神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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ローランド大戦

俺は諦めない

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 彼女を抱え込んで、なんとか地上に着地する。
 彼女が俺の身体に金剛覆を付与してくれたおかげでなんとか済んだ。
 おかげでまた時間と命に余裕がある。
 命のゼンマイがゆっくりと回り始める。
 といっても、こんなもの焼石に水だろう。
 死んで再生する時とは比べ物にならない。
「お前なぁ。」
「良いでしょ。あのまま二人とも倒れるよりは。」
 咄嗟の判断だったが、彼女が俺を盾にした訳ではない。
「慎二、相手に勝つためには、先の手のその先を読め。」
「悪いな、俺はアンタみたいに、弓館さんに鍛えてもらったわけでも無いし。」
「それで良かったさ。俺が美鬼も、お前も村も守って。お前は、そんな物騒なモノを持たずに幸せに暮らして。」
「守れてねえじゃねえかよ。」
「コイツは……一本取られたな。」
 奴は笑わない。眉をハの字に曲げて、憂うような目で地面を見ている。
 視界がぐらついた。
 どうやら身体はもう限界らしい。
「千代、まだ動けるか? 」
 背中で魔法陣が展開した。
 伊桜里たちが、祭壇について魔法陣を展開した合図だ。
 あと数分持ち堪えられれば良い。
「大丈夫。身体もいつもより調子いいから。」
 慎二郎は草薙剣の光る鋒をこちらに向けてくる。
 俺と千代は正反対の方向に動き出すと、草薙剣のレーザー砲を避け、疾走しながら父へと距離を詰める。
 燠見と時空壊が切れ、重い現実がのしかかってくる。
 俺はそれを自身の肉体で弾きのけ、前に進む。
 奴は右手に金属の球体を持つと、こちらに向かって投げてくる。
 得体の知れないもの。
 だが爆薬の類であることには違いない。
 千代と協力し、ソレを無力化する。
 もう電磁操作は間に合わないので、着火した爆弾を金剛と電磁シールドで抑え込むと、剣のレーザーが止み、今度は衝撃波を飛ばしてくる。
 千代が衝撃波を跳躍で交わしていることを確認してから、屈んで通り抜ける。
 今度は左上段からの切り落とし。
 今度は彼女が屈み、俺がジャンプで避ける。
 切り上げで衝撃波が地面を這ってきた。
 俺たちは互いに距離を避け、距離を取った。
 彼女と俺は挟み込むように慎二郎へと迫る。
 この方が攻撃が短調になりやすい。
 そのことに彼女も気がついた。
 奴は俺に背を向けると、千代を見た。
 チャンスだ。
 慎二郎は、自分が千代を攻撃すれば、必ず俺がそこに割って入ってくる。
 そう考えているらしい。
 だが、俺はそうしない。
 彼女を信頼しているから。
 走りながら、凛月を強く握りしめた。
---凛月。力を貸せ---
 心の中で彼女に語りかける。
---慎二!! わたしに任せて---
 慎二郎の背中に、大上段斬りを叩き込む。
---堕雷ラクライ---
 飛び上がり、両手の武器が紫色しいろに輝き始める。
 慎二郎が千代を斬るために、草薙剣の剣を大きく振り上げる。
 剣は奴の手から離れると、俺の方へと真っ直ぐ飛んでくる。
 凛月を無理やり引き戻せば、未知術を中断させることも可能だ。
 だが俺にはもうそんな余力は……
 最後の抵抗だとばかりに、肘をひきつけて、草薙剣が急所を捉えるのを防いだ。
 両腕が草薙剣と共に飛んでいくのが見える。
 なんとか両足で着地し、そのまま倒れ込む。
「慎二!! 」
 千代の叫び声が聞こえる。
「二人同時にかかってきようなら、先に処理すべきはお前だ。慎二。俺じゃなくても、どれだってそうする。」
 彼のズボンの袖に必死にしがみついた。
「お前はもう充分良くやった。眠ってろ。」
 父の冷酷な声が聞こえる。
 だが、まだ死ねない。
 俺には、世界を変えるという使命がある。
 この男が捨てたそれを遂行する使命が。
 芋虫のように這いつくばると、目の前の大きな存在に食らいつく。
 父は俺に剣を振り上げた。
 優しい目で。
「もうやめてください!! 」
 美奈だ。
 慎二郎は剣を下ろしたようだ。
 彼女がこちらに走ってくる。
「やめなさい桐生慎二郎隊長。」
 千代が俺に覆い被さる。
 その上に美奈が被さった。
「どいてくれ、美奈ちゃん。いや、皇后様。ソイツを斬れないだろ。」
「斬らせません絶対に。」
 このわずかな間に、体力を少し回復させた俺は、数メートル先の凛月を右手で操作し、慎二郎の背中に投げ込んだ。
 もちろん、彼はそれを指二つで受け止める。
 それと同時に魔法陣が青く光り出したのを見る。
 光柱が上がり、神聖文字が浮かび上がった。
「慎二!! 」
 何者かが俺の手を取って瞬間移動した。
 座標移動?
 そうだ。
 カーミラだ。
「カーミラ兄さん。」
「なぜお前がここに? 戦争は…… 」
 理由は明白だ。碧野が説得した。
 俺には無い能力。彼女こそ、魔法になるべき人間なのではと、考えてからソレを否定する。
 逃げる理由に他人を使ってはならない。
「慎二こそ、なんで僕に言ってくれなかったんだい? 僕だって本当は誰も殺したくなかったのに。」
「今、お前が極東をしている理由と同じだ。前も言っただろ。お前は一国を背負っている王だ。そんな人間を巻き込むことなんて出来ない。」
 碧野が両手をかざして、光柱へと魔力を注ぎ始める。
 それを見たセイと美奈も、光柱へと魔力を注ぎ始める。
 いよいよ始まったのだ。
 俺には彼女に伝えるべきことがあった。
 ずっと言えなかったこと。
 色々。
 伊桜里が俺の方を向いて、頷く。
 俺は覚悟を決めた。
「なぁ千代。俺な、お前に隠していることがあった。」
「なぁに? 」
「俺は、もうお前の元には帰ってこれない。」
「魔法が完成したら……完成しちまったら、誰かが魔法の核をやらなきゃいけない。魔法を展開し続けるために。」
「だからもう…… 」


「知ってたよ。そんなことぐらい。」


 彼女は激情するわけでも無く、啜り泣くわけでも無く、ただ俺に微笑みかけ、静かに涙を流した。
「薄々気がついていた。慎二の言動からも。それに、誰かがやらないといけないんでしょ。」
「ああ、そうだ。みんなの思いを無碍にすることは出来ない。」
「だから、行くよ。」
 俺は精一杯の気持ちで右腕を生やすと、千代を抱き抱えた。
 綺麗なストレートの黒髪。
 撫でてあげたいけど、自分の血でそれを汚すのは嫌だった。
「今までありがとう。メリゴ大陸で俺をドミニクから守ってくれたこと、極東に捕まった後、親父さんに頼んで、色々やってくれていたのも知っている。俺が極東に戻った後、待っててくれたのも、金川から街を守ってくれていたのもお前だ。」
「大好きだ。いつから好きだったかは分からない。でも気がついたら なぁ千代、お前のことが好きになっていた。」
 千代は顔を赤くしながら
「嫌いよあんたのことなんか。大っ嫌いだから。」
 と吐き捨てて、わっと泣き出してしまう。
[慎二クン。時間だ。中に入りたまえ。]
 千代はMの言葉を聞くと、俺を跳ね除ける。
「行ってきなさい。私よりも多くの人が貴方を待っている。」
 その言葉に押されて、俺は光の柱の中に飛び込んだ。

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