うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていました~

珠川あいる

文字の大きさ
10 / 77
第1章『流浪の元聖女』

第10話「王女殿下の悲劇の幕開け」

しおりを挟む
 鬱蒼うっそうと茂った暗い森の中に其れそれはあった。
 最寄りの村ロルカから続く、たどたどしい獣道の先に、ぽっかりと黒い口を開けている。

 それは10年前に災厄を生み出した、不死者たちの迷宮だった。

 此度こたびの再封印は事態を重くみた国教会からも、選り抜きよりぬきの精鋭が派遣されている。
 先発した彼ら国教会チームが封印強度の調査を始めていたのだが、ここに来てプリシラは類まれな幸運を発揮していた。
 不死者の迷宮の封印はまだ十分に強度が残されていたのだ。
 

「幸運でしたな、プリシラさま」

 国教会のリコ司祭が晴れやかな笑顔で話しかけてきた。
 彼らの調査の結果、再封印は聖女と、そのお付きの者たちだけでも十分だとの結果が出ていた。
 一足先にこの場を離れる為、プリシラに挨拶にやってきたのだ。

「え、ええ、これも私の祈祷の成果ですわ」

 引きつり気味の笑顔で何とか体裁を保っている。
 フローラ追放の詳細は今の所、王宮外には一部の例外を除いて漏れてはいない。
 その影響で聖女交代は正当なものだと解釈されている。
 少なくともリコ司祭の態度からは、そう推測できる雰囲気が感じ取れた。

「気負う必要はありません。まず確実に成功するでしょう。さすがは先代聖女を超える御方ですな」

 『はははは!』と、高らかに笑って、リコ司祭も肩の荷が下りたようだった。

「あんな程度の者と一緒にされても困りますわ!」

 リコ司祭に乗せられて、つい調子に乗ってしまっている。

「プリシラさまのご成功を、大司教猊下げいかは大変に期待されております」

「必ずや成功させますので、大司教猊下げいかには宜しくお伝えください」

 了承を意味する言葉を口にして、リコ司祭は帰路の旅路に就いた。

 去り行く国教会の者たちの背を、プリシラは憎々し気に見送っている。
 それには彼女らしい理由があった。
 ここへ到着した当初は彼ら国教会の者たちが、プリシラにはとても頼もしく見えた。
 ひどく頼もしい味方に見えたし、実際、そう思った通りに彼らは優れていた。

 しかし、もうそんなことを言っている場合ではない。
 リコ司祭のお墨付きがあるのだ、必ず成功させようと気合を入れる。


「プリシラさま、儀式の準備が整いました」

 いつもの侍女がやってきてそう告げた。この侍女は、相も変わらず、冷静だ。

「さあ、ちゃっちゃと片付けるわよ!」

 不自然に自分らしくないことを口走る。

 だが、プリシラの懸念など、大して問題にはならないはずだった。

 国教会の寄越したあのリコ司祭は、とても優れている男だ。プリシラが聖女として無能なことなど、とっくに見抜いている。
 その上でプリシラたちだけでも十分だと判断したのだ。
 正確を期す言い方をするなら、新たに人選された巫女たちだけでも儀式は成功させれるだろう。
 プリシラが余計なことをしない限りは、この儀式の成功は半ば約束されたものだった。

 そう、していてくれたら。

 封印の儀式は順調に進むかのように、居合わせた誰もが思っていた。

 しかし突然、静けさと、厳粛さに包まれた儀式の場は、プリシラの悲鳴にすべてがかき乱されてしまった。
 儀式の途中ではあったが、余りにも取り乱すプリシラのほうへ目をやると、数体のスケルトンが粗末な小剣を片手に、プリシラの十数メートル先に突っ立っていた。

 たかがスケルトンである。

 農民でも大人の男性なら人数次第では十分に打ち負かせる。
 そんな下等な不死者を相手に、プリシラは散々に取り乱しては、儀式中の巫女たちに命じていた。

 『儀式などより、私を助けて!』

 彼女はそう言って、儀式を中断させようか逡巡しゅんじゅんする巫女たちに躍りかかった。
 結果は散々だったが、乱入したスケルトンたちの始末も含めて、儀式自体は巫女たちだけの力で無事に完了していた。

 ただ一つ付け加えるなら、ひどく錯乱したプリシラは、スケルトンにつけられた小さな刀傷を見て失神してしまった。

 失神したまま馬車に揺られて王都に帰ることになったが、王宮へは早馬の伝令が、一部始終を記した書状を携えて先発している。
 プリシラが目覚めた時にはもう手遅れだろうし、仮に意識があっても儀式中の出来事は、あの国教会のリコ司祭の配下の者たちが人知れず監視していた。

 今頃あのリコ司祭はほくそ笑んでいるはずだ。

 聖女フローラを不当に貶めた悪魔プリシラを、実に巧妙な手段で陥れることに成功したのだから。

 帰路の旅路で夜空を見上げなら、リコ司祭は周囲の者に聞こえるように、声に出してこう言った。

「偉大なる御方、聖女フローラさま」

「貴女さまに代わって悪魔プリシラに鉄槌を下しました」

「この満天の星空の下、どこかで今も流浪の身に甘んじておられる聖女さま、どうか御心を安らかになさってください」

「あの悪魔プリシラは必ずや、私共の手で必ずや、地獄に叩き落としてご覧に入れましょう」

 国教会の次代を担う若き司祭リコ司祭は、その両の眼に復讐の炎を宿らせていた。
 その眼はプリシラを見据えて、決して逸らされない。
 復讐を果たすまでは、決して逸らされないだろう。

 
 若き司祭リコ司祭は、彼を取り囲む仲間たちと、フローラを想って夜空に向かって祈りを捧げていた。



―――



 今日のこの日の謁見の間では、封印の儀式成功を祝う喜ばしい雰囲気で包まれていた。
 ここの所、ずっと悪い知らせばかりだったが、久しぶりの喜ばしい知らせだ。
 居並ぶ大臣たちも、将軍や騎士隊長たちも、この日ばかりはいがみ合いをやめて喜びを分かち合っていたが、玉座の上のクラウス王だけは厳しい顔つきをしていた。

 何故ならば、謁見の間の中央でふんぞり返るのが、プリシラ王女だったからだ。

 どういうわけか彼女に言わせれば、儀式はプリシラの身体を張った活躍で成功を収め、全治七日と診断された刀傷による怪我は、名誉の傷だと言いふらしている。

 立場上でも、身分上の問題でも、巫女たちが王女を相手に大っぴらに反抗はできない。
 それもあったが何よりも、国教会の司祭と、その国教会を支配する大司教が味方だと思い込んでいる為、このように強気な振る舞いで手柄を横取りしようとしているのだ。

 クラウス王は勿論、事の次第を伝令の持ってきた書状で確認は済ませてある。

 クラウス王はざわめく家臣たちに右手を上げて見せた。
 直後、謁見の間は静けさに包まれ、家臣たちは王の次の一言に注目している。


「プリシラ、そこへ直れ」

 父王の命に従って、プリシラはクラウス王の眼前で片膝をついた。

「仰せに従います。父上」

 彼女の顔には、自信と喜びが漲っているみなぎっている

「プリシラ、もう失敗は許さんと言ったのを覚えているな?」

「はい、父上」

「そうか、では今回の件の処分を申し渡す」

「はい!」

 処分と聞いてプリシラは、褒美か何かと勘違いしているようだ。

「そなたを廃嫡とした上で、フェアラム伯爵との結婚を命じる」

 クラウス王は淡々と、用件のみを伝えると言った感じで話している。

「……え?」

「婚儀の準備が整うまで自室にて謹慎せよ。尚、聖女の役目も解任とする」

「ち、父上? 何故そのようなことを?」

 クラウス王は、小さくため息をついた後に、こう尋ねてきた。

「文句があるのか?」

 クラウス王は、プリシラに憐憫の視線を注いでいる。

「当たり前です! 何故、手柄を立てた者が罰せられるのですか!!」

 小さな身体をいっぱいに使って、言葉と態度で激しく抗議をしている。

「何の手柄だ? 魔物に傷つけられて失神していたはずだろう」

 父王のほうはあくまで淡々としている。

「違います! この傷は名誉の傷です! それに失神もしていません!!」

「その訴えを証明できるか?」

「父上!? 私の言葉が信じられないのですか!」

 悲鳴に近い声を張り上げて、縋るすがるような視線を父王に返す。

「証明できるのか?」

「そこまで仰るなら、そうします!! 国教会のリコ司祭を召喚してください! あの方が私の力になってくださるはずです!」

「だ、そうだがリコ司祭、どうなのだ?」

 父王のこの言葉にプリシラはギョッとなったが、直後にリコ司祭の姿を探して辺りを見回した。

「クラウス王陛下に申し上げます。確かに王女殿下とは面識はありますが、私にプリシラ王女殿下の潔白を証明できる根拠はありません」

 そう言ってリコ司祭は一礼をした。
 そのリコ司祭を、プリシラは凝視していた。
 あの日の笑顔と同じ笑顔をしているリコ司祭を、信じられないものを見るかのような目で凝視している。

「司祭さま……?」

 あまりの衝撃に絶句している。言葉尻が頭から抜け落ちて、ただただ言葉を失って、プリシラはその場に立ち尽くしている。

「プリシラの処分は即日、執行する。衛兵、王女を自室に監禁せよ、いいか? 泣いて喚こうが決して外には出すな」

「ち、父上、い、嫌です! いやあああああああああ!!!!!!」

 衛兵たちが王の命を遂行すべく、抵抗するプリシラを引きずって謁見の間を後にした。
 すぐ外の回廊には、次第に遠ざかるプリシラの悲鳴がこだましていた。
 




*****

彼女の悲劇は始まったばかりです(´ー+`)

*****

しおりを挟む
感想 212

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

処理中です...