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第26話 誘拐事件
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「おねえちゃんたち、なにしてるの?」
「ん? なんだこの子は」
「あら、こんにちは。今は転移の魔法陣を描いているところです」
「わたしも! かきたい!」
「いや、子供にやらせるわけには……」
「まぁまぁ。まだ試験段階ですし、少しなら問題ないでしょう」
「セラフィーラ殿がそう言うのなら……」
「やったー!」
◇
「椿ちゃんー! 出ておいでー!」
どうしよう。もう30分以上見つかっていない。
佐々木公園内の散歩だからと油断していた私の責任だ。
もし、事故にでも巻き込まれてたら。
まさか湖に? よくない方に考えてはダメ。
林の中をかき分ける。ズボンが破れ、足が擦り切れて痛い。
こっちには、ホームレスが居着いているという噂があるから、極力近づきたくはなかったけれどもしかしたら……。
林を抜けて、広場にたどり着いた。
「こう?」
「つばき様、お上手です!」
「えへへ」
広場の中心に3つの人影があった。
「椿ちゃん!!」
「あ、せんせい!」
椿ちゃんは棒で、地面に絵を描いて遊んでいた。
え、何あれ。地面光ってんだけど……。きも。
本人は無事みたいだけれど、問題はこの二人の外国人だ。
真昼間に外でこんな格好をしているなんて異常だ。
特に片方なんて鎧姿だし、意味わかんない。
「こ、子どもから離れてください!」
美人なブロンドの女性は不適な笑みを浮かべている。
悪意0ですっていう顔が逆に怪しい。
「あなたは?」
「私はその子の保育士です!」
「そうでしたか。つばき様お迎えですよ?」
「やだ、もっとあそぶ」
「みんな保育園で待ってるよ!」
「やだ!!!!」
ブロンドの女性にしがみついて離れようとしない。
そんな、なかなか保育士に懐かない椿ちゃんが。
この人たち、きっと椿ちゃんを脅迫して言わせているんだ。
「ゆ、誘拐は犯罪です!」
「違うぞ。私たちは誘拐などしていない」
「見た目が怪しすぎ! 何なのその格好は!」
「な…………」
二人の顔が真っ青になった。効果あった?
取り返さないと。考えるより先に体が動いた。
「あああああああ!!!」
私は、太い木の枝を拾って不審者二人に向かって思いっきり突っ込んだ。
はず、だったのだけれど、私の背後に鎧の女性が?
ゴッ。
「安心しろ、峰打ちだ」
「おねえちゃんすごーい!」
何かで殴られた? あ、私死ぬんだ。
◇
「せんせい、せんせい」
「椿ちゃん?」
いつの間にか公園の端にある保育園の目の前で眠っていたらしい。
でも、どうやってここまで?
夢?
「おねえちゃんたちがね。ここまでね。つれてきてくれたんだよ?」
「そうだったの……」
見かけで不審者だって勝手に決めてつけて、殴りかかってしまった。
申し訳ない。
「ひとりでね。そとはあぶないからね。あるいちゃだめだっていわれたの」
「そうだね。次からは気をつけようね」
「うん!」
椿ちゃんって、こんなに話せたんだ。
私は何も見ていなかったのかも知れない。
もっと、園児一人一人としっかり向き合おう。
上京して保育士になって半年。ようやく一人で仕事も任されるようになったのだ。今日のような失敗を繰り返してはいけない。
あれ?
足の傷が治っている……。
……もう。あの林には絶対に近づかないようにしよう。
◇
「ただいまー」
「はやとさん、おかえりなさいませ。お仕事お疲れ様です……」
「おかえり、水谷殿……」
二人とも元気がない。お昼はいつも通りだった、よな?
「何かあったんですか?」
「実は」
二人は今日の午後の出来事を語りだした。
魔法陣の一部を保育園生に手伝わせただの、保育士を剣の鞘で殴って気絶させただの、それはそれは身の毛のよだつ恐ろしい話だった。
下手したら警察沙汰だぞ。
「人に危害は加えないでください」
「はい……」
「で、二人が落ち込む要素はどこに?」
「『見た目が怪しすぎ。何なのその格好は』と言われてしまったんだ……」
「たしかに」
「そ、そうだったのか」
「そうだったのですね……」
二人は肩を落とす。
なーるほど。この二人、自分たちの服装はまともだと思ってたわけか。
けれど、天界のキトンとルテリア騎士団の鎧、どちらも二人の誇りのはずだ。
「決して変なのではなくて、俺たち日本人が見慣れていないんです。二人の服装は異世界仕様ですから。だから気を落とさないでください。特に現代日本に騎士はいないから、エリスの鎧は目立ったんだと思う」
「そうか!」
「なるほどです!」
二人の表情が明るくなった。
「じゃあ、今度、服を買いに行きましょう。周りは新宿、渋谷、原宿です。なんでも買えますよ」
「ショッピングですね! 楽しみです!」
「金さえあれば、ですが……」
エリスが「あっ......」と呟いた。世知辛い。
「お金のことでなのですが、岐阜へはお一人で行っていただけますか?」
「今さら何を言うんですか! セラフィーラさんも行きたがってたじゃないですか!」
「ですが、これから食費、住居費、交通費、医療費、教育費などのたくさんのお金がかかるそうではないですか。節約をしなくてはいけません」
否定できなかった。それが現実だったから。現状の日雇いと空き缶回収ではいずれ潰れてしまう。
おかしいな、明るいほのぼの同棲になるはずだったのに。女神様に節約と言わせてしまった。
まぁ、教育費はかからないけれど。誰を教育するんだよ。子どもいないよ。
「わかりました。セラフィーラさん、俺の代わりに家を守ってください」
「お任せください!」
◇
今夜は三人で火を囲ってプチバーベキュー。
謙遜してプチとつけたのは、牛肉と豚肉がないから。叩き売りされていた鶏肉を買ってきた。
鶏肉や野菜も美味しかったが、大いに盛り上がったのは、まさかの焼きマシュマロ。
「な、なんだ、これは。なんなんだ。くっっ甘い! 野戦糧食とは大違いだ!」
エリスの語彙力が吹っ飛んでる。おもろ。
別にいいよ、取ってつけたように『くっっ』て言わなくても。
「こ、これが甘さという概念なのですか! 甘いです! 甘いですって! ほら!」
こっちもダメだった。錯乱気味。
セラフィーラさん、なんで俺の肩を揺するんですか。
俺の口元にアツアツのマシュマロが差し出された。
「え、セラフィーラさんのを食べていいんですか?」
セラフィーラさんはコクコク、と頷いた。
では、お、お言葉に甘えて。
アツアツのマシュマロが伸びる。
甘い! 甘い! 甘すぎる! これが間接キス!
(前回の間接キスは緊張で味を感じられなかった)
所詮マシュマロ。どれも同じじゃないですか。
と言われるだろうが、いいや違うね。これだから素人はダメだ。
「水谷殿、顔がやらしいぞ」
「あ、はい。すんません」
自重します……。
その後も、みんなでマシュマロを焼くのに夢中になった。
やっすいマシュマロでこんなに盛り上がれるなんて。
二人とも、パフェを食べたら感動で気絶するんじゃないか。
「楽しそうじゃの」
後を振り返ると、数日の間、佐々木公園を離れていた主の姿があった。
「山田さん!」
「山田様、おかえりなさいませ!」
俺たちは、エリスの紹介とここ数日の出来事を話した。戦闘のことは口裏を合わせて黙っていた。
「ひどい有様じゃな……」
山田さんは、公園をまわって倒れた木々を確認した。
戦闘のせいだとバレませんように、バレませんように。
しばらく沈黙が続いた。
山田さんがなんと言うのか、固唾を飲んで見守る。
「台風じゃあ、仕方ないのう」
セーーーーフ!
「そんで、坊主、岐阜に行くそうじゃな」
あれ、まだ岐阜とまでは言ってないはず。
「柿本に聞いたんじゃ」
あぁ、そういえば、柿本社長と山田さんって交流あったんだっけ。
「ほれ」
「えぇ!?」
山田さんから往復の夜行バスのチケットを二組、差し出された。
日付は二週間後。
「いいんですか!? どうやってこれを?」
「まぁ、ちょっとした伝手でな。台風から公園を守ったお前さんたちへの褒美じゃ」
「ありがとうございます!」
段ボールテントに戻って、チケットを見たセラフィーラさんが目を輝かせていたのは言わずもがな。
戸籍復活へ向けていざ!
次回、いよいよ岐阜旅行!
=======
次話以降もお付き合いいただければ幸いです。
「ん? なんだこの子は」
「あら、こんにちは。今は転移の魔法陣を描いているところです」
「わたしも! かきたい!」
「いや、子供にやらせるわけには……」
「まぁまぁ。まだ試験段階ですし、少しなら問題ないでしょう」
「セラフィーラ殿がそう言うのなら……」
「やったー!」
◇
「椿ちゃんー! 出ておいでー!」
どうしよう。もう30分以上見つかっていない。
佐々木公園内の散歩だからと油断していた私の責任だ。
もし、事故にでも巻き込まれてたら。
まさか湖に? よくない方に考えてはダメ。
林の中をかき分ける。ズボンが破れ、足が擦り切れて痛い。
こっちには、ホームレスが居着いているという噂があるから、極力近づきたくはなかったけれどもしかしたら……。
林を抜けて、広場にたどり着いた。
「こう?」
「つばき様、お上手です!」
「えへへ」
広場の中心に3つの人影があった。
「椿ちゃん!!」
「あ、せんせい!」
椿ちゃんは棒で、地面に絵を描いて遊んでいた。
え、何あれ。地面光ってんだけど……。きも。
本人は無事みたいだけれど、問題はこの二人の外国人だ。
真昼間に外でこんな格好をしているなんて異常だ。
特に片方なんて鎧姿だし、意味わかんない。
「こ、子どもから離れてください!」
美人なブロンドの女性は不適な笑みを浮かべている。
悪意0ですっていう顔が逆に怪しい。
「あなたは?」
「私はその子の保育士です!」
「そうでしたか。つばき様お迎えですよ?」
「やだ、もっとあそぶ」
「みんな保育園で待ってるよ!」
「やだ!!!!」
ブロンドの女性にしがみついて離れようとしない。
そんな、なかなか保育士に懐かない椿ちゃんが。
この人たち、きっと椿ちゃんを脅迫して言わせているんだ。
「ゆ、誘拐は犯罪です!」
「違うぞ。私たちは誘拐などしていない」
「見た目が怪しすぎ! 何なのその格好は!」
「な…………」
二人の顔が真っ青になった。効果あった?
取り返さないと。考えるより先に体が動いた。
「あああああああ!!!」
私は、太い木の枝を拾って不審者二人に向かって思いっきり突っ込んだ。
はず、だったのだけれど、私の背後に鎧の女性が?
ゴッ。
「安心しろ、峰打ちだ」
「おねえちゃんすごーい!」
何かで殴られた? あ、私死ぬんだ。
◇
「せんせい、せんせい」
「椿ちゃん?」
いつの間にか公園の端にある保育園の目の前で眠っていたらしい。
でも、どうやってここまで?
夢?
「おねえちゃんたちがね。ここまでね。つれてきてくれたんだよ?」
「そうだったの……」
見かけで不審者だって勝手に決めてつけて、殴りかかってしまった。
申し訳ない。
「ひとりでね。そとはあぶないからね。あるいちゃだめだっていわれたの」
「そうだね。次からは気をつけようね」
「うん!」
椿ちゃんって、こんなに話せたんだ。
私は何も見ていなかったのかも知れない。
もっと、園児一人一人としっかり向き合おう。
上京して保育士になって半年。ようやく一人で仕事も任されるようになったのだ。今日のような失敗を繰り返してはいけない。
あれ?
足の傷が治っている……。
……もう。あの林には絶対に近づかないようにしよう。
◇
「ただいまー」
「はやとさん、おかえりなさいませ。お仕事お疲れ様です……」
「おかえり、水谷殿……」
二人とも元気がない。お昼はいつも通りだった、よな?
「何かあったんですか?」
「実は」
二人は今日の午後の出来事を語りだした。
魔法陣の一部を保育園生に手伝わせただの、保育士を剣の鞘で殴って気絶させただの、それはそれは身の毛のよだつ恐ろしい話だった。
下手したら警察沙汰だぞ。
「人に危害は加えないでください」
「はい……」
「で、二人が落ち込む要素はどこに?」
「『見た目が怪しすぎ。何なのその格好は』と言われてしまったんだ……」
「たしかに」
「そ、そうだったのか」
「そうだったのですね……」
二人は肩を落とす。
なーるほど。この二人、自分たちの服装はまともだと思ってたわけか。
けれど、天界のキトンとルテリア騎士団の鎧、どちらも二人の誇りのはずだ。
「決して変なのではなくて、俺たち日本人が見慣れていないんです。二人の服装は異世界仕様ですから。だから気を落とさないでください。特に現代日本に騎士はいないから、エリスの鎧は目立ったんだと思う」
「そうか!」
「なるほどです!」
二人の表情が明るくなった。
「じゃあ、今度、服を買いに行きましょう。周りは新宿、渋谷、原宿です。なんでも買えますよ」
「ショッピングですね! 楽しみです!」
「金さえあれば、ですが……」
エリスが「あっ......」と呟いた。世知辛い。
「お金のことでなのですが、岐阜へはお一人で行っていただけますか?」
「今さら何を言うんですか! セラフィーラさんも行きたがってたじゃないですか!」
「ですが、これから食費、住居費、交通費、医療費、教育費などのたくさんのお金がかかるそうではないですか。節約をしなくてはいけません」
否定できなかった。それが現実だったから。現状の日雇いと空き缶回収ではいずれ潰れてしまう。
おかしいな、明るいほのぼの同棲になるはずだったのに。女神様に節約と言わせてしまった。
まぁ、教育費はかからないけれど。誰を教育するんだよ。子どもいないよ。
「わかりました。セラフィーラさん、俺の代わりに家を守ってください」
「お任せください!」
◇
今夜は三人で火を囲ってプチバーベキュー。
謙遜してプチとつけたのは、牛肉と豚肉がないから。叩き売りされていた鶏肉を買ってきた。
鶏肉や野菜も美味しかったが、大いに盛り上がったのは、まさかの焼きマシュマロ。
「な、なんだ、これは。なんなんだ。くっっ甘い! 野戦糧食とは大違いだ!」
エリスの語彙力が吹っ飛んでる。おもろ。
別にいいよ、取ってつけたように『くっっ』て言わなくても。
「こ、これが甘さという概念なのですか! 甘いです! 甘いですって! ほら!」
こっちもダメだった。錯乱気味。
セラフィーラさん、なんで俺の肩を揺するんですか。
俺の口元にアツアツのマシュマロが差し出された。
「え、セラフィーラさんのを食べていいんですか?」
セラフィーラさんはコクコク、と頷いた。
では、お、お言葉に甘えて。
アツアツのマシュマロが伸びる。
甘い! 甘い! 甘すぎる! これが間接キス!
(前回の間接キスは緊張で味を感じられなかった)
所詮マシュマロ。どれも同じじゃないですか。
と言われるだろうが、いいや違うね。これだから素人はダメだ。
「水谷殿、顔がやらしいぞ」
「あ、はい。すんません」
自重します……。
その後も、みんなでマシュマロを焼くのに夢中になった。
やっすいマシュマロでこんなに盛り上がれるなんて。
二人とも、パフェを食べたら感動で気絶するんじゃないか。
「楽しそうじゃの」
後を振り返ると、数日の間、佐々木公園を離れていた主の姿があった。
「山田さん!」
「山田様、おかえりなさいませ!」
俺たちは、エリスの紹介とここ数日の出来事を話した。戦闘のことは口裏を合わせて黙っていた。
「ひどい有様じゃな……」
山田さんは、公園をまわって倒れた木々を確認した。
戦闘のせいだとバレませんように、バレませんように。
しばらく沈黙が続いた。
山田さんがなんと言うのか、固唾を飲んで見守る。
「台風じゃあ、仕方ないのう」
セーーーーフ!
「そんで、坊主、岐阜に行くそうじゃな」
あれ、まだ岐阜とまでは言ってないはず。
「柿本に聞いたんじゃ」
あぁ、そういえば、柿本社長と山田さんって交流あったんだっけ。
「ほれ」
「えぇ!?」
山田さんから往復の夜行バスのチケットを二組、差し出された。
日付は二週間後。
「いいんですか!? どうやってこれを?」
「まぁ、ちょっとした伝手でな。台風から公園を守ったお前さんたちへの褒美じゃ」
「ありがとうございます!」
段ボールテントに戻って、チケットを見たセラフィーラさんが目を輝かせていたのは言わずもがな。
戸籍復活へ向けていざ!
次回、いよいよ岐阜旅行!
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次話以降もお付き合いいただければ幸いです。
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