平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
33 / 107
ファイル:2幻略結婚

パブ

しおりを挟む
「なぁ俺の知り合いの情報屋がいるんだが。」
 彼女はハンドルを握りながら、横目で俺を見た。
「辞めておきなさい。彼は大麻に押されられている。それはあなたが一番よく知っていることでしょ? 」
「万が一彼が無事だったとしても、彼は口を割らないわ。何故だか分かるでしょ? 」
 マスターは、彼を畏怖していた。あの強面のマスターがだ。
 彼を責めているわけではない。
 俺だって彼の立場ならそうなる。

 俺は本堂に、この手枷を付けられた時のことを思い出して、身震いした。
「あら、嫌なことでも思いださせちゃったかしら。ごめんなさいね。せっかくのドライブデートなのに。」
「いや、ドライブデートは中止だ。」
「……ハッキングかしら。」
 どうやらハンドルをパクられたようだ。
 細い糸のような物も見当たらない。
 無線での遠隔操作だ。
 まぁこの状況なら、わざわざ隠す必要も無いか。
「おい、手錠を外してくれ。俺が行ってくる。」
「私ねぇ。ペットには首輪をつけておくのがセオリーなの。昔飼い犬に噛まれたことがあってね。」
「俺はアンタのペットじゃない。番犬だ。」
「じゃあ尚更だわ。」
「……試してみるか? 」
 どちらにせよこの状況で俺の手錠を外さざるおえないはずだ。
 彼女が能力を使うのも良い。だが、そうすると俺が車を運転することになる。
「ガチャ…… 」
 今はもう聞き飽きた、その文言と共に、俺の手錠はメカニカルな音を立てて外れた。
 いつもの懐かしい感覚が戻ってくる。
俺は飛び上がり、建物の壁を走ると、屋上でハッキングをしている業務用のロボに襲い掛かる。
 右ストレートでそのうちの一つを殴ると、左に回り込み、俺を囲もうとしていたもう一台を、パンチの余力で反時計回りに捻っている体勢を利用し、右足を軸にすると、左足で回し蹴りを放つ。
 横目で、ロボが大きく後方へと吹っ飛んだのを見た。
 最後のロボが逃げた。
 このまま安田だけでも連れ去るつもりだろう。
 俺はロボットの前に回り込むと、彼の頭上に、脳天チョップを食らわせる。
 どうやら通信機器の破壊に成功したようだ。
 信号を失った彼は、訳が分からずパニック状態になり、サイレンを鳴らしながら、くるくると回っている。
 吹き飛ばしたロボがフェンスで伸びているのを確認した俺は、そのままフェンスを飛び越えて、隣のビルに飛び乗ると、摩天楼の谷へと飛び降り、道路を挟んで反対側の建物の壁に飛び移ると、能力を発動させて、流星のように滑走する。
 そして彼女の車を見つけると、跳躍し、助手席に飛び乗った。
 反動で車体が揺れるが、彼女は微動だにしない。
 すぐにハンドルを持ち直すと、何食わぬ顔顔で走り始めた。
「百点満点よ。人に使われるのは得意かしら? 」
「そりゃぁ曲がりなりにも、賞金稼ぎをやってた身だからな。こういうのには慣れている。」
「扱いやすくて助かるわ。」
「そりゃどうも。ご満足頂けて光栄です。」
 彼女は俺の手錠を閉める素振りを一向に見せない。
「オイ、アンタ。飼い犬には首輪をつけるのが趣味では無かったのか? 」
「番犬に首輪は要らないわ。」
「今のこの状況じゃ。貴方を自由にしとけば、そっちの方が私にとっても良くない? 」
「逃げるかも知れないが。」
「果たして貴方に味方をしてくれる人がいるかしら。」
「……いるさ。一人だけ。」
「彼女も、もう大麻に薬漬けにされているかも知れないわよ。」
 俺は彼女を睨んだ。
 それを見て彼女はクスクス笑う。
「ごめんなさいね。貴方の不安を煽るようなことをしたかった訳じゃないの。」
「ただ、ちょっと。からかって見たくなっただけ。」
「隣にこんな男を乗せている理由が分かったぜ。」
(手錠が閉まる。)
「アガががががごく。アガガガガガガガガガこのアバズレめガガガガガガガ。」
「お喋りな犬は嫌いよ。私のタイプは寡黙な仕事人。」
「ごめんなさい。許して。僕がガガガガガガガガ悪かったですぃただダダダダダダ。」
「聞き分けが良くて助かるわ。」
 二十年生きて、ようやく分かったことがある。
 俺には絶望的に女運が無いということだ。
 車は次の信号を右に抜けると、裏路地に入り、そこで彼女は車を止めた。
「追手が来る様子は無いな。」
 さっきロボの襲撃にあったとはいえ、刺客一人来ないのは、腑に落ちない。
 彼なら洗脳したフリーランスを大勢動員して、俺たちを袋叩きにすると思っていたからだ。
 大麻は俺の思っているより、冷静頓着な人物なのかも知れない。
 寂れた廃屋の商店街街。
 俺たちはゲートを潜ると、人一人見受けることのできない、過去の遺産に足を踏み入れた。
「ホントにこんなところにあるのかよ。」
「ええ、私がいつも利用しているお店。」
「意外と公安っつうのは裏社会と繋がっていたりする? 」
「むしろ貴方の相棒の方が異質よ。これほど使いやすい組織なんぞ存在しないでしょ。取り締まったところで、彼らが完全に無くなることは無い。ならこうやって手元に置いておく方が安全だし合理的でしょ。それに情報というオマケがついてくる。」
「ほら着いたわ。」
「また地下か。」
「目立つと困るでしょ。地上でのうのうとやっているところなんて今どき無いわ。」
「病気にならないか心配だぜ。」
 俺たちは階段を一歩ずつ降りていく。
 
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...