女神同棲 〜転生に失敗しましたが、美人で清楚な”女神様を拾った”ので、甘々な新築生活を目指します!〜

杜田夕都

文字の大きさ
19 / 34

第19話 台風直撃、段ボールテントの危機

しおりを挟む
「セラフィーラさん! 入浴中に失礼します」
「あら? はやとさん、どうかしましたか?」

 入浴中のセラフィーラさんは両の手でドラム缶の縁を掴みながら、ひょっこりと顔を出していた。
 可愛いすぎだろ。そうだ、フィギュア化してガチャガチャの景品にしよう! 
 ってそれどころじゃない。
 入浴中のセラフィーラさんから視線を逸らしながら、説明を始める。
 
「台風が直撃するらしく、慌てて山田さんから借りたラジオを聞いたんですが、予報によると、公園全体がバケツをひっくり返したような大雨で大変なことになります!」
「まぁ。そんなに大きなバケツがあったとは」
「ありません! とにかく、すぐに出てください。ここだと野晒しですし、段ボールテントも守らないと吹っ飛ばされちゃいます。とりあえず俺、先に戻ってま」
「それは大変です! 承知しました!」

 セラフィーラさんは、バシャーとドラム缶風呂から立ち上がった。

「うわっ、ちょっといきなり立ち上がらないでください!」
「なぜです? すぐに出るように言ったのははやとさんではありませんか」
「言葉の綾です! せめて隠してください」
「何を隠すのです?」
「もういいです! と、とにかく俺先に戻ってますから」

 心臓の音が鳴り止まない。
 女神には羞恥心がないのか。

 俺は悶々としながら段ボールテントへと戻った。
 ビニールシートなどを用いてテントの補強を行いながら、セラフィーラさんの帰りを待つ。
 その間も雨はどんどん強くなっていった。
 
「ただいま戻りました! これが雨なのですね!」

 初めての雨に興奮している場合じゃないってば。

「おかえりなさいセラフィーラさん。このペースだとテントがもたないかもしれません。天候操作の魔法は使えませんか?」
「申し訳ございません。天界規定により、世界への大きな干渉は禁止されており、台風そのものへの干渉はできません」

 天界規定許すまじ。そもそも俺が再転生できなかったのも規定のせいだし。
 風が強く吹き荒れ、段ボールテントが悲鳴をあげる。

「魔法でテントの強度を上げることは?」
「残念ながら生命にしか適応できません」

 仕方ない。

「物理的にテントを補強しましょう」
「承知しました!」

 俺たちは段ボールテントの外に出て、テントと繋いだ棒を地面に打ちつけて補強した。

 どしゃ降りの雨で段ボールがふやけて歪んでいく。

「セラフィーラさん、テントを抑えましょう!」
「はい!」

 二人で中から段ボールテントを抑えているが限界が近い。

 段ボールテントのビニールシートと段ボールが、一枚、また一枚と剥がれて吹き飛んでいく。

 もうダメかもしれない。
 俺が諦めかけていたその時。

「はやとさん、一かバチか防衛魔法を試してもよろしいでしょうか?」
「えっ防衛魔法? そんなものがあるんですか?」
「はい、バリアのようなものです。防衛魔法にも種類があるのですが、私が今回用に扱える魔法は一つしかありません。本来、半径50kmほどをカバーする大魔法なのですが、それを圧縮して佐々木公園のみを対象とします。小規模であれば天界規定には抵触しないでしょう。この魔法の圧縮は、一度も試したことがないので成功率は2割、といったところです」

 もし、失敗したら……と聞こうとしたが、セラフィーラさんは既に決意を固めていた。ここで聞き返すのは野暮だ。

「わかりました。セラフィーラさん、お願いします!」
「はい! お任せください!」

 セラフィーラさんはテントの外へ出た。俺も後を追う。
 ゴロゴロと雷が鳴り響く。

「はやとさんと下界で暮らすことができて、とても楽しかったです。それでは、失礼します」

 えっ。

 セラフィーラさんの背中が一瞬だけ赤く発光し、純白の大きな翼が現れた。
 大雨に打たれながら、そのままゆっくりと翼をはためかせて上空へと浮上した。

 手を組んで祈りの姿勢をとり、詠唱を始める。

「解析……」


「作成……」


「最適化……」


「生成……」


「圧縮」


 セラフィーラさんがまばゆい光に包まれる。


「我が、加護を受け取りたまえ」


「ハリウェルフィーリ」


 強い光を発しながら、巨大な三層の魔法陣が浮かび上がり、魔法の膜が公園全体を覆っていく。

 雨が止んだ。いや、膜が雨を公園の外へ受け流している。
 セラフィーラさんが上空から手を振る。

「はやとさーーん! 大成功です!」
「セラフィーラさんーー! ありがとうございますー! お疲れ様ですーー! あっ」

 本当によかった。
 遺言のようなことを言うから、心配したじゃないですか。

 セラフィーラさんは笑顔を見せていたが、ふらりと体勢を崩して落下を始めた。

 まずい。

 セラフィーラさんの真下へ全力で走った。
 手を広げて受け取る姿勢をとる。

 ふわりとセラフィーラさんが俺の中に収まった。

 実績を解除。空から落ちてきた女の子をキャッチした。
 お姫様だっこの状態になったセラフィーラさんがゆっくりと目を開いた。

「はやとさん、ありがとうございます。私、慣れないことをして少し疲れてしまったようです」
「ありがとうございました。どうかゆっくり休んでください」


 ◇


 俺たちは段ボールテントへ戻った。

「びしょびしょですね。拭きましょうか?」
「女神なので髪や体はすぐに乾くのですが、翼はそうもいかないようです。お願いできますか?」
「もちろんです」
「あっ邪魔でしたよね」

 セラフィーラさんが服を脱ぎ始める。
 おっと。急いで後ろを向いてタオルを出す。

「準備できましたかー?」
「はーい」
「こっちに背中向けてますかー?」
「承知しました! 今向けましたー」

 いや向けてなかったんかい。モロみえやないかい。
 振り返るとセラフィーラさんが背を向けて正座で待っていた。

「では」

 水を含んでしっとりした翼をタオルで拭う。
 俺は今、とてつもなく貴重な経験をしている。

「ふふ、くすぐったいですね」
「やめましょうか?」
「いえ、続けてください」

 翼にも神経が通っているのか、たまにもじもじする姿に加虐心を刺激されるが、俺は屈しない。
 翼の水分が抜けてふさふさになってきた。心地よい肌触り。

「あれ? この羽根って今朝テントに落ちてた物と同じですか?」
「バレてしまいましたか……。抜け羽根を見られてしまうとは、お恥ずかしいです」
 
 セラフィーラさんは翼をピクピクさせる。
 裸は見られてもいいのに、抜けた羽根は見られたくないのか?
 基準がわからん。

「はい、拭き終わりました」
「ありがとうございます」

 セラフィーラさんの翼は光を放ちながら消えた。代わりに翼を模した赤い紋章が背中に浮かび上がっていた。

「乾いてさえいれば、このように翼をしまえるのです」
「すげー」


 俺たちは就寝の準備をして、テントで横になった。

「あの魔法陣、目立ちませんか?」
「ご安心ください。公園の中からしか見えないようになっておりますので」

 もし内側に人がいたら……って時間も時間で山田さんも留守だからその心配は不要か。

「今日はお疲れ様でした」
「はい、お疲れ様です」

「でははやとさん。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」

 俺は昨日のように耳元で睡眠魔法を唱えられて眠りに落ちた。





 ここは、どこだ?
 私は目を覚ますと見知らぬ土地にいた。

「森……?」

 私は魔王に勝ったのか? それとも敗れたのか?

 竜種が一匹も飛んでいない静かな空だが、巨大な三層の魔法陣が浮かび上がっている。

 あれは最高位防衛魔法ハリウェルフィーリ。

 王国にあの魔法を扱える者は存在しない。
 魔王の手先がまだ残っていたということか。

 団長である私が直接、裁きを下す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...