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二
第十一話
しおりを挟む重苦しい日々の到来の早さに辟易し、去りの遅さにまた辟易する。
高校一年生の二学期が開始したばかりだと言うのに、もう何十年も通うかの錯覚に陥る。ランドセルを背負った子供達と共に歩む朝の風景に、これはデジャヴか悪い夢かと今にもノイローゼになりそうだ。
ミッションは依然として、さっさと卒業する、であるが、負の無限ループに迷い込み、永遠に終わらないのではないかと恐怖である。それでも手と足を休まず動かしてはノルマをこなし、寝てはまたそれを繰り返すことに集中する。
何万回も見覚えのある校門を通り抜け、土臭い下駄箱から上履きを取り出し、階段を上がって行く。教室に着けば緩くため息をしてドアを開き、席に座るとほぼ同時にチャイムが鳴る。
しばらくするとガラガラと音がして目に入って来る光景は、ただ今回は、違っていた。
一瞬で息の根が止まった。
頭が真っ白になりながらもただ視線はその後を追っていた。隣に、着席するまで。
想定外の出来事に認識が追い付かないが、教師に名前を呼ばれると、か細い声で「はい」と答えたので、どうやらこれは幻ではないようである。
あの子が、帰って来た。
カッカッカッと黒板にチョークを当てる音。その間も瑞樹はずっと傍らを意識していた。
「何だ、生きてたの?」
我に返ったのは、こいつの激励の一言。そう、ここは悪者が支配する世界であった。己のせいでクラスメートを不登校に追いやったことなど何とも思っていないのか、とさえ考えることすら野暮なのだ。
「え、本物? 幽霊じゃないよね」
「自殺した女子高生の霊? 怖いんだけど」
耳を疑う言葉の数々に気がおかしくなりそうだが、これが普通、これが現実と頬を叩く。
「お前、触ってみろよ」
「嫌だよ、ブスがうつるだろ」
気色の悪い笑い声が辺りに漂う。周りの者は焦点を泳がせ、意識を何処かへ飛ばしていた。鬼に睨まれないように、私はここにいません、と気配を消している。
よく頑張って来たね、余程辛かっただろうに。
という祝福の念までギタギタに踏み躙られ、酷く憔悴した。少女は微動だにせず耐えている。
夏の間にどんな心境の変化があったのか、何か得策でも浮かんだか、それとも死ぬつもりで受け止める覚悟でもできたのだろうか。
ここにいる誰よりも戦っている。
今を必死に生きている。
幼気な少女の強さと勇気に感銘を受けていた。
助けてあげたい、力になりたい、と鼓動が身体を揺らす。だが瑞樹が出来たことは、それまでと変わらず、共に生きる、こと。これ以上仕打ちが酷くならないよう切に祈りながら。
浮いては沈む、起きては転ぶ、という人生を何度も繰り返すうちに挫折に慣れ、どうせ駄目だろうと己に期待できなくなっていた。こんなどうしようもない奴が革命など起こせる筈はない。事態を変えられるなどと思うことさえおこがましいのだ。
もし彼女が音を上げギブアップしたのなら、仕方がない。そうなる時は、いずれにせよそうなる。だから自分は自分ができることを精一杯すればいい。その後何が起ころうと、心理的にも最小限のダメージで済むように。
そんな保身が最善策のように感じた。『教育』で育まれた卑しさが染みつき、いつの間にか行動に移せるようになり果てていた。
瑞樹は帰宅まで寄り添い、美術部で燃焼するというやり方を貫く。
正しく生きるなんて無理だ、そんな綺麗事この世界では通用しない、無理なんだよっ!
やり場のない憤りをぶつけられたキャンバスが、ゆらゆらと揺れていた。
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