毒親転生~後にラスボスになる運命の娘を溺愛したら異常すぎるほど好かれてしまった~

下垣

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第25話 娘は正しい道を歩んでおります

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 ダンジョンを道なりに進んでいくアルドたち。前回、アルドとクララが到達した地点までたどりついた。

 物理攻撃が通り辛い岩やスライムの邪霊たちがいて、この邪霊たちを倒さないと先へは進めそうにない。

「イーリスちゃん。ちょっと魔法を使ってあいつらをやっつけちゃってよ」

 クララは背後からイーリスの両肩に手を添えて元気づける。

「うん……行くよ」

 イーリスはマナを感じて、それを全身に巡らせる。魔法を撃つ準備をして、そして放つ——!

「サイクロン!」

 イーリスが放った魔法が岩の邪霊やスライムをバラバラに引き裂いていく。岩も削られて、バラバラに。スライム上状の邪霊も四散して消滅してしまった。

 邪霊たちが消滅してしまった後も、イーリスが放った魔法はまだ続いていて、ちょっとずつ弱まっていき、やがて収まった。

 その、あまりにも強すぎる威力に、アルドもクララも口をあんぐり開けて驚きを隠せなかった。

「こんな感じでいいのかな?」

 クララが魔法を撃ってある程度のダメージを与えてからアルドが止めを刺すという戦い方をしていた邪霊。それを相手にイーリスは自分の力だけで一掃してしまった。その規格外すぎる威力は、並の邪霊では歯が立たない。

「すごいじゃないか! イーリス」

 アルドはイーリスの頭をわしゃわしゃと撫でる。イーリスはアルドに褒められて目を細めて口角をこれでもかとあげる。

「えへへ。そんなにすごいのかな?」

 さきほど、アルドを回復することができなくて落ち込んでいたイーリスであったが、すっかりその立ち直り、笑顔が溢れる。

 喜んでいる親子に対して、クララは拳をぐっと握った。イーリスの魔法はいくらなんでもけた違いすぎる。クララは魔法特化ではないものの、それを数日で上回るのはいくらなんでもありえないことだ。

 これほどの魔法の才能を持った子供に会ったことがない。これはかなりの恐ろしさを秘めている。

 もし、イーリスがこの魔法の力を正しい方向に使えば、世の中はよくなる。しかし、イーリスが誤った道に進めばそれを止める方法はあるのだろうかと考える。

「よし、今日はイーリスの好きなもの作ってあげるぞ! なにが食べたい?」

「うーんとねー……ハンバーグ!」

 クララのその心配はすぐに晴れた。こんな父親大好きな純粋な少女が誤った道に進むわけがない。クララはこの微笑ましい光景を見て安心した。

「ほら、2人とも。折角倒した邪霊の石片。回収しないともったいないよ」

「ああ、そうだったな。イーリス。どっちが多く拾えるか競争だ!」

「うん!」

 まさかダンジョンでこんな親子のハートフルな光景が見られるとは思ってなかったクララ。気が張るばかりかと思っていたダンジョンだが、こうしてムードメーカーがいることで精神的に楽になる。

 事実、ダンジョンに潜るディガーは、肉体以上に精神をやられるケースもある。邪霊との戦いで命を削り、場合によっては1人で潜る孤独に耐える。仲間も信頼できるとは限らない。途中で裏切られて素材を独り占めされる危険だってある。

 イーリスは確かに魔法が使えて戦力としては申し分ない。しかし、それ以上に仲間に笑顔を与えてくれる理想的なディガーだった。ダンジョンに行く前は、イーリスのことを心配していたけれど、うかうかしていると逆に自分がイーリスに心配されるくらいに追い越されてしまう。

 クララは、イーリスに負けないようにもっとがんばろうと決意を固めた。

 イーリスの魔法も好調で、次々と邪霊を蹴散らしていく。パーティメンバーが3人になったことでかなり楽になり、アルドたちはついにダンジョンの最深部に辿り着いた。

「イーリス。気を付けて。ここはダンジョンの最深部。あの邪霊がこのダンジョンで最も強い相手だ」

 イーリスが目の前の邪霊を見てゴクリと生唾を飲んだ。そこにいたのは、青色の毛並みをした狼の邪霊だった。体格がかなり大きくて、体高もイーリスの身長とそんなに変わらない。

 初めて見るダンジョンのボスとなる邪霊。イーリスは少し怖気づいてしまう。

「あれと戦うの?」

「大丈夫だ。僕がイーリスを守る」

 アルドが剣を強く握る。クララも拳を構えて戦闘体勢を取る。

「イーリスちゃん。あの邪霊を倒せば、このダンジョンの精霊は解放される。精霊のためにもがんばろうね」

「うん!」

「アォオオオオオン!」

 狼が吠える。そして、ピシピシとどこからともなく音が聞こえる。これは空気が固まる音。狼の周囲に氷ができて、それをまとう。

「あれは……青の魔法。ブリザードウェア。氷の鎧をまとって自分を強化する魔法だよ」

「青の魔法……クララさんも使えるの?」

「私はまだ習得してないかな」

 ブリザードウェアは赤の魔法の属性の1つ。炎で攻めれば対処ができる。しかし、赤の魔法に素質を持つのはイーリスだけだった。そのイーリスはまだ赤の魔法をなにも習得していない。なにせ、それを教えられる人物にまだ出会ってないのだ。

「が……あ……に、人間……?」

 狼の邪霊がアルドたちを見てしゃべった。

「じゃ、邪霊ってしゃべれるの?」

 イーリスが目を見開いて驚く。アルドもイーリスも今まで会話ができるタイプの邪霊に会ったことがなかった。

「そうだね。低級の邪霊はしゃべれないのもいるけれど、邪霊も精霊も根本は同じ精神体。精霊がしゃべれるのと同じように邪霊も高位の存在になるとしゃべれるのも出て来る。でも、この邪霊はカタコト程度しかしゃべれないみたいだね」

「なるほど。流石、クララ。詳しいな。と言うことは。逆に考えればカタコトしか話せないということは、低級の邪霊と比べたら強いけれど、そこまで強くないってことか?」

「うん、そういうこと。察しがいいね。恐らく、中級程度の邪霊ってところかな」

「人間……殺す!」

 邪霊が敵意をむき出しにして飛び掛かって来た。アルドが飛び掛かって来た邪霊に向かって剣を構える。邪霊の噛みつきの攻撃を剣で防ぐ。

 ガキンと音が鳴る。邪霊がまとっている冷気がアルドにも伝わり、寒さを感じてしまう。

「アルドさん、気を付けて。あまり近くにいると、冷気でダメージを受けちゃう」

 クララの言葉を聞いたイーリスがハッとする。このままだとアルドが危ない。そう判断したイーリスは魔法を放つ――!

「ウィンド!」

 イーリスが風の魔法を放った。強いサイクロンだとアルドを巻き込む危険があったから、それより下位のウィンドで押さえておいた。それでも、十分な威力で邪霊は後方に吹き飛んで、アルドから離れる。

「ありがとう。イーリス。助かった」

「えっへん。もっと私を頼ってもいいんだからね!」

 鼻高々に胸を張るイーリス。邪霊は四本足で着地をする。少し後ずさるもバランスを取り、きちんとした体勢を保った。

「人間……! 殺す……! 邪霊魔法! ガロウ!」

 邪霊が魔法を唱えた。青白い狼の霊体。それがイーリスに向かって放たれる。

「イーリス!」

 娘に危害が加わると瞬時に察知したアルドは疾風の刃の力を解放した。素早く移動できるようになり、すぐにイーリスの前に立ち、敵の魔法をその身に受けた。

「ぐふ……」

 邪霊が放ったガロウがアルドの腹部に命中した。アルドは少し体勢を崩すも、気合いを入れてなんとか持ち直した。だが、痛みはあり、少し肩で息をする。

「はぁ……はぁ……」

「お父さん! 大丈夫?」

「ああ。イーリスは大丈夫か?」

「うん」

 自分のことよりイーリスに怪我ないことを心配するアルド。

 クララがすぐにアルドの近くに駆け寄る。

「アパト!」

 邪霊から受けた霊障を治す精霊魔法。イーリスが使えない魔法でアルドの傷を治していく。

「ありがとう。クララ」

「うん。流石、お父さん! 身をていして娘を守るのはえらい!」

 戦闘中ではあるが、イーリスは表情が曇ってしまった。自分はクララが使えている魔法が使えない。誰でも使えるはずの魔法。それが使えれば、自分がアルドの傷を治してあげられたのに。

 自分のせいでダメージを負ったアルドになにもしてあげられなくて、イーリスは非常に歯がゆい想いをするのであった。
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