平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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終わりの始まり

蝠岡蝙

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____
_________
_____________________俺は死んだのか?

 気がつくと俺は
 花畑の真ん中に仰向けで倒れていたようだ。

 ここは天国か
 いや、それはおかしいだろう。俺が天国になんて行けるはずがない。
 だから俺はあの大理石の建造物を目指すことにした。
 俺はそこでこの世界の違和感に気づく。
 花の植生に季節感がないことだ。
 大理石の階段を登り、玉座を目指す。
「やっぱり天国に来ちまったのかもな俺は。」
「いや、ここは天国じゃあ無いよ。」
 誰に話しかけたわけでも無い独り言だったはずだが、その黒衣を見にまとう見慣れた男は俺の言葉に答えた。
 男は玉座からサッと降りると、ゆっくり俺の元へと歩いてくる。
「やあ久しぶり。元気だったかな? 」
 俺はため息をついて答えた。
「蝠岡ぁ。今の俺が元気に見えるか? 」
 それより、聞きたいことは山ほどあった。
「俺は死んだのか? 」
 彼は安堵した表情で俺の問いに答えを返す。
「君のそのせっかちなところ。昔と変わらないな。安心したよ。どのような形になっても、君は君で。」
「そうそう、君はまだ生きている。今はね。」
 今は……
 俺はその言葉で全てを悟った。
「死ぬ前の餞別か? お前らしく無いな。」
「そうか。君には私がそう見えていたんだね。ちょっとショックだ。」
「君は私がコレまであってきたビジネスパートナーの中で、一番気が合う人間だと……いや、正直友達だと思っていたんだが。」
 彼があまりにも凹んでいるので、俺は手をふって宥めた。
「オイオイ、そんなに落ち込むことはねえだろう。お前らしくねえぞ。」
「あの時、君は本堂から逃げていれば良かったのに、君は逃げなかった。」
 本当に笑ってしまう。
「まだ気に病んでんのかソレ。良い加減忘れろよ。」
 あの事件で俺は沢山のものを失った。正直後悔している部分もあった。
 だけど、今になったから分かる。
 俺は同時に沢山のものを手に入れていたことを。
「その様子じゃ、公安での生活も案外悪くなかったようだね。」
「ああ、おかげさまでな。」
「ところで、大兄弟助とは何者なんだ? 」
 蝠岡は少し考え込んでから答えた。
「歴史的な概念についてか、それとも彼の人物像か。」
「恐らく君が言っているのは後者だろう。」
 そうだ。大兄弟助を知らない者など居ない。
 彼は過去に大きな反乱を起こした。
 歴史の教科書にはそうとだけ記されている。
 俺が聞きたいのは、彼はなぜ強力な力を持っていて、なぜ反乱を起こしたのかだ。
「彼はこの世界の創造主だ。」
 サラッと答える。
 俺は一瞬意味を理解できずに絶句した。
「それはどういう? 」
「その言葉の意味通りだよ。魔法とは彼の力の一部。私の創造の力も、時間遡行も、君の世界を分ける力も、金川練華の物質を生成する能力も全て大兄弟助が分け与えてくれたものだ。」
「僕は彼に世界を創造する力、天地創造リクリエーションを貰った。」
「僕は頭が良いからね。」
 と付け加えた。
「自分で言うか? それ。」
 彼は目を瞑り真面目な顔になる。
「自覚がないようだが。君だって選ばれたんだよ。創造主に。」
「『自分を目覚めさせる駒として。』だろ? 」
 蝠岡はため息をついた。
「北条力。よく聞くんだ。大切なのは原因でも過程でも結果でもない。」
「己の意志だよ。君がどうしたいか。与えられたその力をどう使うか……だ。」
 科学者からは出ることのないであろう、泥臭く、けれどもまっすぐで
 かっこいい言葉。
「コレから死ぬ俺に言う言葉か? 」
 俺は首を傾げて、ヘッと笑って見せた。
「そうだね。そろそろ時間だ。元の世界に戻るとしよう。私もね。」
 世界が崩れ始める。
「お前の『世界』良い趣味してんじゃねえか。どうりで創造主様に気に入られるもんだな。」


「ありがとう。」


 俺は現実に戻され、『死』を体験して消え去る。
 鵞利場には悪いけど、コレも因果だ。
 こうするしかなかったし、コレ以外に道は無かった。
 俺は最善を尽くしたつもりだ。
 悔いはない。
 だけど
 だけど
 だけど



 「生きたい。」


 本当はもっと。まだまだ二十年ちょっとで人生を終わらせるなんて。
 昔はこんなこと思うことは無かった。
 だけど公安になってからこの気持ちはどんどん大きくなっていった。
 善人悪人、色々な人に出会って。
 そうだ。
 だからこそ俺は能力者と無能力者が分かち合える世界を。

 白光の中で俺の頭上に正八面体が浮かび上がる。
"大切なのは原因でも過程でも結果でもない。"
"己の意志だよ。" 
 目の前のプリズムは、身の回りのエネルギーを全て吸収すると、床に落ち、音もなく砕け散った。
 鵞利場がこちらに走ってくるのが分かる。
 彼女は必死に俺を呼びかけているようだが、声はどんどん遠のいていく。
 多分俺の意識が遠のいていっているからだ。
 そういや最近あんまり寝てなかったな。
 安堵したように眠る。
 スースーの息で。
 


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