平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
45 / 107
ファイル:3 優生思想のマッドサイエンティスト

能力者たち

しおりを挟む
 俺たちは、六条で桐生慎二に会った後、昼食をとり、極東の住民たちに聞き込み調査を行っていた。
「もうこんな時間だ。」
 カーミラは手元のアナログ時計を見ながら、そう答えた。
 カーミラの言葉で、腹が空いていることに気づき、腹がグーっとなる。
「北条は食いしん坊さんだね。またご飯食べに行こう。何を食べようか? 」
 腹が減るのは当然だ。この男とは消費カロリーが違いすぎる。
「麺類はもう飽きたかな? この世界にも米が? 」
「うん、勿論だよ。極東は米所だからね。雨が多くて、夏期がある場所じゃ無いと、お米は育たないんだ。」
 普段平等社会で飯を食う時は、そんなことを考えてもいなかった。
 おそらく、俺だけではなく、平等社会人の殆どがそうだろう。
 AIが自動で食糧を生産し、加工、運搬して、ショッピングモールまで運んでいるのだから。
「牛飯が良いかもね。美味しいよ牛飯。」
 また聞いたことのない料理だ。
 俺は心が弾んだ。
 カーミラが紹介してくれる蕎麦屋は絶品だったからだ。
 次はどんな美味に出会えるのかと思い、また腹の虫が鳴る。
 数分歩いた先に暖簾を垂らしたストリートレストランがある。
 カーミラがソレをくぐるので、俺もそれを真似た。
 蕎麦屋と同じだ。
 カウンター席というらしい。
 平等社会にも、接客業がない訳では無いが、このカウンター席というものは、店員と、俺たちとの距離が近く、どこか安心できるものがある。
 おじさん、牛飯二つちょうだい。
「お、カーミラ陛下じゃあないか。どうした?桐生にでも会いにきたのか? 」
 陛下という敬称がどのようなものかは分からないが、彼が常連だということには変わりないのだろう。
「うん、彼が借りた本を返してくれなくてね。グランディルから飛んできたわけだよ。」
「そりゃまたアイツらしいな。」
「へいおまち。」
 俺たちに二つの大きなお椀が差し出される。
 牛飯?
 お椀によそられた米の上に、牛肉が乗っている。
「「いただきます。」」
 箸で一口口に運ぶ。
「美味い。」
 不思議と言葉がこぼれていた。
「アッシは美味いものしか出さねえよ。それが職人の誇りって奴だからな。」
 俺は無言で牛飯を突いていた。
 しまいにはお椀を持ち上げると、米を箸でかきこむ。
「ところでおじさん? 最近、ここらで変わったことはないかな? 例えば、平等社会人が異様に増えたとか? 」
 おじさんは、少し考え込んでいた。
「そうだな。平等社会人が増えた。そりゃそうだよ。観光客は日々増えるばかりだ。」
「その分、文化の違いからの衝突は起こるし、治安は良くなっているとは言えねえ。」
「それだけ? 」
「なぁ陛下よ。こっちの世界に定住するとしたら、まず何が必要だと思う? 」
 カーミラは少し考え込んでから答えた。
「極東通貨? 」
「それもある。平等社会のデジタル通貨に対応している店はそう多くない。俺の店でも検討中だ。だから平等社会人は普通、出島で、通貨のトレードを行うんだよ。」
 おい、カーミラ!! そんなことを聞いていないぞ。
「あはは、そうだったんだ。知らなかった。」
 おじさんは続ける。
「だが、定住には、それよりも必要なものがある。分からないか? 」
「住む場所。」
 俺はこう答えた。
「正解だ。『場所』さえあれば良い。あとは自分で拵えるなり、なんなりすれば良いからな。」
「ここ最近、極東で新しい集合住宅ができたとかそういう話は聞かないなぁ。」
「もしかしたら、辺境の地とか、山奥で生活をしているのかも知れないが。」
「それも現実的ではないな。」
「ほう、坊主、それはなぜだ? 」
 俺は続けた。
「AIに生活の全てを任せた平等社会人が、原始的な生活を営めるはずが無い。」
 彼らは火の起こし方すら知らないのだ。俺だってそう。
 オマケに、山奥で能力やらを使用すれば、極東に感知されて取り締まられる。
 リベリオンがあんな事件を起こしたのだから。
「なるほど。」
 カーミラは頷いた。
「おじさんありがとう。ご馳走様。」
 それから席を立つ。
 俺も後に続いた。
「カーミラ陛下。気をつけろよ。またお前、危ない事件に首を突っ込んでいるんだろう? 」
「ありがとうおじさん。でもこれが、僕の責務だから。」
 俺はカーミラの後を追った。
「もう良いのか? 」
「うん。おそらく極東に密入国者はいないんだ。よく考えてみればそう。わざわざ、お上の目が光っている極東に住む必要なんてないんだよ。」
「あてはあるのか? 」
「うん。グランディルでもセルでも極東でもないとするのなら……メリゴかウボクの国辺りだと思う。それにカタルゴ大陸の線も捨て切れないな。」
「あそこら辺は土地が大きいから、人々を監視するのも難しい。おそらく、そこに、改造を手引きしている人間も…… 」
「どこに行くんだ? 」
「鉄道に乗ろう北条。まずはウボクの国から調査するんだよ。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...