女神同棲 〜転生に失敗しましたが、美人で清楚な”女神様を拾った”ので、甘々な新築生活を目指します!〜

杜田夕都

文字の大きさ
10 / 34

第10話 初仕事

しおりを挟む
 柿本さんは面食らっている様子だったが、やわらかな声で、

「それは大変だったね。話せる範囲でいいから、事情を教えてくれないかな?」

 と、俺のことを気遣ってくれた。普通なら、ここで追い出されていてもおかしくないのに。

『取り繕わずにありのままの姿で臨めば、きっと大丈夫です! 応援しています!』という言葉が脳裏をよぎる。
 俺は転生のことは控えつつ、話せるかぎりのことを話した。
 少し前までは戸籍があったこと。戸籍を再取得する意思があること。家族はおらず、山田さんの公園で生活していること。そして、ある人を養っていかなくてはいけないこと。
 
 柿本さんは黙って俺の話を聞いてくれた。
 そして、噛み締めるようにぽつりぽつりと言葉を紡いだ。

「打ち明けてくれてありがとう。私もね、昔、苦労した時期があったんだ。当時は山田さんに世話をしてもらったんだよ。あの人がいなかったら、今の私はここにはいない。だから、次は私が困っている人の助けになるって決めていたんだ。今が、その時のようだ」
「え?」

 思わず声を漏らす。俺は働けないはずだから。
 加えて、柿本さんは驚くべき言葉を告げた。

「1ヶ月の日雇いとして働くことを許そう。もちろん条件付きだけどね」
「本当ですか!? でも、手続きにマイナンバーが必要だってさっき……」
 
 それに、条件という言葉が引っかかる。
 
「手続きっていうのは労働保険の一部と社会保険のことで、社員の4分の3以上の労働日数で、週20時間以上を1ヶ月に渡って雇用した場合に加入しなくちゃいけないものなんだ。逆を言えば、これを満たさない日雇いであれば加入する必要がない。つまり、君のマイナンバーが必要なくなる」

 日雇い! その手があったのか。

「それ以外に必要な手続きはないんですか?」
「マイナンバー以外だと、労働者名簿や労災保険があるけど、これらは君から徴収する物はなにもないよ」

 つまり、日雇いの一ヶ月以内の労働であれば、戸籍のない俺でも働ける!
 答えは決まっている。

「柿本さん、ありがとうございます! 1ヶ月間よろしくお願いします!」

 俺は立ち上がって頭を下げた。
 目頭が熱くなる。
 セラフィーラさん、俺、仕事決まったよ。


 ◇


 真新しい作業着に身を包み、分厚い業務マニュアルを読み込む。
 はい、お察しの通り、採用当日から働くことになりました。
 セラフィーラさんに促されて早めに床に就いていなければ、疲労困憊で力尽きていたかもしれない。まぁ、寝付くことはできなかったので睡眠不足ではあるけれども。

 人生初仕事でかなり緊張しているが、とにかくマニュアルを覚えることに集中する。暗記科目は大の得意だ。
 
 本日の施工は左官工事。
 左官工事とは、コテを使って壁や床などの塗り上げを行う工事のこと。
 未経験者の俺には先輩社員の1人がついて指導してくれるとのことだが、どんな人だろう。ここはベタに強面マッチョな男前を想像してみる。

 「おはようございまーす!」

 青年が威勢よく事務所に入ってきた。
 髪は茶髪で、俺より1、2歳ほど年上に見えた。
 ちょっとチャラそう。マッチョではなかった。

「おはよう、たちばなくん。この子が今日からうちで働くことになった水谷くん。今日の施工は研修も兼ねて二人でお願いしたんだ」
「まじすか!? ずいぶん急っすね」

 柿本さんが俺を手招きする。

水谷颯人みずたにはやとです。よろしくお願いします!」

「とうとう俺も先輩かぁ。よっしゃ、俺が一から叩き込んでやるからな。俺は橘裕司たちばなゆうじ、よろしく頼むぜ。俺のことは橘先輩と呼ぶように!」
「力仕事は初めてらしいから優しくしてあげてね」

 橘先輩は飲み込みが早かった。
 そそくさと作業着に着替え、俺を現場へ連れ出した。
 今日の現場は住宅街の新築の一軒家。この家の外壁の左官工事を行う。
 
「こういうのは、覚えるより慣れだぜ慣れ」

 橘先輩は、マニュアルと睨めっこしている俺を一喝し、セメントと砂の袋を持ってこいと指示をよこした。
 これらを水と一緒にバケツへ入れて練り混ぜ、モルタルという左官材料を作るのだ。

 左官工事には、下地塗り、中塗り、上塗りという3つの工程がある。
 工程に応じて混合比率も違うとのことで、モルタルの調合は橘先輩が行った。

「今日俺たちがやるのは、上塗り。上塗りが一番簡単だから、そんな心配そうな顔すんな」

 そう諭されながら俺は、調合したモルタルを塗り込まれた板とコテを渡された。

 橘先輩の見様見真似でコテを使って外壁にモルタルを塗り込む。
 モルタルが足りなくなったら、バケツから補充して、板にのせてまた塗る。その繰り返し。
 下地と中塗りがしっかりしているおかげか、初めての俺でもなんとか形にすることができた。が、必ず手直しをされる。
 
 一見地味な作業ではだったが、心が充実している。これが ”やりがい” なのだろう。
 
 12時を過ぎ工事に区切りがついたので、お昼休憩に入った。
 
「あれ、ハヤトは昼飯ないんか?」

 橘先輩がコンビニ弁当の蓋を開けながら、問いかけてきた。
 当然のことだが、昼食は持ってきていない。

「はい、実は今無一文で……」
「しゃーねーな、今日だけ俺が奢ってやるよ」

 橘先輩は手元の鞄から財布を取り出した。
 
 「いや、でも……。ありがとうございます」
 
 空腹には逆らえなかった。
 俺は、橘先輩から千円札をありがたく受け取り、コンビニへ向かおうとした。

「なー、あそこの外国人さん。めっちゃ美人じゃね?」
 
 橘先輩の声で、道路脇に目を向ける。

 おしとやかに佇んだ人影が、視界に入った。
 純白の生地とブロンドの髪が風になびいている。
 
「ん? なんでこっちに手振ってんだ?」
 
 橘先輩が小首をかしげる。
 その人は、こちらと目があったと分かるや否や、振りながらこちらへゆっくりと歩み始めた。
 そして「ちょっと声掛けてみようかな」と呟いた橘先輩を素通りし、唖然とする俺へ、手提げを持ち上げながら、満面の笑みで一言。

「ふふっ来ちゃいました!」
「来ちゃいました!?」
「え、お前、リア充だったのか!? どういうことだ! 説明しろ!」

 そこで初めて「はやとさんのお食事に、毎度ご一緒してもよろしいでしょうか?」という言葉を思い出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。 実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。 偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。 けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。 不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。 真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、 少し切なくて甘い青春ラブコメ。

『鉄壁の御曹司は、お節介な「姉」に料理される』

エイプリル
恋愛
訳アリの彼と世話好き女の子、疑う彼をエサ付けした女の子が恋愛のハードルを突然上げられて!付き合うって何?

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...