女神同棲 〜転生に失敗しましたが、美人で清楚な”女神様を拾った”ので、甘々な新築生活を目指します!〜

杜田夕都

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第30話 温泉旅館

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 なんだこの子、やばい子か?

「あっ、えっと、水谷颯人さん、ですよね?」

 うっそだろ。俺の名前まで知っているのか。
 じゃあ、隠し子か? まさか本当に妹が。

 そんなわけはない。満を持しての天使かもしれない。
 やるべきことは、一つ。
 【賢者の目】名前、レベル、職業。

 表示を限定したことで、前回よりも早くスキルを発動できた。


===============================
 名前:佐曽利 楓
 レベル:15
 職業:仲居
===============================

 
 あれ、天使じゃなかった。
 レベルも普通に年齢っぽい。ということは現代人か。

 少女は俺に怪しまれていることを悟ったようで、自己紹介を始めた。

「あっ、佐曽利 楓と言います。中学三年で、水谷颯人さんの従姉妹です」

 うんうん、楓ちゃんか。って。
 
「いとこぉ!!!?」
「はい!」

 
 ◇


 俺とセラフィーラさんは車の後部座席に乗っている。
 助手席には、楓さん。運転席にはその母親、つまり俺のおばってことになるのか?
 にわかに信じがたい。

 神生初乗車のセラフィーラさんは自己紹介ののち「自動ではなかったのですね」などと言っていたが、今回は割愛。

「私は、佐曽利 月江、よろしくね。まさか、颯人くんが生きていたとはね」
「はぁ……」
「さっきは驚いたよ。普段静かな楓が半泣きで『お兄ちゃんが生きてた!』って車まで走ってくるんだから」
「ちょっと、やめてよお母さん」
「なぜ、あそこにいたんですか?」

 俺たちを待ち伏せしていたのか?

「あぁ、そっか、自分が死んだことになってるなんて普通は思わないから、意味分かんないよね。今日は四十九日なんだよ。君の」

 四十九日とは、命日から数えて四十九日目のことを指す。故人はこの日に仏の元へ向かい、極楽浄土に行けるかどうかが決まるとされているため、遺族は法要を行って供養するのだ。

 確かに、俺が死んでから一ヶ月後にセラフィーラさんに出会って、それから2週間くらい一緒に暮らしてからこっちにきた。辻褄は合う。

「楓が花を添えたいって言って聞かなくてさ」
「もうお母さん!」
「なるほど……俺たちのために……ありがとうございます」
「ど、どういたしまして」

 なんだこの会話。俺生きてるぞ。
 第一声とは打って変わってよそよしいやりとりだった。

「姉さん、水谷美穂から私たちのことは聞いてない?」

 俺の母さんの名前を知っているのか。本当に親戚なんだな。

「いえ、何も。実家の話とかは一切」
「ははっ、姉さんらしいや。うちのしきたりとか大嫌いだったもんね。そっちでは、伸び伸びやってたのかな?」
「伸び伸びというか、自由奔放というか」

 母さんのエピソードをいくつか話した。

 母さんは父さんとは駆け落ちで、実家とは喧嘩別れだったって聞いていたけれど、月江さんは微笑ましそうに俺の話を聞いていた。

「大変だったよね。詳しい事情は、着いたら聞かせて」

 この人たちに頼みこめば、俺が佐曽利家に居候していた、ということに出来るかもしれない。
 戸籍の復活を諦めたくはない。

「で、これからどこに行くんですか?」
「うちが経営している温泉旅館 さそり」
「温泉ですか!?」
「そう、下呂温泉」

 ずっと静かだったセラフィーラさんが急に食いついてきて、びっくりした。
 気を遣って黙っていたのだろうが、限界が来てしまったらしい。


 ◇


 車で1時間以上の移動ののち、下呂温泉合掌村の近くにある温泉旅館 さそりに到着した。
 いかにもって感じの旅館で入るのに気後れしてしまう。
 セラフィーラさんは相変わらずウキウキしている。

「さぁ、入って入って。大丈夫、今のシーズンはお客様は少ないから」

 促されるまま入館した。
 
 玄関がすごい、やばい語彙力が。
 今だけ三人称視点にできないかな。ちょっと俺の口では言い表せない。
 紅葉に彩られた庭園もある。品があり、隠れ家的な落ち着いた印象を受ける。

 ご厚意で空いていた部屋を一つ貸してもらった。
 趣のある和室だ。
 奥の窓から紅葉が顔を見せている。
 さぞセラフィーラさんも和に感動してくれ

「これがお部屋というものなのですね!」
 
 あっ、しまった。和室以前に部屋自体が初めてだった。
 セラフィーラさんは、その調子で机や椅子、テレビ、冷蔵庫などに対し一通りコメントしたのであった。

「颯人さん、おじいちゃんが呼んでいます」

 楓さんが俺を呼びに来た。
 もうお兄ちゃんとは呼んでくれないのか……。


 ◇


「お前が颯人か」

 この人が俺の祖父、か。
 祖父は、部屋の真ん中で腕を組んで座っていた。
 厳格な印象を受けた。
 
 隣には、月江さんが座っている。

「初めまして、颯人です」

 沈黙。
 気まずい時間が流れる。
 先手必勝。
 
「あの、実は、俺戸籍がなくなってしまったんです。戸籍を戻すために、一ヶ月どう過ごしていたかを誰かに証言してもらう必要があって、もし可能だったら、ここで過ごしていたことにしてくれませんか?」

 祖父が口を開く。

「その前に説明しろ。あの女は何だ?」

 セラフィーラさんのことか。

「一ヶ月前から東京にいて、そこで知り合った方です。身寄りがないということで一緒に暮らしています」
「その女の証言じゃダメなのか?」
「はい。訳ありで」
「なぜそんな女の面倒を見る?」
「それは……好きだからです」

 月江さんは、驚いたって表情をした。

「所詮は、美穂の子か。どこの馬の骨とも分からん奴に心を許すとは」

 は? なんで母さんの話が出てくる。
 セラフィーラさんは関係ないだろ。

「どういう意味ですか?」
「あの親の元で育ったのだ。変な女に引っかかっても仕方あるまい」
「あなたにセラフィーラさんの何がわかるって言うんですか!」

「ちょっと、二人とも落ち着いてよ」

 頭に血がのぼってしまった。
 月江さんに静止された。

「話すのが急すぎたんだよ。一旦落ち着きましょ?」
「納得できません」
「俺は、譲らん」

 月江さんの顔が曇る。

「お父さんがそんなんだから、姉さんは出てっちゃったんでしょ」

 まずい。仲裁者だった月江さんまで理性を失っている。

「すみません。ちょっと頭を冷やしてきます」

 月江さんは心配そうに俺をみてから、小さく頷いた。
 俺は席を立った。

 初めて親戚に会ったってのにあんまりだ。
 部屋に戻って、セラフィーラさんに慰めてもらおう。

 廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「引き止められても戻りませんよ」
「え?」

 声に違和感を感じて、後を振り返ると、月江さん、ではなく楓さんがいた。

「あ、ごめんなさい。どうかしたんですか?」
「あの、貸切露天風呂が一つ空いているので、もしよかったら、どうぞ」

 露天風呂?
 しかも貸切?

「いいんですか?」
「はい、お母さんの許可も得ているので!」

 楓さんははにかんだ。
 俺はタオルセットと着替えを渡された。
 
 そうだ、嫌な気持ちは全て水に流そう。

 俺は案内されるままに、露天風呂の脱衣所へ。
 脳死で流れるように服を脱いで、タオルを持っていざ。

 ずっとドラム缶風呂だったから新鮮だなぁ、などと気楽に露天風呂の扉を開けた俺は驚愕した。

「はやとさん~! お待ちしておりました!」

 すでに温泉に、セラフィーラさんが浸かっていたのだ。
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