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ファイル:4火星の叛逆者
公務員はブラックだ
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大麻好大との一件、そしてアンドロイドの件と世界転覆を目論んだリングィストとの激戦。
ここ数日はリベリオンの目立った動きが無いので、俺は鵞利場の検査が終わるまでという名目で安田から休暇をもらった。
慎二はいつも通り、呪具残骸の店に戻ったし、カーミラはウボクとの和平に右往左往しているらしい。
今、俺はサマーベットに寝そべり、サングラスをかけて日光浴を楽しんでいる。
しばらく薄暗い場所にしか居なかったからちょうどいい。
人間、太陽を浴びないとおかしくなっちまうからな。
そういう研究データも出ている。
実際のところ、平等社会人の体調不良のそれは七割がそれだと言われているぐらいに。
「ここ一週間はこのまま寝ていたいぜ。」
俺はあの時の感覚を思い出した。
自分の壁を押し広げ、リングィストを俺の世界に引き込んだ感覚。
ちょっとカッコをつけて右腕を伸ばしてみる。
そして目を閉じて集中した。
『世界』が広がっていくのが分かる。
それと同時に、ラウンジの構成物質、木材の種類、塗料、塗装方法、プールの水の硬度、塩素濃度、お姉さんの水着のブランド……血液型……
「バシン!! 」
世界が揺れた。
いや、揺れたのは世界ではなく、俺の頭だ。
俺はアタマにコブが出来ていないかを確認しながら、後ろを振り返った。
「ってえな。」
俺を殴ったのはもちろん鵞利場。
ここに来た理由も大体分かる。
彼女が病室ではなくここにいるということは、つまりそういうことだ。
「お仕事。行きますわよ。」
「なんだ? その口調は? 」
多分、先の件で対峙した、ロバスの真似をしているのだろう。
「やっぱりおかしい? 」
「ああ、いつも通りで頼む。」
「お仕事。がんばろ。」
「もうちょっと寝かせて。」
俺は自分の殻で身体を覆うと、再び深い眠りにつこうとした。
彼女がボコボコ俺を殴っているようだが、その衝撃はこちらには届かない。
どんどん彼女の声が遠のいていくのが分かる。
「ピロピロピロ。」
腕輪に着信が来た。
もちろん俺に出ないという選択肢は無い。
権限で強制的に通信が繋がる。
「やあおはよう。」
長官様の陽気な声だ。
「……おはようございます。」
「どうしたのかしら、体調がすぐれないの? 」
俺は気怠そうに答える。
「はい、ちょっと体調が悪くて、ゴホンゴホン。もしかすれば、先の戦闘が響いているのかもしれません。」
すると長官様は心配そうな声で、言葉を返した。
「それは大変ね。今すぐ市民病院に来れるかしら、医者に隅々まで診てもらわないと。」
「いいえ、今体調が良くなりました。気のせいだったかもしれません。」
「嘘ついたらダメよ。さっきまで、そこら一帯で異様な磁場を観測したんだから。」
恐らく、俺が使った能力のせいだろう。
「能力も異常なしね。いや、前よりもっと良くなっているんじゃ無い? 」
その通りだ。
ここ最近の戦闘で、俺の能力操作力は格段に増している。
ビルの壁を能力で滑ったり、能力を収縮させて、反発力で高速移動したり、能力を押し広げて、世界から切り離したり、
蝠岡と仕事をしていた時には出来なかったことだ。
「ええ、自分でも驚くほどです。」
その理由は心当たりがある。
認識の変化。
俺はずっとこの能力を、攻撃から身を守るための盾だと考えていたが、どうも違ったらしい。
カーミラから聞いたあの言葉。
『次元を分ける能力。』
「よし、じゃあ鵞利場さん。彼を連れて行ってもらえるかしら。」
「え? 」
気がつくと鵞利場が、サマーベットごと俺を吊り上げている。
「やばいやばい。落ちたら流石にひとたまりもねえぞ。」
俺は慌てて能力を解除した。
「落ちても大丈夫でしょ。アナタには、その能力があるんだから。」
ああ、落ちても死なないだろう。
最悪でも肋骨何本かで済む。
だが心理的恐怖というものを人間、克服することは難しい。
たとえ、無傷で地上に着地できる保証があったとしてもだ。
俺は慌ててハシゴを掴むと、ヘリコプターに乗り込んだ。
「さあさあ乗った乗った。」
鵞利場はそれからパイロットに命令した。
「執行者確保できました。ビュンビュン飛ばしてちょうだい。」
「イエスマム。」
「もう身体は大丈夫なのか? 」
彼女は笑顔で俺の方を見る。
「ええ、バッチリよ。」
彼女の様子を見るに、医者が言っていることは、寸分違わないらしい。
「そうか。そりゃ良かった。」
ヘリの進路が、公安の建物から逸れた。
「オイ、公安は向こうだぞ。」
「ううん? どこにいくんでしょうね? 」
彼女は慌てている俺を面白がっているようだ。
ここで慌てれば彼女の思う壺なので、平静を保とうと。
そうだ。ポーカーフェイス。
「何その顔。平静を装っているつもり? 」
「___ほんと北条って分かりやすいよね。」
耳元で囁かれて、「ワッ。」と驚く。
「ちょっと危ないでしょ。」
危うく彼女に頭突きを喰らわせるところだった。
「おま、オマエが耳元で囁くから。」
「北条って可愛いよね。弟見たい。」
弟……その言葉に少し傷ついた。
「今日のオマエ、なんか変だよ。」
「オマエじゃ無いでしょ。小子。」
「はいはい小子さん。」
この、何回やったか分からないやり取りをしているうちに、目の前に巨大な宇宙ステーションが現れた。
「ハイハイ今日の授業は社会見学ですか。」
どうせNASAの職員の中に、叛逆者がいるっていう話だろう。
「え? 何言っているの?火星への宇宙旅行よ。」
「なっ!! 」
半世紀前に人類が大成した科学技術。
その結果、人々はあの平たい地面から飛び出すことに成功したのだ。(地球は丸かった。)
「今からキツイ特訓かぁ。」
そうだ。自由に宇宙を行き来出来るとは言っても、どんな危険が待ち受けているか分からない。
そのため、旅行客と言えども、他の惑星での重力になれるための訓練や、もし惑星の酸素供給がなんらかの関係で止まってしまっても対処できるように、シュリーマン呼吸法を学んだりと、一週間の講習を受けなくてはならない。
「何言っているの? 後三十分後にフライトよ。だから急いでいるっていうのに!! 」
「おい、ちょっとなんだよそれ!! どうなってんだこの職場は!! 酸素供給が止まったら死ねっていうのか? 」
「その時はその時。能力者同士、手を取り合って、なんとか生存しましょう。」
十五分後、俺は鵞利場に奥襟を掴まれて、無理やりロケットに押し込められた。
ここ数日はリベリオンの目立った動きが無いので、俺は鵞利場の検査が終わるまでという名目で安田から休暇をもらった。
慎二はいつも通り、呪具残骸の店に戻ったし、カーミラはウボクとの和平に右往左往しているらしい。
今、俺はサマーベットに寝そべり、サングラスをかけて日光浴を楽しんでいる。
しばらく薄暗い場所にしか居なかったからちょうどいい。
人間、太陽を浴びないとおかしくなっちまうからな。
そういう研究データも出ている。
実際のところ、平等社会人の体調不良のそれは七割がそれだと言われているぐらいに。
「ここ一週間はこのまま寝ていたいぜ。」
俺はあの時の感覚を思い出した。
自分の壁を押し広げ、リングィストを俺の世界に引き込んだ感覚。
ちょっとカッコをつけて右腕を伸ばしてみる。
そして目を閉じて集中した。
『世界』が広がっていくのが分かる。
それと同時に、ラウンジの構成物質、木材の種類、塗料、塗装方法、プールの水の硬度、塩素濃度、お姉さんの水着のブランド……血液型……
「バシン!! 」
世界が揺れた。
いや、揺れたのは世界ではなく、俺の頭だ。
俺はアタマにコブが出来ていないかを確認しながら、後ろを振り返った。
「ってえな。」
俺を殴ったのはもちろん鵞利場。
ここに来た理由も大体分かる。
彼女が病室ではなくここにいるということは、つまりそういうことだ。
「お仕事。行きますわよ。」
「なんだ? その口調は? 」
多分、先の件で対峙した、ロバスの真似をしているのだろう。
「やっぱりおかしい? 」
「ああ、いつも通りで頼む。」
「お仕事。がんばろ。」
「もうちょっと寝かせて。」
俺は自分の殻で身体を覆うと、再び深い眠りにつこうとした。
彼女がボコボコ俺を殴っているようだが、その衝撃はこちらには届かない。
どんどん彼女の声が遠のいていくのが分かる。
「ピロピロピロ。」
腕輪に着信が来た。
もちろん俺に出ないという選択肢は無い。
権限で強制的に通信が繋がる。
「やあおはよう。」
長官様の陽気な声だ。
「……おはようございます。」
「どうしたのかしら、体調がすぐれないの? 」
俺は気怠そうに答える。
「はい、ちょっと体調が悪くて、ゴホンゴホン。もしかすれば、先の戦闘が響いているのかもしれません。」
すると長官様は心配そうな声で、言葉を返した。
「それは大変ね。今すぐ市民病院に来れるかしら、医者に隅々まで診てもらわないと。」
「いいえ、今体調が良くなりました。気のせいだったかもしれません。」
「嘘ついたらダメよ。さっきまで、そこら一帯で異様な磁場を観測したんだから。」
恐らく、俺が使った能力のせいだろう。
「能力も異常なしね。いや、前よりもっと良くなっているんじゃ無い? 」
その通りだ。
ここ最近の戦闘で、俺の能力操作力は格段に増している。
ビルの壁を能力で滑ったり、能力を収縮させて、反発力で高速移動したり、能力を押し広げて、世界から切り離したり、
蝠岡と仕事をしていた時には出来なかったことだ。
「ええ、自分でも驚くほどです。」
その理由は心当たりがある。
認識の変化。
俺はずっとこの能力を、攻撃から身を守るための盾だと考えていたが、どうも違ったらしい。
カーミラから聞いたあの言葉。
『次元を分ける能力。』
「よし、じゃあ鵞利場さん。彼を連れて行ってもらえるかしら。」
「え? 」
気がつくと鵞利場が、サマーベットごと俺を吊り上げている。
「やばいやばい。落ちたら流石にひとたまりもねえぞ。」
俺は慌てて能力を解除した。
「落ちても大丈夫でしょ。アナタには、その能力があるんだから。」
ああ、落ちても死なないだろう。
最悪でも肋骨何本かで済む。
だが心理的恐怖というものを人間、克服することは難しい。
たとえ、無傷で地上に着地できる保証があったとしてもだ。
俺は慌ててハシゴを掴むと、ヘリコプターに乗り込んだ。
「さあさあ乗った乗った。」
鵞利場はそれからパイロットに命令した。
「執行者確保できました。ビュンビュン飛ばしてちょうだい。」
「イエスマム。」
「もう身体は大丈夫なのか? 」
彼女は笑顔で俺の方を見る。
「ええ、バッチリよ。」
彼女の様子を見るに、医者が言っていることは、寸分違わないらしい。
「そうか。そりゃ良かった。」
ヘリの進路が、公安の建物から逸れた。
「オイ、公安は向こうだぞ。」
「ううん? どこにいくんでしょうね? 」
彼女は慌てている俺を面白がっているようだ。
ここで慌てれば彼女の思う壺なので、平静を保とうと。
そうだ。ポーカーフェイス。
「何その顔。平静を装っているつもり? 」
「___ほんと北条って分かりやすいよね。」
耳元で囁かれて、「ワッ。」と驚く。
「ちょっと危ないでしょ。」
危うく彼女に頭突きを喰らわせるところだった。
「おま、オマエが耳元で囁くから。」
「北条って可愛いよね。弟見たい。」
弟……その言葉に少し傷ついた。
「今日のオマエ、なんか変だよ。」
「オマエじゃ無いでしょ。小子。」
「はいはい小子さん。」
この、何回やったか分からないやり取りをしているうちに、目の前に巨大な宇宙ステーションが現れた。
「ハイハイ今日の授業は社会見学ですか。」
どうせNASAの職員の中に、叛逆者がいるっていう話だろう。
「え? 何言っているの?火星への宇宙旅行よ。」
「なっ!! 」
半世紀前に人類が大成した科学技術。
その結果、人々はあの平たい地面から飛び出すことに成功したのだ。(地球は丸かった。)
「今からキツイ特訓かぁ。」
そうだ。自由に宇宙を行き来出来るとは言っても、どんな危険が待ち受けているか分からない。
そのため、旅行客と言えども、他の惑星での重力になれるための訓練や、もし惑星の酸素供給がなんらかの関係で止まってしまっても対処できるように、シュリーマン呼吸法を学んだりと、一週間の講習を受けなくてはならない。
「何言っているの? 後三十分後にフライトよ。だから急いでいるっていうのに!! 」
「おい、ちょっとなんだよそれ!! どうなってんだこの職場は!! 酸素供給が止まったら死ねっていうのか? 」
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