女神同棲 〜転生に失敗しましたが、美人で清楚な”女神様を拾った”ので、甘々な新築生活を目指します!〜

杜田夕都

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第31話 女神様と露天風呂

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「すみません間違えました!!」

 俺は勢いよく引き戸を閉めた。

 な、なんでセラフィーラさんがここに。
 間違えて女風呂に?
 でも、さっき貸切露天風呂だって楓さんが。って、俺ら二人で貸切って意味かよ。

「はやとさーん、合っていますよー」

 引き戸越しにセラフィーラさんの呑気な声が聞こえてくる。

 落ち着け、俺。
 俺の本能はこれは好機だ、絶対逃すなと訴えている。
 そんなことは分かってる。
 急すぎてちょっと心の準備ができていなかっただけだ。

「一緒に入ると約束しましたのに……」
 
 セラフィーラさんの悲しそうな声。

 男に二言はない。
 父さん、母さん、俺は行くよ。

 俺は引き戸を開けた。

「セラフィーラさん! 俺も入ります! が、先に体を洗います」

 俺は、岩で囲まれた温泉に背を向け椅子に座り、念入りに体を洗い出した。

 もちろん、洗っている間に、あわよくばセラフィーラさんが温泉を出てくれないかな、なんて考えてませんよ?
 浴場に出た段階で一緒に入るは達成できた。多分、うん、俺は間違ってない。

 まだかな? わりと長湯なんだな。体擦り切れちゃうよ。

 4回ほど、全身を洗い終えたところで、鏡越しに、後ろの温泉に入っているセラフィーラさんをチラ見した。

 あれ? なんかめっちゃ俺のこと見てね? ガン見されてね?
 セラフィーラさんは温泉の縁に両手を重ね、その上に顎の乗せてこちらをじっと見据えていた。
 かわいいけどさ! 圧を感じる!

「じっくりと洗うのですね」
「は、はい。時間稼ぎって言うか、趣味っていうか」
「いつもそうなのですか?」
「今日だけです。長距離移動で汚れていると思うので」
「私もお手伝いしましょうか?」
「いや、大丈夫です。間に合ってます」

 訪問販売みたいな断り方をしてしまった。

「遠慮なさらないでください」

 温泉から出る音が聞こえた。

(※女神様のため、特別にタオルを着用しています)

 だんだんと足音が近づいてくる。

 心音が早くなっていく。

 真後ろで足音が止まった。

「タオルをお貸しください」
「っは、はいっ」

 言われるがまま、セラフィーラさんに泡だったタオルを渡す。

 背中にタオルの感触が伝わってきた。
 セラフィーラさんはなんと、俺の背中を洗い出したのだ。

 いったい、どんな徳を積めばこんな経験ができるんだ。

「いかがですか?」
「すごくいいです。あ、ありがとうございます」

 セラフィーラさんはゆっくりと手を動かす。
 熱い。全身が熱い。

「何があったのか、お聞かせ願えませんか?」
「え?」
「最初に引き戸を開いた際、眉間にシワをよせて、とても深刻な表情だったので」

 いつもと違うことを察して、歩み寄ってくれたのか。

 俺は祖父とのやりとりを全て話した。
 心苦しかったが、セラフィーラさんをどこの馬の骨とも分からない変な女だと言ったことも、包み隠さず話した。
 同棲初日に、一人で抱え込まないと約束したから。

 俺の背中は泡でいっぱいになった。

「流してよいですか?」
「はい」

 セラフィーラさんは、俺にお湯をかけて泡を全て流した。

「話したら、少し楽になりまし」

 え?
 膝立ちのセラフィーラさんに後ろから抱きつかれた。
 
 俺は唐突な出来事に固まってしまった。
 タオル越しに色々当たっている。柔らかい感触が。

「人間はこうすれば落ち着くとお聞きしました」
「ぎゃ、逆効果です」
 
 セラフィーラさんは俺から離れずに続けた。

「私のために怒ってくださったのですよね? ありがとうございます」

 目が痛い。目に泡が入ってしまったかもしれない。
 人間のことを思い続けてきたのは他でもない、セラフィーラさんなのに。

「俺......セラフィーラさんを罵倒されたのが、悔しくて、悔しくて......」

 優しく頭を撫でられた。

「人間は、思いを、意志を、世代を超えて共有することができます。しかし、心を読むことはできません。時にはすれ違うこともあるでしょう。少しずつ歩み寄って、思いを伝え合って、互いを理解していけばよいのです」
「セラフィーラさん……」

 俺の胸元に優しい手が当たっている。

「私は、そんな人間たちが大好きです」

 そう言って、セラフィーラさんはゆっくりと、俺から離れた。

「次のお話の場には、私も出席させてください」
「分かりました。誤解も解かなきゃいけませんからね」
「はい! ビシッとお伝えします。私は馬ではございません!」
「ははっ。馬の骨ってそういう意味じゃありませんよ」

 いつもの調子に戻った。

 俺はセラフィーラさんに手を取られて岩で囲まれた温泉へ。
 紅葉に彩られた庭園風だ。
 俺たちの貸切だ。

 おそるおそる足を入れる。
 
「こわくありませんよ」

 怖いんじゃない、セラフィーラさんと入るから緊張しているんだ。

 俺は全身を湯に浸けた。

「ふぅ~」

 今のは俺じゃない、セラフィーラさんの声。
 温泉に入ると声が出てしまうのは女神様も同じ。

 暖かい。滑らかなお湯が体の芯に染みる。

「いかがですか?」
「最高です」
「ふふ、私もです」

 火照ったセラフィーラさんと笑顔で向かい合い、悠久の時を過ごした。
 ドラム缶風呂を気に入ってくれた時に、いつか温泉に連れて行きたいと思ってはいたが、こんなに早く叶うとは。
 
「本当に良いお湯ですね。神器のメンテナンスもできそうです」
「まぁ、あのでっかい槍はバスで運べないので、仕方ないですね」
「常に携帯する必要はないのですよ」
「どういう意味ですか?」

 セラフィーラさんはその場で立ち上がり、パンパンパン、と3回手を叩いた。
 タオルが張り付いて、体のラインが見えてしまっている。

 少しの静寂ののち、空が小さく光った気がした。

「え?」

 何かが超速でこちらに接近している。

「セラフィーラさん危ない!」

 セラフィーラさんに当たるかに思われたそれは……右手にすっぽりと収まった。
 エリスとの戦闘時に使っていた水色の槍。

「改めてご紹介します。神器 ルヴァンスレーヴスピアです」
「ええぇぇ......」

 俺は目が点になった。
 今回は普通のラブコメっぽい感じかと思ったのに、ゴリゴリのファンタジー要素をぶっ込んできやがった。

「驚かせてしまいましたか、そうでしたね。人間は槍を呼び寄せないのでしたね」
「そもそも、クソでかい槍を持ってませんよ」

 その後、セラフィーラさんは槍を、ボディソープを染み込ませたタオルでゴシゴシ洗い流してから、温泉に浸けた。

 (※湯船に槍を入れてはいけません。絶対に真似しないでください)

「お湯に入れる意味ってあるんですか?」
「この槍は特別なので、最良の状態を保つために、質の良い水に浸ける必要があるのです」

 だから佐々木公園の池の中にずっと浸けていたのか。
 先ほども池から槍が飛び出していって、エリスはさぞ驚いたであろう。

「槍に意志や思考は?」
「分かりません。ですがきっと、温泉に浸かれて喜んでいると思いますよ」

 結構アバウトだった。

「私たちだけ楽しむのでは、もったいないと思います」
「そうですね。槍にも体験させたいって気持ちも分かる気がします」

 セラフィーラさんは、空を見上げながら呟く。

「私は確信しました。下界はとても良いところです。天界の者たちにももっと、この良さを経験もらいたいです」
「教えるのではなく、経験、ですか?」
「はい、百聞は一見にしかず、ですから。身をもって学んだことです」

 その言葉には、190年分の重さがあった。

「セラフィーラさん。これからもっと、もっと、たくさんのことを経験していきましょう! 俺が案内します!」
「承知しました! 今後とも、どうぞよろしくお願いしますね」
「じゃあ、いい加減、戸籍問題を解決して家を探さなきゃですね」
「はい! ばっちこい、です!」

 温泉を堪能した俺たちは、祖父たちの元へ。
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