毒親転生~後にラスボスになる運命の娘を溺愛したら異常すぎるほど好かれてしまった~

下垣

文字の大きさ
6 / 101

第5話 職場復帰

しおりを挟む
 アルドは夢を見ていた。アルドはここではない別の世界にて、営業職をしていた。成績は可もなく不可もなく、典型的な普通のサラリーマン。妻と結婚して、その間に娘が1人。人並の幸せを手に入れた人生だった。

 しかし、ある日を境に"彼”の幸せは終わりを告げた。妻子の訃報。それを聞いた時、"彼”の人生は変わった。そして、終わりのカウントダウンの始まりでもあった。

「うわあ!」

 アルドは目を覚ました。夢の中で見た光景。それは夢にしては、ここではない異世界の話とあまりにも荒唐無稽で、そしてその割にはあまりにも現実的すぎた。まるでアルドが実際に体験したかのような……そんなリアリティがあった。

「お、お父さん!?」

 アルドの叫び声でイーリスがビクっと目を覚ましてしまった。アルドに少し慣れたとはいえ、やはりアルドの大声にトラウマを持っているイーリス。それは中々払しょくされるものではなかった。

「ご、ごめん。イーリス。なんでもない。イーリスは何も悪くない。だから安心してくれ」

「うん……」

 自分は何も悪くない。その言葉に安堵するイーリス。良かった。また、アルドからなにか虐待を受けるんじゃないかと、そんな考えが一瞬よぎってしまった。

 でも、そんなことはなく、アルドの表情は少し憔悴しょうすいはしていたものの、昨日までの優しい表情だった。

 アルドは起きて仕事に行く準備を始めた。記憶を喪失していても、仕事はしなければならない。身支度と必要な道具を持ってアルドは玄関へと向かった。

「それじゃあ、イーリス。行ってくる。知らない人が家を訪ねて来ても開けるんじゃないぞ」

「うん。わかったよ。お父さん」

 ここは危険なスラム街である。アルドが住んでいる地区はいきなり強盗が押し掛けるほど危険ではないが、それでも用心に越したことはない。

 アルドは娘を留守番させて仕事に向かう。道中で何度も心配で胸が張り裂けそうだったが、なんとか職場についた。

 スラム街から少し離れたところにある炭鉱。この辺の地区で最も稼ぎが良い仕事である。そこに集められたのは、いかにも屈強を絵に描いた"オトコ”たちである。腕、胸筋、腹筋、脚。全部がぶっとい規格外の力自慢たちが集められている。

 アルドも一般人に比べたら、そこそこ体格は良い方ではあるが、ここでは細い方に分類されてしまう。

「よお、アルド。オレのことを覚えているか?」

 頭頂部がハゲ散らかしているひげ面の男性がアルドに話しかけてきた。当然、アルドには身に覚えがない。

「えーと……すみません」

「ぎゃはは。オマエが敬語なんて使うような奴かよ。親方のオレにも生意気な口聞くような奴だったのに。記憶を失くしたってのは本当のようだな」

「親方……えっと。記憶をなくす前の僕が失礼なことをしたようで」

「良いってことよ。それにしても、体型だけじゃなくて、態度まで弱っちくなっちまったなあ。おい!」

 バシーンと親方がアルドの背中を叩いた。アルドはそれで、ビシっと反射的に起立をしてしまう。

「いたた……」

「おっと。気合いを入れるつもりがやりすぎちまったみたいだ。すまねえ。病み上がりだって言うのによ」

「いえ。それよりも、休暇を頂きありがとうございます」

「お前、本当に変わっちまったな。オレが見舞いに行った時は、オマエが寝ている時だったからな。記憶をなくしたって聞いたときは結構心配したんだぜ。久々に会えて嬉しいぜ」

 親方が見舞いに来た時に医者から事情を聞いて、退院してから数日は休暇を出すと医者に言伝をしていたのだ。

「えっと……お忙しい中、お見舞いに来てくださって本当にありがとうございます」

「もう、そういう堅苦しいのは無しにしようぜ? な?」

 親方は強引にアルドと肩を組んだ。「がはは」と笑う親方と「あはは」と愛想笑いをするアルド。

「さあ、みんな! アルドも戻って来たことだし、今日も張りっ切って働くぞ! それとみんなも事故には気をつけろよ。特に頭をぶつけてアルドみたいに記憶喪失になんなよ。がはは」

 親方の軽いジョークに笑う一同。イマイチまだノリについていけてないアルドだが、彼らが本質的には良い人たちだということは理解した。

 そんな始業の挨拶が終わり、仕事を始めるアルド。しかし、記憶喪失なので仕事の仕方も当然忘れていて、スムーズにできることは何もなかった。

「えっと、親方。これはどうすればいいんですか?」

「ん? ああ。ちょっと貸してみろ。これはだな……」

 だが、親方や周りの炭鉱夫たちは嫌な顔1つせずにアルドに仕事を教えていた。普通ならば、ここは喜ぶべきことだ。だが、アルドにはある疑念があった。

 休憩時間。アルドは1人で一息をついていた。だが、親方がそんなアルドに話しかける。

「よお。どうした。アルド浮かない顔をして」

「いえ……なんかみんな親切だなって」

「親切? オレたちがか?」

「はい。僕は記憶を失くして仕事の仕方も忘れてみんなに迷惑をかけたっていうのに」

「がはは。確かに、オマエがいけ好かない野郎だったら、ここまで丁寧に仕事は教えなかったかもな。でも、オマエは気の良い奴だった。だから、オレたちもそんなオマエを支えてやろうって思うのさ。まあ、困った時はお互い様ってことだ」

「そう……なんですか」

 アルドはその言葉に違和感を覚えた。自分は、周囲の人間には好かれていたらしい。飲み仲間の友人も見舞いに来てくれて、退院後も家まで一緒についてきてくれた。

 そして、職場でも悪い扱いを一切受けていない。そんな気の良い人物がどうして、娘であるイーリスを虐待していたのか。それがアルドにはどうしても理解できなかった。

 外面だけは良くて、家庭では暴君。そんな人間は少なからずいる。アルドもそういうタイプだったのではないか。そう解釈すれば、矛盾はなくなるが、それにしてもイーリスとそれ以外で周囲の態度が変わりすぎるのは、どうしても引っ掛かりや違和感はある。



「よし、今日の仕事はここまでだ。みんなお疲れー!」

「おつかれー!」

 親方の合図で炭鉱夫たちは一斉に片付けを始めて帰宅の準備をした。

「どうだ? アルド。久しぶりに飲まねえか?」

 親方がジェスチャーで酒を飲む仕草を見せる。だが、アルドには飲みに行くという選択は取れなかった。心苦しいけれど、親方の誘いは断らなければならない。

「すみません、親方。娘が僕の帰りを待っているので」

「あー。そうか。でも、オマエが飲みの誘いを断るなんて珍しいな。娘はしっかり者だし、最近反抗期になってきて『お父さんと一緒にいたくない』って言われたって毎晩飲みに歩いていたのに」

「そ、そうなんですか?」

 なんて最低な父親なんだろう。アルドは自分を恥じた。月に数回程度だったらまだ擁護できたが、毎晩飲み歩くのは流石に父親としてダメすぎる。

「まあ、そういうことなら仕方ねえなあ。娘さんの反抗期がなおったってことだろ?」

「ええ、まあ。そうですね」

「良かったじゃねえか。まあ、こんなむさ苦しいおっさんより、可愛い娘さんの方を大事にしてやんな」

 また親方がバシーンとアルドの背中を叩いた。アルドはそれでまた気を付けをしてしまう。

「あだだ」

「おっと、すまねえ。またやりすぎちまったな。前までのオマエはこれくらい屁でもなかったんだがなあ」

「あはは。入院して体がなまったのかもしれませんね」

「がはは。そうか。それは悪かったな」

 アルドは親方と円満にわかれた後にイーリスが待つ自宅へと戻った。錠を開けて家の中にはいるアルド。

「ただいまー」

「おかえりー!」

 イーリスはばたばたと走って玄関までアルドを迎えにいく。イーリスの笑顔を見て、アルドは早く帰って来て良かったと思うのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...