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第9話 バイト面接
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朝が来た。
視界には俺が作った天井、正確には段ボール。
なぜかは知らないが、転生者は天井についてコメントをするという風習があるらしい。まぁ、ただの段ボールではコメントのしようがない。
セラフィーラさんはまだ眠っている。手は胸の上に組んだまま。
驚いたことに、セラフィーラさんはまるで時が止まったかのように、一度も寝返りを打たなかったのだ。
息はしているようなので大丈夫だと信じたい。
それにしても美しい寝顔だ。西洋絵画と遜色ない。むしろ描いて欲しい、てか誰か描け。
俺はセラフィーラさんを起こしてしまわぬよう、素早く支度を整え、テントを抜けた。
秋晴れの光が、寝不足の体を包み込む。
俺は外気を吸い込み、体に酸素を取り込んだ。
これがよい眠気覚ましとなった。
徹夜で受験勉強をした日は、エナジードリンクで体を奮い立たせたものだが、案外こういった古典的なことが一番効果的なのかもしれない。
俺は求人チラシを握りしめ、木漏れ日を浴びながら公園の出口を目指す。
ふと、公園の中央から煙が上がっているのが目に入った。十中八九、山田さんの仕業。朝食の支度をしているのだろう。
朝ごはんを食べていないけれど、引きこもりのときも1日2食生活をしていたから平気だ。
俺は先を急ぐ。
なんとしてでも仕事に就いて、早くお金を稼がなくてはいけない。
公園から出るとすぐに、人の流れに巻き込まれた。いわゆる通勤ラッシュというやつだ。
流石は東京、働き者というべきか、否か。働かないと賃金を貰うことはできないのだから、こればっかりは仕方ない。
しかし、田舎者はちょっとビルに囲まれただけで気後れしてしまった。
近くは新宿、原宿、渋谷だそうだ。辺境出身の田舎者でも聞き覚えのある地名に恐れ戦いた。
俺はなるべく建物を見ないようにした。めまいがするから。
カキモト建設の事務所は、公園から20分ほどの住宅街にあった。
とても簡素な平屋だった。いかにも下町といった感じだ。
引き戸の横にインターホンがあったので、意を決して一押し。
「はい、カキモト建設です。なんの御用ですか?」
中から出てきたのは作業着を着た中年の男の人。
胸元には柿本のプレート。眼鏡がよく似合っている。
柿本さんからは、優しそう、といった第一印象を受けた。少なくとも、山田さんみたいな胡散臭さは感じられない。
「水谷颯人と言います。佐々木公園の山田さんからチラシを受け取ってこちらにまいりました」
「ああ、山田さんの紹介かぁ。さあどうぞ入って」
「失礼します」
俺は事務所の奥へと案内され、商談用と思わしきソファに腰掛けさせられた。
「そのチラシで来たってことは、アルバイト希望でいいのかな?」
「はい! どんな雑用でも尽力させていただきます」
「まぁまぁ、そんなに固くならないで。うちは今人手が足りていなくてね。君みたいな若い力が必要だったところだよ」
「本当ですか! よろしくお願いします!」
よかった!
これでセラフィーラさんを養っていける。
「じゃあ、まずは履歴書を出してもらえるかな?」
あ、履歴書。しまった、用意していない。
仮に書いたとしても高卒浪人アルバイト経験なしなのですが……。
「すみません、用意してないです……」
「まぁうちは建設会社で力仕事だから、経歴なんて関係ないからね。手続きに必要なもの以外はなくても問題ないよ」
バイト相談に履歴書も持参できない無礼者を優しくなだめてくれた。
本当にすみません。
「それで、手続きに必要なものってなんでしょうか? 早急に用意します」
「今すぐ出せなくても問題ないんだけど、マイナンバーが必要なんだよ」
え……………………。
マイ、ナンバー?
柿本さんの声が頭の中で反響を繰り返し、遠ざかっていった。
「もちろん働き始めてからで大丈夫だから、心配しないでね」
ちょっと待って。もしかして詰んだ?
今日は手元にないから焦っているとか、断じてそんな生優しい問題ではない。
そう、俺、水谷颯人は一度死んでいるのだ。
それが意味することとはずばり、戸籍がないということ。
戸籍とは、人の出生から死亡までを記録するためのものだ。この世で死を経験した俺には、もうそれがない。転生したから作り直してくれ、なんて甘い話は通用しないのだ。
戸籍がなければ当然、付随しているマイナンバーを利用することはできない。
つまり俺はこのままだと一生、働いて賃金を稼ぐことが許されないということだ。
それどころか住民票も移せないので、アパートを借りることすらできない。そもそもの住民票が存在しない。
完全に盲点だった。
こういうのって、小難しい部分は無視して進むもんじゃないのか?なんでそこだけリアルなんだよ。
神頼みでどうにかなるなら、いくらでも祈ってやる。しかし、俺が養おうとしているのはその神様なのだ。
「実は俺、戸籍がないんです……」
隠して働いても、いずれバレる。それで迷惑をかけたくない。俺は正直に打ち明けた。
============
この物語はフィクションです。実際の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
【セラフィーラ様の秘密】
もし、セラフィーラ様がゲームを知ったら、任○堂ハード派、と見せかけてSE○Aハード派になる。
視界には俺が作った天井、正確には段ボール。
なぜかは知らないが、転生者は天井についてコメントをするという風習があるらしい。まぁ、ただの段ボールではコメントのしようがない。
セラフィーラさんはまだ眠っている。手は胸の上に組んだまま。
驚いたことに、セラフィーラさんはまるで時が止まったかのように、一度も寝返りを打たなかったのだ。
息はしているようなので大丈夫だと信じたい。
それにしても美しい寝顔だ。西洋絵画と遜色ない。むしろ描いて欲しい、てか誰か描け。
俺はセラフィーラさんを起こしてしまわぬよう、素早く支度を整え、テントを抜けた。
秋晴れの光が、寝不足の体を包み込む。
俺は外気を吸い込み、体に酸素を取り込んだ。
これがよい眠気覚ましとなった。
徹夜で受験勉強をした日は、エナジードリンクで体を奮い立たせたものだが、案外こういった古典的なことが一番効果的なのかもしれない。
俺は求人チラシを握りしめ、木漏れ日を浴びながら公園の出口を目指す。
ふと、公園の中央から煙が上がっているのが目に入った。十中八九、山田さんの仕業。朝食の支度をしているのだろう。
朝ごはんを食べていないけれど、引きこもりのときも1日2食生活をしていたから平気だ。
俺は先を急ぐ。
なんとしてでも仕事に就いて、早くお金を稼がなくてはいけない。
公園から出るとすぐに、人の流れに巻き込まれた。いわゆる通勤ラッシュというやつだ。
流石は東京、働き者というべきか、否か。働かないと賃金を貰うことはできないのだから、こればっかりは仕方ない。
しかし、田舎者はちょっとビルに囲まれただけで気後れしてしまった。
近くは新宿、原宿、渋谷だそうだ。辺境出身の田舎者でも聞き覚えのある地名に恐れ戦いた。
俺はなるべく建物を見ないようにした。めまいがするから。
カキモト建設の事務所は、公園から20分ほどの住宅街にあった。
とても簡素な平屋だった。いかにも下町といった感じだ。
引き戸の横にインターホンがあったので、意を決して一押し。
「はい、カキモト建設です。なんの御用ですか?」
中から出てきたのは作業着を着た中年の男の人。
胸元には柿本のプレート。眼鏡がよく似合っている。
柿本さんからは、優しそう、といった第一印象を受けた。少なくとも、山田さんみたいな胡散臭さは感じられない。
「水谷颯人と言います。佐々木公園の山田さんからチラシを受け取ってこちらにまいりました」
「ああ、山田さんの紹介かぁ。さあどうぞ入って」
「失礼します」
俺は事務所の奥へと案内され、商談用と思わしきソファに腰掛けさせられた。
「そのチラシで来たってことは、アルバイト希望でいいのかな?」
「はい! どんな雑用でも尽力させていただきます」
「まぁまぁ、そんなに固くならないで。うちは今人手が足りていなくてね。君みたいな若い力が必要だったところだよ」
「本当ですか! よろしくお願いします!」
よかった!
これでセラフィーラさんを養っていける。
「じゃあ、まずは履歴書を出してもらえるかな?」
あ、履歴書。しまった、用意していない。
仮に書いたとしても高卒浪人アルバイト経験なしなのですが……。
「すみません、用意してないです……」
「まぁうちは建設会社で力仕事だから、経歴なんて関係ないからね。手続きに必要なもの以外はなくても問題ないよ」
バイト相談に履歴書も持参できない無礼者を優しくなだめてくれた。
本当にすみません。
「それで、手続きに必要なものってなんでしょうか? 早急に用意します」
「今すぐ出せなくても問題ないんだけど、マイナンバーが必要なんだよ」
え……………………。
マイ、ナンバー?
柿本さんの声が頭の中で反響を繰り返し、遠ざかっていった。
「もちろん働き始めてからで大丈夫だから、心配しないでね」
ちょっと待って。もしかして詰んだ?
今日は手元にないから焦っているとか、断じてそんな生優しい問題ではない。
そう、俺、水谷颯人は一度死んでいるのだ。
それが意味することとはずばり、戸籍がないということ。
戸籍とは、人の出生から死亡までを記録するためのものだ。この世で死を経験した俺には、もうそれがない。転生したから作り直してくれ、なんて甘い話は通用しないのだ。
戸籍がなければ当然、付随しているマイナンバーを利用することはできない。
つまり俺はこのままだと一生、働いて賃金を稼ぐことが許されないということだ。
それどころか住民票も移せないので、アパートを借りることすらできない。そもそもの住民票が存在しない。
完全に盲点だった。
こういうのって、小難しい部分は無視して進むもんじゃないのか?なんでそこだけリアルなんだよ。
神頼みでどうにかなるなら、いくらでも祈ってやる。しかし、俺が養おうとしているのはその神様なのだ。
「実は俺、戸籍がないんです……」
隠して働いても、いずれバレる。それで迷惑をかけたくない。俺は正直に打ち明けた。
============
この物語はフィクションです。実際の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
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もし、セラフィーラ様がゲームを知ったら、任○堂ハード派、と見せかけてSE○Aハード派になる。
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