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ファイル:2幻略結婚
情報屋
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「おじさん来たわよ。」
立ち込めるアルコールと、酒樽の檜の匂い。
顔を赤くした一人の男が、シラフに赤い液体を薦めている。
どうやらなんの変哲もないパブらしい。
洗脳……は多分されていないのだと思う。
そうならば、安田がここへ入ってきた途端奇襲に遭っていたはず。
いや、絶対にそのはずなんだ。
ここの店主は細目の黄色人種で、多分、玉鉄と同じ東洋人だと思われる。
彼女は、そのようなことなんて頭の片隅にも置いていなくて、カウンター席に座ると両肘をつき、顎を支えた。
「今日は何を御所望かね。」
「ボトル。前買ったやつ。」
「あいよ。」
「ところでお隣さんは……どうやら能力者みたいだが。」
「私のカレシよ。」
紹介されたので、俺も頭を下げる。
「どうも、安田倫子さんに雇われました。執行者の北条力と申します。」
「そうか、よろしくな。」
店主は気前良く右手を差し出してくる。
俺は能力を切ると、彼の右手に触れた。
ゴツゴツと硬く、ほんのり温かい。
ハンドシェイクを交わした俺は、安田と同じくカウンター席に座った。
「で、今日は何しに来たんだ? 」
店主が安田に話しかける。
「大麻好大について。彼、本堂が異世界に追放されてから、犯罪課の長官も務めることになったのよ。それでちょっとね。目障りだから引き摺り下ろしてやろうと思って。」
初耳だった。
まぁ俺もおおよそそういう動機だということには気がついていたが。
「なーに不服な顔をしているのかしら。もちろんあなたも雇うわよ。私の側近としてね。その手錠も外してあげる。」
その言葉に一瞬心が揺らいだが、彼女にはバレていなかっただろうか。
「いいや、良い。報酬が弾めばな。」
「うーん。私、信用されていないのかしら……それとも。」
「彼女とはそういうプレイがお好み? 」
鵞利場、彼女との繋がりが途絶えてしまうことを恐れているのは事実だ。
だけど断じてそんなことは無い。あんな暴力女……
俺は安田に飛んできたグラスを右肘で受け止めると、そのままソイツの眉間にグラスを投げつける。
「エスケープありがと。」
気がつくと、俺たちは周りの巨漢たちに囲まれていた。
「やっぱりかぁ。」
(爽快なSE。)
「毒を喰らえば皿までっていうでしょ? 」
「その度に俺の負担も増えるってわけか。」
俺は姿勢を低く構えた。
「どうする? 俺は自分より弱い奴を殴るのは趣味じゃ無いぞ。」
(セーフティーが降りる音。)
「じゃあこのまま二人で殺される? 」
(リロード音)
「しゃーねえな。」
ドスを持って突っ込んできたスキンヘッドのエモノを蹴りで弾き飛ばすと、腹に一発食らわせる。
踏み台にして、頭上から刃物を突きつけてきたタトゥー持ちの刃を左手で掴み、握りつぶすと、今度はアッパを食らわせた。
「ちょっと、殺しちゃダメよ。」
注文の多いクライアントさんだ。
「ぅせえな。手加減はしてるよ。」
俺の横を鉛玉が抜けた。
右手を翳して、能力を練り上げる。
周囲に影響を及ぼさない程度に。
誰も怪我をさせないように。
数日前、金ピカ剣と戦って以来、俺は能力を少しずつ自分で制御することが出来る様になっていた。
フルオートを片手で制御し、止める。
二つに分けられた次元の中で、鉛玉は行き場を失い、静止している。
どちらの弾性力も強くすることはできない。
少しでも調整を間違えば、球が奴らの方向に飛んでいってしまいそうだ。
「うぉぉぉぉぉぉ。」
意を結した俺は左腕で鉛玉をはたき落とした。
パラパラと軽い音を立てて鉄砲玉が、鉄臭い紅の液体と共に、地面に落下する。
「ワハハハハハ。」
パブの入り口から狂った一般人が流れ込んでくる。
俺は安田の背中に戻ると、辺りを見回す。
「一般人を使って、私たちに精神攻撃を行うつもりらしいわね。ワルの敵としては100点満点じゃない? 」
「倫理も道徳も0点だよ。」
構え直す。
ぐるりぐるりと回る視界の中で、俺は再び動き出した。
「待って。」
「なんだ、お前もやられるぞ。」
「貴方の能力なら彼らの洗脳を解けるはずよ。」
「!? 」
俺にそんなことが出来るだろうか?
蝠岡は俺の能力は特別だと言っていた。
自分でもこの能力が歪なことには薄々気がついていた。
もし、彼らをまるまる外部から遮断出来ていたら?
でもそれは、安田を危険な目に合わせることになるのでは?
「早くしなさい。今の状況なら、どっちみち私たちは逃げることが出来ないわ。」
退路は一つ。
それも押し寄せる民衆たちによって塞がれている。
大麻は俺たちをこのまま押し潰すつもりなのだろう。
「……良いぜ。臨むところだ。」
目を瞑り、意識を集中させる。
民衆たちの叫び声も、安田が落とした薬莢の音も、徐々に遠のいていく。
自分の能力をイメージし、徐々に広げていく。
物質を押し潰さないように、出力を最小限に抑えて。
俺の作り出した次元を分ける壁は、波紋のように広がっていき、洗脳されている人々全部を飲み込んだ。
立ち込めるアルコールと、酒樽の檜の匂い。
顔を赤くした一人の男が、シラフに赤い液体を薦めている。
どうやらなんの変哲もないパブらしい。
洗脳……は多分されていないのだと思う。
そうならば、安田がここへ入ってきた途端奇襲に遭っていたはず。
いや、絶対にそのはずなんだ。
ここの店主は細目の黄色人種で、多分、玉鉄と同じ東洋人だと思われる。
彼女は、そのようなことなんて頭の片隅にも置いていなくて、カウンター席に座ると両肘をつき、顎を支えた。
「今日は何を御所望かね。」
「ボトル。前買ったやつ。」
「あいよ。」
「ところでお隣さんは……どうやら能力者みたいだが。」
「私のカレシよ。」
紹介されたので、俺も頭を下げる。
「どうも、安田倫子さんに雇われました。執行者の北条力と申します。」
「そうか、よろしくな。」
店主は気前良く右手を差し出してくる。
俺は能力を切ると、彼の右手に触れた。
ゴツゴツと硬く、ほんのり温かい。
ハンドシェイクを交わした俺は、安田と同じくカウンター席に座った。
「で、今日は何しに来たんだ? 」
店主が安田に話しかける。
「大麻好大について。彼、本堂が異世界に追放されてから、犯罪課の長官も務めることになったのよ。それでちょっとね。目障りだから引き摺り下ろしてやろうと思って。」
初耳だった。
まぁ俺もおおよそそういう動機だということには気がついていたが。
「なーに不服な顔をしているのかしら。もちろんあなたも雇うわよ。私の側近としてね。その手錠も外してあげる。」
その言葉に一瞬心が揺らいだが、彼女にはバレていなかっただろうか。
「いいや、良い。報酬が弾めばな。」
「うーん。私、信用されていないのかしら……それとも。」
「彼女とはそういうプレイがお好み? 」
鵞利場、彼女との繋がりが途絶えてしまうことを恐れているのは事実だ。
だけど断じてそんなことは無い。あんな暴力女……
俺は安田に飛んできたグラスを右肘で受け止めると、そのままソイツの眉間にグラスを投げつける。
「エスケープありがと。」
気がつくと、俺たちは周りの巨漢たちに囲まれていた。
「やっぱりかぁ。」
(爽快なSE。)
「毒を喰らえば皿までっていうでしょ? 」
「その度に俺の負担も増えるってわけか。」
俺は姿勢を低く構えた。
「どうする? 俺は自分より弱い奴を殴るのは趣味じゃ無いぞ。」
(セーフティーが降りる音。)
「じゃあこのまま二人で殺される? 」
(リロード音)
「しゃーねえな。」
ドスを持って突っ込んできたスキンヘッドのエモノを蹴りで弾き飛ばすと、腹に一発食らわせる。
踏み台にして、頭上から刃物を突きつけてきたタトゥー持ちの刃を左手で掴み、握りつぶすと、今度はアッパを食らわせた。
「ちょっと、殺しちゃダメよ。」
注文の多いクライアントさんだ。
「ぅせえな。手加減はしてるよ。」
俺の横を鉛玉が抜けた。
右手を翳して、能力を練り上げる。
周囲に影響を及ぼさない程度に。
誰も怪我をさせないように。
数日前、金ピカ剣と戦って以来、俺は能力を少しずつ自分で制御することが出来る様になっていた。
フルオートを片手で制御し、止める。
二つに分けられた次元の中で、鉛玉は行き場を失い、静止している。
どちらの弾性力も強くすることはできない。
少しでも調整を間違えば、球が奴らの方向に飛んでいってしまいそうだ。
「うぉぉぉぉぉぉ。」
意を結した俺は左腕で鉛玉をはたき落とした。
パラパラと軽い音を立てて鉄砲玉が、鉄臭い紅の液体と共に、地面に落下する。
「ワハハハハハ。」
パブの入り口から狂った一般人が流れ込んでくる。
俺は安田の背中に戻ると、辺りを見回す。
「一般人を使って、私たちに精神攻撃を行うつもりらしいわね。ワルの敵としては100点満点じゃない? 」
「倫理も道徳も0点だよ。」
構え直す。
ぐるりぐるりと回る視界の中で、俺は再び動き出した。
「待って。」
「なんだ、お前もやられるぞ。」
「貴方の能力なら彼らの洗脳を解けるはずよ。」
「!? 」
俺にそんなことが出来るだろうか?
蝠岡は俺の能力は特別だと言っていた。
自分でもこの能力が歪なことには薄々気がついていた。
もし、彼らをまるまる外部から遮断出来ていたら?
でもそれは、安田を危険な目に合わせることになるのでは?
「早くしなさい。今の状況なら、どっちみち私たちは逃げることが出来ないわ。」
退路は一つ。
それも押し寄せる民衆たちによって塞がれている。
大麻は俺たちをこのまま押し潰すつもりなのだろう。
「……良いぜ。臨むところだ。」
目を瞑り、意識を集中させる。
民衆たちの叫び声も、安田が落とした薬莢の音も、徐々に遠のいていく。
自分の能力をイメージし、徐々に広げていく。
物質を押し潰さないように、出力を最小限に抑えて。
俺の作り出した次元を分ける壁は、波紋のように広がっていき、洗脳されている人々全部を飲み込んだ。
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