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二
第十話
しおりを挟むミーンミンミンと真夏の蝉は鼓膜に酷である。
そんなことに構わず熱中できるのは、それほど真剣に取り組んでいるからか、それとも無から来るものか。少年はひとり黙々と宿題を進めていた。
半ばにもなれば、殆どの物を終えており、自由課題は絵の提出を決めた。忌まわしい記憶により、絵画はプライベートの範囲に留めて置いたのだが、もうどうでもいい。
この世の中は悪しき者が勝つ仕組みのようなので、それを受け入れた。純情になるだけ労力の無駄。被害者はお気の毒で、運に見放されたと諦めるしかない。剛腕な人間が弱者を食い物にし力を付け、支配する。その有様は、サバンナのそれと何も変わらない。
ただ、別に食われて結構との心構えがあれば、気は楽だ。殺されるその日まで、無関心無感情でいることが、最善の生き方ではなかろうか。
作品は、お得意の全面黒塗りで芸術と言って押し通すことも考えたが、手が勝手に何かを付け足そうと筆を運んでいた。反抗的と睨まれたら厄介と無意識に判断したのか、白金色の閃光をそこに入れ始める。
この光は、あの娘には届かなかったのだろうか。
また自分だけが助かった、と妙な罪悪感が襲う。きっとこの作業は罪滅ぼしなのかもしれない。自然に身体が動くのも、遣り切れないから、ストレスをここに吐き出しているのだろう。
ロボットのように無機質になろうとしても、所詮は生身の人間。心には確とダメージが刻まれているのだ。
ドンドンドンと遠くから太鼓の音が聞こえてくる。
幸福人達の気分高まる夏祭りが催されているようだ。何やら音頭がひたすらに繰り返され、仕舞いには花火で華やかに締め括られる。
それを熟知するのは無論、毎年参加していたから。
開きかかろうとする思い出ボックスを塞ぐように、瑞樹はビシャンと勢いよく窓を閉めた。
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