女神同棲 〜転生に失敗しましたが、美人で清楚な”女神様を拾った”ので、甘々な新築生活を目指します!〜

杜田夕都

文字の大きさ
27 / 34

第27話 出発

しおりを挟む
 今夜、ついに東京を発つ。
 この日のために、規定の限界ギリギリまでバイトを入れてお金を貯めた。
 戸籍なしで俺がカキモト建設で働くことができる日数はあと数日のみ。
 つまり、この旅行で必ず戸籍を復活させなくてはいけない。
 セラフィーラさんは図書館で『食べられる野草ブック』とやらを読んできたらしいが、その未来は避けたい。

「セラフィーラさん、準備はいかがですか?」
「準備万端です!」
「それはなによりです。が、まずはその背中に背負った薪と炭を下ろしましょう」
「なぜです!? 暖をとるのに不可欠です!」
「かさばりますし、野宿をしないので不要です」

 セラフィーラさんは、ガーンという擬音が聞こえてきそうなくらい、ガックリと肩を落とした。

「他にも不要な物がないかチェックさせてください」
「承知しました……」

 リュックサックから段ボール、ビニールシート、斧を没収。
 それだけではない。

「なんで、醤油とみりんのどでかいボトルが入ってるんですか?」
「焼きおにぎりに塗るためです!」
「塗りませんし焼きません」

 セラフィーラさんの目がうるうるしている。
 はっきりと言いすぎてしまったか?
 薪割りもテント作りも焼きおにぎりも全て、セラフィーラさんがこの世界で経験してきたことだ。

「この一週間、セラフィーラさんなりに準備してくれたんですよね。ありがとうございます。一緒に少しずつ覚えていきましょう」
「はい! 一緒に!」

 セラフィーラさんはにっこりと笑った。


 ◇


 俺たちはエリスと山田さんに挨拶をしてから、新宿駅近くのバス停に並びにいった。
 公園を出る際に、山田さんからは「土産を待っとるぞ」と一言。
 エリスからは、「守護は任せろ。必ず生きて帰って来い」と少しズレた激励をされた。
 騎士団の中では、遠征という言葉にそれなりの重みがあるのだろう。
 聖剣ジルベールを正面に突き立てる姿が、様になっていた。

「ここらは人間がたくさんいるのですね。見てて飽きませんね」

 ガチで人間観察が趣味の人は言うことが違う。水槽のメダカでも眺めているかのようだ。

「歩き姿がかわいいです」
「はぁ……?」

 視点が超越してるんだよなぁ。

「あ、あのバスですね。きましたよ」
「お待ちしておりました!」

 バスへ一礼。
 礼儀正しすぎて脱帽。

「通路側と窓側のどちらにしますか?」
「違いがあるのですか?」
「えーと、通路側は出入りが楽です」
「……」
「窓側の方が酔わないらしいです」
「……?」
「あー、あと窓側だと外の景色を見れま」
「窓側でお願いします!」

 最近はセラフィーラさんのことを、完全無欠な美人、というより素直でかわいい人だと思うようになってきた。
 荷物を預け、指定された座席についてシートベルトを閉める。

「いよいよですね!」

 セラフィーラさんはソワソワしながら、出発を今か今かと待ち侘びている。
 アトラクションじゃないんだけどな。

 出発のアナウンスとともにバスが動き出す。

「動きだしました! 想像よりも速いんですね!」
「高速道路に行くともっと速くなりますよ。時速90キロくらい」

 若干だが、セラフィーラさんの口調を崩すことができた。

「もし、バスの中でジャンプをするとどうなるのですか? 時速90キロで後部座席にぶつかってしまうのでしょうか?」

 うお。急に物理学を突いてきた。

「いいえ、その心配はありません。この世界には『慣性の法則』というものがあるんです。端的に言うと、一定の速度で動いている物体は、ジャンプをしても等速直線運動を続けるので、ジャンプした真下に着地します!」
「そうなのですか! とても興味深いです!」

 やった! 卵の色素の解説よりも断然それっぽいぞ!
 というか乗り物初見で、その疑問が出てくるのすごいな。
 りんごが木から落ちるのをみたら、万有引力を発見してしまうかもしれない。あれも諸説あるけれど。
 セラフィーラさんと対話形式で学ぶ学習本を出そう。そうしよう。

「すみません、倒してもいいですか?」

 唐突に、前の窓側に座っている男性から声をかけられた。

「受けて立ちます!」

 セラフィーラさんはこぶしを握り、ファイティングポーズをとる。

「いや、セラフィーラさん決闘じゃありませんよ。座席を倒してもいいか聞いてるんです」
「あら、それは失礼いたしました。ぜひ倒してください」
「ははっ。ユニークですね。ありがとうございます」

 セラフィーラさん、今日は著しくテンション高いな。
 その後は、ずっと外の景色に釘付けだった。

「あの山。富士山と言うのですよね?」
「ですね」
「よく人間が、頂上を目指してえっさえっさと、一生懸命登っているのを見ていました。なぜ登るのでしょうか?」
「うーん。俺も登山経験がないから人から聞いた話ですけど、自分の足で登り切ったときに強い達成感を得られるらしいですよ」
「なるほどです。自分の足で、とても良いことですね」

 ずっと上から見下ろすだけだったセラフィーラさんには、思うところがあるのだろう。
 休憩のアナウンスが入り、サービスエリアにバスが止まる。

「トイレ休憩ですって。降りますか?」
「トイレをしなくても、降りて良いでしょうか? 外が見たいなぁ、と思いまして」
「トイレはいいんですか?」
「はい。神々は食したものを全て魔力に変換するので、トイレは不要です」
「はい?」
「私、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」

 はいはい出ました出ました、女神様の問題発言。体がすぐ乾く体質って話を聞いた時に、他にもなんかあるんだろうなぁと思っていたけれど、まさかのこれですと。
 80年代のアイドルですか? え?

「まぁ、いいんじゃないですか……降りても……」

 声に出してはツッコまなかった。ツッコんだら負けだと思った。
 セラフィーラさんはウキウキで、サービスエリアへ降りた。
 間違いない、今日が過去一でテンション高いわ。

 その後も、セラフィーラさんは休憩のたびにバスを降りた。もしかしたら、登山の話をしたことも影響しているのかもしれない。
 少しだけお菓子も買ってあげた。

「はやとさんの戸籍を復活させるための旅、だということは分かっているのです。分かっているのですが、一言だけ言わせてください」

 改まって何を言うのだろうか。

「どうぞ?」
「私、今とっても楽しいです!」

 セラフィーラさんのまっすぐな瞳が、本心からの言葉だと訴えかけてくる。

「ふはっ」
「なぜ笑うのですか?」

 思わず笑みが溢れてしまった。
 セラフィーラさんは頬をぷくっと膨らませてご立腹。

「人間は口に出さないと思いを伝えられないのですよ?」
「そうですね。俺も楽しいです」
「一緒ではありませんか!」

 こうして、時を過ごし、俺たちは無事に故郷、岐阜へと到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...