神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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ローランド大戦

お灸を据えてやる

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---時空壊クロック・ブレイク---
「ゴンッ。」
 いつもの心地よい良い衝撃はとともに、世界の流れが変わる。
 だというのに父は毅然として表情を崩すことは無かった。
 彼は俺に勝てるということを確信している。 
 圧倒的自信。
 それに、凛月には悪いのだが、お世辞にも武器スペックが良いとは言えない。
 凛月はとてもいい武器だ。
 契約者35人の武器の中でも、1、2を争う武器。
 だが、彼が今、腰に手を当てているアレは、草薙剣。
 元々俺たち契約者の能力の原点になったモノ。
 単純な力比べなら、奴に分がある。
 ならば!!
 目的は奴の抹殺ではなく、足止め。
 祭壇で伊桜里とミーチャが魔法陣を完成させるまでの時間を稼げればそれで良い。
 なら……
 自滅覚悟で、自分の能力を限界まで引き出すしかないだろう。
---燠見オキミ---
 身体に更なる負荷がかかる。
 父の肋骨のおかげで、多少身体は頑丈になったが、それでも鬼であった頃に比べれば、鼻くそ程度だ。
---慎二!! 大丈夫。いつも通り。私と合わせて---
 凛月が俺を奮い立たせようとしている。
「また親父んところに行かねえか? 」
---もう!! 慎二!!---
「悪い。冗談だ。全部許しているよ、もう。」
「極東で母さんが死んで。お前と契約して、俗を討伐した時から、今日まで。本当に感謝している。」
---礼を言われるにはまだ早いんだからね---
「そうだな。この戦いがおわってからだ。」
 それから千代に振り返った。
「行ってくるよ。」
 そう一言。
 返事は聞いてない。
____地面を蹴った。
 奴が体勢を低くし、俺を鋭く睨んだからだ。
 アレは居合いの構え。
 草薙剣の剣を抜くとともに、俺を一刀両断するつもりだ。
 だが俺も、そうされるつもりは無い。
 奴は俺に情報を与えた。
 奴の戦闘経験からして、それは「お前に手の内を見られても問題ない。」と言われているようなモノだ。
 だが、冷静さを欠いて突っ込んでは行けない。
 それも奴の作戦の内だろう。
 こうやって俺を出し抜いてやろうと考えているのだ。
 いや、自分の中でそうしておこう。
 そうしなければ、俺は平静を保っていられそうに無い。
---天地開闢テンチカイビャク---
 リーチは向こうのほうが数十センチほど長い。
 だがそれにしても剣を抜くのが早すぎる。
 俺と奴との距離は、剣の間合いの数倍はあるというのに。
 俺は心を冷たいものが切り裂くのを感じて、咄嗟に体勢を低くする。
 が、止まることはすなわち死を意味する。
 敏捷力を欠いてはならない。
 常に動き続けなければ俺に勝機は無い。
 膝を伸ばし、奴の懐に潜り込むように滑り込む。
 俺の鼻の先を掠った。
 鼻が低いことが功を奏したか。
 ふと千代の方へと目をやる。
 大丈夫だ。はギリギリ届いていない。
 父の踏み込んでいる右脚に払いをかける。が
「なっ!! 」
 奴の足は妙に軽かった。
 力に身を任されているというか。
 風船をハタいた時のような感覚。
 父は俺の足払いに身を任せ、重心を崩して身体を回転させると、遠心力で飛び上がり、草薙剣で斬り上げてくる。
 瞬間、慎二郎のしたり顔が見えた。
 こんちくしょう。
 咄嗟に凛月を身体の前でクロスし、攻撃を受け流す。
 が、掬い上げられたことによって、足が地から離れ、衝撃をモロに身体へと受けてしまう。
 振動が、小太刀とチャクラムから掌に伝わり、そのまま腕へと、身体全体に電撃が走り、後から鈍い痛みがやって来る。
「ガハッ。」
 身体を庇っている場合では無い。
 体勢を立て直し、着地する準備をしなくては。
 身体に更なる負荷が掛かってしまう。
 脳内に電撃が走る。
 燠見で強化した視力で、背中を透視する。
 間違いない。父だ。
「着地狩りか。」
 体幹をコレでもかと生かし、回転しながら父に斬りかかる。
 奴は、地上にクレーターを残して、俺の着地地点から姿を消した。
 回転するなか、強化した空間把握能力で、必死に彼の位置を探す。
 だが、巡りめく視界の中で、高速で動く彼を見つけるのは至難の技だ。
 だめだ。どこにもいない。
 こんなに必死に眼球を動かして奴を探しているのに、残像すら掴めない。
 俺の後ろだ。
 間違いない。
 俺と一緒に回転しているのだ。
 両手両足を、鍛え上げられた筋肉がギッチリ捕まえる。
「しまった!! 」
 このまま地上に叩きつける気だ。
---金剛弾ダイヤモンド・バースト---
 見覚えのある声とともに、凄まじい銃声が鳴った。
 俺を掴んでいた四肢が離れる。
直後、今度は俺の背中を、眩い光の塊が通り過ぎた。
 もし直撃していれば、俺は致命傷を受けていたであろう。
「ごめん慎二!! 手を出しちゃいけないのは分かっていたんだけど。」
 千代が、銃鬼で未知術を放ったのだ。
 銃口が白い煙をあげている。
「おい、お前っ!! 」
 哲司が思わず声を上げる。
 他の契約者たちも、このイザコザに加わろうとしていた。
「やめろお前ら。俺一人で十分だ。」
 そこに目を細めた極長がやって来る。
「どうした慎二郎。自分の息子だから手加減をしているのか? 」
 慎二郎は剣を地面に突き刺して杖のようにもたれかかる。
 それと同時に、俺も、体勢を楽にした。
(目的は時間稼ぎだ。)
「迷いがあると言われれば、否定できないかもしれません。」
「そんなもの捨てろ。もう私も君も戻れないところまで来ているだろう。ここまでの犠牲を全て無駄にする気か? また失うつもりかね。」
「私は何も恐れていないし、何も躊躇っていません。」
 慎二郎は唇を噛み締めて必死に耐えている。
 極長は顔を真っ赤にして怒った。
「時間は刻一刻と迫ってきている。早く彼らを始末するんだ。」
「ええ。言われなくとも。」
 再び慎二郎は構えた。
「アンタはそれでも英雄かよ。他人を斬り捨てるようなやり方で。いっつもいっつも。」
 やつも自分の中で葛藤しているのだ。
 全てを守ろうとし、村と母さんを失い。
「全て救えるならそうしたい。だが、俺にはそんな力も、器も持ち合わせてはいない。いなかったんだ。」
「だから俺はあの時、ユグドラシルで七宝が斥くんたちを襲っていた時、救える命だけ拾っていこうと心に決めた。だから俺は今ここにいるんだ。」
 こんなのは父では無い。
「アンタは……アンタは……そうやって人間を選別するのか。何様のつもりで!!神にでもなったのか。自分の基準で救う人間と斬り捨てる人間を選ぶなよ。それが英雄かよ。」
「俺は……俺は……英雄じゃない。」


「お前の父親で、十三部隊隊長の桐生慎二郎だ。」


 音波が振動を伝い、俺の元にやって来る。
 俺は千代を捕まえると、飛び上がり、地面の揺れをかわす。
「俺にだって迷っている暇なんてない。こうやって葛藤しているうちにも俺は多くのものを失っている。俺は、持ちすぎているから。」
 千代が銃鬼で慎二郎を撃つ。
 慎二郎は地面から草薙剣を引き抜くと、それを俺たちの方へと弾き返してきた。
 一弾目と二段目は外れ、三段目を凛月で弾く。
「ごめん慎二。」
「いや、攻撃の手を止めるな。慎二郎に思考の時間を与えてはいけない。」
 俺はそのまま電磁浮遊で浮かび上がると、飛んでくる剣の衝撃波を紙一重で避け続ける。
 その間、千代が銃鬼で応戦する。
「ええい。」
 痺れを切らした彼女が、銃鬼を連射した。
「オイ!! 」
 荒野の地面に砂煙が上がった。
 無論。コレも奴の策略だろう。
 コレでは、どこから攻撃が来るか分からない。
 砂煙の中から黒い影が……
---大蛇滅殺斬 トツカハチレンゲキ---
 知っている。
 父の得意としている八つの斬撃を、ほぼ同時に繰り出すという異形の技。
 コレだけの身体強化を施しても、避けることはほぼ不可能。
 千代を無理に押し出せば、彼女はぐちゃぐちゃに
潰れてしまうだろう。
 俺は身体を大にして、彼女を守った。
 
 
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