平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:4火星の叛逆者

戦場へ

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 法廷で審理を終えた俺は首筋に正八面体の物体を取り付けられる。
 コレは俺を拘束するためのものではない
 なんにせよ、俺の腕にはもう手錠なんてモノはない。
 必要ないからだ。
「鵞利場、後何分残っている? 」
715分、後11時間55分ってところね。
 鵞利場が監視の目を盗んで、俺に紙の切れ端を渡してくる。

[大丈夫。九条さんも、力も助けるから。今は私に協力して。]
[P.S私たちに盗聴器が仕掛けられているから気をつけて。]

 俺から手錠が取り除かれた理由。
 それは、国際政府が、彼女のことも疑っているからだ。
 もとより、通信機能は、リベリオンたちの破壊工作によって機能していないのだが。
「もうここまででいい。」
 監視たちが立ち止まる。
「すまない。帰ってくれ。もうこれ以上、周りの人間を巻き込みたくない。」
そういうと彼らは、国際政府の主人の元へと帰っていく。
「ピッ。」
 また5分経過したようだ。首の後ろで爆弾が揺れる。
 ここらの街はまだ破壊されていない。
 スキルホルダーや、執行者たちが、リベリオンを食い止めているのだ。
 俺は鵞利場を抱き抱えると足で空間を爆発させて飛び上がる。
「ちょっと!! 急に!! ここの準備が!! 」
 そして、一棟のビルの屋上でスキルホルダーたちが、戦況確認をしているのを見つけ、飛び降りる。
 着地するとともに鵞利場に頭を殴られ、
複雑な顔をしているスキルホルダーたちと目を合わせる。
「あの……その…… 」
 なんと言えばいいかわからず、言葉を詰まらせていると、彼らの一人が下の階への入り口を親指で指差した。
「安田司令が下でお待ちだ。行ってこい。」
「ありがとうございます。」
 俺は後ろめたい気持ちになりながら、入り口へと歩いていく。
「ホラ、何ビクビクしてんのよ。ホラピシッとして。」
 鵞利場に背中を叩かれて、ピシッと背筋を伸ばした。
 ドアのノブを握り、開き、中へと入る。
 薄暗い螺旋階段が下の階へと続いていた。
 社長室らしき場所に、軍服という場違いな格好で座る人間が一人。
 そして、もう一人が、必死にpcのモニターを確認し、戦況を確認している。
「回線が回復したんですか? 」
 鵞利場が宜野座さんの横に割り込む。
 彼女は少し眉間に皺を寄せると、仕事を邪魔してくる猫をあしらうように、押し退けた。
「いいえ、公安の持っている端末で電波を中継して、ネットワークを形成しているだけです。」
 そんな彼女たちのやりとりにため息をついてから、安田倫子が右手人差し指を下に向けた。
 言われなくても分かる。
 ここに座れということだ。
「彼女が息を大きく吸い込んだ。」
 そして
 くるぞ
「いつまで取り乱していらっしゃるのですか司令官。彼を叱る暇があったら業務に集中して下さい。ホラ玉鉄と戦っているスキルホルダーたちが推されている。隣の万城討伐隊からフォローに回さないと!! 」
 彼女の指摘を受けて、彼女は、トランシーバーでスキルホルダーたちに指令を送った。
「このようにアナタを説教している暇など私たちには無いのです。早く前線へ行ってください。金川錬華が中央を斬り進んでいる。このままでは突破されてしまいます。早く。」
 鵞利場が、宜野座さんの手を強く握る。
「宜野座さん!!九条念を見つけないと、北条が!! 」
 俺は立ち上がり、それを遮った。
「いや、まだ時間はある。九条のことは後回しだ。先に金川を叩く。」 
 後ろを振り返り、出口の方へと向かう。
 俺に向かって何かが投げつけられた。
 俺はそれを右手で受ける。
「私の端末持って行きなさい。大丈夫。今の状態でも、データベースへのアクセスと、通信ぐらいはできるから。」
「安田長官。」
「すべて終わったらミッチり叱ってあげるから。」
「ええ、必ず帰ってきますよ。」
 俺は再び階段を登り始めた。
 後ろから鵞利場がガタカタ音を立てながら走ってくる。
「いつも小子には助けられているな。」
「でも、もうこれ以上、小子には迷惑をかけられないよ。」
 彼女は俺のことを助けようとしてくれている。
 しかし、彼女が戦場で殺されたり、万が一俺が爆発した時に、その爆風に飲み込まれるかもしれない。
 なんせ、その爆弾の威力だって計り知れない。
 能力者を殺すためのモノだ。
 クラスターやサーモバリック相当の爆弾が乗せられていてもおかしくない。
 むしろ、その爆発で、リベリオンを何人か巻き込ませようとしていてもおかしくない。
 
 [今までありがとう。これ以上君を巻き込めないから。安田さんたちの手伝いをしてやってくれ。]

 さっきのメッセージへの答えだ。

「パチンッ。」
 俺は彼女に打たれた。
「何勘違いしてるのよ。法廷で庇ったのも、お前を助けようとしているのも、全部私がやりたいからしているだけよ。別に力の為とかそういうのじゃない。私のため。

「あんたは私の大切な部下だから。部下を助けるのも、上司の勤め。それが出来ないなら、私はオブザーバーでもないし、アナタの上司でも無くなる。」
「私は九条さんを探しに行くわ。アナタは金川をぶっ倒して。」
 危険だ!!
「でも__」
「『でも』じゃない。『はい』でしょ。」
 彼女が必死に端末のボタンを押している。
「あれ、そっか。」
 彼女の手錠は、さっき取り上げられた。
 だから彼女は俺を縛り上げることが出来ない。
「分かった。」
 こうしている時の彼女は絶対に引き下がらない。
 俺も、彼女のことが少し分かるようになってきた。
「死ぬなよ。」
「おっも。」
 彼女はため息をついた。
「お互い、自分のために。それでいいでしょ。」
 そうだ。彼女が死んだら俺が困るように、彼女も、俺が死んだら困るのだ。
「そうだな。」
 また背中の爆弾が揺れた。
 俺は確実に死へと近づいている。
「もう時間が無いわ。早く。」
 彼女は俺を屋上へと押し出した後、下の階へと消えていった。
 




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