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第43話 凪の谷のボス
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アルドたちもヴァンに遅れて谷の内部に入っていく。見上げるほどに高い崖に挟まれたその峡谷を進む。
「ブリュレ!」
眼前に現れる邪霊をヴァンがアリを踏み潰す感覚で倒していく。邪霊を倒して得られる石片に目もくれずに先へ先へと進んでいく。
「あの人たち、石片拾ってないけどどうしてなのかな?」
イーリスがヴァンが倒した邪霊の石片を拾いながらそう呟く。
「まあ、石片を拾っている時間をロスして、私たちに追い抜かれたら嫌だって考えじゃない?」
「そうだな。今回のダンジョンのクリア報酬は莫大なものだ。目の前の小さな利益に目がくらんで私たちに先を越されでもしたら、彼らにとっても面白くないだろう。アタシたちが後ろからプレッシャーをかけているから小さいながらも報酬を取り逃がす。良い気味だ」
ほくほく顔でミラが石片を拾う。
「お父さんは拾わないの?」
イーリスが首を傾げる。アルドは後頭部をかきながら答える。
「いやー。なんか別に僕が倒したものじゃないのに、これを拾うのは気が引けるというか。なんか彼らの施しを受けているようでもあるし」
「何言っているのアルドさん! 石片は拾わない方が悪いんだから。プライドなんて犬にでも食わせて。私たちがお零れもらって何が悪いの!」
意外とプライドを見せるアルドに対して、現実的なクララが叱り飛ばす。確かに石片はディガー協会に持って行けば売れるし、装備を作る際の材料にもなりえる。拾っておいて損はないのだ。
「もし、石片が足りなくて強力な装備が作れなかった。そんな事態になったら悔やんでも悔やみきれない。装備1つ足りないだけでディガーは死に直結しかねないからな」
「うん……ミラの言う通りだな。もらえるものはもらっておいた方がいいかも」
死に直結する。自分が死ぬのならまだしも、イーリスの防具が足りなくて、性能が及ばなくて、娘の身に万一のことが起きたら、アルドは後悔してもしきれない。となると、もうこれは拾うしかない。
「リーダー。あいつら、あっしたちのお零れ拾ってますぜ。くひひ。面白いですな」
「笑ってやるな。駆け出しのころは誰だって石片不足に陥りやすい。俺たちは装備が充実しているからいいが……あいつらの服装を見れば装備の状況がカツカツだって言うのがわかる。特にあの男は女に防具を優先させているせいか、ロクな防具を装備してない」
「確かに」
「だから、ハイエナのように石片に群がるのは仕方ない。他人の獲物を横取りするのは習性だと思ってやれ」
「へい! リーダー」
陰でそんな会話をしながらヴァンたちも進んでいく。そして、ヴァンたちはついに……精霊が封印されている地点。すなわち、ボスがいるところに辿り着いた。
赤い岩の邪霊。ファイヤードゴーレム。それがヴァンの眼前に立ちふさがった。
「ファイヤードゴーレムか。初めて戦う相手だが……この俺が負けるわけない! まずは小手調べだ! ブリュレ!」
ヴァンは最も基本的な炎の赤の魔法を唱えた。ヴァンの手から放たれた炎がファイヤードゴーレムに命中する。だが、ファイヤードゴーレムはまるで効いてないと言わんばかりに微動だにしない。
「リーダー! 効いてないですぜ!」
「ああ、わかってる。これくらいで倒せるようでは歯ごたえがないからな」
ヴァンはローブの中に隠してあったロッドを手に取った。ロッドは信仰と魔力を同時に高める効果がある。信仰が高くなる分、邪霊の攻撃でより深手を負ってしまうが、ワンドよりも爆発力が高い代物だ。
「ブリュレ!」
再びヴァンが炎の魔法を唱えてファイヤードゴーレムに攻撃を仕掛ける。しかし、ファイヤードゴーレムはそれを拳を叩きつけることで消した。
「んな!」
「その程度の炎。効かない。炎とはこうやって撃つものだ。クルセイド!」
5つの炎がファイヤードゴーレムから放たれる。その5つの炎は十字架の形を取り、ヴァンに向かって放たれた。
「まずい……」
ヴァンはすぐにロッドを地面へと投げ捨てた。ロッドを持っていては信仰が高まり、魔法で大きなダメージを負ってしまう。
「ぐわああ!」
炎で焼かれるヴァン。幸いにも装備しているローブの防御効果でダメージはある程度軽減できた。しかし、それでも、ヴァンに与えられた霊障は大きい。素早くロッドを捨てる判断ができていなければ、今頃は致命傷を負っていたことだ。
「リーダー!」
剣士の青年がヴァンに語り掛ける。ローブは火で焼かれていてボロボロになっている。効力をほぼほぼ失っていて、次に同じ一撃を受けたら、ヴァンの命に関わるレベルである。
「くそ、あいつ……俺の魔法が効かない。お前の物理でなんとかしてくれ!」
「へ、へい!」
剣士の青年が剣でファイヤードゴーレムに攻撃を仕掛ける。しかし、ゴーレムは斬撃に対して体勢があるためにまるで歯が立たない。否、刃が立たない!
「邪魔だ!」
「ぶへえ!」
剣士の青年はゴーレムのパンチによって弾き飛ばされてしまった。そのまま崖に激突してしまう、殴られた時にゴキィとなにかが砕けるような音がして、崖にぶつかった時にガンと痛々しい音が響く。
「が……」
「くそ! アパト!」
ヴァンは剣士の青年に回復魔法のアパトをかけた。しかし、青年の傷はどれだけアパトをかけても完全には回復しなかった。ゴーレムのパンチによる一撃。これの霊障は取り除けても崖に激突したダメージ。それは物理的なものであるがため、霊障を取り除くアパトでは回復しきれない。
峡谷。その地形がゴーレムに味方をした。ヴァンは相手の実力を見誤っていた。それどころか、自分の力を過信しすぎていたのだ。
「終わりだ。クルセイド!」
「負けてたまるか! テンペスト!」
炎が効かないなら風で対抗する。ヴァンが使えるもう1つの色である緑の魔法。それで対抗しようとする。しかし、ここは凪の谷。風の魔法は威力が弱まってしまう。クルセイドを打ち消すことができないまま、ヴァンはやられそうになってしまう。
「カスケード!」
ヴァンの眼前に滝のような水のバリアが展開された。ゴーレムのクルセイドがその水のバリアで打ち消されてしまう。
「な、なんだと……」
ゴーレムは面を食らってしまった。
「お、お前らは……!」
ヴァンが振り返るとそこにいたのはクララだった。青の魔法を使ってヴァンを守ったのだ。
「はいはーい。もう打つ手なしならどいて。私たちの番だから」
「そうそう。アタシも順番待ち退屈してたんだから」
クララとミラがヴァンの前に出る。
「ま、まだだ! まだ俺はやれる! 勝手にリタイア扱いをするんじゃ……」
「ヴァン君。キミの使える魔法じゃあの邪霊とは相性が悪い。だから、ここは僕たちに任せて欲しい」
アルドはヴァンを必要以上に傷つけないようにあくまでも相性が悪かったから負けただけだと説得した。責め立てるようなことはせずに、ヴァンに退場を促した。
「でも……俺は!」
「キミの相棒。怪我をしているだろ? ここで意地を張って彼の治療が遅れてもいいのか?」
「……わかったよ」
ヴァンは剣士の青年を背負って安全地帯へと逃げていった。
「気を付けて帰ってねー」
イーリスはヴァンに向かって手を振った。
「さあ、イーリスちゃん。あいつらを見送るのもいいけど、戦闘が始まるよ」
「うん! わかった!」
クララに言われてイーリスはワンドをぐっと握る。
「4人か。さっきよりも数は多いが問題はない。貴様らも返り討ちにしてやる!」
ファイヤードゴーレムがアルドたちに拳を向ける。
「みんな! 行くぞ!」
アルドが最前列に出る。女子3人組も「うん」と頷いた。
「ブリュレ!」
眼前に現れる邪霊をヴァンがアリを踏み潰す感覚で倒していく。邪霊を倒して得られる石片に目もくれずに先へ先へと進んでいく。
「あの人たち、石片拾ってないけどどうしてなのかな?」
イーリスがヴァンが倒した邪霊の石片を拾いながらそう呟く。
「まあ、石片を拾っている時間をロスして、私たちに追い抜かれたら嫌だって考えじゃない?」
「そうだな。今回のダンジョンのクリア報酬は莫大なものだ。目の前の小さな利益に目がくらんで私たちに先を越されでもしたら、彼らにとっても面白くないだろう。アタシたちが後ろからプレッシャーをかけているから小さいながらも報酬を取り逃がす。良い気味だ」
ほくほく顔でミラが石片を拾う。
「お父さんは拾わないの?」
イーリスが首を傾げる。アルドは後頭部をかきながら答える。
「いやー。なんか別に僕が倒したものじゃないのに、これを拾うのは気が引けるというか。なんか彼らの施しを受けているようでもあるし」
「何言っているのアルドさん! 石片は拾わない方が悪いんだから。プライドなんて犬にでも食わせて。私たちがお零れもらって何が悪いの!」
意外とプライドを見せるアルドに対して、現実的なクララが叱り飛ばす。確かに石片はディガー協会に持って行けば売れるし、装備を作る際の材料にもなりえる。拾っておいて損はないのだ。
「もし、石片が足りなくて強力な装備が作れなかった。そんな事態になったら悔やんでも悔やみきれない。装備1つ足りないだけでディガーは死に直結しかねないからな」
「うん……ミラの言う通りだな。もらえるものはもらっておいた方がいいかも」
死に直結する。自分が死ぬのならまだしも、イーリスの防具が足りなくて、性能が及ばなくて、娘の身に万一のことが起きたら、アルドは後悔してもしきれない。となると、もうこれは拾うしかない。
「リーダー。あいつら、あっしたちのお零れ拾ってますぜ。くひひ。面白いですな」
「笑ってやるな。駆け出しのころは誰だって石片不足に陥りやすい。俺たちは装備が充実しているからいいが……あいつらの服装を見れば装備の状況がカツカツだって言うのがわかる。特にあの男は女に防具を優先させているせいか、ロクな防具を装備してない」
「確かに」
「だから、ハイエナのように石片に群がるのは仕方ない。他人の獲物を横取りするのは習性だと思ってやれ」
「へい! リーダー」
陰でそんな会話をしながらヴァンたちも進んでいく。そして、ヴァンたちはついに……精霊が封印されている地点。すなわち、ボスがいるところに辿り着いた。
赤い岩の邪霊。ファイヤードゴーレム。それがヴァンの眼前に立ちふさがった。
「ファイヤードゴーレムか。初めて戦う相手だが……この俺が負けるわけない! まずは小手調べだ! ブリュレ!」
ヴァンは最も基本的な炎の赤の魔法を唱えた。ヴァンの手から放たれた炎がファイヤードゴーレムに命中する。だが、ファイヤードゴーレムはまるで効いてないと言わんばかりに微動だにしない。
「リーダー! 効いてないですぜ!」
「ああ、わかってる。これくらいで倒せるようでは歯ごたえがないからな」
ヴァンはローブの中に隠してあったロッドを手に取った。ロッドは信仰と魔力を同時に高める効果がある。信仰が高くなる分、邪霊の攻撃でより深手を負ってしまうが、ワンドよりも爆発力が高い代物だ。
「ブリュレ!」
再びヴァンが炎の魔法を唱えてファイヤードゴーレムに攻撃を仕掛ける。しかし、ファイヤードゴーレムはそれを拳を叩きつけることで消した。
「んな!」
「その程度の炎。効かない。炎とはこうやって撃つものだ。クルセイド!」
5つの炎がファイヤードゴーレムから放たれる。その5つの炎は十字架の形を取り、ヴァンに向かって放たれた。
「まずい……」
ヴァンはすぐにロッドを地面へと投げ捨てた。ロッドを持っていては信仰が高まり、魔法で大きなダメージを負ってしまう。
「ぐわああ!」
炎で焼かれるヴァン。幸いにも装備しているローブの防御効果でダメージはある程度軽減できた。しかし、それでも、ヴァンに与えられた霊障は大きい。素早くロッドを捨てる判断ができていなければ、今頃は致命傷を負っていたことだ。
「リーダー!」
剣士の青年がヴァンに語り掛ける。ローブは火で焼かれていてボロボロになっている。効力をほぼほぼ失っていて、次に同じ一撃を受けたら、ヴァンの命に関わるレベルである。
「くそ、あいつ……俺の魔法が効かない。お前の物理でなんとかしてくれ!」
「へ、へい!」
剣士の青年が剣でファイヤードゴーレムに攻撃を仕掛ける。しかし、ゴーレムは斬撃に対して体勢があるためにまるで歯が立たない。否、刃が立たない!
「邪魔だ!」
「ぶへえ!」
剣士の青年はゴーレムのパンチによって弾き飛ばされてしまった。そのまま崖に激突してしまう、殴られた時にゴキィとなにかが砕けるような音がして、崖にぶつかった時にガンと痛々しい音が響く。
「が……」
「くそ! アパト!」
ヴァンは剣士の青年に回復魔法のアパトをかけた。しかし、青年の傷はどれだけアパトをかけても完全には回復しなかった。ゴーレムのパンチによる一撃。これの霊障は取り除けても崖に激突したダメージ。それは物理的なものであるがため、霊障を取り除くアパトでは回復しきれない。
峡谷。その地形がゴーレムに味方をした。ヴァンは相手の実力を見誤っていた。それどころか、自分の力を過信しすぎていたのだ。
「終わりだ。クルセイド!」
「負けてたまるか! テンペスト!」
炎が効かないなら風で対抗する。ヴァンが使えるもう1つの色である緑の魔法。それで対抗しようとする。しかし、ここは凪の谷。風の魔法は威力が弱まってしまう。クルセイドを打ち消すことができないまま、ヴァンはやられそうになってしまう。
「カスケード!」
ヴァンの眼前に滝のような水のバリアが展開された。ゴーレムのクルセイドがその水のバリアで打ち消されてしまう。
「な、なんだと……」
ゴーレムは面を食らってしまった。
「お、お前らは……!」
ヴァンが振り返るとそこにいたのはクララだった。青の魔法を使ってヴァンを守ったのだ。
「はいはーい。もう打つ手なしならどいて。私たちの番だから」
「そうそう。アタシも順番待ち退屈してたんだから」
クララとミラがヴァンの前に出る。
「ま、まだだ! まだ俺はやれる! 勝手にリタイア扱いをするんじゃ……」
「ヴァン君。キミの使える魔法じゃあの邪霊とは相性が悪い。だから、ここは僕たちに任せて欲しい」
アルドはヴァンを必要以上に傷つけないようにあくまでも相性が悪かったから負けただけだと説得した。責め立てるようなことはせずに、ヴァンに退場を促した。
「でも……俺は!」
「キミの相棒。怪我をしているだろ? ここで意地を張って彼の治療が遅れてもいいのか?」
「……わかったよ」
ヴァンは剣士の青年を背負って安全地帯へと逃げていった。
「気を付けて帰ってねー」
イーリスはヴァンに向かって手を振った。
「さあ、イーリスちゃん。あいつらを見送るのもいいけど、戦闘が始まるよ」
「うん! わかった!」
クララに言われてイーリスはワンドをぐっと握る。
「4人か。さっきよりも数は多いが問題はない。貴様らも返り討ちにしてやる!」
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