越果(えっか)

ちょちょいのよったろー/羽絶 与鎮果

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【越果(えっか)】

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プロローグ 塗りつぶされた地球


 あなたの故郷はどこですか?
 関東?
 北海道?
 九州?
 沖縄?
 近畿?
 東北?
 四国?
 中国?
 信越?
 北陸?
 どこでも無い?
 じゃあ――
 ユーラシア大陸?
 アフリカ大陸?
 北アメリカ大陸?
 南アメリカ大陸?
 オーストラリア大陸?
 まさか南極大陸?
 え……?
 そこでも無い?
 じゃあ、どこですか?
 ひょっとして地球じゃないのですか?
 地球であっている?
 ならばどこですか?
 どこかの島ですか?
 わからない?
 ――少年の記憶は書き換わってしまっていた。
 そう。
 地球は無くなった。
 地球だったものは別の何かに書き換わってしまったのだ。
 (01)【地】、
 (02)【水】、
 (03)【火】、
 (04)【風】、
 (05)【雷】、
 (06)【木】、
 (07)【金】、
 (08)【光】、
 (09)【闇】、
 (10)【幻】、
 (11)【無】、
 (12)【虚】、
 ――12の【越果(えっか)】と呼ばれる地球のなれの果てに作り変わってしまった。
 作り替えたのは【KAMUI】とされる謎の存在。
 その正体はわからない。
 その、【KAMUI】は12名の少年達にそれぞれ12本のキーを渡している。
 それは、
 (01)【地のキー】、
 (02)【水のキー】、
 (03)【火のキー】、
 (04)【風のキー】、
 (05)【雷のキー】、
 (06)【木のキー】、
 (07)【金のキー】、
 (08)【光のキー】、
 (09)【闇のキー】、
 (10)【幻のキー】、
 (11)【無のキー】、
 (12)【虚のキー】、
 とそれぞれ名称がついている。
 そう。
 それぞれの【越果】に対応しているキーだ。
 【KAMUI】は、少年達に、
「もしもの時に、使いなさい。
 それに適した旅の友が目覚めるから」
 と告げている。
 【旅の友】?
 意味がわからない。
 だが、少年達は12の【越果】にそれぞれ割り振られ飛ばされた。
 目的は、1つ。
 【白紙の事典】を埋める事。
 それだけだ。
 ただ、それだけを言われてそれぞれの【越果】に放り込まれたのだった。


第一章 木の【越果】に来た少年


「うわっ……」
 少年はまたびっくりした。
 おっかなびっくりで進んでいる。
 少年の名前は【咲満】と書いて【さくま】だ。
 名字は忘れた。
 【さくま】は【KAMUI】によって【木の越果】に割り振られた少年だった。
 12名の少年の中でもとびっきり臆病な少年だ。
 何で自分が12人の中に選ばれたのかわからないが、とにかく彼はたった1人で【木の越果】に放り出された。
 手荷物は12本のキーだけだ。
 後は何もない。
 それで、【事典】を埋めろと言われてもどうしようも無かった。
 そもそも、その【事典】が無い。
 どこにあるのかもわからない。
 そんな状況ではとにかく最優先事項は【延命】だ。
 まず、生きて行かねばならない。
 食べなくては死んでしまう。
 目的を持って行動するのはその後だ。
 食べ物を物色するが、この【越果】は【さくま】が知っている【地球】とは異なる生態系だった。
 【木の越果】と呼ばれるだけあってあちこちに植物はあるのだが、【地球】で記憶している様な草花は無い。
 【桜】も、
 【コスモス】も、
 【ナデシコ】も、
 【紅葉】も、
 【針葉樹】も、
 【藤】も、
 【杉】も、
 【松】も、
 【竹】も、
 【梅】も、
 【白樺】も、
 【薔薇】も、
 【菊】も、
 【百合】も、
 【蘭】も、
 【パンジー】も、
 【ダリア】も、
 【チューリップ】も、
 【ヒナギク】も、
 【たんぽぽ】も、
 【ひまわり】も、
 【朝顔】も、
 【ナズナ】も、
 【オジギソウ】も、
 【芹】も、
 【はこべら】も、
 【すずな】も、
 ~……何もかもが無いのだ。
 変わりにあるのは見たこともない――
 【植物】、
 【植物】、
 【植物】、
 【植物】、
 また【植物】だった。
 リンゴや梨、ブドウの様に実になっている植物もあるが、それが何の果物もしくは野菜なのかがわからないのだった。
 正にわからない事だらけの植物の大森林だった。
 心細くとぼとぼと歩いていると、植物みたいなモンスター?に襲われて命からがら逃げてきた。
 【さくま】は、
「死ぬ……。
 もう、死ぬ……」
 と早くも泣き言を言っていた。
 お腹も空きすぎて、お腹と背中がくっつきそうだった。
 とにかく何でも良いから食べてみようと思って近くにあった木の実を食べて見ると、
「うぇ……
 ぺっ、ぺっ。
 ま、まじゅい……」
 と言った。
 まるで、【臭豆腐(しゅうどうふ)】に【ドリアン】と【リンバーガーチーズ】をミックスして【シュールストレミング】をトッピングした様な味と言えば比較的近い味の表現だろうか?
 とにかく【地球】の世界一臭いと呼ばれる様な食材を混ぜたような味がしたのだ。
 これはとても食べられたものではなかった。
 命の危険さえ感じる味だった。
 この最初の失敗により、【さくま】は下手に実に手を出せなくなってしまったのだった。
 どうしようもない。
 食べるものにも事欠く始末。
 このまま行けば死んでしまう。
 そう思った時、ふと【KAMUI】の言葉を思い出す。
 【もしもの時に、使いなさい……】
 ひょっとして、今がその時じゃないのか?
 【さくま】はそう思ってキーを使う事にしたのだった。
 だが、使い方がわからない。
 何をどうすれば良いのだろうか?


第二章 【木】の【お庭番】


 だが、命の危険を感じたというのもあってか?、心の奥底から何やら声がする事に気づいた。
(こっちです。
 御館様(おやかたさま)……)
 という声が響く。
 【さくま】は、
「こっち?
 え……?
 どっち?」
 と言うと、
(こっちです。
 こっち、こっち。
 こっちです)
 と更に声が響く。
 【さくま】は、
「え?、
 え?、
 え?。
 こっちなの?」
 と聞くと、
(そうです。
 こっち、こっち)
 と更に声がする。
 その声に導かれるままに、【さくま】は1つの大木の前に来た。
 その大木は【盆栽】で言うところの、【真柏(シンパク)】と呼ばれる半分生きて半分死んでいる植物に相当する様な大樹だった。
 彼が着くと、木の幹が光っていた。
 木の種類こそ違うが、まるで竹取物語のかぐや姫を思わせる様な光景だ。
 声に導かれる様に芸術性の高い枝を右に曲げたり左に曲げたりを繰り返す。
 すると――
 キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……ン
 という音がして、複雑に入り組んだ枝が移動していく。
 そして、その奥には棺の様なものがあった。
 鍵穴があったので、それに【木のキー】を差し込み回してみる。
 すると、木棺?を思わせるその物体は、【ガコン】という音を立てて、開いた。
 そして、その中にはこういうシチュエーションではおなじみの【美少女】が寝息も立てずに眠っていた。
 【さくま】がそっと見ると、【パチッ】と目を開いた。
 そして、ゆっくりと木棺から起き上がると、
「おはようございます御館様。
 私はあなた様のお庭番。
 どうぞ私を好きにお呼びください。
 そして、お仕えさせていただくことをご許可ください」
 と言って三つ指をついてお辞儀した。
 【さくま】は、
「き、君の名は?」
 と言うと、少女は、
「私の名前ですか?
 私の名前はあなた様に付けていただくまでございません」
 と言った。
 それで、彼は自分が名前を付けるんだなと理解した。
 ――と言われてもどんな名前をつけたら良いのかわからない。
 だが、名前が無いと不便だ。
 自分の名前が【さくま】だから、近い名前では【さくら】とか【さくや】かなんかかな?
 と思ったが、それだとありきたりな気もするし――とあれこれ悩んでいた。
 結果として【桜】だから【チェリーツリー】。
 【チェリー】から【ちえり】という名前にした。
 【さくま】は、
「今日から君は【ちえり】だ。
 これで良いかい?」
 と尋ねた。
 【ちえり】と名付けられた少女は、
「はい。
 【ちえり】ですね。
 良い名前だと思います。
 私は気に入りました。
 ありがとうございます。
 ありがたく拝命いたします」
 と答えた。
 【さくま】は、
「ところでさ、
 君は何者なんだい?」
 と聞いた。
 もっともな質問だ。
 【お庭番】だという説明を受けたがそれだけではよくわからない。
 【お庭番】とは、【地球】で言うところの江戸時代の八代将軍・徳川吉宗が設けた幕府の役職の事で将軍からの命を受けて秘密裡に諜報活動を行った隠密を指す。
 という事は忍者の親戚みたいなものであるとも言える。
 彼女がその【お庭番】という事なのだろうか?
 だが、違う様な気がする。
 もっと別の何か?
 そんな気がした。
 気になる事だらけだが、まずは――
「お腹減っちゃった。
 どこかに食べるものないかな?」
 と言った。
 すると【ちえり】は、
「かしこまりました御館様。
 ではこれを」
 と言って用意したのは先ほど死ぬほど不味いと思った実。
 思わず、
「うぇぇ……」
 と言ってしまった。
 すぐに、
「はっ……
 ご、ごめん……」
 と言って謝罪する。
 【ちえり】は良かれと思って用意してくれたのに失礼な態度を取ってしまったと後悔したのだ。
 だが、【ちえり】は、
「御館様のそのご反応。
 恐らく生で食されたものかと。
 これはこうやって食べるものです」
 と言って、その実が実っていた木の所へ行き、木の幹にゴシゴシとこすりはじめた。
 すると、真っ赤だったその実は黄色く変色した。
 【ちえり】は、
「さぁ、御館様、冷めない内に。
 冷めると味が戻ってしまいますので」
 と言った。
 【さくま】は、
「え?
 これ、食べるの?」
 と言って嫌がった。
 だが、どうしてもとの申し出にイヤイヤ口にする。
 不味かったらすぐに吐き出そうと思って。
 だが――
「!!!!
 ??……なんだこれ?
 さっきと全然違う。
 ジューシーっていうか、なんて言うか。
 それに凄く旨い」
 と言って、そのまま全部食べてしまった。
 食べ終わった【さくま】は、
「どういう事?
 さっきと全然、味が違う。
 同じ実だった気がしたのに……」
 と聞いた。
 すると【ちえり】は、
「この世界では食し方に作法があるのです。
 作法を間違えると毒にもなる。
 それが、この世界の食材です」
「し、知らなかった。
 それじゃ知らずに食べていたら……」
「恐らくはそのまま……」
「ひぃ~……」
「御館様。
 これから私があなた様がこれから行う事を説明いたします。
 どうか聞き漏らさずに頭に入れてください」
「う、うん……」
「あなた様のこの世界での目的は【辞書】にこの世の理、全てを記す事です」
「ぜ、全部って無理だよ」
「いいえ、お言葉ですが、決して無理ではございません。
 そのため、あなた様にはこの【木の越果】用に1000年の時の余裕が与えられているはずです」
「1000年の時?」
「はい。
 12の越果には難易度に応じて、長い時間が割り当てられています」
「って事は一番難しいの、ここ?」
「いいえ。
 最も難易度が低い【越果】の1つです」
「低いって、他のは高いの、難易度?」
「はい。
 12の越果の内、レベル1が3つ。
 【木の越果】、
 【雷の越果】、
 【金の越果】、
 レベル2が4つ。
 【地の越果】、
 【水の越果】、
 【火の越果】、
 【風の越果】、
 レベル3が3つ。
 【光の越果】、
 【闇の越果】、
 【幻の越果】、
 レベル4が1つ。
 【無の越果】、
 レベル5――レベルMAXが1つ。
 【虚の越果】となっております。
 レベル1には1000年、
 レベル2には2000年、
 レベル3には3000年、
 レベル4には5000年、
 レベル5には10000年の時の猶予がございます」
「い、10000年って」
「それだけ達成が難しいという事でございます」
「選ばれた12名の御館様はそのレベルに応じて、適材適所の越果に割り振られたはずです」
「僕は落ちこぼれってことか」
「いいえ、大器晩成型だと判断されたのです。
 じっくり経験を積み、成長する事を期待されているのです」
「そうなのかな?
 何だか疑わしいな」
「天地神明に誓ってウソはもうしません」
「わかったよ。
 信じるよ。
 ……一応」
「ありがとうございます」
「それで、【辞書】を埋めるってどうするの?
 そもそも、僕は【辞書】なんて持っていないよ?」
「はい。
 それを見つけるのが冒険の第一歩です。
 僭越ながら、私が存じている事はそれを体験した時に説明いたします。
 ですが、私が知っている事は現時点で、この【木の越果】の1パーセント以下でしょう。
 知らない事はあなた様が名前を付けて、【辞書】に記してください。
 辞書は埋まる度に、表紙の【花飾り】が、
 (01)【蕾】、
 (02)【開花】、
 (03)【1分咲き】、
 (04)【2分咲き】、
 (05)【3分咲き】、
 (06)【4分咲き】、
 (07)【5分咲き】、
 (08)【6分咲き】、
 (09)【7分咲き】、
 (10)【8分咲き】、
 (11)【9分咲き】、
 (12)【満開】、
 ――と増えて行きます。
 【満開】になった時、あなた様のここでの任務は終わります。
 次なる【越果】へと御旅立ちください」
「御旅立ちくださいって、君は着いて来てくれないの?」
「はい。
 残念ながら、私は【木の越果】担当です。
 なので、他の【越果】には行けません。
 そこでお別れとなります」
「そんな……」
「そのような悲しい顔をなさらないでくださいまし。
 1000年もあるのです。
 楽しく行きませんか?」
「う、うん。
 せ、1000年もあるんだもんね。
 すぐに別れるって訳じゃないし……」
「そうです。
 ふつつか者ですが、それまでよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそよろしく」
「はい」
 ――と話し合ったのだった。
 1000年でこの【木の越果】の全てを知らねばならないという衝撃の事実。
 この【木の越果】よりも上のレベルの【越果】が存在するという更なる事実。
 そして、その後待っている別れ。
 それら全てのインパクトが強すぎた。
 頭が混乱して整理がつかない。
 そんな状態だった。
 追加で説明されたのは、【ちえり】は、【木の越果】に無数に居る【お庭番】の1人に過ぎず、【ちえり】が使い物にならなくなったら、【木のキー】が再び使える様になるので、声がする方向に進めば、【ちえり】が眠っていた場所と同じ様な所に別の【お庭番】が起動を待っているとの事だった。
 そんな消耗品の様には考えられなかった。
 いまの【さくま】にとって、【ちえり】は頼るべき全てだ。
 他には考えられない。
 そんな寂しい事を言われても素直に受け取れなかったが、それはずっと先の話だと思っている。
 今は考えるのをよそうと思うのだった。


第三章 気が遠くなるほどの目標


 【ちえり】と行動して早くも1月が経とうとしていた。
 それまでには色々あった。
 【木の実】の食べ方を色々と教わった。
 【モンスター】と遭遇し、戦う事もあった。
 【力】をつけるには【木の実】を食べる事が重要だと教わった。
 【木の幹】にはモンスターが隠れる【空洞】があるものもあると教わった。
 【食べられる木の枝】がある事をしらされた。
 【武器】になる葉っぱを教わった。
 【火】の起こし方を教わった。
 【水分】の補給の仕方を教わった。
 【植物の罠】を実体験した。
 【モンスター】が【木の実】を食べて進化する所を目撃した。
 【傷】に利く【葉っぱ】を教わった。
 【植物に擬態】をするモンスターに遭遇した。
 【しゃべる植物】を目撃した。
 【植物】を食べる【植物】に遭遇した。
 【ホウセンカ】の様に【種】を飛ばす【植物】に襲われた。
 【自分そっくり】な虚像を作り出す【植物】を見た。
 【レーザー光線】を発射する【植物】を見た。
 【幻】を作り出す【植物】を見た。
 【植物】から【モンスター】が生まれる所を見た。
 【木の実】が爆発した。
 【音楽】を奏でる【植物】を見た。
 【溶ける植物】を見た。
 【熱を持つ植物】を見た。
 ~……他にも色々だ。
 本当に色々あった。
 それらは【ちえり】がほとんど情報を知っていて名前などを教えてくれた。
 この辺りの【植物】については彼女がある程度、把握しているようだった。
 色んな危険な目にも遭ってきたが、それらを共に突破する事で、彼女ともだんだん親しくなっていった。
 今では――【ちえりさん】と呼べる間柄にはなっていた。
 【さくま】は、
「ねぇねぇ、【ちえりさん】、
 これはなんて言う植物なの?」
 と聞いた。
 数えてはいないが通算300回を超える同じ質問だ。
 【ちえり】は、
「はい、御館様。
 これは、【プロスキー】という植物です。
 ご覧の様に刻むとお香の様な匂いが出る植物で、リラックス効果と精神疾患に効くとされています。
 似たような植物で【アマキライ】という植物がありますが、これは、少々毒性がありますのでご注意ください。
 【プロスキー】と【アマキライ】の違いですが、この葉の筋が多少黄色いのが【プロスキー】、赤いのが【アマキライ】となっています」
 と答えた。
 【さくま】は、
「なるほどねぇ……
 【プロスキー】と【アマキライ】ね……」
 とつぶやく。
 【ちえり】は、
「もう少しです。
 もう少しで、【事典】がある神殿にたどり着きますので」
 と言った。
「いよいよかぁ。
 神殿って大きいの?」
「いいえ。
 【雲孫(うんそん)の事典】ですので……」
「【雲孫】?
 何それ?」
「ご存じありませんか?」
「うん。
 知らない」
「親と子はご存じですよね?」
「バカにしてるの?
 それくらいは知ってるよ」
「いえ、滅相もありません。
 バカになどしておりません。
 ただ、子供の子は【孫】、
 【孫】の【子】は【曾孫(ひまご/そうそん)】とやっていきますとそれより5世代後が【雲孫】になります」
「ご、5世代?
 ちなみにその間はどうなっているの?」
「はい。
 【曾孫】の【子】は【玄孫(ひいひいまご/げんそん)】、
 【玄孫】の【子】は【来孫(らいそん)】、
 【来孫】の【子】は【昆孫(こんそん)】、
 【昆孫】の【子】は【じょう孫】、
 【じょう孫】の【子】が【雲孫】となっております。
 御館様は【親】の【事典】を埋める事でこの【木の越果】を制覇した事になります」
「えぇ~。
 そんなにあるの?
 どうやったら上の位の【事典】にたどり着くの?」
「はい。
 【雲孫事典】を10冊埋めますと次の【じょう孫事典】の場所がわかります。
 【じょう孫事典】を100冊埋めますと次の【昆孫事典】が、
 【昆孫事典】を1000冊埋めますと次の【来孫事典】が、
 【来孫事典】を10000冊埋めますと次の【玄孫事典】が、
 【玄孫事典】を100000冊埋めますと次の【曾孫事典】が、
 【曾孫事典】を1000000冊埋めますと次の【孫事典】が、
 【孫事典】を10000000冊埋めますと次の【子事典】が、
 【子事典】を100000000冊埋めますと最後の【親事典】が出現するヒントを貰えるという事になっております」
「うぇぇ……
 何それぇ~?
 全然じゃないか」
「はい。
 まだ、1月ですから」
「じゃあさ、この1ヶ月で得た知識っていうのを埋めたら、【雲孫事典】のどのくらいまで埋まるの?」
「そうですね……
 前に、【事典】の埋まり具合について話した事を覚えていらっしゃいますか?」
「埋まり具合って?」
「12段階になっており、
 下から――
 (01)【蕾】、
 (02)【開花】、
 (03)【1分咲き】、
 (04)【2分咲き】、
 (05)【3分咲き】、
 (06)【4分咲き】、
 (07)【5分咲き】、
 (08)【6分咲き】、
 (09)【7分咲き】、
 (10)【8分咲き】、
 (11)【9分咲き】、
 (12)【満開】になる表紙の【花飾り】の事でございます」
「あぁ、あれか。
 あれだとどれくらいまで埋まった?
 【9分咲き】くらいまで埋まっていると嬉しいんだけど、いいとこ、【5分咲き】くらいかな?と思っているんだけど」
「ご期待に添えなくて申し訳ございません。
 恐らく【蕾】のままでは無いかと」
「つ、【蕾】って一番下じゃないか。
 何でそうなるの?」
「それだけ【木の越果】の要素は多いという事です。
 期待を持たせて後でがっかりされても何ですのであらかじめ申し上げて起きますと、【木の越果】の【構成要素】は現在進行形で【増えて】おります。
 いつまでも【構成要素】の数が同じであるという事はありません」
「え?
 増えるものなの?
 そんなの完全制覇なんて無理じゃないか」
「そこを何とかするために必要なものをこれから集めて行くのです。
 ただ、体験した事を書き記すだけでは1000年経っても終わりません。
 まずは、【増え続ける構成要素】の数を上回る【情報収集】を目指しましょう。
 こうやって、何か体験する度に私が御館様にご説明している様なスピードでは増えるスピードには勝てません。
 他に何かをしなくてはならない。
 それをご理解ください。
 ここまで申して何ですが、どうか絶望なされませんように」
「う、うん。
 このままじゃ駄目だって事だよね」
「はい。
 左様でございます」
「わ、わかった」
「先ほども申し上げた様にまだ、1月です。
 これから慣れていきましょう」
「う、うん……」
 という会話になった。
 聞いてみるとその目標というのが途方もなく長い道のりというのがわかったのだった。
 少しばかりやる気が削がれたが【さくま】と【ちえり】は、【雲孫の事典】がある神殿へとたどり着いた。
 そこは、神殿と呼ぶには簡素過ぎる場所だった。
 4本の柱が建ててあり、その中央に台座があり、そこに淡い光を放つ【本】があった。
 【本】というよりはそれは【事典】を指すのだろうが、ページを開いてみると予想通り白紙だった。
 何ページあるのかわからないが、恐らくは1000ページはあるだろうというのが見た目でわかった。
 表紙を見てみると【薔薇】に似た【蕾】のイラストが描かれていた。
 【さくま】は、
「これどうするの?」
 と【ちえり】に聞いた。
「はい。
 では、御館様。
 それを手にとってください」
「手に――ね。
 はい……うわぁ……」
 ピカァッ
「びっくりしたぁ。
 何これ?」
「はい。
 御館様が所有者として認められた証です。
 一番小さな【事典】なので、この程度ですが、大きな【事典】を手にするに従って派手な演出になるはずですよ」
「へぇ……
 派手にねぇ」
「はい。
 神殿の方もだんだん豪奢になって行くはずです」
「なるほど、なるほど。
 それでこれからどうすれば良いの?
 ペンは無いの?
 ペンが無いと書けないんだけど」
「ペンは必要ございません。
 御館様の額にその【事典】を充てて、私がお教えした事を思い出してください。
 そうすれば自動的に【事典】に書かれるはずです」
「へぇ……
 便利だね。
 それじゃあ、こうやって……
 うーん……」
 と言って【さくま】は【ちえり】に今まで教わった知識を思い出して行ったのだった。
 そして――
「これでどうだ?
 どれどれ……」
 と言ってページをめくって行く。
 見ると、本当に【事典】に書かれている。
「何々……
 【バイバイ鱗】――
 モンスターの名前。
 【バイバイバイバイ】言っていることからついた名前――なんじゃこりゃ?」
「その【事典】は御館様が思った通りの言葉で記されます。
 御館様の【バイバイ鱗】に対する印象はその様になっているという事です。
 それでは【事典】としてはいまいちなものになりますので、【改訂】された方がよろしいかと」
「ど、どういう事?」
「簡単に申せば、書き換えるという事です。
 この【事典】は御館様が思い描いた通りに記されますので、御館様が思わなかったものは記されません。
 現に、【バイバイ鱗】の隣に【バイバイ雲母(うんも)】が記されておりません。
 これは私の説明を御館様がお忘れになっていて、先ほどの行為で思い出されなかったため記されていないのです。
 また、新しい情報が入れば、【事典】に記された文字はずれていきます。
 それらは御館様の脳内で行っていただく事になります」
「な、なるほど……
 大体、やり方はわかったかな?
 へー……なるほどねぇ~。
 そうなんだ?」
「はい。
 では僭越ながら、私が今まで説明しましたものを復唱いたしますので、御館様はそのまま額に【事典】を充ててください。
 自動的に書き込まれますので」
「了解。
 よろしく」
「はい。
 では可能な限り出会った順番で復唱させていただきます。
 よろしいでしょうか?」
「よろしく頼みます」
 こうして、【ちえり】は自分の出来る範囲で、これまであった事を出来るだけわかりやすく説明をしていったのだった。
 それこそ、幼稚園児にもわかる様に丁寧にだった。
 なぜならば、【事典】は誰が見てもわかる様に書かなければ意味がない。
 先ほどの【さくま】の頭の中のイメージでは【辞書】として成立しない。
 そうならないためには、丁寧過ぎる様な説明の方が良いのだ。
 この説明の仕方に【さくま】が習って、これ以降の経験したものを記して行けば良いのだ。
 【さくま】の現時点での【想像力】では起きた現象、出来事に対してかみ砕いて理解するというレベルには達していない。
 そこで、【ちえり】がわかりやすく解説し、それをそのまま、【さくま】が頭でイメージした方が良くまとまるのだ。
 現時点での【さくま】のレベルはそれだけ低いという事だ。
 先が思いやられる状況だが、誰だって最初はこんなものである。
 後々慣れて行けば良いのだ。
 道のりは果てしなく長い。
 【さくま】は自分なりにどうやって昇華していくのか?
 今後に期待という感じだった。


第四章 知的生命体との出会い


 【さくま】と【ちえり】は冒険を続けた。
 たくさんの出来事、
 たくさんのモンスターとの遭遇、
 たくさんの食料、
 たくさんの危機、
 たくさんの会話、
 たくさんの成長、
 たくさんの知識の吸収を続けた二人だったが、まだ、体験して居ない事があった。
 それは――
 【知的生命体】との遭遇である。
 【さくま】は【木の越果】に放り出されてからまだ、【ちえり】以外の【知的生命体】と出会って居ない。
 モンスターなどにはたくさん遭遇したが、会話出来るほど【知的レベル】の発達した存在は居なかった。
 喰うか喰われるか?
 そんな感じの知能しか持ち合わせていないものばかりだった。
 【ちえり】が言うには彼女以外の【お庭番】も眠っているはずである。
 だが、少なくともまだ【ちえり】以外の【お庭番】の眠っている場所にはたどり着いていない。
 恐らくは通りすがっているのかも知れないが、【ちえり】が彼女の言うところの【廃棄処分】になるまではその場所は指定されないのかも知れない。
 【ちえり】を殺害すれば――あるいは……
 だが、そんな事は冗談じゃない。
 【さくま】にとっては【ちえり】はこの【越果】で頼るべき全てだ。
 彼が望めば彼女は喜んで命を差し出すかも知れないが、そんな事は口が裂けても言えない事。
 絶対に選択出来ない事だった。
 しかし、ほぼイエスマンである【ちえり】だけとの会話を続けていると少々飽きてくるという面もあった。
 ちょっとくらい反抗してもらった方が、何か会話をしているという気分になるかな~くらいに考えていた。
 そんな時――
(ちょいと、旦那……
 水を分けてはもらえないかね?)
 という声が響いた。
 【さくま】は、
「は?
 誰?
 今、なんか言った?」
 と言った。
 【ちえり】は、
「いえ。
 私は何も。
 どうかされたのですか?」
 と聞き返した。
「あ、あぁ。
 何か声が響いたっていうか……
 不気味な声だったから、ちょっとね……」
「不気味……ですか……」
 と話していると、
「不気味とはひどいですねぇ。
 旦那。
 あっしはこっちですぜ」
 と声がした。
 声がした方を見ると、顔がぐずぐずに溶けた様な不気味な容姿の男が立っていた。
 【さくま】は、
「うっ……」
 と思わず呻いた。
 気持ち悪い印象だったのだ。
 不気味な男は、
「ひどいなぁ、傷ついたなぁ。
 あっしが何をしたって言うんです?
 ただ、水を分けてもらいたいと申しただけじゃないですか?
 見かけで人を判断するんですか?
 そんなに度量の低い方なんですか?」
 と抗議した。
「ごめん。
 ちょっとびっくりして。
 僕は【さくま】。
 こっちは僕のお庭番の【ちえり】さんだ」
「そうですか。
 あっしは、【おぼろ】ってんでさぁ。
 よろしくお願いいたしやす」
「それで水なんだけど、今は少ししか持ってなくて……
 この【みずがめそう】の分の水分しか無いけど、これで良いかい?」
「あっしは水が飲めればそれでかまいやせん」
「じゃあどうぞ」
「じゃあ、遠慮無く。
 ごくっごくっごくっ……
 ぷはぁ~生き返ったぁ~」
 と言う【おぼろ】。
 何となくだが、少し、顔がすっきりした印象になったが気のせいだろうか?
 【おぼろ】は、
「ありがとうございやす。
 お礼と言っちゃ何ですが、あっしは情報屋をやってまして。
 何か聞きたい情報をお答えしやすよ。
 奮発して3つってのはどうです?」
「3つかぁ……
 何でも答えてくれるの?」
「あっしが知っていて答えられる事に限ってですが」
「そうだよね。
 だってさ。
 どうする【ちえり】さん?
 何を聞いた方が良いかな?」
「御館様。
 お言葉ですが、あなた様がお決めになった方がよろしいかと。
 私はあくまでもサポート役。
 この旅の主役は御館様ですので」
「そぉお?
 それじゃあ、どうしようかな……
 じゃあ、まず、1つ。
 この【木の越果】の他の知的生命体ってどうなっているのか聞きたいな。
 これは答えられる?」
「はい。
 わかる範囲でしたら。
 この【木の越果】には知的生命体は、少なくとも数万種族存在すると言われてやす。
 ですが、あっしが知っているのは【木初界(きしょかい)】の基本種族20種だけです」
「【木初界】?」
「それは二つ目の質問と受け取ってよろしいですか?」
「あ……うん……」
「【木の越果】はこの辺り一帯を指す、【木初界】の他に
 【木本界(きほんかい)】と
 【木終界(きしゅうかい)】という3つの世界があるとされてやす。
 【木初界】についてはさらに
 【初春小界(しょしゅんしょうかい)】、
 【中春小界(ちゅうしゅんしょうかい)】、
 【末春小界(まっしゅんしょうかい)】、
 【初夏小界(しょかしょうかい)】、
 【中夏小界(ちゅうかしょうかい)】、
 【末夏小界(まっかしょうかい)】、
 【初秋小界(しょしゅうしょうかい)】、
 【中秋小界(ちゅうしゅうしょうかい)】、
 【末秋小界(まっしゅうしょうかい)】、
 【初冬小界(しょとうしょうかい)】、
 【中冬小界(ちゅうとうしょうかい)】、
 【末冬小界(まっとうしょうかい)】、
 ――の12【小界(しょうかい)】にわかれやす。
 【初春小界(しょしゅんしょうかい)】、
 【中春小界(ちゅうしゅんしょうかい)】、
 【末春小界(まっしゅんしょうかい)】の3小界は【三春小界(さんしゅんしょうかい)】とも呼ばれ、
 【初夏小界(しょかしょうかい)】、
 【中夏小界(ちゅうかしょうかい)】、
 【末夏小界(まっかしょうかい)】の3小界は【三夏小界(さんかしょうかい)】とも呼ばれ、
 【初秋小界(しょしゅうしょうかい)】、
 【中秋小界(ちゅうしゅうしょうかい)】、
 【末秋小界(まっしゅうしょうかい)】の3小界は【三秋小界(さんしゅうしょうかい)】とも呼ばれ、
 【初冬小界(しょとうしょうかい)】、
 【中冬小界(ちゅうとうしょうかい)】、
 【末冬小界(まっとうしょうかい)】の3小界は【三冬小界(さんとうしょうかい)】とも呼ばれてやす。
 ちなみにこの場所は【初春小界】に区分されている場所でやす」
「そうなんだ?」
「それで、1つ目の質問の答えにもどりやすが、
 【木初界(きしょかい)】の基本種族20種は
 【三春小界】で5種族、
 【三夏小界】で5種族、
 【三秋小界】で5種族、
 【三冬小界】で5種族存在するとされてやす。
 【三春小界】では人族が5種族で、
 【樹人族(じゅじんぞく)】、
 【亜人族(あじんぞく)】、
 【春人族(しゅんじんぞく)】、
 【華人族(かじんぞく)】、
 【草人族(そうじんぞく)】が居るとされてやす。
 もちろん、例外もあって、あっしはこの5種族のどれにも属さない【泥人族(でいじんぞく)】になりやす。
 ちなみに【三夏小界】は人族1、神族2、魔族2で、
 【夏人族(かじんぞく)】、
 【亜神族(あじんぞく)】、
 【異神族(いじんぞく)】、
 【降魔族(こうまぞく)】、
 【夢魔族(むまぞく)】、
 【三秋小界】は人族1、多種族2、神族1、魔族1で、
 【秋人族(しゅうじんぞく)】、
 【幻影族(げんえいぞく)】、
 【芸民族(げいみんぞく)】、
 【真神族(しんじんぞく)】、
 【深魔族(しんまぞく)】、
 【三冬小界】は人族1、神族1、魔族1、仙族1、不明族1で、
 【冬人族(とうじんぞく)】、
 【戦神族(せんじんぞく)】、
 【妖魔族(ようまぞく)】、
 【妙仙族(みょうせんぞく)】、
 【神妙族(しんみょうぞく)】、
 ――となっておりやす」
「あなたの【泥人族】がどこにもないみたいだけど?」
「あっしの一族は異端でして。
 どこにも属さないはぐれ者でやす。
 先ほどの説明にあった20種族が人レベルの知性を持った、【初春小界】の先住民であり、他の種族が居たとしたらそれは余所から流れてきた者という事になりやす。
 以上の説明で1つ目と2つ目の説明になりやすが、あと1つはどうしやす?」
「あと1つかぁ……
 どうしようかなぁ……」
「思い浮かばなかったんならあっしはこれで。
 また、何かありやしたら、あっしをお呼びください。
 その時に残る1つの質問に答えやすから。
 では……」
 と言って姿を消した。
 まるで泥の様に崩れて消えたのだった。
 呆然となる【さくま】。
 呼ぶって言ってもどうやって呼ぶのか聞いていない。
 だが、立ち去ってしまった後でそれを聞けなかった。
 あわてん坊な男だったと諦めるしか無かった。
 だが、【おぼろ】という【知的生命体】に会えたのは収穫だった。
 少なくとも話が通じる相手がいる。
 それはいざと言う時、助けになるかも知れないという安心感を与えてくれるものだった。


第五章 戦力強化


 これまで戦闘面ではほとんど【ちえり】におんぶにだっこ状態だった【さくま】だったが、いつまでも【ちえり】が守ってくれるという保証はない。
 【さくま】自身の戦闘力も上げたい所だ。
 それを【ちえり】に相談すると、彼女は、
「そうですね。
 確かに私だけでは守りきれない事もあるかと思います。
 様々な木の実を食されて基本的な身体能力は向上していらっしゃいますが、正直、この先のエリアに行った場合、それだけでは不十分であるとも言えます。
 ですが、私の役目はあなた様の護衛でもあります。
 出来れば危険は避けていただきたいというのが本音です。
 それにあなた様が【能力】を得るにはまだ、基礎体力が足りないかと思います。
 基礎体力は一気に上がるというものではなく、上昇下降を繰り返しながら、少しずつ増えていくものです。
 そのため、あなた様自身の強化というのは私はまだ反対です」
 と言った。
「じゃあ、どうすれば良いんだ?
 このままじゃ弱いままだよ」
「はい。
 ですから、間接的に強くなっていただこうかと」
「間接的?」
「はい。
 あなた様自身の強化ではなく、強い存在を使役するという形での強化を会得していただこうかと」
「なるほど。
 つまり、僕自身ではなく、何か強いやつを使える様にするって事か?」
「左様です。
 ここは、【木の越果】です。
 すなわち、様々な植物が存在します。
 食材に適した植物、
 意思を持ち攻撃をしてくる植物、
 基礎体力強化が出来る植物、
 一時的に特殊効果を発動する植物、
 毒を持つ植物、
 条件により変化する植物、
 使用条件により役割が異なる植物、
 ――など色々です。
 そんな植物の中でも【特殊植物】に分類される植物の1つで、【スメルシードプラント】という植物があります」
「【スメルシードプラント】?
 何か臭そうだね、それ」
「はい。
 かなり匂います。
 ですが、それが重要なのです」
「臭いのが?」
「はい。
 御館様。
 今までモンスターと何度も戦いましたね」
「うん。
 ほとんど君がだけどね」
「そのモンスターを仲間に出来る植物。
 それが【スメルシードプラント】です」
「え?
 どうやって?」
「正確には加工する必要がありますが、簡単に表現すれば、モンスターの鼻に【スメルシードプラント】をこすりつけて、あなた様も同じ【スメルシードプラント】を身体に付ければ、モンスターはあなた様を家族だと認識します。
 つまり、家族イコール味方という事です」
「なるほど、インプリンティングみたいなもんか」
「インプリンティングとは何でございましょうか?」
「簡単に言えば、鳥とかが最初に見た動くものを親だと認識するとかいうあれだよ」
「そのような事が……」
「あれ?
 知らない」
「はい。
 残念ながら。
 申し訳ありません。
 勉強不足でした」
「いや……
 多分、地球の時の知識だから……」
「【木の越果】の知識ではないという事ですか?」
「まぁ、そうなるのかな?」
 と話し合った。
 今まで教えてもらうばかりだったが、どうやら、【ちえり】は【地球】の常識、知識は知らないらしい。
 【KAMUI】が言うにはここは【地球】が塗り変わった場所なのだが、どうやら本当に【地球】の常識は通用しないらしい。
 改めて、違った理で成立している【世界】なんだなと思い知ったのだった。
 【ちえり】のレクチャーもあり、【さくま】達は【スメルシードプラント】を探す事にした。
 モンスターを味方にしたくても肝心の【スメルシードプラント】を持っていなかったら意味がない。
 まずは、【スメルシードプラント】のゲット。
 それが第一目標だった。
 それから、【スメルシードプラント】がありそうな場所を重点的に探す行動をとっていたが、敵モンスターの出現は度々あった。
 【スメルシードプラント】さえあれば味方にする事も可能だとは思っていても所持していない現在の状況では敵以外の何者でもない。
 倒すか逃げるかしなくてはならないのだ。
 その間は情けない事に【ちえり】に助けてもらって危険を回避していた。
 そんなこんなでようやく【スメルシードプラント】を見つける事が出来た。
 その印象は【エンドウ豆】を巨大にした様なものだった。
 皮があり、その皮を剥くと中に豆の様なものが八粒入っている。
 八粒と言ってもそれ1つの大きさはスイカくらいの大きさがある。
 【さくま】は、
「これが【スメルシードプラント】かぁ。
 【エンドウ豆】を紫にして大きくした様な感じだなぁ。
 うっ……
 確かにちょっと匂うな。
 これを持って行けば良いの?」
 と聞いた。
「はい。
 ですが、シード1つだけ持っていきます。
 この8つのシードは全て匂いが異なります。
 御館様に付ける匂いを複数にしてもかまいませんが、その場合、異なる匂いを付けたモンスター同士は【家族】ではありませんので、仲間にしたモンスター同士が喧嘩を始めてしまう場合も考えられますので、最初は1つにしておいた方が無難です。
 他の7つのシードですが、この7つは【家族】ではありませんが、遠い【親戚】くらいの関係性は持てるシードとなります。
 他の皮の中のシードでは完全に【他者】となってしまいますので、この7つのシードも貴重品となりますので、持って行きます。
 加工するシードを使い切ってしまった場合、他の7つのシードを同じように加工してモンスターを味方にする材料とします」
「なるほど。
 でもこんなにでかいの持って行くのは大変じゃないの?」
「はい。
 ですから、残った7つのシードが入った【皮】はこの【リトリン】の液を垂らしてみると人差し指程度の大きさになります。
 大きくする時は【ビッグン】の液を垂らせば元の大きさに戻ります。
 【皮】は大体3年くらいもつとされています。
 その間にモンスターの【家族】と【親戚】を作ってしまわないと枯れてしまいますのでご注意ください。
 この【スメルシードプラント】と別の【スメルシードプラント】を使う時は、それまでのモンスターの家族との別れを意味しますので慎重にご決断ください。
 では、続けて、シードの加工の仕方ですが、出来るだけ細かく砕いて練ってください。
 粘りが出るくらいシードが変化したら、【カコー】の実をすりつぶしたものを混ぜて一日天日で干します。
 それで乾ききったら、この円筒器に入れます。
 シードの分量はモンスターの身体の大きさに比例して、多く必要とします。
 つまり、大型のモンスターを仲間にしたかったらそれだけ多くのシードを使うという事になります。
 その辺りを良く考えて使用してください」
「わかった」
「次に、【樹織(じゅおり)】を作りましょう」
「【樹織】?」
「はい。
 木の皮を加工して羽織るものを作るのです。
 多少防御力が上がるかと」
「なるほど。
 わかった。
 そうしよう」
 などと話し合い、次々と【さくま】強化のための準備が進められた。
 次はモンスターを仲間に引き入れる作業だ。
 実は【モンスター】とひとくくりで説明しているが、【初春小界】では9種類に大別される。
 (01)【動物種(どうぶつしゅ)】、
 (02)【植物種(しょくぶつしゅ)】、
 (03)【鉱物種(こうぶつしゅ)】、
 (04)【魚類種(ぎょるいしゅ)】、
 (05)【鳥類種(ちょうるいしゅ)】、
 (06)【昆虫種(こんちゅうしゅ)】、
 (07)【爬虫類種(はちゅうるいしゅ)】、
 (08)【両生類種(りょうせいるいしゅ)】、
 (09)【地中類種(ちちゅうるいしゅ)】、
 ――となっている。
 【動物種】、【植物種】、【魚類種】、【鳥類種】、【昆虫種】、【爬虫類種】、【両生類種】というのは大体想像はつく。
 地球での【動物】、【植物】、【魚類】、【鳥類】、【昆虫】、【爬虫類】、【両生類】と変わらないだろう。
 【動物種】は犬や猫、兎やライオンなどの生き物
 【植物種】は桜や楓、タンポポやひまわりなどの植物、
 【魚類種】は鯛やヒラメ、サンマやマグロなどの魚、
 【鳥類種】は白鳥やアヒル、鷹やツバメなどの鳥、
 【昆虫種】はカブトムシやクワガタ、バッタや蝶などの昆虫、
 【爬虫類種】(両生類から分かれて進化した、地上で生活する生物群で、幼生期から肺呼吸をしている/体表は硬い鱗で覆われ、陸上で素早く動けるように4本の脚と尾を持ち、卵は殻に覆われ乾燥に強くなっている)は蛇やトカゲ、亀などの生き物、
 【両生類種】(魚類から分かれて進化して、初めて陸に上がった生物群と考えられていて、幼生期はえら呼吸で、成長すると肺呼吸に変化する/体表に鱗や体毛を持たず、粘膜に覆われた柔らかい皮膚を持ち、乾燥に弱いため、水辺などの湿った環境が生息域の中心)はカエルやイモリ、サンショウウオなどの生き物、
 ――を指すのだろう。
 ただし、【地球】と【木の越果】では【類種】の区分が多少異なっている様なので、厳密には全く同じでは無い可能性が高いというのを付け足しておく。
 よくわからないのが【鉱物種】と【地中類種】だ。
 【鉱物種】というからには、【鉱物】に関係しているのだろうが、【鉱物】は【生物】ではない。
 直感的に生きた【鉱物】のモンスターだというのはわかるが、実際の所はどうなのだろうか?
 【地中類種】は直感的に【ミミズ】や【モグラ】をイメージするが、
 ミミズは、目がなく、手足もない紐状の動物である。
 モグラは、哺乳類の動物だ。
 つまりはどちらも【動物】である以上、【動物種】ではないのだろうか?
 ならばムカデは?
 ムカデも節足動物だ。
 地中にいるものでは昆虫も考えられるが、昆虫は昆虫で【昆虫類】であって【地中類種】ではない。
 以上の理由で【地中類種】というのが想像がつかないのだ。
 よくわからないものは扱いにも困る。
 なので、【鉱物種】と【地中類種】のモンスターは仲間にするのは慣れてからという事にして、それ以外の7種の中から、味方にするモンスターを選択する事にした。
 その中でも最もわかりやすそうなのは【動物種】だ。
 【さくま】は、それを選択する事にした。
 【動物種】と一口に言っても多種多様ある。
 彼等が見てきたモンスターの中でも【動物種】が【植物種】と【昆虫種】と並んで最も多かった。
 少なくとも見た中では30種以上がこの【動物種】に該当すると思われる。
 その中で【さくま】が名付ける前に名前がついていたのは6種だ。
 その6種の方が元々、名前がついていたという事もあり、あらかじめ、【ちえり】がその生態を知っているものと推測される。
 そのため、その6種から選ぶ事にした。
 出会った順番から言えば、
 (01)【サーマン】、
 (02)【バイバイ鱗】、
 (03)【トゥランス】、
 (04)【エッチケ】、
 (05)【スピットアロゥ】、
 (06)【マァティー】、
 だ。
 この6種について改めて【ちえり】に特徴を聞くことにした。
 辞書には一応載っているが、彼女の説明を聞いた方が良いとの判断だ。
 【ちえり】は、
「わかりました。
 改めて紹介いたします」
 と快く了解してくれた。
「じゃあ、頼む」
「はい、御館様。
 ではまず【サーマン】から説明させていただきます。
 【サーマン】の特徴は、なんと言っても2つの【肩脳顎(けんのうがく)】になります」
「【肩脳顎】ねぇ……」
「はい。
 両肩についている脳とあぎと――あごになります。
 【サーマン】は頭部の【脳】と合わせて3つの【脳】がありますので、【脳】が潰されても1つでも【脳】がある限り、活動は可能となります。
 2つの【肩脳顎】は食事を取るための器官ではなく、それぞれ【ライトセントスペル】と【レフトイビルスペル】を詠唱するための器官となっております」
「あぁ、あの【魔法】みたいなやつね」
「はい。
 【木の越果】では【エフェクトスペル】と言いますが、【エフェクトスペル】には、
 【ライトセントスペル】、
 【レフトイビルスペル】、
 それともう1つ、【センターカオススペル】があります。
 【エフェクトスペル】は基本的にモンスターが食事をする顎では唱えられないので、それを唱えるために複数の口を保有するモンスターが存在します。
 【サーマン】はその一種ですね」
「なるほどね」
「次に【バイバイ鱗】ですが、【バイバイバイバイ】言っていることからその名前がついたモンスターですが、他の特徴として、【魚類種】では無いのに【うろこ】がついているという事ですね。
 この【うろこ】には毒があります。
 ですが、この【うろこ】を本体から切り離すとそれはその【うろこ】の毒の【解毒剤】に加工する事が出来ます」
「ふんふん」
「次に【トゥランス】ですが、酔っぱらった様な動きをするのが特徴ですね。
 酔っぱらっている様にも見えますが、実は高度にバランスをとっていると言われています。
 ぐにゃぐにゃに動いているようで実はかなり、小さな力を上手く利用して大きな力に変換しているようです」
「酔拳みたいなやつね」
「酔拳?
 よくわかりませんが、御館様がおっしゃるならそうなのでしょう」
「ごめん、ごめん。
 自分なりに理解しようと思って【地球】での知識とすりあわせているんだよ」
「わかりました。
 それでは続けさせていただきます。
 次は【エッチケ】になります。
 【エッチケ】の特徴は袋になります。
 いわゆる有袋類というものです。
 この袋は本体が入る事で、【瞬間移動】が出来るとされています。
 出来るとしても視認出来る範囲ですが、役に立つ能力であると言えます。
 仲間となるモンスターを袋に入れれば【瞬間移動】させる事が出来ますので。
 袋に入ればの話になりますが」
「【瞬間移動】かぁ。
 確かになぁ。
 有力候補だな」
「次に【スピットアロゥ】ですが、背中の針の山の一部を【矢】の様に飛ばす事が出来ます」
「あぁ、あのハリネズミやヤマアラシみたいなやつね。
 あれ飛ばせるんだ?」
「はい。
 全てでは無く、生えてから20日以上経った針に限りますが。
 20日間は飛ばせません。
 無理矢理取れば傷を負います」
「なるほど」
「最後に【マァティー】ですが、特徴は【排泄物】が有効利用出来るという事ですね」
「【排泄物】ってうんこでしょ?
 何か、ばっちいなぁ」
「いいえ。
 汚い事はありません。
 人の肌とほぼ同じくらいの細菌しかありませんので。
 これが汚ければ、人の肌も汚いと言う事になります。
 この【マァティー】の【排泄物】は加工すると良い武器になるんですよ。
 適度な堅さと適度なしなやかさを持っているので、様々な武器に転用できるんです」
「ふぅん……」
「以上が6種の【動物種】の説明になります。
 どれになさいますか?」
「うーん……
 そうだなぁ。
 捕まえやすさからすると最後の【マァティー】かなぁ……」
「そうですね。
 【マァティー】は鼻孔が大きいので、仲間にはしやすいかと思います。
 では早速、【マァティー】を仲間にしてみましょう」
 などと話し合った。
 こうして、ターゲットを【マァティー】にして、【マァティー】を捕まえる罠を仕掛ける事にした。
 その仕掛けは以下の様になっている。
 まず、【マァティー】の好物を誘い込みたい場所に配置しておく。
 【マァティー】がその匂いにつられてやって来る。
 そこに、【球状】の物体を複数転がす。
 【マァティー】はボール状の物体に興味を示す性質があるので、それに気を取られている間に、ターザンロープを利用して、【さくま】が【スメルシードプラント】のシードの【ジェル】を【マァティー】の鼻先にこびりつける。
 【さくま】はその後、【スメルシードプラント】のジェルを身体に塗って、【マァティー】に近づく。
 【マァティー】は【さくま】の匂いを嗅ぎ、それで【家族】と認識する。
 ――という仕組みだ。
 試しにやってみる。
 餌を仕掛けてじっと待つ。
 待って、
 待って、
 待って、
 待った。
 そして、【マァティー】がやって来た。
 【マァティー】は蒔かれた餌にかぶりつく。
 そのタイミングを見計らって【ちえり】がボールを14個【マァティー】に向けて転がす。
 【マァティー】は、
「まぁ~……」
 と鳴いて興味を示した。
 今だ。
 【さくま】はターザンロープを利用して、木の上から【マァティー】目指して飛び降りた。
 【マァティー】はボールに集中している。
 だが、からぶった。
 コースが甘かった。
 慌てて、【さくま】は体勢を立て直す。
 そして、再度チャレンジ。
 今度はどうだ?
 タイミングは合っている。
 それ、そこだ。
 惜しい。
 かすったけど外れた。
 【マァティー】はさして気にせず、ボールに集中している。
 三度目のチャレンジ。
 軌道修正をする。
 今度はいけるか?
 タイミングはピッタリ。
 三度目の正直で【マァティー】の鼻に【ジェル】をこすりつけた。
 すぐさま近くに着地し、【さくま】は自分の身体に【ジェル】を塗りたくる。
 そして、すぐさま【マァティー】の近くに寄って座る。
 座る事で自分は安全だと示した。
 【マァティー】は、
「くんくん……
 くんくん……」
 と【さくま】の匂いを嗅ぐ。
 そして、しばしの沈黙。
「………」
 緊張が走る。
 焦らず、じっと待つ。
 再び、
「………」
 沈黙。
 気持ちが焦る。
 駄目なんじゃないかと思ってしまう。
 いや違う。
 やり方は間違って無かったはずだ。
 これで成功のはずだ。
 そう、自分に言い聞かせるが、1つ間違えば、【マァティー】に襲いかかられるという危険性をはらんだこの姿勢だ。
 焦る、
 焦る、
 焦る。
 早くこの時間が終わってくれと天に祈る。
 すると――
「まぁ~……」
 と鳴いて【マァティー】は自分の顔を【さくま】の顔にすりつける。
 【ちえり】は、
「どうやら、家族として認識された様ですよ」
 と言った。
「ホント?
 やったぁ~。
 あ~緊張した。
 駄目かと思ったよ、一瞬」
「お疲れ様です」
「これで、【マァティー】が仲間になったんだよね?」
「はい。
 【マァティー】は視認出来る範囲に居続けると思います」
「ふぅ。
 一段落だな。
 君もお疲れ様」
「ありがとうございます」
 【さくま】は【マァティー】を仲間とした。
 この【マァティー】は大きさから考えて子供だと推測された。
 出来れば、大人の【マァティー】にしたかったが、贅沢は言っていられない。
 まずは、モンスター1匹ゲット。
 それは間違いが無いことだ。
 さて、これからどうするかだ?
 【さくま】は、
「1匹じゃ寂しいよね?
 もう2、3匹ゲットしたいんだけど良いかな?」
「はい。
 もちろんです。
 次はどうされます?
 また、【マァティー】にしますか?」
「いや……
 出来れば違う種類のモンスターもゲットしてみたい。
 【動物種】はとりあえず【マァティー】で良いや。
 他の種類もゲットしてみたいんだけど?」
「そうですか?
 了解いたしました。
 異なる種族をとの事ですが、【ゲノムフュージョン】はどうされますか?」
「【ゲノムフュージョン】?」
「はい。
 遺伝子の配合で、【新種】のモンスターを作る事を指します。
 同じ【動物種】であれば、【ゲノムフュージョン】は比較的容易ですが、異なる【類種】ですと、難しくなると思いますが。
 モンスターを使役するならこの【ゲノムフュージョン】は是非とも覚えていただきたいのですが」
「あ、そんなのがあるんだ?
 でも今は良いや。
 まずは、新しい【類種】のモンスターをゲットしてみたいし、【植物種】と【昆虫種】でちょっと良いの無いかな?」
「御館様がお気に召されるかどうかわかりませんが、【動物種】と同じ、初めから名前がついていたものですと、【植物種】は4体、【昆虫種】は5体となりますね。
 これまでに出会ったモンスター限定で考えますとですが」
「そっかぁ~。
 確か、【植物種】だと、
 【クラーソウ】、
 【メルヘーカ】、
 【トルージュ】、
 【クルイバナ】、
 【昆虫種】だと、
 【ヨロイムシ】、
 【ナイフバッタ】、
 【カツラムシ】、
 【オノガタ】、
 【バッタリフライ】、
 ――だったっけ?
 悪いけどまた説明、頼める?」
「わかりました。
 ではまず、【植物種】から説明いたします。
 まずは、【クラーソウ】ですが、黒い葉のモンスターという事ですね。
 枯れているのではなく、黒い色素を出しているので、枯れた場合は逆に白く濁ります。
 【植物種】と呼ばれているだけあって、見た目は【植物】にそっくりです。
 ですが、【脳似(のうじ)】と呼ばれる人間の【脳】に近い器官も持っていますので、生き物――モンスターと呼ばれる由縁となっています。
 特技としては【黒い霧】を出す事ですかね?
 【黒い霧】には幻覚作用があります」
「なるほど」
「続いて【メルヘーカ】ですが、特徴としては【擬態(ぎたい)】がありますね。
 【変身物質】というものを常に出していますので、【メルヘーカ】が気に入ったモンスターの真似をする事が出来ます。
 1つだけなら、真似をしたモンスターの能力も出せるという噂がありますが、本当の事かどうかはちょっとわかりません」
「うん。
 便利そうだな」
「次が【トルージュ】ですね。
 【トルージュ】は、【くっつき成分】を出していますので、モンスターを【トルージュ】の身体にくっつけて動けなくさせる事が出来ます」
「ゴキブリホイホイみたいなやつだな」
「【クルイバナ】ですが、【麻痺効果】がある花粉を出すと言われています。
 ですが、18回に1回は【毒効果】、38回に1回は【回復効果】があるとされているモンスターで別名【ウラナイバナ】とも呼ばれているモンスターです」
「なるほど。
 【植物種】はそれだけか。
 んじゃ、【メルヘーカ】にしようかな?」
「【メルヘーカ】ですか?
 了解いたしました。
 では、【メルヘーカ】について……」
「あ、いや、待って。
 【昆虫種】も教えて」
「わかりました。
 では、続けまして【昆虫種】の方も説明いたします。
 まずは、【ヨロイムシ】ですが、特徴としてはなんと言ってもその堅さ、防御力ですね。
 突進すれば、それが攻撃力とも直結いたします。
 攻防一体のモンスターです」
「ふーん」
「続いて【ナイフバッタ】ですが、6本の足が【ナイフ】の様な切れ味を持っている事からついた名前です。
 脚力はかなりあると言われています」
「【ナイフバッタ】かぁ……」
「【カツラムシ】ですが、頭部は植物を使って作った【擬態】です。
 本当の頭部は身体の中にあります。
 特徴としては、この【擬態の頭部】が爆発するという事です。
 うっかり偽の【頭部】に触れますと切り離されて爆破される恐れがあるので注意してください」
「なるほど」
「【オノガタ】ですが、頭部が斧の様になっている事からついた名前です。
 この辺りの【昆虫類】としては最も重い重量だとされていますので、それだけ、重い攻撃が出来ます」
「ふんふん」
「最後に【バッタリフライ】ですが……」
「あぁ、あの四つ葉のクローバーみたいな羽根持った蝶みたいなやつね」
「そうなんですか?
 よくはわかりませんが、【バッタリフライ】の特徴としてはその4枚羽根で飛び回って作り出す【歪み】です。
 その【歪み】はこの【木の越果】の環境に適応して、様々な効果を発動するとされていますが、コントロールは不可能だとされています」
「なるほどねぇ。
 んじゃ、【昆虫種】はどれにしようかな?
 うーん、ちょっと怖いけど【バッタリフライ】にしてみようかな?」
「わかりました。
 【植物種】は、【メルヘーカ】、
 【昆虫種】は、【バッタリフライ】という事ですね」
「そうだね。
 その2匹で」
「わかりました。
 では、罠の仕掛け方を説明いたします」
「お願いします」
 という話になった。
 【ちより】の説明によると、
 【植物種】の【メルヘーカ】は、
「ハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリハリルリ~……」
 と息が切れるまで【ハリルリ】という言葉を続けて、その後の息切れを感じ取ると興味を持って近づいて来るという迷信があるとされているという。
 眉唾ものなのだが、やってみると本当に【メルヘーカ】が近寄って来た。
 ジィ~っと顔を見てくるので、舌につけた【スメルシードプラント】の【ジェル】(ただし、無害なタイプに限る)で【メルヘーカ】の鼻先を舐めると家族と認識してくるとのアドバイスを受けた。
 これは【樹人族】に伝わる方法だが、【さくま】がやっても問題無かった。
 これで【メルヘーカ】もゲット出来た。
 【昆虫種】の【バッタリフライ】は、ゲットに無茶苦茶苦労した。
 何しろ、
「ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(1回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(2回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(3回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(4回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(5回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(6回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(7回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(8回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(9回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(10回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(11回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(12回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(13回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(14回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(15回目)
 ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら(16回目)」
 と言うと【召喚】されるので、動きが止まっている間に鼻先に【スメルシードプラント】の【ジェル】を塗るというのだが、この訳のわからない言葉を16回もとちらずに言うというのが至難の業だった。
 【ぷきゃまらへらたせふにゃちゃこりんこふしゃぺらぽらぷら】なんて1回でも難しい無茶苦茶な言葉を16回も言わなくてはならないので、断念する人が多いらしく、肉声という条件ではゲットが難しく、機械音に頼って【召喚】させるのが一般的な方法だと言うことだった。
 機械音は作り出せないので、実際に16回復唱したのだが、これが難しいのを通り越した様な難易度だった。
 何度も駄目かもしれないと思いながら、やっと出来た時はあまりの感動でむせび泣いたくらいだった。
 こうして【バッタリフライ】もゲットしたが、実は別の方法もいくつかあることを聞かされて、
「最初に言ってよ」
 とつい、文句を言ってしまったのだった。
 少々トラブったが、こうして、【さくま】は、
 【動物種】の【マァティー】、
 【植物種】の【メルヘーカ】、
 【昆虫種】の【バッタリフライ】、
 ――をゲットしたのだった。


第六章 集落へ


 モンスターを三匹ゲットした【さくま】だったが、少し落ち着いて睡眠を取りたいと【ちえり】に伝えた。
 彼女は、
「わかりました。
 それですと人族の集落に行って泊めてもらうのが一番かと。
 この辺りですと【三春小界】の人族5種――
 【樹人族】、
 【亜人族】、
 【春人族】、
 【華人族】、
 【草人族】の共通集落が3日ほど歩いた先にあるはずです。
 この辺りでは一番大きな集落になっていますので、そこを訪れたらいかがですか?
 人族によってはそりの合わない人種もいるかと思いますが、5種族全て揃っている集落であればどこかに気の合う種族もいるかと思われます」
 と言った。
「なるほどね。
 【三春小界】の5種族については知らない事ばかりだな。
 何か知ってる?」
「申し訳ございません。
 あいにく、特徴までは……」
 と話し合っていると、
「あっしが答えましょうか?」
 という声が響いた。
 【さくま】は、
「うわっ……
 びっくりした。
 あ――【おぼろ】さん?
 脅かさないでよ、もう。
 敵が現れたかと思ってヒヤヒヤしたよ」
 と言った。
「すいやせん。
 どうも性分なもんで……」
「前もいきなり居なくなっちゃうし、呼び出し方もわかんなかったからどうしようかと思っていたんだよ」
「それは重ね重ねすいやせん。
 それで、なんですが、1つ目の質問の答えの続きって事で、さしでがましいんですが、お教えしようかと思いやして」
「ホント?
 助かるよ。
 とりあえず、【三春小界】の人族5種族だけでも教えてよ」
「わかりやした。
 では、【樹人族】から……
 この種族の特徴は左腕が緑色に変色しているというのが特徴ですね。
 性格は比較的温厚であるとされていやす。
 半人半木(はんじんはんぼく)とされていて左腕で光合成も行っているらしいですね」
「へぇ……」
「続いて【亜人族】ですが、
 この種族は、モンスターとの混血であるという事から【獣人族(じゅうじんぞく)】とも言われていやす。
 モンスターとのハーフであり、混ざったモンスターの気性が【亜人族】にも反映されているとされていやす」
「なるほどね。
 次は?」
「はい。
 【春人族】は【季節四族(きせつよんぞく)】と呼ばれる人種ですね。
 【季節四族】とは、
 【三春小界】の【春人族】、
 【三夏小界】の【夏人族】、
 【三秋小界】の【秋人族】、
 【三冬小界】の【冬人族】、
 ――の四種族を指しやす。
 この四種族は四つの【小界】の要とされており、自然の声が聞こえるとされている種族ですね。
 【春人族】はピンク色の肌をしているのが特徴とされていやす」
「ふーん」
「【華人族】は黄色い肌をしているとされていやす。
 プライドが高く、少々好戦的な種族と聞いてやすね。
 金を稼ぐのが上手い種族とされていやす」
「お金持ちの種族って事か?」
「最後に【草人族】ですが、
 この種族は、薬草を作るのが上手い種族ですね。
 いざという時は役に立ちそうなので、【三春小界】の中では一番仲良くしておいた方が良い種族でもありやすね。
 変わり者が多いって噂ですが、実際の所はどうなのかと……
 特徴は爪が葉っぱという事ですね。
 こんなもんでいかがでやすか?」
 と言った。
 【さくま】は、
「うん。
 ありがと」
 とお礼を言った。
 【おぼろ】は、
「では、あっしはこれで……」
 と言って立ち去ろうとしたが、【さくま】は、
「あ、待ってよ【おぼろ】さん。
 あなたを呼ぶ時、どうしたらよいの?
 このままだとまた、わかんなくなるよ」
 と言った。
「そうでやすね……
 じゃあ、合図でも決めて起きましょうかね?
 あっしが必要だと思った時は来ますが、それ以外であっしを呼びたかったら、こいつを吹いていただけやすか?
 これはあっし達、【泥人族】にだけ聞こえる笛です。
 こいつが聞こえたら出てきやすよ。
 ですが、本当に必要だと思った時だけにしてくださいましよ。
 頻繁に呼び出されたらたまったもんじゃありませんし」
「うん。
 わかった。
 情報が必要な時にだけ吹くよ。
 それで良いかい?」
「えぇ。
 それで、お願いしやす」
「じゃあ、そういう事でよろしく」
「こちらこそ。
 じゃあ、あっしはこれで」
「うん。
 じゃあ、また」
 と言うと、それに呼応する様に、また泥が崩れさるかの様にして消えたのだった。
 こうして【おぼろ】から更なる情報を得た【さくま】達は5種族が揃った集落を目指して歩き出したのだった。
 それから歩くこと3日。
 目的の集落へとたどり着いた。
 見てみると特徴的な5種類15棟の建物が建っている。
 恐らく、この5種類は5種族のそれぞれの建築基準に則って建てられたものなのだろう。
 異なる5種類の建物からここには5種類の種族が居るというのが一目でわかる。
 1種類3棟ずつあるから、均等に5種族が暮らしているのだろう。
 建物の外には十数人の人族が確認出来る。
 身体的特徴から、
 【樹人族】2人、
 【亜人族】3人、
 【春人族】5人、
 【華人族】2人、
 【草人族】4人とわかる。
 【おぼろ】の情報が役に立ったという事になる。
 話しかけてみる。
「あの、すみません。
 ここら辺に泊めてくれる宿ってありますかね?
 怪しい者じゃありません。
 僕は【さくま】って言います。
 こっちは【ちえり】さんです。
 それと仲間にしたモンスターで、
 【動物種】の【マァティー】、
 【植物種】の【メルヘーカ】、
 【昆虫種】の【バッタリフライ】、
 ――です。
 味方の状態にしていますので、僕の命令以外では傷つける事は無いと思いますので安心してください」
 と1人1人に言って廻ったが、相手にしてくれる人は少なかった。
 やはり、いきなり来た他人を信用するには材料が足りないのだろうか?
 だが、それでも、【樹人族】の男性は親切に対応してくれた。
 やはり穏やかな種族と言われているだけあって、対応が丁寧だった。
 その【樹人族】の男性は、
「それは遠い所をようこそ。
 私は、【樹人族】の【ボコ】と言います。
 こちらは妻の【アワリ】と言います。
 何も無いところですが、良かったらうちで休みませんか?」
 と言ってくれた。
 他の種族が警戒している様だったので、他に選択肢は無いと判断。
 【さくま】達は【ボコ】と【アワリ】の夫婦の家に泊めてもらうことにしたのだった。
 【ボコ】と【アワリ】の夫婦は【樹人族】の建物の一角に住んでいるらしい。
 【樹人族】の建物は【大木】をイメージした建物となっている。
 幹がやたら太い建物の中味をくりぬいて部屋にして使っている様な印象の建物だ。
 【ボコ】夫婦の部屋は3部屋あって、
 キッチン1部屋、
 【ボコ】の部屋1部屋、
 【アワリ】の部屋1部屋という事になっているらしい。
 夫婦だが別の部屋で寝ている様だ。
 夫婦のあり方は人それぞれなので、それについてツッコム気持ちはないが、トイレと風呂場が無いのが気になったが、トイレは共通で、風呂は無く、変わりにサウナみたいな共通の部屋があるらしい。
 それで身体の汚れを落とす様だった。
 【さくま】は【木の越果】に来てからずっと野宿だったので今更、風呂もくそもないのだが、【地球】での記憶が残っているので出来れば【湯船】に浸かりたかったので、ちょっと残念だという感想だった。
 だが、それを差し引けば、比較的落ち着ける場所だった。
 【ボコ】と【アワリ】の部屋は畳で言えば、それぞれが大体24畳くらいの大きさはあるので、狭いという感覚ではなかった。
 物もあまり置いてないので、【さくま】と【ちえり】と3匹のモンスターが居ても十分余裕があった。
 そういう意味では狭い日本の住宅事情とは異なる世界観であると言える。
 【さくま】は事情を話した。
 自分がやるべき役目。
 これからの行動などについてだ。
 それを聞いた【ボコ】は、
「そうですか。
 では、私の方で話すこともありますので、良かったら数日、ゆっくりしていらしてはいかがですか?」
 と言ってくれた。
 【さくま】達はその言葉に甘えさせてもらって、数日お世話になることにしたのだった。
 【さくま】としては、せっかく手にした【野宿】以外の宿なので少し満喫したかったのだ。
 その数日の間は穏やかな日々だった。
 【ボコ】と【アワリ】は親切だったし、集落の他の人達とも少しずつうち解け、気も合ってきた感じがした。
 だが、それも6日目の朝、事態は一変する事になる。
 仲間が――殺されたのだ。


第七章 バイバイ、僕の家族達


 仲間にしていたモンスターで【動物種】の【マァティー】が朝起きた時、息をしていなかった。
 寝ている所を急所にブスりという感じの最期だった。
 【さくま】は、
「だ、誰がこんな事……」
 とつぶやいた。
 【ちえり】は、
「申し訳ございません。
 私がついて居ながら」
 と詫びた。
 【ボコ】と【アワリ】の部屋で寝ていたのだから、【ボコ】と【アワリ】が怪しいのかも知れない。
 だが、【ボコ】と【アワリ】は先日の【さくま】との会話で、この辺りの名物食材があると言って【さくま】達に留守番を任せて、二人でその食材を取りに行っていたのだ。
 つまり、昼過ぎにその食材を持って帰って来た二人には一見、不可能な犯罪とも思える。
 となると誰だ?
 誰が【マァティー】を殺したんだ?
 【さくま】は表情に怒りをにじませ、
「犯人は誰だ?
 絶対、あぶり出してやる」
 と言った。
 それに対して【ちえり】は、
「御館様。
 【マァティー】は残念でしたが、ここから離れた方が良いかと?
 この場所は危険です」
 と忠告した。
「何言っているんだ【ちえり】さん。
 【マァティー】は殺されたんだよ?
 僕らが仇を討たなくて誰が討つんだよ?
 少なくとも犯人は見つける。
 そうじゃなければ【マァティー】が浮かばれないよ」
「ですが、現在の戦力で、音もなく【マァティー】を殺害した敵に対して、御館様をお守り出来る自信がございません。
 敵がどの様な存在なのかは一旦、この場を離れて体勢を整えてから探り直した方が賢明かと」
「いやだ。
 いやだ、
 嫌だ、嫌だ、嫌だ。
 嫌だよ。
 僕は家族を失ったんだ。
 【ちえり】さんは家族が殺されたのに何とも思わないの?」
「私も悔しいです。
 ですが、今は生き残っている家族の方が大事です。
 このまま、下手に関わって他の家族も失ったら、意味がありません。
 どうか、こらえて、一旦退いてください」
「じゃあ、【ちえり】さんが退きなよ。
 僕は調べるから」
「御館様っ」
「うるさいっ。
 僕は仇を討つんだ。
 君は黙ってろ」
「………
 わかりました。
 ですが、危険と判断した時は迷わず退いてください。
 退くのは恥ではありません。
 退くのも戦術の1つです。
 どうか。
 どうか、お願いいたします」
「………」
 と言い合いになっていた。
 こうして、【ボコ】と【アワリ】が帰ってくるまでにギスギスした状況のまま、捜査を開始したのだった。
 【ボコ】と【アワリ】が帰って来て、
「何事ですか?」
 との質問に凄い剣幕で【さくま】は自分の怒りを吐露した。
 その怒りは起きている間続き、ろくに捜査も進まないまま、彼は怒り疲れて、眠りこけてしまった。
 その間、【ちえり】は【さくま】の護衛として神経を張り巡らせていた疲れも顧みず、捜査を続けていた。
 眠っている【さくま】の護衛には【メルヘーカ】と【バッタリフライ】に任せている。
 そんな中、【ちえり】は、捜索中にとある人物と合っていた。
 【ちえり】は、
「あ、――さん。
 この辺りに――」
 と質問すると、
 ――サクリ――
 と音がした。
 【ちえり】の腹部が刺されたのだ。
 【ちえり】は、
「ぐっ……
 く、曲者……
 しょ、正体を……」
 と言って、その存在の顔に手を当てた。
 その顔は破られ、中から別の顔が顔を出す。
 【ちえり】は、
「くっ……
 そ、そう言うからくりか……」
 と言って距離を取る。
 だが、完全に油断していたため、腹部から大量の出血が。
 【ちえり】は人間ではない。
 まるで機械の様な仕組みで出来上がっている【木の越果】の植物で作られた人工物だった。
 だが、その生体は人間のそれと変わらない。
 体内には血液に相当する液体が流れているし、それを多く出血すれば、絶命する。
 【ちえり】は自分の浅はかさを悔いた。
 もっと広い視野で見るべきだった。
 だが、この事実が本当だとすると【さくま】達が危ない。
 【ちえり】は何とかその敵を振り切ると【さくま】の元に戻った。
 彼女は【ボコ】と【アワリ】の部屋で寝ている【さくま】を揺らし、
「御館様、
 御館様。
 起きてください。
 御館様。
 真実がわかりました。
 からくりが読めました。
 私達はだまされ……ていたのです。
 御館様」
 と叫んだ。
 【さくま】は、
「何だよ……
 うわっ、
 その血どうしたんだよ?
 治療しなくちゃ。
 早く治療薬を……」
 と慌てる。
 【ちえり】は、
「御館様。
 よく聞いてください。
 私はもうだめです。
 お別れの時が来たようです。
 この集落の事実、突きとめました。
 この集落は……がふっ……」
 と言った時、【さくま】は、
「駄目だよぉ~
 もうしゃべるなよぉ~。
 死んじゃうよぉ~」
 と言った。
「ぐっ……
 聞いてください。
 これが最後です。
 【木のキー】は持ってますね。
 私が廃棄された後、次の【お庭番】がコンタクトを取るはずです。
 どうか生き延びてください。
 この集落は集落では無かったのです。
 この集落に居る者はこの集落から出ると死亡するのです。
 つまり、【ボコ】さんと【アワリ】さんは既に亡くなっています。
 帰ってきたのは【ボコ】さんと【アワリ】さんの皮を被った邪鬼です。
 じわじわとなぶる様にこの集落の人達を殺して廻っていたのです。
 空き部屋が多いのもそのためです。
 私達、異分子が入ったことで邪鬼達は……ぐっ……
 とにかく逃げてください。
 早く。
 早く!!」
 と言った。
 その背後から、【アワリ】だった者が刃物を【ちえり】の心臓を突き刺した。
 【さくま】は、
「ちえりさんっ!!」
 【ちえり】は最後の力を振り絞って、【アワリ】だった者の顔を剥ぐ。
 そこには醜くただれた【邪鬼】の顔が現れた。
 人間の身体を身体の中から食べる、寄生型の【邪鬼】――名前はついていない。
 だが、この【邪鬼】は人間を食べることでしばらく食べた人間の言動や思考を真似る事が出来る。
 その【邪鬼】達は力こそ弱いが姑息な手段で、人間を食べる事を特徴としたモンスターだった。
 例えば、弱っていたり、寝込みを襲うのだ。
 そうやって、この集落は人数を減らされ続けていたのだ。
 【邪鬼】達は集落から出た人間を食べてその皮を被り、集落に向かい、偽の外の情報を集落の人間達に伝える。
 集落に居る人間はその情報を元に外の世界を都合良く解釈、想像し、滅多に外の世界に出ない様にする。
 出る時は【邪鬼】達の食料となる時だ。
 情報操作で、スパイの【邪鬼】達に踊らされ、外の世界に死にに行く。
 【ボコ】と【アワリ】の夫婦は【さくま】達異分子を外から招き入れたために【邪鬼】達の新たな糧として選ばれてしまったのだ。
 言ってみればこの集落は【邪鬼】達の食料のために飼い慣らされた【箱庭】だと言える。
 そんな所にうっかり迷い込んでしまったのだ。
 その衝撃の事実を【ちえり】が気づいた所で【ボコ】の皮を被った【邪鬼】に襲われた。
 【ボコ】の皮を被った【邪鬼】を振り切って【さくま】の元に戻ったがそこで、今度は【アワリ】の皮を被った【邪鬼】に致命傷を与えられたのだ。
 この【邪鬼】の名前も【辞書】に登録せねばならないが、今は非常時だ。
 それどころじゃない。
 【ちえり】は瀕死の状態だ。
 彼女は、ほとんど残っていない力を更に絞り出し、
「おさらばです。
 健やかに、御館様っ!!
 妙法(みょうほう)身爆移送(しんばくいそう)の術」
 と言った。
 【妙法(みょうほう)】とは地球で言うところの【忍法】の様なもので、【ちえり】が使う術の事。
 【身爆移送(しんばくいそう)の術】とは自らの身体を爆発させ、その勢いで、味方を遠方に運ぶ、味方を逃がすための【お庭番】最期の術となる。
 【ちえり】は体内を爆発させて、【さくま】と【メルヘーカ】と【バッタリフライ】を集落から離れた位置に空間転移させたのだった。
 【さくま】は、
「【ちえり】さぁ~んっ……」
 と叫んだ。
 が、返事は無い。
 【ちえり】は爆死してしまった。
 それはその術で運ばれた【さくま】が痛いほどよくわかっていた。
「う……
 うぅ……
 うぅぅっ……」
 慟哭する【さくま】。
 自分が調べるなんて言わなければ【ちえり】は死ぬことは無かったかもしれない。
 そう、思うと、自分が許せなかった。
 自らの判断ミスが、【ちえり】の死を招いてしまった。
 【邪鬼】も許せないが、それ以上に自分の愚かさが許せなかった。
 なんてことをしてしまったんだ。
 取り返しがつかない。
 どうしようもない。
 【ちえり】とはもう、二度と会えない。
 そう思うと涙があふれ出た。
 悲しくて、
 悲しくて、
 悲しくて、
 悲しくてたまらなかった。
 後悔先に立たず。
 自分の事をいくら後悔しても、【ちえり】は戻ってこない。
 共に居る【メルヘーカ】と【バッタリフライ】も悲しそうな雰囲気だ。
 家族を失ったという失望感を感じているのだろう。
 【ちえり】の遺体を確認するために集落に戻るとは――言えない。
 行けば、今度は【メルヘーカ】と【バッタリフライ】を危険にさらす。
 これ以上は家族を失えない。
 逆に言えば、【メルヘーカ】と【バッタリフライ】が居たから何とか正気を保っていられた。
 たった1人だったら、自殺して居たかも知れない。
 辛くて、
 どうしようもなくて、
 ただ、悲しくて、
 命を自ら絶っていただろう。
 だが、家族の存在が、それを認めてくれない。
 残った家族と共に生きて行かなければならないのだ。
 これからは、自分が【メルヘーカ】と【バッタリフライ】を引っ張って行かなければならない。
 それがわかるからしっかりしなくてはならないのはわかるが、今はただ、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……んっ……わあぁぁぁぁぁぁぁぁっん……うぇぇぇっ……ぐすっうえぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇっん…んっうぐっ……えぐっ……うわぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁん……」
 力の限り、大声で泣いた。
 とにかくありったけの力を使って泣いた。
 疲れて眠りたくなる程、泣いた。
 そして、そのまま、眠った。
 このまま、自分が死んでも良いとも思った。
 だが、再び起きる事が出来た時、前に進もう。
 そう決めたのだった。
 どのくらいたったのだろうか?
 【さくま】は起きる事が出来た。
 どうやら、奇跡的に運に守られていたようだ。
 いや、違う。
 【メルヘーカ】と【バッタリフライ】だ。
 疲れているだろうにそれでも【メルヘーカ】と【バッタリフライ】が寝ずの番をして【さくま】を守ってくれていた。
 【スメルシードプラント】の【ジェル】を使ってのかりそめの【家族】なのに、【メルヘーカ】と【バッタリフライ】は本気で守ってくれていた。
 【さくま】は感極まり、
「お、お前達……」
 とつぶやいた。
 そしてそっと抱き合った。
 家族である事を確認する様に。
 【さくま】はさっと立ち上がる。
 立ち止まっては居られない。
 前に進まなくてはならない。
 だってそれは、【ちえり】との約束だから。
 【ちえり】は最初から、自分が廃棄処分となった後の事を言って居た。
 自分が居なくなったら、【木のキー】が再び光ると告げていた。
 彼女の言う通り、【木のキー】は光っていた。
 つまり、これは【ちえり】が亡くなった事を意味している。
 【さくま】は穴を掘った。
 そこに【マァティー】と【メルヘーカ】と【バッタリフライ】を家族にした【スメルシードプラント】の【ジェル】が入っている【円筒器】を埋めた。
「ここまでの冒険での家族は、僕と、
 【ちえり】さん、
 【マァティー】、
 【メルヘーカ】、
 【バッタリフライ】の5人だ。
 それ以上は考えられない。
 だから、これはここに埋めて行く。
 【ちえり】さんと【マァティー】の墓の代わりだ。
 僕はこれからも家族を増やしていくけど――これまでの――たった3ヶ月だったけど、その間の絆は消えない。
 だから、僕たちは5人だけの家族。
 そう、決めた。
 だから、【メルヘーカ】、
 それに【バッタリフライ】。
 お前達をこの先の危険な旅には連れてはいけない。
 だから……どうか、この墓を守ってくれないか?」
 と告げた。
 【メルヘーカ】と【バッタリフライ】はそれが理解出来ていない。
 家族はずっと一緒に居るものだとすり込まれているからだ。
 ずっとついてくる。
 これは習性だ。
 このままでは本当にずっとついてくるだろう。
 だから、【さくま】はやってはならない方法を取る事にした。
 墓には、【円筒器】以外にも今まで使って居た【スメルシードプラント】の親戚関係にある豆も入れていた。
 その代わりに新たな【スメルシードプラント】を用意した。
 それを同じ様に【ジェル】状に加工していく。
 それはどういうことか?
 それは、匂いを変えるという事。
 つまり、【メルヘーカ】と【バッタリフライ】とは家族では無くなるという事を選択するという事だ。
 【さくま】は【ちえり】に教わった通りの作り方で新たな【スメルシードプラント】の【ジェル】を作り、それを体に塗りたくった。
 すると、味方だったはずの【メルヘーカ】と【バッタリフライ】が急に【さくま】に襲いかかって来た。
 敵だと認識したのだ。
 だが、どこか迷いのある攻撃だ。
 だって、それはそうだろう。
 今まで【家族】だったのだ。
 それが急に【敵】に変わってしまったのだ。
 混乱を起こすのも無理は無い。
 【さくま】は、
「ごめんな。
 ごめんね。
 勝手な僕で。
 本当にごめんね」
 と言って何度も謝った。
 【メルヘーカ】と【バッタリフライ】をこの地に置いていく事の後ろめたさ。
 勝手に家族にして勝手に家族を解消した身勝手さを恥じての詫び。
 【ちえり】と【マァティー】をみすみす殺させてしまった事への後悔。
 そんなものがない混ぜになった言葉だった。
 【メルヘーカ】と【バッタリフライ】の猛攻が続き、【さくま】が少し傷ついた。
 すると、躊躇したのか【メルヘーカ】と【バッタリフライ】の攻撃が止まる。
 そして、それぞれ、腕を振る様な動きを見せた。
 【もう良い……
 あっちへ行け】
 ――そう言っている様な気がした。
 【さくま】は涙をこらえ、
「バイバイ。
 僕の大切な家族達」
 と言って、その場を走って行った。
 【メルヘーカ】と【バッタリフライ】は追ってこない。
 【家族】では無くなったのだから追って来れない。
 だが、【メルヘーカ】と【バッタリフライ】は泣いていた。
 家族を失った事で泣いていた。
 【さくま】も泣いていた。
 泣きながら走っていた。
 彼は安全地帯を探し、そこで気持ちをおちつける事にした。
 気持ちの整理をしなくては前に進めない。
 家族との思い出を思い出す度に――
 悲しくて、
 悲しくて、
 悲しくて、
 悲しくてたまらない。
 と、同時に、
 暖かくて、
 暖かくて、
 暖かくて、
 暖かくてたまらない思い出が蘇った。
 そして、
 一緒に居たい。
 離れたくない。
 仲良くしたい。
 別れたくない。
 決別したくない。
 そんな事を思った。
 だけど、前に進まなければならないとも思った。
 そんな時、【ちえり】のイメージを思い出す。
「御館様。
 あなた様なら出来ます。
 前に進んでください。
 あなた様の成功を草葉の陰で見守っています。
 この別れはあなた様を新たな一歩に導いてくれるでしょう。
 大丈夫。
 私が保証いたします。
 あなた様は強い。
 この様な事に負けたりいたしません。
 必ずや立ち直り、そして、一歩一歩前に進むのです。
 さぁ、お立ちください、御館様」
 と言われた様な気がする。
 【さくま】は、
「ぐすっ……
 勝手な事を……
 僕はそんなに強くは無いよ。
 悲しい時は悲しいし、
 辛いときは辛いんだ。
 だから、もうちょっとだけ――
 もうちょっとだけ、君達を失った事を悲しませろよ」
 とつぶやいた。
 【ちえり】のイメージは、
「御館様っ
 ファイト。
 この三ヶ月の旅。
 私は幸せでした。
 とても密度の濃い三ヶ月でした。
 色んな事を話し、色んな体験をした。
 そんな内容たっぷりの三ヶ月でした。
 出来れば、もっと一緒に体験したかった。
 ですが、それももうできません。
 御館様はご自分で後悔されている様ですが、これは私の判断ミスが原因です。
 【お庭番】として、御館様を守り切れなかった私の失態、責任です。
 ですから御館様が悔いる事ではございません」
 と言った。
 【さくま】は、
「そんなの違うよ。
 君は逃げようって言ってたじゃないか。
 それを否定したのは僕だ。
 僕がミスしたんだ。
 だから……」
 とつぶやいた。
「御館様。
 そう、思ってくださるのなら、次の【お庭番】にはちゃんとお耳を傾けてください。
 私はそれで満足ですよ。
 ありがとうございます。
 御館様。
 私は本当に幸せでした」
「【ちえり】さぁん……」
 【さくま】は面影の【ちえり】との会話を続けた。
 話したいこと。
 言いたい事。
 謝りたい事。
 悔しい気持ち。
 これからの事。
 一緒に居た思い出。
 楽しい事。
 辛い事。
 悲しい事。
 怒った事。
 色んな事を話した。
 とにかく、自分がすっきりするまで話した。
 【ちえり】は居ない。
 だが、【ちえり】が居るつもりになって話した。
 話して、
 話して、
 話して、
 話しまくった。
 そして疲れて寝て、また起きて、
 話して、
 話して、
 話して、
 話しまくった。
 そしてまた眠りというのを何度か繰り返し、【さくま】は強くなった。
 身体的にではない。
 精神的に強くなっていた。
 これまでの【お庭番】頼りの情けない自分ではない。
 これからは【家族】を守るんだという気持ちが表れた凜々しい顔立ちに変わって居た。
 弱々しい感じの今までの印象とは違っている。
 【さくま】は、
「……行くか。
 今度は後悔しない。
 したくない」
 とつぶやき、安全地帯から一歩前に出たのだった。


第八章 新たなる旅路


 【さくま】は、
 【ちえり】、
 【マァティー】、
 【メルヘーカ】、
 【バッタリフライ】、
 ――という4人の家族を失った。
 失ったが、彼の心には強く残っている。
 だが、今は1人だ。
 1人じゃ何も出来ない。
 まずはナビゲートをしてくれる新たなパートナーを見つけなければならない。
 それには【木のキー】が必要だ。
 【ちえり】を見つけた時の様に、声のする方に歩き進めて行くと、その場所に着いた。
 そこは【ちえり】が居た所とは異なるものだった。
 【ちえり】の時は【盆栽】の【真柏】を思わせる様な大木の幹の中にある【木管】に眠っていた。
 今回はどう表現すれば良いだろうか?
 根っこは大木のものに相違ないのだが、その上――幹の部分はどう表現すればよいのだろうか?
 巨大な【まりも】――そう、表現するのが的確だろうか?
 直径十二、三メートルはあろうかという巨大な藻の様なもので包まれた球体がデンっと乗っており、その頭頂部にはクリスマスツリーの様なものが生えているという奇妙な植物だった。
 見て見ると球体の中にぼんやりと光るものが――
 どうやら、この中に次の【お庭番】が居る様だ。
 【さくま】は球体の藻をかき分ける。
 すると、やはり、奥には木棺の様なものがあった。
 視認するとやはり、【鍵穴】があった。
 そこに【木のキー】を差し込みガチャっと回す。
 ガコっと音がして、木棺が開く。
 そして、そこにはまたしても美少女が。
 その美少女は目を覚ます。
「………」
 無言だ。
 だが、勝手はわかっている。
 名前をつけなくてはならないのだろう。
 【さくま】は、
「君の名前だけどさ。
 【ちえり】ってつけても良いかな?」
 と言った。
 美少女は、
「断る。
 そいつは前の女の名前だろ?
 あたしはあたし。
 別の名前をつけとくれよ。
 ねぇ、旦那」
 と言った。
 目をぱちくりさせる【さくま】。
 【ちえり】とは全然違った印象だったからだ。
 てっきりまた、
「御館様」
 とか言われるかと思っていたのだ。
 口調も【ちえり】とずいぶん違う。
 確かに、この少女を【ちえり】と呼んでも違和感しか無いだろう。
 それに【ちえり】の面影を引きずっているのもこの少女に対して失礼な事だと思って反省した。
 【ちえり】は【ちえり】。
 少女は少女だ。
 【さくま】は、
「そっか。
 そうだよね。
 名前の使い回しは無いよね。
 じゃあ、どうするか?
 なら、二番目だから【ふたば】。
 これならどうかな?」
 と言った。
 少女は、
「良いよ。
 【ふたば】ね。
 あたしは今日から【ふたば】。
 よろしくね旦那」
 と答えた。
「こちらこそよろしく。
 申し遅れたけど僕は【さくま】だよ」
「知ってる。
 前の女の情報は私に引き継がれているからね」
「その、前の女って言うのを止めてくれないかな?
 【ちえり】って僕がつけた名前があったんだ」
「わかった。
 【ちえり】ね。
 これから前の女の事を話す時、【ちえり】ってつけるよ」
「ごめんね。
 引きずったみたいで。
 でも大切な家族だったんだ。
 だから、前の女って表現は嬉しく無い」
「あいよ。
 それでどうすんだい、これから?」
「そうだね。
 家族を増やしたい。
 【ちえり】達の時は、【ゲノムフュージョン】って言うのを試せなかった。
 同種族ではやりやすく異種族だとやりにくいって事だけは解るんだけど具体的にどうすれば良いのか聞いてないし。
 その辺りの事、知ってる?」
「知ってるっていやぁ知ってるけどさ。
 その前に武器、揃えない?
 旦那の戦闘力じゃちょっと頼りないっていうかさ。
 【ちえり】との連携が取れてたら【邪鬼】の時、あんな結果にはならなかっただろうしさ」
「あ、……うん。
 そうだね……」
「あれぇ?
 思い出しちゃった?
 ごめんね。
 【ちえり】と違って気が回らなくて。
 あたしはこんなだからさ。
 気に入らなかったら言ってよ。
 直す様にするからさ」
「いや、良いんだ。
 確かに君の言う通り。
 僕は弱かった。
 何か無いかな?」
「そうさねぇ……
 んじゃあれはどうかね?
 【チェーンアーム】。
 こいつを探して見ない?」
「【チェーンアーム】?
 知らないな?
 どんなやつだい?」
「簡単に言えば、巨大な武器を操るそれとリンクした小さな武器って事かな?」
「?
 よく解らないな。
 どういう事?」
「例えば【剣】だね。
 山でもぶった斬れる大きな【剣】があったとする。
 だけど、そいつは大きすぎて持てない。
 その代わりにその【剣】を小さくデフォルメした同じ形の【剣】を操る事でその大きな【剣】も連動して動くのさ。
 動きは計算する必要があるけど、それで小さな【剣】を振り回して、巨大な【剣】を呼び出してその巨大な【剣】を振り回す。
 そんな武器さ。
 まぁ、小回りが利かないのが難点だけど、威嚇には使えそうだしさ」
「凄い。
 そんな武器があったのか。
 そうだね。
 それが良い。
 そいつを使ってみたいな」
「んじゃ、そいつを探しに行こうか」
「うん。
 場所解るのかい?」
「一つだけなら解るよ。
 あたしが知ってるのはそれだけさ。
 それ以外は知らない。
 それで良いってんなら着いて来ておくれよ。
 まだ、あれば良いんだけどね」
「解った。
 頼む」
 という会話になった。
 道中、【さくま】は【チェーンアーム】について更に詳しく聞いた。
 【ふたば】の話では、【チェーンアーム】とは大きく分けて3種類に分けられると言う。
 それは、
 【攻(こう)】、
 【投(とう)】、
 【守(しゅ)】、
 ――の3つだ。
 【攻】とはすなわち【剣】の事を主に指す。
 だが、【剣】だけでは無い。
 【斧】や、
 【槍】、
 【ハンマー】、
 【鎌】などもこれに含まれる。
 【投】とはすなわち【銃】の事を主に指す。
 だが、これも【銃】だけではない。
 【鎖鎌】や、
 【ボウガン】、
 【弓矢】、
 【石つぶて】などもこれに相当する。
 【守】とはすなわち【盾】の事を主に指す。
 だが、これも【盾】だけではない。
 【鎖帷子】や、
 【防具】、
 【バリヤー】、
 【バリケード】などもこれに相当するらしい。
 次に、ランクだ。
 【チェーンアーム】とは、大きく分けて7ランク、ランク外1つの合計8ランク存在するらしい。
 ランク外とは【ナマクーラ】と呼ばれている。
 これは使えない刀を指す【なまくら】をイメージすれば覚えやすいだろう。
 次にランクだが、下から、
 【ブロウズ】、
 【シルバス】、
 【ゴルドス】、
 【プラチナス】、
 ――の4ランクを通常兵器ランクとして考えられているらしい。
 これも――
 【ブロウズ】は【ブロンズ(青銅)】、
 【シルバス】は【シルバー(銀)】、
 【ゴルドス】は【ゴールド(金)】、
 【プラチナス】は【プラチナ(白金)】、
 ――と考えれば覚えやすいと言える。
 そして、上位3ランクは神格化されたランクであると言う。
 下から――
 【マイナル】、
 【プラナル】、
 【エクセリア】、
 というランクとなっている。
 これは――
 【マイナル】は【マイナス】、
 【プラナル】は【プラス】、
 ――と覚えておけば良いだろうし、
 【エクセリア】は【エクセル】、
 ――として覚えておけば良いかも知れない。
 こうやって地球にいた頃の知識と関連づけて覚えることにした。
 そして、【さくま】達がこれから手に入れようとしている【チェーンアーム】は【攻】で【ナマクーラ】に相当する武器だと言う事を聞かされたのだった。
 一応、武器としては成立するが、何度も使えば折れるという事も十分に考えられる不完全な武器だとも聞かされた。
 つまり、急場しのぎの臨時の武器に過ぎず、先ほどの例にもあった【山をぶった斬る】力は無い。
 せいぜい、大木一本が関の山と言ったところだろう。
 大きさも通常兵器ランクの10分の1程度、神格化された兵器の100の1にも満たないらしい。
 使えるのは本当に通常のモンスターに使える威嚇程度。
 本当に戦う事になれば、戦っている内にいつ折れるかわからない代物を使う危険性があるという事になる。
 だが、それでも無いよりは遙かにマシだ。
 強い武器はこれから手に入れて行けば良い。
 今は最低限、自分の身を守れるだけの戦力が欲しい。
 それは【さくま】にとっての切実な願いだった。
 自分が弱くなかったら【ちえり】を守れた。
 その後悔が彼を強くさせた。
 強くあろうとさせたのだった。
 程なくして、【さくま】と【ふたば】は、【チェーンアーム】がある場所にたどり着いた。
 【ふたば】は、
「良かった。
 まだ、あるようだね。
 まぁ、中途半端な武器だからね。
 わざわざ、こんなへんぴな所まで取りに来るって物でもないし、
 あって当然か」
 と言った。
「これが【チェーンアーム】か……」
「そう。
 【ナマクーラ】だからね。
 さして、複雑な仕掛けがあるわけじゃない。
 ただ、抜けば良い。
 地面に突き刺さっているこの剣を抜けば、所有者になれる。
 ただ、それだけ。
 簡単でしょ?」
「そうだね。
 じゃあ、早速……」
「頑張ってね、旦那」
「うん。
 わかった。
 ――ふんっ……
 んっんっんっ……
 ぷはぁ……
 抜けない。
 どうなって?」
「そこからぁ?
 旦那の場合はまず、力の入れ方が悪いのさ。
 これまで食べた実で基礎体力はついている。
 だけど、あんたはその力を1パーセントも引き出せてない。
 そんなへっぴり腰じゃ、抜けるもんも抜けないよ。
 まずは、そこにつき刺さった枝。
 それを抜く練習から始めようか。
 それが抜けたら、次はこの岩をどかす練習。
 それが終わってから本番ね」
「あ、あぁ……
 わかった」
「素直でよろしい。
 じゃあ、初めておくれよ。
 あたしはそこで見てるからさ」
「あ、うん。
 じゃあ……
 それっ……
 ふんっ……
 ぬおぉぉぉ……」
「あぁ、だめだめ。
 こうやるんだよ、こう。
 わかった?」
「こうか?」
「違う。
 こう。
 こうやってこう」
「うん。
 それっ」
「そうそう。
 それそれ」
 とアドバイスを受けて【さくま】は力を込める練習をした。
 何回か練習して枝を抜くことに成功した。
 次は岩だ。
 これは力だけではどかせない。
 【気】の様なものの力が必要となる。
 それについても【ふたば】は丁寧にレクチャーした。
 【ちえり】の失敗。
 それは、【さくま】を過保護なくらいに守り過ぎて、彼の強さを引き上げなかった事だった。
 それがわかるから、【ふたば】はまず、【さくま】にやらせる事にした。
 彼がどうしても出来なくなってから初めて彼女が出る。
 そういうスタイルを取ることにしたのだ。
 人間、守ってもらってばかりだと弱いままだ。
 決して強くはなれない。
 それよりは多少なりとも苦難を経験した方が心身共に強くなる。
 余り強すぎる困難だとつぶれてしまう。
 適度な方が良い。
 バランス良く、試練を与えた方がすくすくと強くなっていく。
 それを【ふたば】はよくわかっていた。
 【ちえり】には無い【ふたば】の特性。
 それは、保護対象の成長を促す事に長けているという事だった。
 冒険に出るのは良い。
 だが、弱いまま冒険に出たら必ず破綻する。
 守っても守りきれない時が来る。
 それが【ちえり】の失敗だ。
 だから、その失敗の情報を受け継いだ【ふたば】は同じ様には行動しない。
 同じ轍を踏まない。
 今度は【さくま】を強くする道を選んだ。
 冒険を続けて行けば、【ふたば】も【ちえり】と同じ様に廃棄処分となる時が来る可能性は高い。
 その時、一時的に【さくま】は1人になる。
 その無防備な状態の時に敵に襲われれば一溜まりもない。
 【ちえり】が死んだ時、【さくま】が生き残れたのは偶然だ。
 奇跡的に生き延びたに過ぎない。
 今度は駄目だろう。
 今度の時は殺される。
 だから、その間、自分で身が守れる様になるために彼を強くする必要がある。
 【ふたば】はそう考えていた。
 幸い、【ちえり】の死を乗り越えた【さくま】は精神的に強くなっていた。
 だから、【ふたば】のアドバイスを素直に受け入れて、強くなろうと必死にもがいている。
 これは【ちえり】に守られていた間の【さくま】にはあり得なかった事だ。
 【ちえり】と共に居た頃の彼は独りよがりの考えで行動し、よく失敗して【ちえり】に優しくフォローされていた。
 それではだめだったと言う事だ。
 失敗すれば必ず手痛いしっぺ返しが来る。
 その事を身をもって学ばなければならなかった。
 今はその時期。
 だから、【ふたば】は困難な選択をさせる。
 心を鬼にして【鬼軍曹】を演じる事に決めていた。
 今回の試練は序の口。
 【ナマクーラ】の【剣】くらい簡単に抜ける様になってもらわないと行けない。
 だから、アドバイスはするが決して手は貸さない。
 【ふたば】が手を貸し、二人で【剣】を抜けば簡単に取得出来るのに、それをやらない。
 自分で出来る事は自分でさせる。
 それが【ふたば】なりの守り方だ。
 【ふたば】は信じている。
 【さくま】ならやり遂げると。
 それを信じて、【さくま】の特訓を見守った。
 そして、見守り続けて約4日。
 へとへとになりながらも【さくま】は岩を動かした。
 後は本番。
 まずは、体力をつけてからと思って、【ふたば】は食事を用意する事にした。
 が、食材を探している間に、
「ぬ、抜けた。
 抜けたよ、【ふたば】さん。
 抜けたよ」
 と言って【さくま】は、【ふたば】を呼んだ。
 【ふたば】は、
「ちょっ……
 大丈夫?」
 と言って駆け戻ってきた。
 無茶はさせるが無理はさせない。
 だから、体力を回復させてからと思っていたが、【さくま】は休みもせず、続けて【剣】を引き抜いたのだ。
 【さくま】は、
「もう、ぺこぺこだよ。
 何かないかな?」
 と言ってほほえんだ。
 【ふたば】は思わずポッとなる。
 そして、
「――あ~……はいはい。
 お疲れ様。
 ちょっと待っててねぇ。
 今、絶品料理を作るからさ」
 と言った。
「ホント?
 そりゃ楽しみだ」
「空腹は最高の調味料ってね。
 だから、どんなの作ったって喰えりゃ最高の料理ってわけさ」
「何だよ、それはっ」
「うそうそ。
 ホントに美味しい料理だからさ。
 食べて見てよ。
 疲れも取れるよ」
「――ありがとうね」
「何がさ?」
「僕を強くしてくれてるんだろ。
 だからさ」
「当たり前じゃないのさ。
 あたしは旦那の護衛だよ」
「当たり前なんかじゃないよ。
 君の意思だ。
 君の意思が助けてくれている。
 だから感謝している。
 正直、【ちえり】さんが居なくなって不安だった。
 絶望した。
 だけど、そんな僕に発破かけてくれた。
 優しくされたら駄目だった。
 立ち直るためにはきついことをする必要があった。
 それを君はしてくれた」
「意地悪したって事かい?」
「違うよ。
 優しく見守ってくれた。
 それが僕にはわかる。
 だから、ありがとう。
 本当に助かった」
「な、なに言ってんのさ、急に」
「感謝の言葉を言える内に言う。
 そうする事にした。
 言えなくなって後で後悔しないために」
「【ちえり】の事かい?
 辛かったね」
「そうだね。
 だけど、彼女達の死を無駄にはしない。
 そのために前に進む。
 そう決めたんだ」
「そうかい。
 それで良いと思うよ。
 あたしは【ちえり】じゃない。
 だから【ちえり】の真似は出来ない。
 だけど、あたしはあたしなりに旦那のサポートをしていくよ。
 それだけは誓える」
「これからよろしく」
「あぁ、そうだね。
 よろしく」
 と話した。
 こうして、絆を少し深めたのだった。
 【ふたば】との冒険は始まったばかり。
 これからどうするかだ。


第九章 ハイディメンショナルメモリー――高次元記憶――


 【ふたば】が最初に与えた試練で【さくま】は、【攻】の【ナマクーラ】、【剣(名称無し)】を手に入れた。
 試しに【剣】に呼応する巨大な【剣】を出し入れしてみた。
 確かに手に持った【剣】に呼応する様に巨大な【剣】も動いた。
 切れ味はちょっと微妙だったが、それでも一応、武器として成立している様だ。
 後は、まず、鞘作りだ。
 【剣】はあるが【鞘】が無い。
 なまくらとは言え、【刃】をそのままにして、持ち歩くのは危険だ。
 そこで、修行で使った折れた枝を削って【鞘】を作る事にした。
 【鞘】を作る間の3日間はさらにその場に留まる事になった。
 幸い、だれも【剣】を引き抜きに来ないへんぴな場所だったので、敵となる様な存在は現れなかった。
 食材も無いので、少し離れた位置に取りに行かなければならないが、それさえ我慢すれば野宿にも適した場所だった。
 【鞘】を作りながら次の行動について話し合ったのだった。
 【さくま】の案としては【家族】を増やしたいと言う事だった。
 モンスターは過去、3匹までしか仲間にしていない。
 それもまともに仲間にしたとは言い切れず、【ゲノムフュージョン】もやっていない。
 だからもっとじっくりとやりたいという事だった。
 それに対して、【ふたば】は反対だった。
 理由は現時点で仲間に出来る様なモンスターは戦力として【弱い】という事だ。
 【ちえり】が亡くなった事件が起きた時も味方にしている3匹の【モンスター】がもっと強かったら、たかが【バンゾク(【ちえり】達を殺害した【邪鬼】の名前で落ち着いてから決めた)】ごときにやられなかったはずだ。
 それは【マァティー】も【メルヘーカ】も【バッタリフライ】も安全地帯に住むモンスターだからだ。
 だから、捕獲も罠にかければ比較的簡単に捕まえられるし、仲間にするのも容易だった。
 そんなモンスターを仲間にしていてもこの先の冒険では埒があかないというのが正直な感想だった。
 必ず、足手まといになる。
 それは確実だと言えた。
 【さくま】にして見れば【家族】を悪く言われるのは面白くないが、【マァティー】が殺されたのも寝ている間だったし、危機感が無かったとも言える。
 【メルヘーカ】も【バッタリフライ】も【バンゾク】の攻撃に対して、大した抵抗力を示さなかった。
 それは紛れもない事実だった。
 モンスターとしての特技、特性はあるが、安全地帯で生活しているため、実戦としてそれを使い慣れていない。
 そんな印象があった。
 同じ【マァティー】、【メルヘーカ】、【バッタリフライ】でも危険地帯に居るモンスターであれば、問題は無かった。
 だが、【さくま】と【家族】になった3匹はどれも小さかった。
 命の危険と隣り合わせの危険地帯で暮らしていればもっと身体がでかかった。
 弱肉強食の世界。
 残念ながら、あの三匹は捕食者ではなく、食べられる方の立場だった。
 だから、【さくま】は【メルヘーカ】と【バッタリフライ】をあの場所に置いて行ったのだ。
 だから否定は出来ない。
 仲間にするなら、家族にするなら強く無くてはならない。
 ペットを飼う様な愛玩モンスターであってはならないのだ。
 そういう意味では【ちえり】が用意したプランは何もかもが甘かったと言えた。
 甘えさせる事は優しさではない。
 時には本人のため、厳しい事も言わねばならない。
 それを【ふたば】はわかっていた。
 だから、仲間にするならこれまでの様なやり方では駄目だと言った。
 そして、仲間を増やすのは今ではないとも告げた。
 今、やるべき事は効率良く【辞書】を埋める【アイテム】を手にする事だ。
 その【アイテム】が無ければ、必ず取りこぼしが出てしまう。
 その地の全ての事柄を【辞書】におさめるのに見聞きしたこと、体験した事では事足りないのだ。
 効率よく情報を精査して収集する【アイテム】が必要不可欠となる。
 【さくま】はその【アイテム】を1つも持っていない。
 それが問題なんだと彼女は言っていた。
 その【アイテム】の名前は【ハイディメンショナルメモリー(高次元記憶)】というもので、全部で18種類存在すると言われている。
 最も、【さくま】にとってわかりやすい【ハイディメンショナルメモリー】は、【クラウドネッター】と呼ばれるものらしい。
 それは丁度、【インターネット】に近いものだからだ。
 【さくま】の知識では【インターネット】とは、情報を検索して調べるものだ。
 【クラウドネッター】は、その上空を飛行させる事で、下にある特定の範囲のものを自動検索する【アイテム】だ。
 そういう意味では【スキャナー】にもイメージが似ているし、飛行させるという部分では【ドローン】にも似ている。
 簡単に表現すれば、上空から撮影し、それを分析して【事典】に書き込む【アイテム】となる。
 これがあれば、わざわざ危険な何かに近づいて調べる必要は無いし、広範囲に調べる事も出来る。
 これを使う事で大幅な情報収集も可能となる。
 モンスターで考えても、その地に居る全てのモンスターを観察するには、気候条件や運など様々な条件をクリアしないとコンプリートは難しいし、コンプリートしたという保証も得にくい。
 だが、【クラウドネッター】で飛び回れば、虱潰しに調べる事が出来、少なくとも自分で見聞きするよりかなりの精度でコンプリートが見込めるのは容易に想像がつく。
 もちろん、これだけでは駄目だ。
 【クラウドネッター】にも限界がある。
 飛び回れない所は当然わからないし、全てを飛び回る事など事実上、不可能に近い。
 【木の越果】の完全コンプリートを目指すにはこの【クラウドネッター】だけでも実現不可能だ。
 他の17種類の【ハイディメンショナルメモリー】が必要となる。
 それを差し引いても【クラウドネッター】があるとないとでは、全然違う。
 雲泥の差だ。
 まずは、比較的、手に入りやすい、【クラウドネッター】を手に入れる事。
 それを優先させた方が良いと【ふたば】は提案したのだ。
 言われて見れば確かにそうだ。
 人員は【さくま】と【ふたば】しか居ない状況で、全てを知れというのは無理な話だ。
 例え1000年の時が与えられて居ようと実現不可能な目標だ。
 【ちえり】も同じ事を言っていた。
 それを知るための【アイテム】が必要だと。
 それが、【クラウドネッター】を含む【ハイディメンショナルメモリー】なのだと言うのがわかった。
 【ハイディメンショナルメモリー】を手に入れるまでの行動はほとんど意味がない。
 【さくま】達が1つ1つ確認する作業も【クラウドネッター】ならあっという間だ。
 【ふたば】はそれが言いたかったらしい。
 いちいちごもっとも。
 そんなこんなで話し合い、結局【クラウドネッター】を求めて次の冒険をする事になったのだった。
 【クラウドネッター】と一口に言っても手に入れるのは簡単な事ではない。
 そもそも、【クラウドネッター】とはピンからキリまで数万も存在するのだ。
 その内、使える物は【シリアルナンバー】が千番以内の1000器だけ。
 それ以外はまがい物に過ぎない。
 似たような能力はあっても取りこぼしが多い偽物に過ぎないのだ。
 最低条件として、その1000器だけは全て集めなくてはならないのだ。
 タダでさえ少ない知的生命体を探し、その情報を集め、正しい情報だけを精査して、その情報を元に【クラウドネッター】探す事になる。
 これまでの冒険の様にちまちまやっている様な余裕は無いのだ。
 それに、トラブル、イベントは【クラウドネッター】だけではない。
 【クラウドネッター】にたどり着くまでにたくさんの出来事が【さくま】達を待ち伏せていた。
 その例をいくつか挙げれば――
 (001)【グレーターバレーへの落下事件】、
 (002)【大盗賊団との戦い】、
 (003)【盗まれた秘宝の捜索】、
 (004)【神降臨祭り】、
 (005)【深海城の浮上】、
 (006)【未確認飛行生物の襲来】、
 (007)【神隠し事件】、
 (008)【五国間の戦争】、
 (009)【不死を失った巫女の登場】、
 (010)【カジノレース】、
 (011)【コロシアムダービー】、
 (012)【幽霊船】、
 (013)【魔神像の暴走】、
 (014)【変革団の登場】、
 (015)【盗まれた秘伝】、
 (016)【失われた一族の台頭】、
 (017)【忘却の沼の行方不明】、
 (018)【大噴火】、
 (019)【止められた大地震】、
 (020)【津波に乗り移った霊】、
 (021)【マーダーギルドの登場】、
 (022)【強制殺し合いの手紙】、
 (023)【無法地帯の出現】、
 (024)【アンラック現象】、
 (025)【不思議な現象の解明】、
 (026)【勇気を吸い取る怪物の出現】、
 (027)【出鱈目な壺】、
 (028)【摩訶不思議な建物の謎】、
 (029)【怪しい老人】、
 (030)【逃げ出した英雄】、
 (031)【幻の大都市】、
 (032)【国の消滅】、
 (033)【敵国の王族同士の結婚】、
 (034)【狂ったダンス】、
 (035)【呪いの大首】、
 (036)【未来を見通す目】、
 (037)【過去から来た男】、
 (038)【レディーデストロイ】、
 (039)【ドラゴンデーモン大量発生】、
 (040)【マスタークラスの死亡】、
 ――など数え上げたらきりがない。
 実際にはこの数十倍もの出来事が【さくま】達は体験したのだった。
 気づいてみれば【ふたば】が動き出してからあっという間に三年の月日が経とうとしていたのだった。
 はっきり言えばまだ三年かと言う状況だ。
 それくらいたくさんイベントがあったのだ。
 それでもまだ、1000番以内の【クラウドネッター】にはたどり着かず、良いとこ、2000番代の【クラウドネッター】がいくつか見つかったくらいだ。
 ほとんどが10000番代以上のバッタもんの【クラウドネッター】ばかりが見つかっていた。
 番号が若いほど精度が高いので、10000番代以上ともなると正規としては使えない代物だ。
 飛ばしてみてはいるが、取りこぼしエリアがかなりあるので、また正規の【クラウドネッター】を飛ばし直して調べ直さなければならない。
 それでも数百器は集めた【クラウドネッター】の影響で、【さくま】の【事典】にはかなりの情報が集まっていた。
 それでも【雲孫事典】の【花飾り】は【蕾】から【開花】状態になった程度だが。
 【さくま】は、
「おかしいな……」
 とつぶやいた。
 【ふたば】は、
「何が?」
 と聞いた。
「この【雲孫事典】だよ。
 既に数百万語は溜まっているはずなのに、まだ、【花飾り】が下から二つ目のレベルの【開花】状態だ。
 【雲孫事典】って一番下の【事典】だよね?
 いくら何でも溜まらなさすぎだって思うんだよな」
「それだけ、この【木の越果】には情報が多いってことだね。
 まだ、三年三ヶ月しか行動してないんだよ。
 あたしはそれで、【開花】状態になっただけでも上出来だと思うけどね。
 最も、このままのペースだと1000年って期間じゃ全然間に合わないけどね。
 それには【クラウドネッター】の正規版を全て揃えるのと他の17種類の【ハイディメンショナルメモリー】の情報を手に入れる事。
 それが第一だね。
 そもそも、途中でモンスター確保を認めたんだから、そろそろ正規版の【クラウドネッター】の情報をつかんで欲しいところだけどね」
 と話した。
 そう。
 【さくま】は冒険1年が経過した頃、【ふたば】にモンスター確保を認められた。
 それで彼が確保したモンスターは19匹だ。
 その中で、【ゲノムフュージョン】も試した。
 【ふたば】に教わりやってみたのだ。
 【ゲノムフュージョン】とは【地球】で言うところの【ゲノム編集】や【遺伝子配合】などがイメージとして近い。
 それを【スペルオペレーション】と呼ばれる【特殊な言語による手術】を行い【モンスター】同士を掛け合わせるのだ。
 それにより【モンスター】の数は減ってしまうが、代わりに上手く行けば、その減ったモンスターより数十倍以上の力を持った新種の【モンスター】を生み出せるのだ。
 また、この【ゲノムフュージョン】の特徴は【雄】と【雌】の2匹で子供を作るというものではなく、融合する事なので、カップルが【雄】と【雌】である必要はない。
 【雄】と【雄】、
 【雌】と【雌】でもかまわないのだ。
 更に言えば二匹である必要もない。
 例えば、
 【雄】と【雄】と【雄】、
 【雄】と【雄】と【雌】、
 【雄】と【雌】と【雌】、
 【雌】と【雌】と【雌】、
 のどの組み合わせ(三匹)でも可能だし、
 【雄】と【雄】と【雄】と【雄】、
 【雄】と【雄】と【雄】と【雌】、
 【雄】と【雄】と【雌】と【雌】、
 【雄】と【雌】と【雌】と【雌】、
 【雌】と【雌】と【雌】と【雌】、
 というどの四匹の組み合わせでもかまわない。
 全て異種族でもかまわないし、【雄】と【雌】以外にも【両性具有】、【無性】、【全く別の性】も存在する事も確認していてその組み合わせであってもかまわない。
 もちろん、同種族であれば、【雄】と【雌】の交尾による子作りは出来るが、【ゲノムフュージョン】とは別の考えだ。
 簡単な違いは【子作り】とは【雄】と【雌】による交尾でその状態よりも個体数を増やす行為。
 【ゲノムフュージョン】とは優れた【遺伝子同士】を掛け合わせて【融合】し、個体数は減るが、以前の状態よりも【進化】を基本とする行為となる。
 似ている様で全く別の行為なのだ。
 【さくま】はこの【ゲノムフュージョン】で新たに【新種】を7種類、生みだしたが、残念な事に、今から二週間ほど前に【パープリ】というモンスターに襲われ、【仲間】にした【モンスター】を全て失ったばかりだった。
 【パープリ】の特徴は【匂い】を変化させる事だった。
 【パープリ】の攻撃によって、【モンスター】の匂いを変えられたのだ。
 それまで【ちえり】に習った【スメルシードプラント】の【ジェル】を作って罠にかけて仲間にしていたのだが、匂いを変えられたことによって仲間(家族)として認識されなくなってしまった。
 結果として、【マァティー】、【メルヘーカ】、【バッタリフライ】の時のようにお互い思いを残して後ろ髪引かれるような思いでの別れではなく、完全なる喧嘩別れとなってしまった。
 2年近く、大切に【モンスター】を育てていただけに非常に残念な結果となってしまったのだ。
 これに懲りてしばらくの間は【モンスター】を仲間にするのではなく、本来の目的である【クラウドネッター】収集に集中する事にしていたのだった。
 また、【モンスター】だけではない。
 【チェーンアーム】も複数所有している。
 【ブロウズ】132種類、
 【シルバス】68種類、
 【ゴルドス】23種類、
 【プラチナス】4種類、
 ――を手に入れ、それを冒険に取り入れていた。
 【ナマクーラ】に至っては4桁越えの所有をしていた。
 さすがに神格化された3ランクは手に入れられなかったが、それでも【チェーンアーム】の所有は【さくま】の戦力を大幅にアップさせていた。
 更に特徴的な変化と言えば、【覚身(かくしん)】だろうか?
 いわゆる【変身】の様なものが出来る様になったのだ。
 これは【覚器(かくき)】と呼ばれる謎の【物体】に自分の【血液】で書いた【特殊文字】をつける事で契約が成立となる。
 この契約は単純に
 【3回覚身したら契約終了】、
 【5回覚身したら契約終了】、
 【10回覚身したら契約終了】、
 【3ヶ月覚身したら契約終了】、
 【半年覚身したら契約終了】、
 【一年覚身したら契約終了】、
 【三年覚身したら契約終了】、
 【五年覚身したら契約終了】、
 【十年覚身したら契約終了】、
 【傷つけたら契約終了】、
 【敵対者を3体倒したら契約終了】、
 【敵対者を5体倒したら契約終了】、
 【敵対者を10体倒したら契約終了】、
 ~……等々条件が様々設けられている。
 また、【覚器】のランクも下から、
 (01)【下下器】、
 (02)【下中器】、
 (03)【下上器】、
 (04)【下特器】、
 (05)【下超器】、
 (06)【中下器】、
 (07)【中中器】、
 (08)【中上器】、
 (09)【中特器】、
 (10)【中超器】、
 (11)【上下器】、
 (12)【上中器】、
 (13)【上上器】、
 (14)【上特器】、
 (15)【上超器】、
 (16)【特下器】、
 (17)【特中器】、
 (18)【特上器】、
 (19)【特特器】、
 (20)【特超器】、
 (21)【超下器】、
 (22)【超中器】、
 (23)【超上器】、
 (24)【超特器】、
 (25)【超超器】、
 (26)【超絶器】、
 (27)【究極器】、
 ――と27ランク存在しているらしい。
 手に入れたのはせいぜい、下から五番目の【下超器】レベルどまりだが、これを使えば、仮面ライダーやウルトラマンの様に超人的な力が使える様になるため、使い勝手はかなりよいと言えるアイテムだった。
 他にも数え上げたらきりがないほどの【アイテム】をゲットして、自身の強さに変換していった。
 強くなって、
 強くなって、
 強くなって、
 強くなりまくった。
 それでも足りないと、
 修行して、
 修行して、
 修行して、
 修行をしまくった。
 全ては、【ちえり】の時の様な後悔をしないため。
 とにかく強さに対してどん欲にそれを求めていた。
 そんな彼を【ふたば】は的確にサポートした。
 この頃には最初の内のぎこちなさは無い。
 【ふたば】との間にはツーカーの仲になっていた。
 三年も一緒に行動すれば、そうなるのは必然とも言える。
 ちなみに三年経ったが、【さくま】も【ふたば】も容姿に変化が無い。
 【ふたば】も【ちえり】と同じ様に人間では無いため当然だが、【さくま】の方も【KAMUI】に身体の時(老化)を止められているため、ずっと同じ姿のままだった。
 だが、精神的には大分成長し、頼りがいのある男性に成長していた。
 【さくま】は、
「ガセネタばかりで、正しい情報が無いな。
 どうしようか……
 あ、そうだ。
 思い出した。
 なんて言ったかなぁ、【泥人族】の……たしか……【おぼろ】だ。
 【おぼろ】さんって人に貸しがあって、1つだけまだ返してもらってない。
 彼に情報を聞いてみよう」
 と言って、【おぼろ】にもらった【笛】を吹いた。
 これは【泥人族】にだけ聞こえるという特殊な笛だ。
 これを吹けば出てきてくれるって事だったけど、三年以上も経っているし、果たして出てきてくれるかどうか。
 ものは試しと吹いてみる。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」
 と息を吹き込んだ音がする。
 これは普通に聞いたらただ息を吹き込んでいるだけだが、【泥人族】には特殊な音波として聞こえるらしい。
 しばらく待つ。
 すると、
「お久しぶりですね。
 元気でしたか?」
 という声がした。
 【さくま】は、
「?」
 と疑問符を浮かべた。
 それは声が彼の記憶とは全く別の物だったからだ。
 彼の記憶にある【おぼろ】の声はしゃがれ声で、かすれた感じのイメージのだみ声だ。
 ところが今、聞こえた声は【小さな男の子】という感じの声だった。
 声変わりする前の男の子の声。
 そんな感じの声だ。
 【さくま】は、
「誰?」
 と尋ねた。
 その声の主、整った顔の男の子は、
「嫌だなぁ、忘れたんですか?
 僕の名前は【まほろ】です。
 あなたに命を救ってもらった【夢遊人(むゆうじん)】ですよ」
 と答えた。
 知らない。
 そんなの知らない。
 知る訳がない。
 【さくま】は、
「知らない、
 知らない、
 知らない、
 知らないよ。
 何言ってんだよ君?
 僕が呼び出したのは【泥人族】の【おぼろ】って男性だ。
 【夢遊人】なんて種族は知らない。
 君も男性の様だけど、【おぼろ】さんはそんな容姿じゃなかった。
 言っちゃなんだけど、ボロボロの肌で、君の様に整ってなかったし、声質も全然違う。
 それに彼は自分の事を【あっし】と呼んでいた。
 全く違う。
 君は誰なんだ?」
 とまくし立てた。
 子供とは言え、明らかに怪しい人物だ。
 【まほろ】は、
「あぁ、そっか。
 【事象】が変わったんですね、それ。
 だから、僕の認識とあなたの認識が異なるんですよ」
 と言った。
 【さくま】の
「なにそれ?
 どういう事?
 僕にわかる様に説明してくれないか?」
 という質問に、彼は
「あぁ、そうですね。
 初めてだとわかんないですもんね。
 ではご説明いたします」
 と答えたのだった。


第十章 木の越果の真実


 【泥人族】である【おぼろ】を呼び出したはずの【さくま】。
 ところが、呼び出されて来たのは【夢遊人】と呼ばれる別の種族だった。
 口調も姿形も全て違う。
 醜い容姿だった【おぼろ】は、丹精な顔立ちの【まほろ】という少年にすり替わっていた。
 意味がわからない【さくま】。
 それに対して、【まほろ】は【事象が変わった】と伝える。
 それでも意味がわからない彼に対して、【まほろ】は説明を続けるのだった。
「何から話しましょうかね?
 ではまず、あなたの持っている【事典】から説明した方が良いですかね?
 あなたはその【事典】にこの【木の越果】の全てを記すために冒険している。
 違いますか?」
「ち、違わない。
 確かにそうだ。
 僕はそう言われて、今も続けている」
「何故?」
「何故って、【KAMUI】って存在にそう言われたから」
「では何故、その存在はあなたに【事典】を埋める様に言ったんです?」
「それは、その……
 わからない。
 でもそうする事が僕が生きる目的だって」
「何の疑問も持たなかったんですね。
 ではそれについてお答えしましょう。
 それで貸しは無しという事でお願いします」
「わかった。
 説明してくれ」
「【木の越果】と呼ばれるこの場所ですが、元は何だったかご存じですか?」
「多分、【地球】……」
「そう。
 【地球】と言う1つの惑星です。
 その惑星に対し、異星、もしくは高次元の何かから特別な【アイテム】がもたらされました。
 それがその【事典】です」
「え?
 これ?」
「正確には違います。
 それを含めた全ての【越果】に存在する【事典】の元になった【巨大事典】です。
 その【事典】はある1人の男性に渡されました。
 とても不幸だった男性です。
 辛く、
 悲しく、
 惨めで、
 悲惨な、
 可哀想な男性でした。
 その男性には度重なる不幸が襲っていました。
 家族の死、
 恋人の裏切り、
 友達の蒸発、
 破産、
 詐欺、
 殺害予告、
 殺人未遂、
 薬物汚染、
 大病、
 色んな不幸です。
 そんな不幸な男性を哀れんで天は彼にその【事典】を使わせたのかも知れませんね」
「い、意味がよく……」
「わかりませんよね。
 落ち着いて、続きを聞いてください。
 【事典】にはある条件を満たすとある奇跡が起きる【力】がありました。
 ありとあらゆる【事象】を組み替えるという【力】です。
 その男性はその条件を満たし、その【力】を発動させます。
 それで出来たのが12の【越果】です。
 【地球】は12の【越果】に分けられ、根本的な仕組み事態が組み替えられました。
 あなたは【地球】から来た人ですよね?
 代表として選ばれた1人。
 違いますか?」
「だ、代表?
 よく、わかんないんだけど、どういう事?」
「【力】を得た男性の名前は【神】の【威】を借りると書いて【神威(かむい/KAMUI)】と言うそうです。
 彼は【地球】全体が嫌で嫌でたまらなかったそうです。
 ですが、【地球】に僅かながら希望も持っていた。
 それは、一度は愛した恋人の存在、
 大切だった家族の存在、
 心を通わせた仲間の存在が居たからです。
 だから、希望を残したかった。
 自分と同じ条件を満たせば、【越果】を【地球】に戻すための【ヒント】を与えるという希望を」
「そ、それは……」
「そう。
 あなた方12人の少年達の事ですよ。
 あなた方は【KAMUI】が与えた最後の希望。
 あなた方が【KAMUI】が行ったと同じ、全ての【情報】を書き記せば、【越果】を【地球】に戻す。
 そう示しているのです。
 私達、【夢遊人】、あなたにとっては【泥人族】だと思いますが、それらは【変化の民】でもあります。
 あなた方がこの【木の越果】で情報を書き記すに従って、情報量に応じて、【存在】が塗り替えられます。
 あなた方が【辞書】を書き記せば書き記すだけ、私達は変化していきます。
 最初は私達だけ。
 だけど、上位の【事典】を埋めて変化させれば、この【木の越果】の状況も変化して行きます。
 今はここにあるありとあらゆるものがあなたの知らないものばかりでしょう。
 ですが、【事典】を埋めて行けば、あなたの知っている何かが見つかるかも知れませんよ。
 あなたが彼女たち【お庭番】につけた名前。
 実は【地球】の言葉なんでしょ?
 【事典】を埋めて行けば、見れますよ。
 きっと――」
 と言った。
 それを聞いた時、【さくま】は衝撃の大きさに感極まった。
 思わず、涙が頬を伝う。
 戻れるんだ――【地球】に。
 ユーラシア大陸も、
 アフリカ大陸も、
 北アメリカ大陸も、
 南アメリカ大陸も、
 オーストラリア大陸も、
 南極大陸も、
 ――復活するかも知れない。
 もちろん、日本列島も。
 関東も、
 北海道も、
 九州も、
 沖縄も、
 近畿も、
 東北も、
 四国も、
 中国も、
 信越も、
 北陸も、
 ――復活するかも知れない。
 土地だけじゃない。
 見たことの無い植物でいっぱいのこの【木の越果】にも、
 桜や、
 椰子や、
 杉や、
 松や、
 紅葉や、
 白樺や、
 薔薇や、
 百合や、
 蘭や、
 菫や、
 たんぽぽや、
 ひまわりや、
 朝顔や、
 あじさいや、
 ヒナギクや、
 チューリップや、
 ぺんぺん草や、
 ススキや、
 稲や、
 オジギソウや、
 すずなや、
 なずなや、
 菜の花や、
 コスモスや、
 藤や、
 こけや、
 名も無き木、
 名も無き花、
 名も無き草、
 そう言った【地球上】にあった植物が復活するかも知れない。
 当然、植物だけじゃない。
 【車】、
 【電車】、
 【飛行機】、
 【船】、
 【バイク】、
 【自転車】、
 【パソコン】、
 【スマートフォン】、
 【冷蔵庫】、
 【トースター】、
 【電子レンジ】、
 【戸棚】、
 【本箱】、
 【小説】、
 【漫画】、
 【アニメ】、
 【ゲーム】、
 【貨幣】、
 【手紙】、
 【パソコン】、
 【インターネット】、
 【傘】、
 【風呂敷】、
 【タキシード】、
 【ドレス】、
 【着物】、
 【洋服】、
 【コスチューム】、
 【宝石】、
 【ゴミ箱】、
 【階段】、
 【家】、
 【お城】、
 【遊園地】、
 【温泉】、
 【卵】、
 【鶏肉】、
 【豚肉】、
 【牛肉】、
 【羊肉】、
 【馬肉】、
 【スープ】、
 【味噌汁】、
 【ご飯】、
 【カレーライス】、
 【ラーメン】、
 【ジュース】、
 【アルコール】、
 【ワイン】、
 【ウイスキー】、
 【焼酎】、
 【激辛】、
 【スイーツ】、
 【リンゴ】、
 【梨】、
 【メロン】、
 【スイカ】、
 【柿】、
 【ミカン】、
 【牡蠣】、
 【たこ】、
 【いか】、
 【魚類】、
 【鳥類】、
 【昆虫】、
 【哺乳類】、
 【犬】、
 【猫】、
 【兎】、
 【ハムスター】、
 【ネズミ】、
 【鹿】、
 【カンガルー】、
 【パンダ】、
 【熊】、
 【ライオン】、
 【オオカミ】、
 【キリン】、
 【ゾウ】、
 【細菌】、
 【ウイルス】、
 【猛毒】、
 【薬】、
 【放射能】、
 【麻薬】、
 【警察】、
 【泥棒】、
 【殺人鬼】、
 【スリ師】、
 【詐欺師】、
 【宗教】、
 【歌】、
 【楽器】、
 【メロディー】、
 【楽譜】、
 【彫刻】、
 【絵画】、
 【フィギュア】、
 【フィギュアスケート】、
 【ラグビー】、
 【野球】、
 【サッカー】、
 【バスケットボール】、
 【バレーボール】、
 【バレエ】、
 【ダンス】、
 【こけし】、
 【お土産】、
 【お年玉】、
 【落とし穴】、
 【地震】、
 【雷】、
 【火事】、
 【親父】、
 【母親】、
 【性行為】、
 【親族】、
 【国民】、
 【選挙】、
 【投票】、
 【暦】、
 【歴史】、
 【博物館】、
 【植物園】、
 【動物園】、
 【水族館】、
 【イルカショー】、
 【猿回し】、
 【サーカス】、
 【職業】、
 【船乗り】、
 【大工】、
 【コック長】、
 【IT社長】、
 【課長】、
 【部長】、
 【専務】、
 【次長】、
 【係長】、
 【のんべぇ】、
 【ヤンキー】、
 【ロリータ】、
 【レスラー】、
 【消防士】、
 【警察官】、
 【刑事】、
 【弁護士】、
 【裁判官】、
 【UMA】、
 【UFO】、
 【幻獣】、
 【ドラゴン】、
 【エルフ】、
 【ドワーフ】、
 【ニンフ】、
 【フェアリー】、
 【ゴブリン】、
 【ドリアード】、
 【サラマンダー】、
 【フェニックス】、
 【量子コンピューター】、
 【パラドックス】、
 【ブラックホール】、
 【超新星爆発】、
 【ガンマ線バースト】、
 【ボイド】、
 ~……良い物、悪い物、【地球】にあるもの空想上のもの区別なく、次から次へと連想されていく。
 名前を挙げて言ったら本当にきりがない。
 思いつくものを何でも答えられるという条件であれば、誰でもたくさん答えられる。
 それだけの量がある。
 そうなのだ。
 【地球】にあるもの――名付けられたものは無数にある。
 【さくま】の居た時代では【パソコン】や【スマホ】で色んな情報を知る事が出来た。
 【KAMUI】と呼ばれたその男性は何らかの方法で、【地球】の全てを【知る】事が出来た。
 そして、【地球】を塗り替えたのだ。
 だったら、戻す方法はその逆をやれば良い。
 【越果】の全てを書き記せば、【越果】は【地球】に戻す事が出来る。
 出来なくとも少なくとも【ヒント】となる何かはあるはずだ。
 何かは得られるはずだ。
 【まほろ】という少年はそれが言いたかったのだった。
 衝撃の事実。
 そう呼ぶにふさわしい、情報だった。
 自分にはそんな大義名分があったのを改めて知った。
 【まほろ】は、
「これで貸し借りは無しですよ。
 これからはその笛で呼ばれれば出てきますが、質問に答えるにはそれなりの見返りを期待していますのでどうかよろしくお願いしますよ」
 と言った。
「あ、うん。
 わかった。
 確かにタダで教えてもらうには凄すぎる情報だ。
 これからはお礼も考えるよ」
「あなたが知りたいという情報であれば、他の11の【越果】についても多少はお答え出来ますが、どうされます?
 今ならお安くしておきますよ」
「い、いや――いい。
 やめておくよ。
 それに見合う、お礼を用意できない。
 少なくとも今は。
 聞ける時が来たら、それは聞くよ。
 多分、全部の【越果】の情報を記さないと【地球】には戻らないと思うんだ。
 そして、僕は【木の越果】を担当している。
 だから、まずは、この【木の越果】の完全制覇を目指すよ。
 他の【越果】についてはその後だ。
 前に聞いた話だと、【越果】には5つのランクがあって、僕が担当している【木の越果】に与えられた時間は1000年だ。
 他の【越果】は、レベル1が1000年、
 レベル2が2000年、
 レベル3が3000年、
 レベル4が5000年、
 レベル5は10000年かかるって聞いた。
 つまり、僕の任務が先に終わる可能性が高いって事だ。
 自分の任務が終わったら、他の【越果】の手伝いも考えないと行けないかも知れない。
 その時になったら改めて質問したい。
 もちろん、それなりの対価を用意してからね。
 そう考えている」
「そうですか。
 それが良いかも知れませんね。
 それでは僕はこれで失礼します。
 では、また」
 と言って、【まほろ】は歪んだ空間に溶け込む様にして消えたのだった。
 やはり、【泥人族】の【おぼろ】とは異なる人種となっている様だ。
 ならば、次に呼び出す時も全く違う人種になっている可能性がある。
 その事だけは頭に入れておこうと思ったのだった。
 【まほろ】を見送る形になった【さくま】に対して、【ふたば】がツッコンだ。
「ちょっと。
 【クラウドネッター】について聞きたいんじゃなかった?」
 と。
「あっ――!
 忘れてた。
 聞いた情報があまりにも凄すぎて、うっかり聞き忘れてしまった。
 あぁ……どうしよう?」
「どうしようって言ったって、貸しは無くなっちゃったんでしょ?
 情報を得るには対価を用意しないと聞けないでしょうが?」
「そうだ。
 どうしよう……」
「ドジだねぇ……
 これだから……」
「ごめん、
 ごめん。
 でも、ミスはリカバリーすれば良い。
 それだけの情報を今回は得たと思えば失敗とは言えないよ。
 正直、【クラウドネッター】と今の情報。
 比べたら今の情報の方が圧倒的に知りたかった情報だし。
 これで良いんだよ。
 今の情報の対価なんてそんなに簡単に用意出来ないと思うし、【クラウドネッター】の方が対価としては安いはずだよ」
「まぁ、そうだね。
 そういう事にしておきますか」
「ポジティブシンキングだよ。
 前向きに行こう。
 前向きに」
「わかった。
 頑張んだね、旦那」
 と言って【ふたば】も納得したのだった。


第十一章 他の【越果(えっか)】


 【夢遊人】となった【まほろ】の話を聞いた【さくま】と【ふたば】。
 冒険はまだまだ続く。
 だが、最終目的となる様な秘密を聞くことが出来た。
 【越果】を【地球】に戻す。
 これが【さくま】の絶対にやり遂げなければならない最終目標だ。
 これが確認出来た事は彼にとってはとても大きいことだ。
 最終目的がわからず、ただ、【辞書】を埋める事を考えたら遙かに良い事だ。
 例え、それが途方もなく遠い道のりだとしても。
 明確なゴールがわかった事はそれだけの価値があるという事になるのだ。
 目的が見えた所で次はどこにするかまた相談をしていた。
 一方、【夢遊人】の【まほろ】――いや、【変化の民】はどうしているのだろうか?
 【さくま】達に情報をくれる姿を変える【謎の存在】となっている。
 彼等は【KAMUI】によって【さくま】達少年らに一定の【情報】を与える事を命じられた存在だった。
 彼等は何かと理由をつけて、【越果】への挑戦者に【情報】を渡す事を使命としている。
 つまり、【さくま】に【水】が欲しいとして助けられたのはわざとなのである。
 彼等は元々【越果】についてはほとんど知らない。
 だが、特権として、【さくま】達に先回りして、【情報】を得る権利が与えられている。
 彼等が【越果】の全てを理解しても何も変化は無いが、【さくま】達の手伝いは出来るという事になる。
 彼等が先回りして得られる情報は5つまで。
 それ以上は【さくま】達に情報を提供しないと新たな情報は得られない。
 【さくま】達の前から消えた【変化の民】は対象者に情報を提供した事でまた1つ、新たな情報を得るのだった。
 それでは、【さくま】への更なる【情報公開】アピールをして失敗したが、【変化の民】が得た情報の1つ、【他の越果】の事について少し見てみよう。
 さすがに11の【越果】全てという訳にはいかないが。
 【さくま】は、【木の越果】を担当したが、【越果】は12種類あり、
 他には、
 レベル1――
 【雷の越果】(少年が担当/冒険猶予1000年)、
 【金の越果】(少女が担当/冒険猶予1000年)、
 レベル2――
 【地の越果】(少年が担当/冒険猶予2000年)、
 【水の越果】(少年が担当/冒険猶予2000年)、
 【火の越果】(少年が担当/冒険猶予2000年)、
 【風の越果】(少年が担当/冒険猶予2000年)、
 レベル3――
 【光の越果】(少年が担当/冒険猶予3000年)、
 【闇の越果】(少女が担当/冒険猶予3000年)、
 【幻の越果】(少年が担当/冒険猶予3000年)、
 レベル4――
 【無の越果】(少年が担当/冒険猶予5000年)、
 レベル5――レベルMAXが1つ。
 【虚の越果】(少女が担当/冒険猶予10000年)
 ――という【越果】が存在する。
 レベル2からレベル5(MAX)は今の【さくま】にはレベルが高すぎるので、彼と同等のレベルであるレベル1の2つ――【雷の越果】と【金の越果】について少し覗いてみよう。
 【雷の越果】は【さくま】とは別の【少年】が担当している。
 【木の越果】が特徴として、【植物】に関するものが多かった様に、【雷の越果】は【雷】に関するものが多い。
 というよりは【電気】が近い。
 【電気】で動くもの。
 ――すなわち、機械化が進んだ【越果】となる。
 【電気信号】で言えば、【生物科学】も進んでいるといえる。
 【少年】の性格は【さくま】とは違い、少々勝ち気だ。
 自分は何でも出来ると信じており、それが彼の持ち味となっている。
 彼は最初、とある路地の片隅に送られた。
 そこから、彼は【雷のキー】に導かれる様にして、【雷の越果】の【お庭番】が眠る場所に早々にたどり着く。
 最初の【お庭番】が眠っていた場所は、【地球】で表現すれば、【カプセルトイ】や【自動販売機】がイメージとして近いだろうか?
 【雷のキー】を差し込み、ガチャッと回すとガコンと音がして、中に【美少女】が入っていた。
 【木の越果】で言うところの【ちえり】や【ふたば】の様な【お庭番】だ。
 少年はその【お庭番】に名前をつけて冒険の旅に出た。
 深いところまでは探れないが、【雷の越果】にもその【越果】なりの法則があり、それに伴った――
 【モンスター】、
 【アイテム】、
 【イベント】、
 【出会い】、
 【人種】、
 【からくり】、
 【神器】、
 【不思議】、
 【エリア】、
 【町】、
 【娯楽】、
 【恋愛】、
 【強化】、
 【景色】、
 【罠】、
 【食材】、
 【別れ】、
 【裏の裏】、
 【奇跡】、
 ~……などが存在している。
 【少年】もまた、最初の【お庭番】との悲しい別れなども経験している。
 彼もまた、【さくま】に負けないだけの経験を積んで強くなって【辞書】を埋めている様だ。
 彼の【辞書】も
 【雲孫事典】を10冊埋めると次の【じょう孫事典】の場所がわかり、
 【じょう孫事典】を100冊埋めると次の【昆孫事典】が、
 【昆孫事典】を1000冊埋めると次の【来孫事典】が、
 【来孫事典】を10000冊埋めると次の【玄孫事典】が、
 【玄孫事典】を100000冊埋めると次の【曾孫事典】が、
 【曾孫事典】を1000000冊埋めると次の【孫事典】が、
 【孫事典】を10000000冊埋めると次の【子事典】が、
 【子事典】を100000000冊埋めると最後の【親事典】がわかるというシステムになっているが、表紙の部分が、【木の越果】の様に
 (01)【蕾】、
 (02)【開花】、
 (03)【1分咲き】、
 (04)【2分咲き】、
 (05)【3分咲き】、
 (06)【4分咲き】、
 (07)【5分咲き】、
 (08)【6分咲き】、
 (09)【7分咲き】、
 (10)【8分咲き】、
 (11)【9分咲き】、
 (12)【満開】になる【花飾り】ではなく、
 (01)【ボルテージ0】、
 (02)【ボルテージ1】、
 (03)【ボルテージ2】、
 (04)【ボルテージ3】、
 (05)【ボルテージ4】、
 (06)【ボルテージ5】、
 (07)【ボルテージ6】、
 (08)【ボルテージ7】、
 (09)【ボルテージ8】、
 (10)【ボルテージ9】、
 (11)【ボルテージ10】、
 (12)【ボルテージMAX】になる表紙の【目盛り】になっている。
 他にもエリアは【木の越果】の様に季節で区切られているのではなく、大きく分けて、
 【電小界(でんしょうかい)】、
 【電中界(でんちゅうかい)】、
 【電大界(でんだいかい)】、
 【電特界(でんとくかい)】、
 【電究界(でんきゅうかい)】、
 ――の5つに別れていて、現在は【電小界】を8つのエリアに分けた1つ目のエリアで冒険をしているらしい。
 少年なりに苦労や修練を重ね、【さくま】に負けない【力】を身につけ、現在も頑張っている様だ。
 【雷の越果】についてはこれくらいで良いだろう。
 次は、【金の越果】についてだ。
 この【越果】には【少女】が担当している。
 12人の【少年】達という言い方をしていたが、その中には【少女】が3人混じっている。
 先ほど説明したが、
 【金の越果】(レベル1)、
 【闇の越果】(レベル3)、
 【虚の越果】(レベル5)がそれに当たる。
 そう。
 最高レベルの【越果】には【女の子】が担当しているのだ。
 ちなみに人間の女性には成長するにあたって女性特有の状況、【月経】などがあるが、それは【KAMUI】の配慮で一時的に取り払われている。
 子供を産む事は出来ないが、体調が悪くなって冒険に支障を来すという事は無くなっている。
 【金の越果】は【木の越果】や【雷の越果】がそうであった様に、【金】にまつわるものがあちこちにある。
 これには【宝石】なども含まれる。
 あまり多くありすぎて、この【越果】では【金】や【宝石】は【地球】ほどの価値は無いとされている。
 ただ、【金の越果】での【金】や【宝石】では、その鉱物自体に【力】、【エネルギー】が宿るとされており、【力】を得る【媒体】としては重宝されている様だ。
 この【金の越果】に挑戦する【少女】は、最初、とある【金山】の中に送られた。
 目覚めた【少女】は歓喜した。
 それはそうだろう。
 目の前には見渡す限りの【金の山】があったのだ。
 目の前には岩よりも【金】の方が多いという光景だった。
 喜ぶなという方が難しい話だ。
 特に女の子は宝飾品には目がない。
 これをどう加工したら良いかなどと考えたのだろう。
 だが、それはすぐに意味のない事だと思い知らされる。
 【金】の価値が彼女が知っているほどの価値が無かったと言われてショックを受けた。
 【金】や【宝石】は見た目が美しいというのもあるが、それ以上に世の中が決めた【価値】というものも重要視される。
 世の中がそれを価値があると認定して、初めて、【金】や【宝石】はその価値を認められると言っても良いだろう。
 いくら綺麗でも世の中の人から紙切れ同然の価値しか認められなければ、果たして、女性達は【金】や【宝石】に価値を見いだす事が出来るだろうか?
 裏を返せば、【金】や【宝石】を身につける事で、世の中の人達に【認められたい】という【承認欲求】があるのでは無いだろうか?
「私って綺麗でしょ?」
「お金持っているでしょ?」
 と認められたいために宝石をつけたいという女性も多いのではないだろうか?
 本当の宝石の価値に気づける女性はどれだけいるのだろうか?
 【少女】は幸いにも【金】や【宝石】の【金銭的価値】以外の魅力、【金】や【宝石】に秘められた【力】に気づく事が出来た。
 そうして、彼女の冒険は始まった。
 【金のキー】に導かれる様にして、彼女が訪れた場所は【水晶】の様なものがたくさんある鉱山だった。
 そこには1つだけ、乳白色に濁った大きな宝石があり、そこには鍵穴がついていた。
 そこに【金のキー】を差し込み、ガチャッと回すと乳白色の濁った大きな宝石が砕け散り、中から【美少年】が出てきた。
 ここでお気づきだろうか?
 【木の越果】で冒険している【さくま】に対しては【美少女】が、
 【雷の越果】で冒険している【少年】に対しても【美少女】が、
 【金の越果】で冒険している【少女】に対しては【美少年】が、
 ――それぞれ、【お庭番】として姿を現している。
 そう。
 担当する【少年】、【少女】に対して、出てくる【お庭番】は【美形の異性】と決まっているのだ。
 それは若い【少年】、【少女】にやる気を出させる【KAMUI】の配慮だとも言える。
 そうやって挑戦者達に前向きに冒険してもらおうと【KAMUI】は細かい【親切】をどこかにちりばめていた。
 話を戻そう。
 【少女】が冒険する【金の越果】は、
 【金低界(きんていかい)】、
 【金中界(きんちゅうかい)】、
 【金高界(きんこうかい)】、
 【金極界(きんきょくかい)】、
 ――と大きく分けて4つのエリアとなっている。
 その内、【金低界】の11に別れたエリアの最初のエリアで頑張っているらしい。
 彼女の【辞書】も
 【雲孫事典】を10冊埋めると次の【じょう孫事典】の場所がわかり、
 【じょう孫事典】を100冊埋めると次の【昆孫事典】が、
 【昆孫事典】を1000冊埋めると次の【来孫事典】が、
 【来孫事典】を10000冊埋めると次の【玄孫事典】が、
 【玄孫事典】を100000冊埋めると次の【曾孫事典】が、
 【曾孫事典】を1000000冊埋めると次の【孫事典】が、
 【孫事典】を10000000冊埋めると次の【子事典】が、
 【子事典】を100000000冊埋めると最後の【親事典】がわかるというシステムになっているが、表紙の部分が、
 (01)【ジュエル0】、
 (02)【ジュエル1】、
 (03)【ジュエル2】、
 (04)【ジュエル3】、
 (05)【ジュエル4】、
 (06)【ジュエル5】、
 (07)【ジュエル6】、
 (08)【ジュエル7】、
 (09)【ジュエル8】、
 (10)【ジュエル9】、
 (11)【ジュエル10】、
 (12)【ジュエルMAX】になる表紙の【宝石の価値基準】になっている。
 彼女の冒険も深いところまでは探れないが、【金の越果】にもその【越果】なりの法則があり、それに伴った――
 【モンスター】、
 【アイテム】、
 【イベント】、
 【出会い】、
 【人種】、
 【からくり】、
 【神器】、
 【不思議】、
 【エリア】、
 【町】、
 【娯楽】、
 【恋愛】、
 【強化】、
 【景色】、
 【罠】、
 【食材】、
 【別れ】、
 【裏の裏】、
 【奇跡】、
 ~……などが存在しているようだ。
 【少女】もまた、最初の【お庭番】との辛い別れなども経験している。
 彼女もまた、【さくま】に負けないだけの経験を積んで強くなって【辞書】を埋めて行っている様だ。
 彼女の冒険についてもこれくらいで良いだろう。
 【さくま】だけじゃない。
 【雷の越果】の【少年】も、
 【金の越果】の【少女】も頑張っているのだ。
 もちろん、この3名だけじゃない。
 紹介は出来なかったが、
 【地の越果】の【少年】も、
 【水の越果】の【少年】も、
 【火の越果】の【少年】も、
 【風の越果】の【少年】も、
 【光の越果】の【少年】も、
 【闇の越果】の【少女】も、
 【幻の越果】の【少年】も、
 【無の越果】の【少年】も、
 【虚の越果】の【少女】も、
 ――同様に――いや、それ以上に頑張っている。
 だからこそ、上のレベルの【越果】を任せられているのだから。
 【少年】達の冒険はこれからも続くだろう。
 ゴールが見えている挑戦者はまだ1人も居ない。
 彼等彼女等はもがき苦しみ、それでもなお立ち直って前に進んでいく。
 【KAMUI】が認める【辞書】のコンプリートを目指して。
 彼等の冒険はまだ始まったばかりだ。
 まだ3年と少しだ。
 冒険達成にはまだまだ、長い年月がかかるのだ。


エピローグ それから……


 【さくま】は、草を切り分け進んでいく。
 あれからどれくらい経ったのだろうか?
 【さくま】の雰囲気は何だか凄く逞しくなった様にも見える。
 姿形は少年のままだ。
 それは【KAMUI】に身体の時を止められているため、当然のことだ。
 だが、醸し出す雰囲気は何となく、
 【達人】、
 【巨匠】、
 【マスター】、
 【キング】、
 【チャンピオン】、
 【英雄】、
 【勝者】、
 ~……と言った言葉が似合いそうな感じがした。
 どうやら、かなりの
 【研鑽】、
 【苦労】、
 【試練】、
 【経験】、
 【出会い】、
 【別れ】、
 【イベント】、
 【ボス戦】、
 【窮地】、
 を突破してきて、精神的に磨かれたのだろう。
 見た感じ、どこにも隙がない。
 どこから襲いかかってもカウンターを浴びせられるのではないかというオーラを身に纏っている様に感じる。
 実際の強さはどうなのだろうか?
 かつて苦戦していたモンスターくらいであれば、素手で殴り殺せるくらいには強くなっている様だ。
 うっかり近づいた【モンスター】が自分の腹を見せている。
 これは服従の証だ。
 自分には害がないと【さくま】に示している様だ。
 【ふたば】は――
 居ない?
 何処だ?
 何処に?
 彼女は何処に行ったのだろうか?
 【さくま】は進む。
 導かれるままにただ、まっすぐに。
 進んで、
 進んで、
 進んで、
 進んだ。
 そしてたどり着いた所は、複数のモンスターが居る場所だった。
 ざっと見たところ、23匹と言ったところか?
 一番大きいモンスターが陣取っているのはその奥にある巨大な樹木の手前だ。
 その樹木には複雑にからみついたツタがあり、そのツタはまるで繭の様な形状になっている。
 その繭の様な形状の物はかすかに光っていた。
 そう。
 次なる【お庭番】が眠る樹木だ。
 【さくま】は【敵モンスター】を分析する。
 総数23匹。
 内訳は、
 【シャモジー】1匹、
 【ルゥザース】1匹、
 【デモネー】1匹、
 【クルッター】3匹、
 【モッテル】1匹、
 【キュートン】2匹、
 【サカシー】1匹、
 【ヌスットン】1匹、
 【ボヤボヤ】1匹、
 【ヤダナー】4匹、
 【ドコサイッタ】1匹、
 【ミエネー】1匹、
 【ワイルドン】1匹、
 【タクマシン】1匹、
 【ブルッター】1匹、
 【モーヤー】1匹、
 【スサマジ】1匹、
 そしてボスと思われる【ウルトゥラ】1匹だ。
 【特徴】を言えば、
 【シャモジー】は、怪力が特徴のモンスターだ。
 【かきまぜダンス】という大技を持っている。
 負ったダメージの半分はすぐに回復してしまうという特徴も持っている。
 【ルゥザース】は、スピードスターだ。
 幻影を作りだし、その残像がたまに実体を持ち、攻撃してくるという特徴を持っている。
 死亡しそうになったら卵を産み、新たな【ルゥザース】を誕生させる。
 【デモネー】は、他のモンスターの【物真似】をするのが特徴だ。
 大体はタダの【物真似】だがその中に本当に使える技が存在する。
 【ふらつき】は【デモネー】のウソだ。
 【クルッター】は、1匹ではそう大した問題とはしないが2匹以上が集まると戦闘力が増す。
 【クルッター】は【狂った】から名称が来ている様に狂った様に暴れ出す。
 【モッテル】は、【盗技(とうぎ)】という技に注意だ。
 【盗技】によって持っている【アイテム】を知らない内に盗まれて使われてしまうという事も多い【モンスター】だ。
 【キュートン】は、夫婦で行動する【モンスター】だ。
 そのため、【雄】と【雌】のつがいで行動する事が多い。
 【ラブアタック】という技を食らうと【対象者】は【キュートン】に魅せられてしまうという特徴を持つ。
 【サカシー】は、背中のトゲに注意だ。
 刺された人間は即死してしまう。
 最も、今の【さくま】ならば例え刺されたとしても即死という事にはならないだけの耐久力や回復力をもっている。
 【ヌスットン】も盗賊モンスターだ。
 【モッテル】同様に【盗技】を使う。
 ただし、【モッテル】と【盗技】のからくりは異なるとされている。
 【ボヤボヤ】は、緩慢な動きの【モンスター】だ。
 だが、突然、【神速】で動き出す事もあるという特徴を持っている。
 ゆっくりと動き、突然、ためが一切無く、超スピードで動き出すから注意して近づかなければならない。
 【ヤダナー】は、言ってみれば【腰巾着モンスター】、【太鼓持ちモンスター】などとも呼ばれている。
 強い【モンスター】の側に居る事が多い事からそう呼ばれている。
 つまり、この【モンスター】の集団の中に強い【モンスター】が混じっているという事だ。
 通常は【強いモンスター】1匹に対して、【ヤダナー】が1匹つくから、今回は最低でも4匹は【強いモンスター】が混じっているという事になる。
 ちなみに【強いモンスター】とは【強い種族】を指しているのではなく、その【種族】から飛び抜けた【強さ】を示した【モンスター】という意味である。
 【ドコサイッタ】は、【迷いモンスター】とも呼ばれている。
 ある時、ふっと現れたと思ったら、次の瞬間、気づいたら居ないという神出鬼没のモンスターだ。
 基本的に無害とされる【モンスター】だが、集団になった時は興奮して暴れる事もある【モンスター】でもある。
 【ミエネー】は、【カメレオン型】のモンスターだ。
 周囲に身体の色を同化させて身体を見えなくする。
 だが、注意しなければならないのは【ミエネー】のもう1つの隠れ方だ。
 周囲に身体を同化させるのではなく、特定の存在から【認識】を排除させる事が出来るのだ。
 そうなると、【対象者】は【ミエネー】を認識出来なくなるから要注意だ。
 【ワイルドン】は、【暴食モンスター】だ。
 何しろ手当たり次第食べまくる。
 【敵対者】も、
 【木】も、
 【草】も、
 【花】も、
 【岩】も、
 【土】も、
 【味方モンスター】も、
 【水】も、
 【毒】も、
 ――関係無く食べまくる。
 何でこいつが【モンスター】の集団に混じっているかわからない。
 普段は単独行動を好む【モンスター】だ。
 【タクマシン】は、【プロレスラー】の様な【モンスター】だ。
 相手の技を受け、自分も技をかけると言ったタイプの【モンスター】だ。
 かける技も【プロレス技】に何処か似ている。
 【タクマシン】の姿は【カンガルー】に似ているが。
 【有袋類】じゃないから袋は無い。
 【ブルッター】は、【豹変モンスター】だ。
 普段は臆病な【モンスター】なのだが、特定の条件が揃うと無類の強さを発揮するという特徴を持っている。
 その特定の条件とは【ブルッター】ごとに違う。
 例えば、
 【月が出た時】、
 【水を飲んだ時】、
 【傷つけられた時】、
 【血を見た時】、
 【触られた時】、
 【石を触った時】、
 【目をつぶった時】、
 【くしゃみをした時】、
 【おならをした時】、
 【他のモンスターが居た時】、
 【地震が起きた時】、
 【味方モンスターが死んだ時】、
 【倒れた時】、
 ~……等、条件は全て異なるため、何が【豹変ポイント】だか見当もつかない。
 生態に謎の多い【モンスター】だ。
 【モーヤー】は、【コバンザメ型】の【モンスター】と言えるだろう。
 と言ってもくっつくのは他の【モンスター】では無く、【他のモンスターの影】だが。
 【モンスター】の影に隠れながらこっそり攻撃を仕掛けてくるちょっとやりにくい相手でもある。
 【スサマジ】は、難敵だ。
 【倒したモンスター】の【技】を1つずつ手に入れていくという事で、こいつがどれだけの【モンスター】を倒して来たがが問題だ。
 当然、倒した【モンスター】の数が多いほど、【スサマジ】の【強さ】も跳ね上がる。
 冒険初心者はまず避ける相手と言って良いだろう。
 そしてそれにも勝ると思われるボスが【ウルトゥラ】だ。
 この【モンスター】の特徴は【群れの中で一番強い】という事だ。
 当然、【スサマジ】より強いはずだ。
 どうやって強くなっているのかは不明だが、【群れ】の【気】を吸っていて、それで、【一番強く】なっているのでは無いかというのが推測出来た。
 以上が目の前にいる【モンスター】の分析だ。
 うん。
 大丈夫だ。
 全て、1度は会っている。
 やり方さえ間違えなければ、今の彼ならばやられるという事は無いだろう。
 ドカバシビシ。
 まず1匹。
 続いて、
 ドカバシビシ。
 2匹目。
 続いて、
 ドカビシバシゴシドン。
 3匹4匹5匹。
 そうやってお役所仕事の様に【敵モンスター】を倒して行く。
 気づいたら残ったのは【スサマジ】と【ウルトゥラ】の2匹のみ。
 その2匹も取り立てて説明するほどでも無いかの様にあっさりとやられた。
 倒した後で、【さくま】は、
「ごめんな。
 ここは次のパートナーが眠っている所だから、どうしてもお前達を倒さなくてはならなかったんだ。
 まぁ、みんな、気絶させただけだから、用事が済んだら起こすからさ。
 ちょっとの間、眠っていてくれよ」
 と言った。
 そう。
 【さくま】はむやみやたらに【モンスター】を殺したりしない。
 例え【敵】として襲いかかってくる【モンスター】であってもだ。
 なぜならば、【さくま】は用事があるからその場所を訪れたのであって、その場所には元々、それらの【モンスター】が生息していただけに過ぎないからだ。
 つまり、【敵モンスター】達は自分の【縄張り】を守ろうとしただけに過ぎないのだ。
 それを正義か悪で言ったら、むしろ【悪】側なのは【さくま】の方だ。
 平穏に暮らしていた【モンスター】の生息地に土足で踏みにじる様な行為をしているのだから。
 だが、だからと言って退くわけには行かない。
 彼には目的があるからだ。
 この【木の越果】の全てを【記録する】という大きな目的が。
 彼の【目的】――それは【越果】を【地球】に戻すこと。
 そのためであれば、彼は何でもやる。
 やらねばならない。
 やらなければ元には戻せないのだから。
 だから、今回も必要不可欠な事として、行動しただけだった。
 彼の今回の目的――それは次なる【お庭番】を目覚めさせる事だ。
 【ふたば】ともずいぶん前に別れている。
 別れたという事は【ふたば】もまた【廃棄処分】となった事を意味していた。
 【ふたば】だけじゃない。
 その次の【お庭番】となった【美少女】、
 そのまた次の【お庭番】となった【美少女】とも別れを経験していた。
 現在の彼の圧倒的な強さは、それらの【美少女】達との悲しい別れを乗り越えた先に手に入れた【力】なのだった。
 もう、いくつの【力】を手にして、
 いくつの【情報】を得たか数え切れない。
 それくらいの冒険を繰り返してきた。
 そして、今度のパートナーともそう言う冒険を繰り返すつもりだった。
 彼は、既に【雲孫事典】では無く、それより4ランク上の【玄孫事典】を手にしている。
 それも【満開】近くまで来ている。
 【クラウドネッター】も
 (01)【1番】、
 (02)【2番】、
 (03)【3番】、
 (04)【4番】、
 (05)【5番】、
 (06)【6番】、
 (07)【7番】、
 (08)【8番】、
 (09)【9番】、
 (10)【10番】、
 (11)【11番】、
 (12)【14番】、
 (13)【18番】、
 (14)【21番】、
 (15)【33番】、
 (16)【37番】、
 (17)【48番】、
 (18)【57番】、
 (19)【63番】、
 (20)【154番】、
 (21)【235番】、
 (22)【864番】、
 (23)【996番】、
 ――の23種類以外の【シリアルナンバー1000番】以内を全て手に入れている。
 完全コンプリートまで後、僅かだ。
 それ以外にも他3種類の【ハイディメンショナルメモリー】の一部を取得している。
 だが、それでも全体から見ればまだ足りない。
 【クラウドネッター】を含む取得した4種類の【ハイディメンショナルメモリー】は全て【量産型】であり、【単独型】である9種類の【ハイディメンショナルメモリー】は何1つ取得していない。
 冒険としてはまだまだ先の長い話となるだろう。
 まだ、序盤と言える段階だ。
 この先、また新たなパートナーと出会い、それまでのパートナーとは別れを経験していく事になるだろう。
 それでも――
 それでも、次の出会いも大切にしていきたいと思っていた。
 【さくま】は複雑に絡まったツタを1つ1つほどいていく。
 かなり複雑に絡まっているのか、なかなかほどけない。
 それでも一つ一つ丁寧にほどいて行った。
 そして、中には今までの【お庭番】が眠っていた時と同じ様に【木棺】が隠れていた。
 それを鍵穴が確認出来る状態までにツタをどけた。
 続けて鍵穴に【木のキー】を差し込む。
 続けて鍵をガチャッと回す。
 ガコっと音がして、【木棺】が開く。
 中にはいつものお約束。
 とびっきりの【美少女】が入っていた。
 【さくま】は、
「さぁ、目覚めてくれ。
 朝だよ」
 と言った。
 その言葉に呼応するかの様に【美少女】は目を覚ます。
 【美少女】は、
「ご主人様。
 おはようございます。
 わたくしの名前を決めてくださいませ」
 と言った。
 【さくま】は、
「……今度は【ご主人様】か。
 そう言えば、色々言われて来たな。
 最初は【御館様】。
 次は【旦那】、
 【ダーリン】、
 【相棒】、
 【君】、
 【あんた】、
 君は7人目だ。
 だから君の名前は【ななほ】だ。
 よろしくね、【ななほ】ちゃん」
 と言った。
 【御館様】とは【最初】の【お庭番】、【ちえり】に言われていた呼称だ。
 【旦那】は【二番目】の【お庭番】、【ふたば】に言われていた呼称。
 すると、
 【ダーリン】が【三番目】の【お庭番】、
 【相棒】が【四番目】の【お庭番】、
 【君】が【五番目】の【お庭番】、
 【あんた】が【六番目】の【お庭番】、
 ――という呼ばれ方だと推測出来る。
 それぞれの呼ばれ方からもそれぞれの【お庭番】達と【さくま】との関係性が推測出来そうだ。
 彼女達は、【さくま】とそれぞれ【密度の濃い】関係性を築いてきたのだろう。
 でなければ、彼の言葉として【呼称】の話が出て来るわけが無い。
 それぞれ大切に思い、そして、泣く泣く別れて来たというのが思われた。
 【ななほ】と名付けられた【美少女】は、
「【ななほ】ですか――
 良い名だと思います。
 ありがとうございます【ご主人様】。
 これからも末永くよろしくお願いいたします」
 と答えた。
「こちらこそ。
 出来るだけ長く、君と居たいと思っているよ。
 そして――愛しているよ。
 君のことも同じ様に。
 同じように愛する」
「嬉しいです。
 わたくしも愛します。
 【ご主人様】を愛します」
 と言うと、そっと抱擁をした。
 これから苦難を共にするパートナーとして、そして、今度こそ、死なせないという誓いの意味も込めた抱擁だった。
 新たなパートナーとなった【ななほ】との冒険はこれからだ。
 舞台は9番目の小界、【末秋小界】だ。
 【ちえり】や【ふたば】と行動を共にした【春】の【小界】では無く、【秋】の【小界】だ。
 9番目とは言ってもまだ、【木初界(きしょかい)】だ。
 【木本界(きほんかい)】と【木終界(きしゅうかい)】には全く手が届いていない。
 【木の越果】の本番は【木本界】とされ、最深奥の秘密は【木終界】にあるとされている。
 つまりはまだまだ半人前以下、それどころか素人に毛が生えた程度の冒険しかしていないレベルであると言えるのだ。
 基本的に、
  【木初界(きしょかい)】、
 【木本界(きほんかい)】、
 【木終界(きしゅうかい)】、
 ――の3つの【世界】では変わる度に全く異なる【世界観】になると言う。
 【木初界(きしょかい)】のルールが通じるのは12番目の【小界】である【末冬小界(まっとうしょうかい)】までだ。
 その次からは【木本界(きほんかい)】となり、全く異なる【世界観】が【さくま】達を待ち受けるのだろう。
 今回【パートナー】とした【ななほ】。
 彼女とはどこまで一緒に行けるのだろうか?
 せめて【末冬小界(まっとうしょうかい)】までは行けるだろうか?
 それとももっと手前で、
 あるいはその先にも……
 それはわからない。
 彼に出来る事は彼女と出来るだけ長く居るために【強く】なることだ。
 判断ミスをしない事だ。
 それしかない。
 一緒にいたい。
 それはこれまでの【パートナー】達に対しても抱いてきた気持ちだ。
 だが、それらは叶わなかった。
 悲しい結末が待っていた。
 今度こそはと思いながらもまた、1人、
 また1人と失っていった。
 悲しい。
 辛い。
 逃げ出したい。
 放棄したい。
 止めたい。
 取り戻したい。
 過去に戻りたい。
 やり直したい。
 リセットしたい。
 諦めたい。
 行動を否定する言葉は他にもたくさん思いつく。
 だが、それでも前に進むしかない。
 人間、生きていれば悲しい別れというのはいくつも経験するものだ。
 それは【越果】であろうと【地球】であろうと変わりない。
 人間、何かしの【出会い】と【別れ】はセットで来る物なのだから。
 最期は自分の死でみんなとの【別れ】があるのは確実なのだ。
 それでも出会っている間だけは、
 一緒に行動している間だけは、
 共にありたい。
 共に居たい。
 一緒でありたい。
 一緒に居たい。
 愛し合いたい。
 そう、思う【さくま】だった。
 彼は、彼女に、
「じゃあ、一緒に行こうか?」
 と告げる。
 彼女は、
「はい。
 お供します」
 と答えたのだった。


完。
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