76 / 107
療養休暇
悪運の強い俺
しおりを挟む
俺が目を覚ますと。
そこは病院だ。
りんごを剥いて自分で食べていた宜野座さんは驚くこともなく、一切れを加えて病室の外に走っていってしまった。
なんだかアレからすごい時間がかかったようであって、うまく声を出せない。
しばらくすると、買い物袋を抱えた本堂と安田さん、そして鵞利場が病室に入ってきた。
「思ってたんと違う。」
それが俺が目を覚ましてから一番最初に発した言葉だった。
「ごめんなさい。お医者さんは命に別状は無いし、ただの睡眠不足だってそうおっしゃるものだから。」
ムカつく女だ。
「あの時とは逆ですね。鵞利場小子オブザーバー。」
彼女は眉間に皺を寄せると、病み上がりの俺の胸ぐらを掴んだ。
「それ、言ったら殺すって言わなかった? 」
そうだ。リングィストの時と逆。
全く正反対では無いか。
俺は、ハッと気がついて、安田さんに質問した。
「俺や本堂さんの処置は? 」
「本来はねアナタたちは裁判にかけられて、正式に処刑されるつもりだったんだけど、大兄弟助が生きているってことを知らせたら、顔を青ざめて、『処遇は君に任せる。』ですって。面白い人ねホント。」
俺は安堵し、立ちあがろうとする。
「イテッ。」
「やっぱりですか。北条さんの腹部の呪いは…… 」
俺は慌てて腹部のゲイボルグに貫かれたであろう場所を見た。
キズはスッカリつながっているはずなのに、赤黒いアザが残っている。
「あのヤブ医者め。」
命に別状は無いと言えばそうだけどさ。
「抜糸はもう済んでいるのに、キズは残っている。おそらくこの槍が原因だと。議会でもそう結果が出たわ。」
安田が、ゲイボルグを取り出し、俺の前に置いた。
「だったらッ。」
「やめなさい。」
鵞利場が俺の右手を押さえる。
それと共にものすごい激痛が走った。
おそらくこの槍が俺にそうしているのだ。
「この槍を破壊すれば、君の呪いは消えて、アザはスッカリ無くなるだろう。」
「しかしだね北条くん。それは大兄弟助も同じ。全快した彼は再びこの世界に攻め込み、そうなれば、今度こそ私たちは負ける。」
「ゲイボルグは折らずに残しておく。議会はそう答えを下した。」
「ならどうするんだよ。」
「ならどうするか。」
* * *
「ここは? 」
俺は自然生い茂る秘境、いや、それを模した3D映像転写室へと連れて来られた。
「じゃあね私は選挙で仕事が山積みだから。」
「センキョ? センキョってなんだよ。」
「バタン。」
俺は急いで出口まで走って行き、扉のドアノブに触ろうとした。
しかし、俺がそこにきた頃にはドアノブは無くなっており、代わりに大樹が俺の前に急に現れて顔をぶつける。
「ったぁ。」
鼻が低くて助かった。
いや、そうじゃねえだろ。
[食事は三食用意するから。じゃあまたね。]
「任務は? 」
[鵞利場ちゃんと本堂さんがいれば治安維持はなんとかなるわ。実際、君がいない時もなんとかなってたわけだし。]
俺は諦めて座り込んだ。
つうかどうすんだよ。
武器と俺をこんなところに閉じ込めてよ。
相手は無機物。
呪いを解いてもらうにしても、対話ができないのならそもそも不可能じゃ無いのか?
俺は赤い槍に触ってみることにした。
「アイタタ。」
腹部にまた激痛が走る。
この武器は意志を持っているのか?
俺はゲイボルグに話しかけてみることにする。
「なぁ。それ、辞めてくれよ。痛いんだよ。てかよ。親に教わらなかったか?『人を無闇に傷つけるな。』って。」
---クスクス。流石にそれは承諾しかねますわね。人を痛めつけること。それが私の存在意義ですから---
その回答に俺は怒りを覚えた。
「良い気になってんじゃねえぞ武器の分際で。今すぐお前をへし折ったやる。俺は魔法使いなんだからな。お前なんて小指でぶっ潰せるぜテテテェぇぇ。」
涙が出るほど痛い。腹部の呪いは、さらに力を増した。
---失礼しました。マスター。私ったら。でも許してくださいね。私たちは本能的に人を傷つけるようにできているんです---
マスター? 俺がいつコイツのご主人様になったと言うのか。
---まぁ、そんな顔をなさって。傷つきますわ。私たち。共に創造主様を傷つけた仲ではありませんか? ---
そうだ。俺はゲイボルグを握り、大兄弟助をめったザシにした。
だけども、俺を主人と認識しているのなら、俺をここまで痛めつける意味もないだろう。
「そうかよ。サディストなんだなお前は。」
また腹が痛む。
確信した。
コイツは鵞利場と同類だ。
---ご主人様ったら酷い---
彼女はスマシた垂れ目を赤く腫れさせると、その場で泣き始めてしまった。
「みんなそう言うんだよ。コラ、泣いたら許されると思うなよ。」
腹部が捻じ切れそうになる。
「アガガガガガガガガガ。ごめんなさい、ギブアップ。分かった。分かったから。」
俺は草原に寝転がった。
どうも上手く行く気がしない。
コイツとは話しが合わないし、そもそも、コイツは俺の呪いを解く気がない。
コイツは俺の弱みを握っているからか?
いや、違う気がする。
話が噛み合っていないのだ。
俺は寝返りを打ち、ゲイボルグと反対の方向へ向いた。
近くに小川が見える。
水流の音を聞きながら、俺は目を閉じた。
そこは病院だ。
りんごを剥いて自分で食べていた宜野座さんは驚くこともなく、一切れを加えて病室の外に走っていってしまった。
なんだかアレからすごい時間がかかったようであって、うまく声を出せない。
しばらくすると、買い物袋を抱えた本堂と安田さん、そして鵞利場が病室に入ってきた。
「思ってたんと違う。」
それが俺が目を覚ましてから一番最初に発した言葉だった。
「ごめんなさい。お医者さんは命に別状は無いし、ただの睡眠不足だってそうおっしゃるものだから。」
ムカつく女だ。
「あの時とは逆ですね。鵞利場小子オブザーバー。」
彼女は眉間に皺を寄せると、病み上がりの俺の胸ぐらを掴んだ。
「それ、言ったら殺すって言わなかった? 」
そうだ。リングィストの時と逆。
全く正反対では無いか。
俺は、ハッと気がついて、安田さんに質問した。
「俺や本堂さんの処置は? 」
「本来はねアナタたちは裁判にかけられて、正式に処刑されるつもりだったんだけど、大兄弟助が生きているってことを知らせたら、顔を青ざめて、『処遇は君に任せる。』ですって。面白い人ねホント。」
俺は安堵し、立ちあがろうとする。
「イテッ。」
「やっぱりですか。北条さんの腹部の呪いは…… 」
俺は慌てて腹部のゲイボルグに貫かれたであろう場所を見た。
キズはスッカリつながっているはずなのに、赤黒いアザが残っている。
「あのヤブ医者め。」
命に別状は無いと言えばそうだけどさ。
「抜糸はもう済んでいるのに、キズは残っている。おそらくこの槍が原因だと。議会でもそう結果が出たわ。」
安田が、ゲイボルグを取り出し、俺の前に置いた。
「だったらッ。」
「やめなさい。」
鵞利場が俺の右手を押さえる。
それと共にものすごい激痛が走った。
おそらくこの槍が俺にそうしているのだ。
「この槍を破壊すれば、君の呪いは消えて、アザはスッカリ無くなるだろう。」
「しかしだね北条くん。それは大兄弟助も同じ。全快した彼は再びこの世界に攻め込み、そうなれば、今度こそ私たちは負ける。」
「ゲイボルグは折らずに残しておく。議会はそう答えを下した。」
「ならどうするんだよ。」
「ならどうするか。」
* * *
「ここは? 」
俺は自然生い茂る秘境、いや、それを模した3D映像転写室へと連れて来られた。
「じゃあね私は選挙で仕事が山積みだから。」
「センキョ? センキョってなんだよ。」
「バタン。」
俺は急いで出口まで走って行き、扉のドアノブに触ろうとした。
しかし、俺がそこにきた頃にはドアノブは無くなっており、代わりに大樹が俺の前に急に現れて顔をぶつける。
「ったぁ。」
鼻が低くて助かった。
いや、そうじゃねえだろ。
[食事は三食用意するから。じゃあまたね。]
「任務は? 」
[鵞利場ちゃんと本堂さんがいれば治安維持はなんとかなるわ。実際、君がいない時もなんとかなってたわけだし。]
俺は諦めて座り込んだ。
つうかどうすんだよ。
武器と俺をこんなところに閉じ込めてよ。
相手は無機物。
呪いを解いてもらうにしても、対話ができないのならそもそも不可能じゃ無いのか?
俺は赤い槍に触ってみることにした。
「アイタタ。」
腹部にまた激痛が走る。
この武器は意志を持っているのか?
俺はゲイボルグに話しかけてみることにする。
「なぁ。それ、辞めてくれよ。痛いんだよ。てかよ。親に教わらなかったか?『人を無闇に傷つけるな。』って。」
---クスクス。流石にそれは承諾しかねますわね。人を痛めつけること。それが私の存在意義ですから---
その回答に俺は怒りを覚えた。
「良い気になってんじゃねえぞ武器の分際で。今すぐお前をへし折ったやる。俺は魔法使いなんだからな。お前なんて小指でぶっ潰せるぜテテテェぇぇ。」
涙が出るほど痛い。腹部の呪いは、さらに力を増した。
---失礼しました。マスター。私ったら。でも許してくださいね。私たちは本能的に人を傷つけるようにできているんです---
マスター? 俺がいつコイツのご主人様になったと言うのか。
---まぁ、そんな顔をなさって。傷つきますわ。私たち。共に創造主様を傷つけた仲ではありませんか? ---
そうだ。俺はゲイボルグを握り、大兄弟助をめったザシにした。
だけども、俺を主人と認識しているのなら、俺をここまで痛めつける意味もないだろう。
「そうかよ。サディストなんだなお前は。」
また腹が痛む。
確信した。
コイツは鵞利場と同類だ。
---ご主人様ったら酷い---
彼女はスマシた垂れ目を赤く腫れさせると、その場で泣き始めてしまった。
「みんなそう言うんだよ。コラ、泣いたら許されると思うなよ。」
腹部が捻じ切れそうになる。
「アガガガガガガガガガ。ごめんなさい、ギブアップ。分かった。分かったから。」
俺は草原に寝転がった。
どうも上手く行く気がしない。
コイツとは話しが合わないし、そもそも、コイツは俺の呪いを解く気がない。
コイツは俺の弱みを握っているからか?
いや、違う気がする。
話が噛み合っていないのだ。
俺は寝返りを打ち、ゲイボルグと反対の方向へ向いた。
近くに小川が見える。
水流の音を聞きながら、俺は目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる