える。
 今日は調子がいいのかもしれない。
「お前は俺を怒らせた。俺は寛大な奴だぜ。俺だけじゃない。他の十三部隊のみんなもだ。」
 嘘だ。
 なんだって。
 奴からそんな性格の悪い言葉が出てくるわけないじゃないか。
 だって奴は……
「俺もお前のこと嫌いだよ。昔っからな。」
「誰にでも優しくて、気配りができて、すぐに打ち解けられて、美奈が元の記憶を取り戻した後も、変わらずアイツを支えることが出来たのも、カーミラが極東にきた時に、極東を守ったのも、村で英雄視されているのもお前だ。」
「主人公みたいだよなお前は。なんでも出来てよ。」
 俺は迫り来る布津御魂の残撃と、天沼矛の斬撃を交わしながら、彼へと鍔迫り合いに持ち込んだ。
「んでもって、俺みたいなクソ野郎のことに最後まで気をかけてきてよ。」
 彼は、自身の血の力を最大限にまで引き上げると、俺のチャクラムと小太刀を弾き返してきた。
「気にかけてだと…… 」
「俺は…俺は…オマエについて行くことに精一杯だったんだ。」
 彼は布津御魂を空に掲げる。
 残撃は彼の頭上一点に集中し、

 一気に俺たちへと向けて解き放たれた。
---千本針センボンバリ---
 避けるだけなら容易い。
 だが俺の後ろには
---金剛碧コンゴウヘキ---
 千代が銃鬼に力を込めてトリガーを引く。
 俺の目の前に、金剛のシールドが展開された。
「なぜ俺を頼ってくれなかった。一人で抱え込むばかりで。そうじゃないか? 七宝隊長が本当の仇だっていうのなら、極東に消されそうになったっていうのなら。」
「幼馴染である俺に頼れば良かったじゃないか。」
「クッ。」
 千代の能力では防ぎきれない。
 槍馬の力が、布津御魂を増幅させているのだ。
 おそらく今まで斬った怪異たちの怨念が、全てこの残撃たちに濃縮されている。
---雷盾ライトン---
 俺は凛月を両手いっぱいに広げると、電磁シールドを展開した。
 コレで残撃を止められる!!
「なんで、そこの素性も分からないやつのことを信用するだけ。俺の方が信頼されるべきなのに、お前の隣にいるべきなのに。」
 なにを言っているだコイツは。
 俺を過大評価して。
 勝手にハードル上げやがってよ。
 それでいてねちっこくて鬱陶しい。
 俺の元から離れろよ。
「ドゴンッ。」
 向こうで新潟と対峙している斥が発動した重力操作で、地面が揺れる。
 反動で、槍馬が体勢を崩し、技が上に逸れる。
 ただ一人大地の精霊を身に宿しているヤテンだけが、影響を受けず、アスィールの頸に刃を通そうとしている。
 俺はすかさず凛月の小太刀を投げると、ヤテンの攻撃を弾き返した。
「邪魔をするな台与鬼子!! 」
「お前の相手は俺だ!! 俺を見ろぉおぉおぉぉぉ。」
 後ろで、ヤテンの対応をしながら、右目で腐れ縁の攻撃に右手で対応する。
 小太刀は放り投げたので、使えない。
 コイル操作で、引きつけても間に合いそうにない。
---裏斬レヴァーテイン---
 右掌が怪しく光り、一筋の線になってから、紫色しいろの雷を呼び寄せて、禍々しい裏切りの刀が呼び出される。
「なっ。」
 裏斬で天沼矛を弾き返してから、布津御魂の残撃に注意しながら、チャクラムで上段斬りを放つ。
 チャクラムが振り下ろされたことで、鎖に繋がれている小太刀は反動で上昇する。
 それがヤテンの剣を弾き返した。
 逃げる槍馬に追撃をすべく裏斬を投げ、コイルを操作し、すぐさま小太刀を自分の右手元へと呼び戻した。
 左脚を大きく踏み込み、彼へと疾走する。
 再び残撃と斬撃を弾き返しながら、踊るように彼へと迫る。
「槍まぁぁぁぁぁぁ。」
「慎二ぃぃぃぃぃぃ。」
 内側から外側へと、両手の武器を使い、彼の二振りの武器を弾き飛ばす。
 いや、彼は自分から放り投げたのだ。
 俺は凛月の小太刀を奴の喉笛の前で止める。
「なんのつもりだ。」
「慎二、ごめん。」
 しまっ。
 俺の死角に『残撃』があった。 
 一つ見逃していたもの。
 いや、彼が隠していたのだ。
 自身の天沼矛で、
 攻撃を弾くふりをして。
---無限斬ムゲンザン---
 こめかみ、人差し指第二関節、右腕、左腕、頸動脈、鎖骨下静脈、大動脈、腹部、下腹部、右太もも、左太もも………
 斬撃が俺のあらゆる部位を斬り裂く。
---金剛弾コンゴウダン---
 千代の攻撃が、槍馬へとヒットし、彼がパタリと倒れるのが見えた。
 それから俺は意識を失い、なにも見えなくなった。
 


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