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二
第七話
しおりを挟む「ブス子、一発芸やれよ」
連日続くこの嫌がらせには心底うんざりであるが、こいつらはよく飽きずにできるものだ。ひっひっひっと気色の悪い引き笑いが耳障りで仕方ない。
「豚のモノマネ、こうやって」
鼻をガーガーと鳴らして見せる。何がそんなに楽しいのだろう。内容のくだらなさは、本当に高校生かと疑える程だ。
ガラガラと扉が開き、教師が入室すると、蜘蛛の子のように席へ散って行く。木偶の坊と思われたこの大人でも、束の間の休息を齎す使者としては、それなりに役立つようだ。ただこれが終われば再び敵は襲来する。
黒板に向かってチョークを進めるその背中に、『何とかしてくれよ、教育のプロなんだろ?』と切実な思いを投げかける。
すると視界の端でガサゴソと不穏な動きを捉えた。
瞳を動かすと、女子生徒が何かを受け取る様子を確認できた。紙切れを包み込んだその両手は小刻みに震えている。そこに不登校となった哀れな少女が重なった。
一体この子がお前らに何をした?
何故こうも執拗に他者を貶める?
見た目格好は似通っているのに、同じ人間とは信じ難い。どんな環境で育ったら、弱者を複数人で寄って集っていじめる卑怯者になり得るのだろう。世界観があまりにも違い過ぎる者達とこうして一緒に生活していることを、恐怖に感じた。
キーンコーンカーンコーンと開戦のゴングが鳴り響く。
止め処なく続く攻撃に、彼女の身を案じた。周りの者は、ひとり、ふたりと然りげ無しに離れて行く。その中で近づく足音に、身を竦めた。
「おい、何か貰ってなかった?」
「え、何々ラブレター?」
「嘘だろ、マジかよ、ブスなのに?」
少女は拳をギュッと握り締め、必死に耐えていた。早く進めと願う程、何時間にも、永遠にも感じる時の残酷さ。
「なあ、ちょっと見せてみろよ」
「え、見たい見たい」
「ラブレター、どこ? 出してみ」
必ずボスを筆頭にして、取巻きが盛んに囃し立てる。動物の域を超えられない人間の有様が、如実に表されているようだった。
「んだよ、どこやった?」
荒ぶる声で、ガサゴソと探し始める。彼女の私物が、カラカラ、ガシャン、などと音を立て、転がり落ちて行く。
どうしよう、どうすればいい。
誰も止める者、いないのか?
「やめてっ!」
と悲痛の声が発せられると、チッと舌打ちし、机上の物を手で勢いよく払い飛ばした。魔物はそのまま退散。少女はすぐさま床にしゃがみ込み、仕舞い始める。
『拾ってやらないのか、瑞樹?』
まだ辛うじて残されていた慈悲の心が、じわじわと揺さぶってくる。ただ身体が、動かなかった。
「それでは、授業を始めます」
この凄じい陰気にも、ノルマロボットは反応することなく、粛々と作業を進める。期待をするだけ無駄だ、お前らには興味などこれっぽっちもないんだからな、のスタンスでも決め込んでいるのだろうか。
「教科書の五十六ページを開いてください」
読む振りをしながら、ちらちらと隣を窺う。深く俯き、垂れ下がった髪の毛がベールの如く、表情を隠していた。全員が敵に見える感覚。きっとこの子もそんな思いでいるのだろう。
その刹那、瑞樹は息を呑んだ。
キラッと輝き落ちる雫。
それは弾丸となり、心を貫いた。
襲い来る自責の念が胸を締め付ける。父を裏切った罪、これはその報いなのか。このまま悪魔に変わってしまうのかもしれない。自分が一番嫌うあの大人達のように、僕は成り果てるのだろうか。
それならむしろ、死んだ方が、マシだ。
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