約束の場所へ

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初めましてでは無いんですよ?

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つ、疲れた。
クソ暑い中で、放課後メニューが2倍と鬼畜だろ!

もう疲れた。
飯も食ったし、風呂にも入ったし。
あー、宿題は燐のを写す事にして、もう寝よう。

お休みなさい。


「ここは…。」

「昨日ぶりだね、秦哉」

「よう、石也。
 お前って俺が寝る度に毎度毎度、現れるのか?」

「いや、今日はちょっと様子を見に来たんだ。
 急に神様の見習いなんてものが現れたんだから、夢だと思うかも知れない。
 けど、それだと困るからさ。」

「なるほどな。 
 それなら心配いらねぇーよ。
 現実だってわかってる。
 朝起きて、お前の名前も、話した内容も全部覚えてた。
 普通の夢とはまた違う感じだったしな。」

「…。 全部を直ぐに理解しようとするなんて。
 もしかして秦哉は馬鹿なのか?」

「なんでだよ!」

「だって直ぐに受け入れるなんて普通は無理だから。」

確かに。
俺だって、現実の様に感じる夢を他にも見たことある。

でも、なんでか今回は現実なんだって思ったんだ。
もしかして…

「俺の感情のせいか?」

「感情?」

こいつには話して置くべき事か。

「俺、事故にあってから感情が欠落し始めてるんだ。」

「…例えばどんな風に?」

「今まではもっと感情が、表情が豊かだったんだ。
けど、あれ以来、楽しいも悲しいも嬉しいも愛しいと思う感情、全てが感じにくくなってるんだ。」

「具体的にいうと?」

「楽しい時は友達と話してても中々笑えないし、悲しいなんて、誰かが亡くなった時。

愛しいは俺の中にもう存在しないんだ。」

「とても感情の欠落が進んでるように見られるね。
 貴方の前の姿を見る限りは。」

「あぁ。  このせいで仲良かったやつも少なくなった。
 いや、今じゃ燐くらいだな。」

「…。」

「そんな眉間にしわ寄せてこっち見んなよ笑
他の奴らに言われたんだよ。

感情が分からない、気持ち悪い奴。って。」

「そうだったのか。
 でも、なんで君は感情が欠落していると気づいたのに、  今まで元に戻そうとしなかったんだい?」

「なんでだろうな。」

「なんでだろ。  その言葉は意味がわかってる人が認めたくない事を押し込めて使うんだ。
秦哉、君は感情の欠落を認めたくなかったんだろう?」

「っ…。」

「認めなよ。 さっさと認めないから、無理に隠そうなんてするから人間は苦しむんだよ。
全てを見ることも知ることも、君達には出来ないのに、何で自分は駄目だと思い、塞ぎこむのかが分からない。

逆に、わかっていながらも動かない君らを僕は愚かだと思うよ。」

「神様の見習いなだけけで、神でも、人間でもないお前がなんで自分は知っているかの様に言うんだよ!!」

本当はわかってた。
あの日以来、俺の表情が薄くなっていくのを。
喜怒哀楽の境目がなくなってきて、1つずつ感情が消えていき、それは埋まる事もなく、ただ空虚感だけが残る。

周りに居た奴らも少しずつ減っていき、話したりはしても、俺のそばに今も居てくれるのは燐だけだった。

俺は、こんな自分も受け入れてくれる事が嬉しくて、このまんまで良いんじゃないかって、 思った。
だから、感情の欠落を否定したかった。

「僕は神様じゃない、人間でもない。
 ただ一個人の、神様の見習い人の霧生 石也だ。
それ以外の何者でもない。
 
だけど、君達はそれを理解していない。
 誰でも感情のすべてを、相手を理解する事なんて出来ないんだからな。
逆に、全てを理解しようなんて、傲慢で愚かでしかない。
神の敷地に入ることなんて出来ないんだからな。」

「ただ一個人か。」

「そうだ。
 この広い世界で生きる、ちっぽけな1部だ。」

「ハハッ、確かにこの広い世界の中じゃ、俺はちっぽけすぎるくらいだな。」

「君らは自分を受け入れようとせず、受け入れてもらうことを考えるからこそ亀裂が生じるんだ。」

「確かにお前の言う通りだよ。
 俺は感情の欠落を認めたくなかった。
 このまんまで受け入れてくれたあいつに甘えてた。
だから感情を戻す事をしなかった。」

「じゃあ、君はこれからどうするんだい?
 戻す事を諦めて、そのままでいるのか?」

「いや、俺は感情を取り戻す。 絶対に。」

「そうか。」

取り戻せたら一石二鳥って、俺はその時も、このままでも良いんじゃないかっていう気持ちがあったな。
だけど、また色んな奴と笑って話がしたい。

「っ!…うぐっ」

なんだこれ急に頭が割れそうな感じに…

「君の感情を戻すにはやっぱり記憶を戻す事も必要なみたいだね。」

「戻すこともってなんだ。
 うっ、つ、 他にも、ある、のかよ…。」

「あぁ、あるとも君が僕の事をよく見て考えて思い出さなきゃいけないんだよ。」

「昨日、お前がっ、帰りに行ってた 
 <初めましてではないんですよ>って事が関係あるのか。」

「えぇ、勿論。 僕は君にあったのが初めてじゃない。」

「じゃあ、俺はお前の事も知ってるのか…。」

割れてしまいそうな頭よ痛さが収まってきた。

「えぇ。 僕がわからないなら、あの場所… 約束の場所へもいけませんね。」

「お前のことを俺に話しても、感情を取り戻すことは出来ないのか?」

「そうだよ。 君の意思で思い出さないと駄目だ。」

「そうだ、話が変わるけど、今日の朝、君が助けた子は知り合い?」

「なんで知ってんだよ。」

いつも監視みたいなされてんのか?

「監視とかじゃないんですよ。
 少し用事があってね、社に戻ろうとしたら君を見つけたんだよ。」

「お前、夢の中以外でも動けたんだな。」

「馬鹿にしてます?」

「悪い、そういうわけじゃねえ。
 あいつは今日初めて会った。
 名前もお互い知らなかったしな。」

「そうですか。
 あぁ、まだ聞きたいこともあったけど、時間が来てしまったから僕は帰るよ。」

「そうか。  今日はありがとう。」

「お礼をされる事はしていないけど、一応、どう致しましてと言っておくよ。」

あいつはまた、前回と同じ様に真っ白な空間に溶けていった。


天笠 秦哉。
君は本当に馬鹿だね。
僕の事も思い出せず、ましてや君の事を1番理解していた人の事も忘れていたなんてね。

君がこれから、どうやって感情を取り戻すかが楽しみだよ、秦哉。
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