平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:1 リべレイター・リベリオン

休日

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 バシッ
 何事だ!!
 何かに殴られた?
 刺客か?
 
 そこまで意識が覚醒したところで、昨日俺は新居で床に就いたことを思い出した。
 となると、今俺のことを殴っているのは、オブザーバー様だろう。
「もうちょっと寝かしてくれ。」
「ギューギュー。」
 手首が元すごい力で締め上げられる。
「アイタタタタ。」
 ベットから飛び上がる。
 鵞利場はというと、俺の腹部を思いっきり蹴り上げ
「アガッ。」
 宙返りすると、そのまま床に着地した。
「やっと起きた。」
「おい、さっきからよ。起こすにしても限度があるだろうが。ちょっとは気を遣えよ。」
「起きないアンタが悪いでしょ。ほら顔洗ってきて。日が暮れちゃうでしょ。」
 んだって俺が。一人で行けばいいだろうと思ったが、俺はそこで考え直した。
 彼女の身長はおよそ百三十センチ、一人で買い物をしていると、何かと不便なんだろうな。
 と考えてから、だったらネット通販で良くね? と考え直してしまう。
 だが、多分彼女にそれを言ったら怒られるので(鵞利場との接し方が分かってきた。)彼女に同行しようと思う。
 どっちにしろ俺に休日の予定なんてない。
 これまでもで休暇が入れば、やることは昼寝だけだし(休日に何かアクションを起こすほど体力が残っていなかった。)、いい機会だろう。
 相手が、この暴力女だということを除けば。
 俺たちはマンションを後にすると、地下鉄が先の一件で使えなくなっているので、国営バスに乗る。
 そして停留所を四つほどで、ショッピングモールの前に着いた。
 俺たちは二人並んでショッピングモールの巨大な入り口をくぐる。
「なぁ鵞利場さんよ。買い物にはいつも誰かに同行してもらっているのか? 」
「仕方ないでしょ。この体じゃ、袋一つもまともに持てないんだから。」
 怒らせてしまった。
「いつもは、宜野座さんか本堂長官がついてきてくれるわ。どっちかが暇な時間に。」
 宜野座はまだ想像がつくが、本堂が鵞利場の買い物を手伝っていることは意外だった。
「宜野座さんはまだしも、長官がか? 」
「『部下の生活水準を守るのが上司の仕事だよキミィ。』だって。宜野座さんには服を見てもらって、本堂長官には食品を見てもらっているわ。」
「長官が食品なぁ。不安しかないんだが。」
「んもぉ。隙あらばプロテインなんだから『鵞利場くんは小さい。もっと筋肉をつけなさい。でなければ、立派な天鵝流の使い手にはなれないよ。』とか失礼しちゃうわ。」
「鵞利場は小さく無いよ。」
「アンタに同情されるとかムカつく!! 」
 鵞利場は多分俺より強い。
 彼女と会ったあの日、無能力者にリンチされた時、確信した。
 洗練された彼女の流派は既に修羅の域に達している。
「でも助かったわ。今日はアンタが来てくれて。服にせよ日用品にせよ、無駄な遠慮が無くて済むから。」
 無論、俺にはファッションセンスが無いし、栄養士の資格もない。
「んじゃ今日は荷物持ちよろしくね。」
「っぱりそうなるのかよ。」
 俺は大麻のことが気になって、聞こうとしたが、やめておいた。
 どうやら彼は、彼女の買い物に付き合うつもりなど微塵もないのであろう。


「やっぱり殺風景よね、店員がいないお店っていうのは。」
 それは俺も同感だった。
 高度なAIの発展にて、ここ百年間、接客業という職業は衰退の一途を辿っている。
 アンドロイドという自立型AIが登場した当時は、街に失業者が溢れ、仕事をアンドロイドに奪われた人たちが、毎日のように、デモを行っていたらしい。
 それも今は、IT業界の目玉、P.APine Apple社の公共事業や、失業者の雇入れによって、徐々に落ち着きを見せたらしいが。
 これも、平等社会がIT大国となった所以だ。
 だがそれでも、人々は人の温かみを求めている。
 国営の鉄道には、相変わらず、生身の人間が乗せられているし、病院だってそう。
 俺たちが入院した市民病院でも、未だに医者と看護士は、アンドロイドで代替されることはなく、日々、人々を看取っている。
 今日こんにちでも、サービス業に勤しむ勤勉な人間は少なからず存在し、彼らは顧客に、人の温かみを提供しているのだ。
 散々、洋服屋を連れ回された後、日用品と食品の買いだめを手伝わされた後、本堂から鵞利場の端末にメッセージが届く。
 彼女はその長ったらしい文面を見るとため息をついた。
「はー、せっかくの休日なのに…… 」
「仕事か? 」
「そうよ。護衛の人手が足りなくなったんですって。」
 護衛というのは、もちろん異世界人のことであろう。
「行くのか? 」
「当たり前でしょ。仕方ないわ。公安で働いているんだから、こういう事はしょっちゅう起きるの。急に人手が足りなくなって、非番の日に仕事が入ること。」
「ブラックだな。」
 まぁそうも言っていられないだろう。彼女の労働水準を守れば守るほど、社会の秩序を乱してしまうのだから。
 それだけ俺たちは、責任の重い仕事をしているのだ。
 本堂だって休日に、こんなメッセージは送りたくなかったはずだ。
「さぁ帰るわよ。明日は現地に直行。出社はしなくていいらしいから。」
「ふぁーい。」
 かくして、俺たちの一日限りの休日は幕を閉じた。
 
 
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