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ファイル:2幻略結婚
一悶着ついた
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「ったくすまねえ。倫子ちゃんと会話する前までは覚えていたんだけど、その先が思い出せねえんだ。」
ここまで来ればもうホラーだろう。
「ホントに、本当にそうか? お天道様に誓えるか? 」
「そのお天道様って奴。懐かしいな。お前さんは、もしかすれば、俺と遠い親戚だったり? 」
間違ってはいない。
俺には東洋人種の血が流れているし、それは彼も同じだろう。
「さぁどうだか。」
「それより、早く、大麻の情報をくれないかしら? 」
店主は落ち着くと、ゆっくりと話し出した。
「一ヶ月ほど前だ。奴がここに来たのは。」
店主はテーブルの下から赤い薬玉を取り出した。
俺がそれに手を出そうとする。
「待ちなさい。触れてはダメよ。」
店主が続ける。
「俺の店も、その経営が厳しくてよ。ついついやっちゃったっていうか。その男も公安の人間だって言うからさ。」
安田がため息をつく。
「呆れたわ。お金欲しさに薬物売買に関わるなんて。」
店主は頭を掻いている。
「公安の人間になんて、逆らえば何されるか分からんだろうよ。俺に断る選択肢なんて無かったぜ。」
「それで、どれぐらいの人間に売りつけたんだ? 」
「ここらの人間、全員がコイツの虜だったぜ。裏社会の娯楽って言えば、酒と賭博ぐらいだったからな。後者は……まぁ忘れてくれ。」
コレで、裏社会の人間が操られていたことには、説明がついた。
前の俺たちに仕事をくれていたマスターの件、ああやって裏社会の人間を脅しては、あちこちでコレを売りつけていたのだろう。
公安の人間を操るには、飲み物にこっそり仕込めば良い。
だが、民衆が襲ってきたことには、説明が付かなかった。
「じゃあ襲ってきた民衆たちは?街中のビルの屋上で能力をばら撒いたとか? 」
「それが出来るなら、いちいちこんな回りくどい事はしないんじゃないかしら? 」
それもそうだ。
屋上から能力をばら撒いて、洗脳が成功するなら、この人たちに自分の能力を詰めたドラックを配る必要もない。
「食品工場とかはどうだ? 」
安田は端末を弄ると……大麻の行動履歴にアクセスした様だ。
「うわぁ。」
彼女のその疑い深さと執念深さに思わず声が漏れてしまう。
「もしかして、俺のデータも取られている? 」
「さぁどうだか? 大麻は以前から怪しい動きがあった。だから私は警戒していたの。」
食品工場は、どの工業地帯からも、スラム街は遠く離れていた。
「さすが食品衛生法、徹底しているな。」
「逆よ。食品工場があるから、インフラがしっかりしているの。裏社会の住民も、廃墟なら国際政府の目を欺けるからここに集まってくるの。」
彼の行動履歴を見ても、食品工場へと辿り着く手掛かりは無かった。
それどころか、工場に出入りする人間すら少ない。
せいぜい、メンテナンスや監視にあたる人たちで、(そこで働く労働力は、先述したように、ほぼロボットなので。)その人物すら、目で数えられるような数だった。
『N/A』
端末が、食品工場の人間と、大麻の関係性を否定している。
この説はどうやら正しくないらしい。
なら、どうやって彼は民衆に毒を盛ったのか……
「とりあえず、彼が裏で麻薬売買をしていたことは、分かったわ。それが重罪と知らずにね。」
「奴を失脚させる材料は揃ったわけだけどよ。どうやってそれを上に提出するんだ? 」
「全部洗脳がかかった周りの人間たちにもみ消されちまうぞ。」
「もちろん、こんなのアレをぶん殴った後、アレをこき下ろすための建前でしか無いわ。」
「じゃあどうするんですか?クライアントさん? 」
「じゃあどうしてキミを雇ったでしょうか?傭兵くん。」
「ああ、力技で乗り込むのか。」
「得意でしょ? ア・ナ・タ。」
「別に能力の種明かしなんて重要なことじゃ無い。」
俺はその問いに待ったをかけた。
「おい、待てよ。んなら大麻は証拠不十分で不起訴になるぞ。洗脳されていた人間たちは、その時のことを覚えていないんだ。ちゃんとやつの手品の種明かしはしておかないと。」
「それも貴方の仕事でしょ? 」
「おい!! ちょっと待てよ。」
俺は彼女の後を追う。
「ありがとう。裁判の時、貴方の店の名前は出さないって約束する。これからもよろしく。」
彼女はそう言って、旧札を店主へ向けてばら撒く。
「毎度アリ。」
階段を登るころ、ようやく彼女に追いついた。
俺が口を開こうとしたその時、
彼女が俺を制した。
「誰かお出迎えみたいね。」
彼女は太ももからサイレントリボルバーを取り出すと、外の電柱へ向けて放った。
鉛玉が風を斬る音と共に、俺のよく知っている男が姿を現す。
「チッ。バレてたのかよ。」
摩天楼の錬金術師、金川練華だ。
「隠蔽するなら殺意は隠しておくべきね。」
俺は、遠慮無しに次元の壁を飛ばして、彼の洗脳を解こうとする。
「ふん? なんの真似だ? 」
彼は洗脳などされていなかった。
「奴は…大麻好大は、お前の仲間、万城千里を捕まえて、モルモットにしようとした男だぞ。」
それを彼は鼻で笑った。
「実際にアイツから千里を奪って、実験動物にしたのはお前の上官の本堂じゃねえのか? 」
彼は解除された自分の手錠を見る。
「お前はどうなんだ、北条、自分を捕まえた男の犬になって、こき使われてよ。」
そう言われると、ぐうの音も出なかった。
「さぁ御宅はもうたくさんだ。俺とお前に、言葉なんぞいらない。」
「必要なのは、この拳だけだろうガァ。」
俺は息を大きく吸い込んだ。
ここまで来ればもうホラーだろう。
「ホントに、本当にそうか? お天道様に誓えるか? 」
「そのお天道様って奴。懐かしいな。お前さんは、もしかすれば、俺と遠い親戚だったり? 」
間違ってはいない。
俺には東洋人種の血が流れているし、それは彼も同じだろう。
「さぁどうだか。」
「それより、早く、大麻の情報をくれないかしら? 」
店主は落ち着くと、ゆっくりと話し出した。
「一ヶ月ほど前だ。奴がここに来たのは。」
店主はテーブルの下から赤い薬玉を取り出した。
俺がそれに手を出そうとする。
「待ちなさい。触れてはダメよ。」
店主が続ける。
「俺の店も、その経営が厳しくてよ。ついついやっちゃったっていうか。その男も公安の人間だって言うからさ。」
安田がため息をつく。
「呆れたわ。お金欲しさに薬物売買に関わるなんて。」
店主は頭を掻いている。
「公安の人間になんて、逆らえば何されるか分からんだろうよ。俺に断る選択肢なんて無かったぜ。」
「それで、どれぐらいの人間に売りつけたんだ? 」
「ここらの人間、全員がコイツの虜だったぜ。裏社会の娯楽って言えば、酒と賭博ぐらいだったからな。後者は……まぁ忘れてくれ。」
コレで、裏社会の人間が操られていたことには、説明がついた。
前の俺たちに仕事をくれていたマスターの件、ああやって裏社会の人間を脅しては、あちこちでコレを売りつけていたのだろう。
公安の人間を操るには、飲み物にこっそり仕込めば良い。
だが、民衆が襲ってきたことには、説明が付かなかった。
「じゃあ襲ってきた民衆たちは?街中のビルの屋上で能力をばら撒いたとか? 」
「それが出来るなら、いちいちこんな回りくどい事はしないんじゃないかしら? 」
それもそうだ。
屋上から能力をばら撒いて、洗脳が成功するなら、この人たちに自分の能力を詰めたドラックを配る必要もない。
「食品工場とかはどうだ? 」
安田は端末を弄ると……大麻の行動履歴にアクセスした様だ。
「うわぁ。」
彼女のその疑い深さと執念深さに思わず声が漏れてしまう。
「もしかして、俺のデータも取られている? 」
「さぁどうだか? 大麻は以前から怪しい動きがあった。だから私は警戒していたの。」
食品工場は、どの工業地帯からも、スラム街は遠く離れていた。
「さすが食品衛生法、徹底しているな。」
「逆よ。食品工場があるから、インフラがしっかりしているの。裏社会の住民も、廃墟なら国際政府の目を欺けるからここに集まってくるの。」
彼の行動履歴を見ても、食品工場へと辿り着く手掛かりは無かった。
それどころか、工場に出入りする人間すら少ない。
せいぜい、メンテナンスや監視にあたる人たちで、(そこで働く労働力は、先述したように、ほぼロボットなので。)その人物すら、目で数えられるような数だった。
『N/A』
端末が、食品工場の人間と、大麻の関係性を否定している。
この説はどうやら正しくないらしい。
なら、どうやって彼は民衆に毒を盛ったのか……
「とりあえず、彼が裏で麻薬売買をしていたことは、分かったわ。それが重罪と知らずにね。」
「奴を失脚させる材料は揃ったわけだけどよ。どうやってそれを上に提出するんだ? 」
「全部洗脳がかかった周りの人間たちにもみ消されちまうぞ。」
「もちろん、こんなのアレをぶん殴った後、アレをこき下ろすための建前でしか無いわ。」
「じゃあどうするんですか?クライアントさん? 」
「じゃあどうしてキミを雇ったでしょうか?傭兵くん。」
「ああ、力技で乗り込むのか。」
「得意でしょ? ア・ナ・タ。」
「別に能力の種明かしなんて重要なことじゃ無い。」
俺はその問いに待ったをかけた。
「おい、待てよ。んなら大麻は証拠不十分で不起訴になるぞ。洗脳されていた人間たちは、その時のことを覚えていないんだ。ちゃんとやつの手品の種明かしはしておかないと。」
「それも貴方の仕事でしょ? 」
「おい!! ちょっと待てよ。」
俺は彼女の後を追う。
「ありがとう。裁判の時、貴方の店の名前は出さないって約束する。これからもよろしく。」
彼女はそう言って、旧札を店主へ向けてばら撒く。
「毎度アリ。」
階段を登るころ、ようやく彼女に追いついた。
俺が口を開こうとしたその時、
彼女が俺を制した。
「誰かお出迎えみたいね。」
彼女は太ももからサイレントリボルバーを取り出すと、外の電柱へ向けて放った。
鉛玉が風を斬る音と共に、俺のよく知っている男が姿を現す。
「チッ。バレてたのかよ。」
摩天楼の錬金術師、金川練華だ。
「隠蔽するなら殺意は隠しておくべきね。」
俺は、遠慮無しに次元の壁を飛ばして、彼の洗脳を解こうとする。
「ふん? なんの真似だ? 」
彼は洗脳などされていなかった。
「奴は…大麻好大は、お前の仲間、万城千里を捕まえて、モルモットにしようとした男だぞ。」
それを彼は鼻で笑った。
「実際にアイツから千里を奪って、実験動物にしたのはお前の上官の本堂じゃねえのか? 」
彼は解除された自分の手錠を見る。
「お前はどうなんだ、北条、自分を捕まえた男の犬になって、こき使われてよ。」
そう言われると、ぐうの音も出なかった。
「さぁ御宅はもうたくさんだ。俺とお前に、言葉なんぞいらない。」
「必要なのは、この拳だけだろうガァ。」
俺は息を大きく吸い込んだ。
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