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第27話 出発
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今夜、ついに東京を発つ。
この日のために、規定の限界ギリギリまでバイトを入れてお金を貯めた。
戸籍なしで俺がカキモト建設で働くことができる日数はあと数日のみ。
つまり、この旅行で必ず戸籍を復活させなくてはいけない。
セラフィーラさんは図書館で『食べられる野草ブック』とやらを読んできたらしいが、その未来は避けたい。
「セラフィーラさん、準備はいかがですか?」
「準備万端です!」
「それはなによりです。が、まずはその背中に背負った薪と炭を下ろしましょう」
「なぜです!? 暖をとるのに不可欠です!」
「かさばりますし、野宿をしないので不要です」
セラフィーラさんは、ガーンという擬音が聞こえてきそうなくらい、ガックリと肩を落とした。
「他にも不要な物がないかチェックさせてください」
「承知しました……」
リュックサックから段ボール、ビニールシート、斧を没収。
それだけではない。
「なんで、醤油とみりんのどでかいボトルが入ってるんですか?」
「焼きおにぎりに塗るためです!」
「塗りませんし焼きません」
セラフィーラさんの目がうるうるしている。
はっきりと言いすぎてしまったか?
薪割りもテント作りも焼きおにぎりも全て、セラフィーラさんがこの世界で経験してきたことだ。
「この一週間、セラフィーラさんなりに準備してくれたんですよね。ありがとうございます。一緒に少しずつ覚えていきましょう」
「はい! 一緒に!」
セラフィーラさんはにっこりと笑った。
◇
俺たちはエリスと山田さんに挨拶をしてから、新宿駅近くのバス停に並びにいった。
公園を出る際に、山田さんからは「土産を待っとるぞ」と一言。
エリスからは、「守護は任せろ。必ず生きて帰って来い」と少しズレた激励をされた。
騎士団の中では、遠征という言葉にそれなりの重みがあるのだろう。
聖剣ジルベールを正面に突き立てる姿が、様になっていた。
「ここらは人間がたくさんいるのですね。見てて飽きませんね」
ガチで人間観察が趣味の人は言うことが違う。水槽のメダカでも眺めているかのようだ。
「歩き姿がかわいいです」
「はぁ……?」
視点が超越してるんだよなぁ。
「あ、あのバスですね。きましたよ」
「お待ちしておりました!」
バスへ一礼。
礼儀正しすぎて脱帽。
「通路側と窓側のどちらにしますか?」
「違いがあるのですか?」
「えーと、通路側は出入りが楽です」
「……」
「窓側の方が酔わないらしいです」
「……?」
「あー、あと窓側だと外の景色を見れま」
「窓側でお願いします!」
最近はセラフィーラさんのことを、完全無欠な美人、というより素直でかわいい人だと思うようになってきた。
荷物を預け、指定された座席についてシートベルトを閉める。
「いよいよですね!」
セラフィーラさんはソワソワしながら、出発を今か今かと待ち侘びている。
アトラクションじゃないんだけどな。
出発のアナウンスとともにバスが動き出す。
「動きだしました! 想像よりも速いんですね!」
「高速道路に行くともっと速くなりますよ。時速90キロくらい」
若干だが、セラフィーラさんの口調を崩すことができた。
「もし、バスの中でジャンプをするとどうなるのですか? 時速90キロで後部座席にぶつかってしまうのでしょうか?」
うお。急に物理学を突いてきた。
「いいえ、その心配はありません。この世界には『慣性の法則』というものがあるんです。端的に言うと、一定の速度で動いている物体は、ジャンプをしても等速直線運動を続けるので、ジャンプした真下に着地します!」
「そうなのですか! とても興味深いです!」
やった! 卵の色素の解説よりも断然それっぽいぞ!
というか乗り物初見で、その疑問が出てくるのすごいな。
りんごが木から落ちるのをみたら、万有引力を発見してしまうかもしれない。あれも諸説あるけれど。
セラフィーラさんと対話形式で学ぶ学習本を出そう。そうしよう。
「すみません、倒してもいいですか?」
唐突に、前の窓側に座っている男性から声をかけられた。
「受けて立ちます!」
セラフィーラさんはこぶしを握り、ファイティングポーズをとる。
「いや、セラフィーラさん決闘じゃありませんよ。座席を倒してもいいか聞いてるんです」
「あら、それは失礼いたしました。ぜひ倒してください」
「ははっ。ユニークですね。ありがとうございます」
セラフィーラさん、今日は著しくテンション高いな。
その後は、ずっと外の景色に釘付けだった。
「あの山。富士山と言うのですよね?」
「ですね」
「よく人間が、頂上を目指してえっさえっさと、一生懸命登っているのを見ていました。なぜ登るのでしょうか?」
「うーん。俺も登山経験がないから人から聞いた話ですけど、自分の足で登り切ったときに強い達成感を得られるらしいですよ」
「なるほどです。自分の足で、とても良いことですね」
ずっと上から見下ろすだけだったセラフィーラさんには、思うところがあるのだろう。
休憩のアナウンスが入り、サービスエリアにバスが止まる。
「トイレ休憩ですって。降りますか?」
「トイレをしなくても、降りて良いでしょうか? 外が見たいなぁ、と思いまして」
「トイレはいいんですか?」
「はい。神々は食したものを全て魔力に変換するので、トイレは不要です」
「はい?」
「私、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」
はいはい出ました出ました、女神様の問題発言。体がすぐ乾く体質って話を聞いた時に、他にもなんかあるんだろうなぁと思っていたけれど、まさかのこれですと。
80年代のアイドルですか? え?
「まぁ、いいんじゃないですか……降りても……」
声に出してはツッコまなかった。ツッコんだら負けだと思った。
セラフィーラさんはウキウキで、サービスエリアへ降りた。
間違いない、今日が過去一でテンション高いわ。
その後も、セラフィーラさんは休憩のたびにバスを降りた。もしかしたら、登山の話をしたことも影響しているのかもしれない。
少しだけお菓子も買ってあげた。
「はやとさんの戸籍を復活させるための旅、だということは分かっているのです。分かっているのですが、一言だけ言わせてください」
改まって何を言うのだろうか。
「どうぞ?」
「私、今とっても楽しいです!」
セラフィーラさんのまっすぐな瞳が、本心からの言葉だと訴えかけてくる。
「ふはっ」
「なぜ笑うのですか?」
思わず笑みが溢れてしまった。
セラフィーラさんは頬をぷくっと膨らませてご立腹。
「人間は口に出さないと思いを伝えられないのですよ?」
「そうですね。俺も楽しいです」
「一緒ではありませんか!」
こうして、時を過ごし、俺たちは無事に故郷、岐阜へと到着した。
この日のために、規定の限界ギリギリまでバイトを入れてお金を貯めた。
戸籍なしで俺がカキモト建設で働くことができる日数はあと数日のみ。
つまり、この旅行で必ず戸籍を復活させなくてはいけない。
セラフィーラさんは図書館で『食べられる野草ブック』とやらを読んできたらしいが、その未来は避けたい。
「セラフィーラさん、準備はいかがですか?」
「準備万端です!」
「それはなによりです。が、まずはその背中に背負った薪と炭を下ろしましょう」
「なぜです!? 暖をとるのに不可欠です!」
「かさばりますし、野宿をしないので不要です」
セラフィーラさんは、ガーンという擬音が聞こえてきそうなくらい、ガックリと肩を落とした。
「他にも不要な物がないかチェックさせてください」
「承知しました……」
リュックサックから段ボール、ビニールシート、斧を没収。
それだけではない。
「なんで、醤油とみりんのどでかいボトルが入ってるんですか?」
「焼きおにぎりに塗るためです!」
「塗りませんし焼きません」
セラフィーラさんの目がうるうるしている。
はっきりと言いすぎてしまったか?
薪割りもテント作りも焼きおにぎりも全て、セラフィーラさんがこの世界で経験してきたことだ。
「この一週間、セラフィーラさんなりに準備してくれたんですよね。ありがとうございます。一緒に少しずつ覚えていきましょう」
「はい! 一緒に!」
セラフィーラさんはにっこりと笑った。
◇
俺たちはエリスと山田さんに挨拶をしてから、新宿駅近くのバス停に並びにいった。
公園を出る際に、山田さんからは「土産を待っとるぞ」と一言。
エリスからは、「守護は任せろ。必ず生きて帰って来い」と少しズレた激励をされた。
騎士団の中では、遠征という言葉にそれなりの重みがあるのだろう。
聖剣ジルベールを正面に突き立てる姿が、様になっていた。
「ここらは人間がたくさんいるのですね。見てて飽きませんね」
ガチで人間観察が趣味の人は言うことが違う。水槽のメダカでも眺めているかのようだ。
「歩き姿がかわいいです」
「はぁ……?」
視点が超越してるんだよなぁ。
「あ、あのバスですね。きましたよ」
「お待ちしておりました!」
バスへ一礼。
礼儀正しすぎて脱帽。
「通路側と窓側のどちらにしますか?」
「違いがあるのですか?」
「えーと、通路側は出入りが楽です」
「……」
「窓側の方が酔わないらしいです」
「……?」
「あー、あと窓側だと外の景色を見れま」
「窓側でお願いします!」
最近はセラフィーラさんのことを、完全無欠な美人、というより素直でかわいい人だと思うようになってきた。
荷物を預け、指定された座席についてシートベルトを閉める。
「いよいよですね!」
セラフィーラさんはソワソワしながら、出発を今か今かと待ち侘びている。
アトラクションじゃないんだけどな。
出発のアナウンスとともにバスが動き出す。
「動きだしました! 想像よりも速いんですね!」
「高速道路に行くともっと速くなりますよ。時速90キロくらい」
若干だが、セラフィーラさんの口調を崩すことができた。
「もし、バスの中でジャンプをするとどうなるのですか? 時速90キロで後部座席にぶつかってしまうのでしょうか?」
うお。急に物理学を突いてきた。
「いいえ、その心配はありません。この世界には『慣性の法則』というものがあるんです。端的に言うと、一定の速度で動いている物体は、ジャンプをしても等速直線運動を続けるので、ジャンプした真下に着地します!」
「そうなのですか! とても興味深いです!」
やった! 卵の色素の解説よりも断然それっぽいぞ!
というか乗り物初見で、その疑問が出てくるのすごいな。
りんごが木から落ちるのをみたら、万有引力を発見してしまうかもしれない。あれも諸説あるけれど。
セラフィーラさんと対話形式で学ぶ学習本を出そう。そうしよう。
「すみません、倒してもいいですか?」
唐突に、前の窓側に座っている男性から声をかけられた。
「受けて立ちます!」
セラフィーラさんはこぶしを握り、ファイティングポーズをとる。
「いや、セラフィーラさん決闘じゃありませんよ。座席を倒してもいいか聞いてるんです」
「あら、それは失礼いたしました。ぜひ倒してください」
「ははっ。ユニークですね。ありがとうございます」
セラフィーラさん、今日は著しくテンション高いな。
その後は、ずっと外の景色に釘付けだった。
「あの山。富士山と言うのですよね?」
「ですね」
「よく人間が、頂上を目指してえっさえっさと、一生懸命登っているのを見ていました。なぜ登るのでしょうか?」
「うーん。俺も登山経験がないから人から聞いた話ですけど、自分の足で登り切ったときに強い達成感を得られるらしいですよ」
「なるほどです。自分の足で、とても良いことですね」
ずっと上から見下ろすだけだったセラフィーラさんには、思うところがあるのだろう。
休憩のアナウンスが入り、サービスエリアにバスが止まる。
「トイレ休憩ですって。降りますか?」
「トイレをしなくても、降りて良いでしょうか? 外が見たいなぁ、と思いまして」
「トイレはいいんですか?」
「はい。神々は食したものを全て魔力に変換するので、トイレは不要です」
「はい?」
「私、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」
はいはい出ました出ました、女神様の問題発言。体がすぐ乾く体質って話を聞いた時に、他にもなんかあるんだろうなぁと思っていたけれど、まさかのこれですと。
80年代のアイドルですか? え?
「まぁ、いいんじゃないですか……降りても……」
声に出してはツッコまなかった。ツッコんだら負けだと思った。
セラフィーラさんはウキウキで、サービスエリアへ降りた。
間違いない、今日が過去一でテンション高いわ。
その後も、セラフィーラさんは休憩のたびにバスを降りた。もしかしたら、登山の話をしたことも影響しているのかもしれない。
少しだけお菓子も買ってあげた。
「はやとさんの戸籍を復活させるための旅、だということは分かっているのです。分かっているのですが、一言だけ言わせてください」
改まって何を言うのだろうか。
「どうぞ?」
「私、今とっても楽しいです!」
セラフィーラさんのまっすぐな瞳が、本心からの言葉だと訴えかけてくる。
「ふはっ」
「なぜ笑うのですか?」
思わず笑みが溢れてしまった。
セラフィーラさんは頬をぷくっと膨らませてご立腹。
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