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第2章『聖女王フローラ』
第39話「ヴァージルの過去②」
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(こんな所に連れて来て、何をしようと言うのでしょう?)
アナスタシアは腰に差した短剣を触って確かめてみた。
彼女は弓術の達人だが、接近戦を想定して短剣術の修練も積んでおり、クレールを師として体術も修めている。
同じく弓術を最も得意とするミランダとは、修行の成果を競って研鑽を重ねるライバルでもある。流石に元オルビア王国軍の一線級を張っていただけあって、ミランダはアナスタシアの腕前を凌駕していた。
けれども、そういう風に目標とする人物が居る事を、アナスタシアは歓迎している。ここ聖都での暮らしと女王フローラに仕える充実感は、アナスタシアをとても充足させていた。ただ、それだけにダミアンたちの魂胆を測りかねて疑う気持ちを強めていた。
そんなアナスタシアの少し離れた場所に、この男たちが偶然居合わせていた。
「ヴァージルさま、あれはアナスタシアさんと……」
アナスタシアの後ろ姿をオルセンが視界の端で捉えていた。
ヴァージルは今日も聖都の視察に訪れていたのだが、偶然にもアナスタシアの後ろ姿を目撃したようだ。
そして一緒に居るのがダミアンとアイダだと気付くと、何やら得体の知れない胸騒ぎがしていた。
「ああ、ダミアンだな。他の旧オルビア貴族の連中と目的は一緒だろうが、それなら何故、アナスタシアさんに?」
ヴァージルの鋭い眼光が、路地の薄闇に消えようとしているアナスタシアの後ろ姿に注がれている。このまま見過ごすのもどうかと思い、彼女たちの後を追ってみる事にしたヴァージルたちだった。
―――
「そろそろ本題に入って頂けませんか?」
少々怒気を込めて、強めの口調で探りを入れてみる。
相手がダミアンだけなら、彼の身のこなしを見る限り、自分の相手が務まるとはアナスタシアは思っていなかった。
しかし、まさかこのような手段で来るとは、少々想定外だった。
幾ら小勢力とはいえ、女王のお膝元で大胆すぎる方法を取って来た。
しかも、女王の親衛隊隊長に手を出すとは、頭がおかしいとしか言いようがない。何らかの意図があるのならその限りではないのだが、今の所、そういった意思は感じられない。
「悪いようにはしないさ。ただ、どっちが上なのか理解して欲しくてね」
物陰から姿を現したごろつき風の男たちを、ダミアンは目配をして操っている。個々人の実力は大した事はなさそうだが、流石に人数が多すぎる。アナスタシア一人でどうにかなる数ではない。
『さて、どうしたものか』と心中で思考を巡らせるアナスタシアに対して、ダミアンは如何にも分かりやすい態度で、こう言葉を続けた。
「あんたも美味しい思いはしたいだろ? だったらとりあえず、あんたを相手に楽しませてくれよ。どうせ平民の出だろ。俺みたいな貴族の相手ができる機会は滅多にないぜ? どうだ、俺の女になれよ」
先ほどまでのぎこちなかった貴族然とした仮面を脱ぎ捨てて、ダミアンは本来の自分の姿を見せている。
こっちのほうがよほどしっくりくる。アナスタシアはそう思っていたが、そうならそうでますます事態は悪化している事も理解していた。
「やれやれ。貴方は本当にヴァージルさまの弟君ですか? 兄弟でこうも品性に差があるとは、私も驚きましたよ」
"すらり"と短剣を抜き放つ。
薄闇に差し込む頼りない陽光が、アナスタシアの短剣に反射し煌めいている。
「おいおい、この人数相手に勝てると思っているのか?」
「さっさとやっちまいなよ。あたしは早くこの女にたっぷりと仕置きをしたくて、疼いているんだよ?」
アナスタシアは何も答えずに、ただじっと短剣を構えて備えているだけだった。
そんな彼女の態度にダミアンは辟易しているようで、ため息を吐いた後にこう言ってきた。
「俺はヴィガン男爵ヴァジルールだ。女王陛下の恩人だぞ? その俺に対して無礼じゃないか。お前も聖水村の騒ぎは知っているだろう。あの折に、まだ聖女さまだったフローラさまと知己を得ている」
(その話は当然知っていますよ。なるほど、どういうつもりかが分かってきました。それなら益々引くわけには行きませんが……)
アナスタシアの少し後ろのほうで、ヴァージルたちもこのやり取りに耳を傾けていた。ダミアンの真意を探る為に、敢えて様子を見ていたのだ。
「オルセン、お前はアナスタシアさんをカバーしろ」
主の命令にオルセンは頷いて、腰の長剣を静かに抜いた。
オルセンにとって待ちに待った復讐の機会が訪れていた。
そしてそれは、ヴァージルにとっても同様だった。忌まわしい過去から解き放たれる瞬間が間近に迫るのを、彼は感じている。自らの手で過去のしがらみを断ち切ろうと、愛用の剣を抜き放とうとしていた。
*****
ヴァージルファンの皆さま! 彼の見せ場ですよ(´ー+`)
*****
アナスタシアは腰に差した短剣を触って確かめてみた。
彼女は弓術の達人だが、接近戦を想定して短剣術の修練も積んでおり、クレールを師として体術も修めている。
同じく弓術を最も得意とするミランダとは、修行の成果を競って研鑽を重ねるライバルでもある。流石に元オルビア王国軍の一線級を張っていただけあって、ミランダはアナスタシアの腕前を凌駕していた。
けれども、そういう風に目標とする人物が居る事を、アナスタシアは歓迎している。ここ聖都での暮らしと女王フローラに仕える充実感は、アナスタシアをとても充足させていた。ただ、それだけにダミアンたちの魂胆を測りかねて疑う気持ちを強めていた。
そんなアナスタシアの少し離れた場所に、この男たちが偶然居合わせていた。
「ヴァージルさま、あれはアナスタシアさんと……」
アナスタシアの後ろ姿をオルセンが視界の端で捉えていた。
ヴァージルは今日も聖都の視察に訪れていたのだが、偶然にもアナスタシアの後ろ姿を目撃したようだ。
そして一緒に居るのがダミアンとアイダだと気付くと、何やら得体の知れない胸騒ぎがしていた。
「ああ、ダミアンだな。他の旧オルビア貴族の連中と目的は一緒だろうが、それなら何故、アナスタシアさんに?」
ヴァージルの鋭い眼光が、路地の薄闇に消えようとしているアナスタシアの後ろ姿に注がれている。このまま見過ごすのもどうかと思い、彼女たちの後を追ってみる事にしたヴァージルたちだった。
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「そろそろ本題に入って頂けませんか?」
少々怒気を込めて、強めの口調で探りを入れてみる。
相手がダミアンだけなら、彼の身のこなしを見る限り、自分の相手が務まるとはアナスタシアは思っていなかった。
しかし、まさかこのような手段で来るとは、少々想定外だった。
幾ら小勢力とはいえ、女王のお膝元で大胆すぎる方法を取って来た。
しかも、女王の親衛隊隊長に手を出すとは、頭がおかしいとしか言いようがない。何らかの意図があるのならその限りではないのだが、今の所、そういった意思は感じられない。
「悪いようにはしないさ。ただ、どっちが上なのか理解して欲しくてね」
物陰から姿を現したごろつき風の男たちを、ダミアンは目配をして操っている。個々人の実力は大した事はなさそうだが、流石に人数が多すぎる。アナスタシア一人でどうにかなる数ではない。
『さて、どうしたものか』と心中で思考を巡らせるアナスタシアに対して、ダミアンは如何にも分かりやすい態度で、こう言葉を続けた。
「あんたも美味しい思いはしたいだろ? だったらとりあえず、あんたを相手に楽しませてくれよ。どうせ平民の出だろ。俺みたいな貴族の相手ができる機会は滅多にないぜ? どうだ、俺の女になれよ」
先ほどまでのぎこちなかった貴族然とした仮面を脱ぎ捨てて、ダミアンは本来の自分の姿を見せている。
こっちのほうがよほどしっくりくる。アナスタシアはそう思っていたが、そうならそうでますます事態は悪化している事も理解していた。
「やれやれ。貴方は本当にヴァージルさまの弟君ですか? 兄弟でこうも品性に差があるとは、私も驚きましたよ」
"すらり"と短剣を抜き放つ。
薄闇に差し込む頼りない陽光が、アナスタシアの短剣に反射し煌めいている。
「おいおい、この人数相手に勝てると思っているのか?」
「さっさとやっちまいなよ。あたしは早くこの女にたっぷりと仕置きをしたくて、疼いているんだよ?」
アナスタシアは何も答えずに、ただじっと短剣を構えて備えているだけだった。
そんな彼女の態度にダミアンは辟易しているようで、ため息を吐いた後にこう言ってきた。
「俺はヴィガン男爵ヴァジルールだ。女王陛下の恩人だぞ? その俺に対して無礼じゃないか。お前も聖水村の騒ぎは知っているだろう。あの折に、まだ聖女さまだったフローラさまと知己を得ている」
(その話は当然知っていますよ。なるほど、どういうつもりかが分かってきました。それなら益々引くわけには行きませんが……)
アナスタシアの少し後ろのほうで、ヴァージルたちもこのやり取りに耳を傾けていた。ダミアンの真意を探る為に、敢えて様子を見ていたのだ。
「オルセン、お前はアナスタシアさんをカバーしろ」
主の命令にオルセンは頷いて、腰の長剣を静かに抜いた。
オルセンにとって待ちに待った復讐の機会が訪れていた。
そしてそれは、ヴァージルにとっても同様だった。忌まわしい過去から解き放たれる瞬間が間近に迫るのを、彼は感じている。自らの手で過去のしがらみを断ち切ろうと、愛用の剣を抜き放とうとしていた。
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