新世界~光の中の少年~

Ray

文字の大きさ
7 / 56

第七話

しおりを挟む

「ブス子、一発芸やれよ」
 連日続くこの嫌がらせには心底うんざりであるが、こいつらはよく飽きずにできるものだ。ひっひっひっと気色の悪い引き笑いが耳障りで仕方ない。
「豚のモノマネ、こうやって」
 鼻をガーガーと鳴らして見せる。何がそんなに楽しいのだろう。内容のくだらなさは、本当に高校生かと疑える程だ。
 ガラガラと扉が開き、教師が入室すると、蜘蛛の子のように席へ散って行く。木偶の坊と思われたこの大人でも、束の間の休息を齎す使者としては、それなりに役立つようだ。ただこれが終われば再び敵は襲来する。
 黒板に向かってチョークを進めるその背中に、『何とかしてくれよ、教育のプロなんだろ?』と切実な思いを投げかける。
 すると視界の端でガサゴソと不穏な動きを捉えた。
 瞳を動かすと、女子生徒が何かを受け取る様子を確認できた。紙切れを包み込んだその両手は小刻みに震えている。そこに不登校となった哀れな少女が重なった。
 一体この子がお前らに何をした?
 何故こうも執拗に他者を貶める?
 見た目格好は似通っているのに、同じ人間とは信じ難い。どんな環境で育ったら、弱者を複数人で寄って集っていじめる卑怯者になり得るのだろう。世界観があまりにも違い過ぎる者達とこうして一緒に生活していることを、恐怖に感じた。
 キーンコーンカーンコーンと開戦のゴングが鳴り響く。
 止め処なく続く攻撃に、彼女の身を案じた。周りの者は、ひとり、ふたりと然りげ無しに離れて行く。その中で近づく足音に、身を竦めた。
「おい、何か貰ってなかった?」
「え、何々ラブレター?」
「嘘だろ、マジかよ、ブスなのに?」
 少女は拳をギュッと握り締め、必死に耐えていた。早く進めと願う程、何時間にも、永遠にも感じる時の残酷さ。
「なあ、ちょっと見せてみろよ」
「え、見たい見たい」
「ラブレター、どこ? 出してみ」
 必ずボスを筆頭にして、取巻きが盛んに囃し立てる。動物の域を超えられない人間の有様が、如実に表されているようだった。
「んだよ、どこやった?」
 荒ぶる声で、ガサゴソと探し始める。彼女の私物が、カラカラ、ガシャン、などと音を立て、転がり落ちて行く。
 どうしよう、どうすればいい。
 誰も止める者、いないのか?

「やめてっ!」
と悲痛の声が発せられると、チッと舌打ちし、机上の物を手で勢いよく払い飛ばした。魔物はそのまま退散。少女はすぐさま床にしゃがみ込み、仕舞い始める。
『拾ってやらないのか、瑞樹?』
 まだ辛うじて残されていた慈悲の心が、じわじわと揺さぶってくる。ただ身体が、動かなかった。
「それでは、授業を始めます」
 この凄じい陰気にも、ノルマロボットは反応することなく、粛々と作業を進める。期待をするだけ無駄だ、お前らには興味などこれっぽっちもないんだからな、のスタンスでも決め込んでいるのだろうか。
「教科書の五十六ページを開いてください」
 読む振りをしながら、ちらちらと隣を窺う。深く俯き、垂れ下がった髪の毛がベールの如く、表情を隠していた。全員が敵に見える感覚。きっとこの子もそんな思いでいるのだろう。
 その刹那、瑞樹は息を呑んだ。
 キラッと輝き落ちる雫。
 それは弾丸となり、心を貫いた。
 襲い来る自責の念が胸を締め付ける。父を裏切った罪、これはその報いなのか。このまま悪魔に変わってしまうのかもしれない。自分が一番嫌うあの大人達のように、僕は成り果てるのだろうか。
 それならむしろ、死んだ方が、マシだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...