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灰色の世界に誰かを探しに行ったけれど、結局誰も探していなかったと気づけなかった件
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灰色が無数種類で出来た部屋は
すべての色があるけれど、とにかく物憂い
すべてが、揃っているから
自分が用意するものを探すのが、かえって難しいのだ。
例えば、今朝食べたい物がカレーパンだったとして、おふくろの味カレーから、ホテル〇〇謹製カレーパンが100種類に、パン工場特定の一般的なカレーパンが、各会社分とかあったら、朝ご飯を決めている間に会社や学校には間違いなく遅刻する。
すべてあるということは、結局選べないと同義語で、選ぶものが見つからないが対義語になる。
そんな事はどうでもよくて
今朝は、困った男がやってきた。
『会いたいひとがいる。ここにいると聞いてやってきた』
そう言ってドアを叩くので、開けた瞬間に
『ここにいたのか』
ぐふっぅぅ、ぐふ。ゥゥゥ
膝を水月にいれて落ちてきた顎に廻し蹴りをくれてやった。
あれから、15分。
まだ床で伸びている。
紅茶の葉がふわふわと上下に浮き沈みするのを眺めて
一気に高いところから、紅茶をカップに移す。
今日はセイロン茶のミルクティ
甘い香りが心地よい
この男がやってきて、世界がざわめきだした
長くなりそうな気がする
なにせ、いきなり僕に抱きついて来た
みる目がなさすぎる
ふ~っとため息をつく
『お~い、お茶が出来てるぞ』
もそもそと、顎と腹を抱えて起き上がってきた
もう傷は回復しているはずだ
ずるずると両手を、だらん、と垂らして歩いてくる。
不様な格好だ。
『お茶ってどこですか』
ガタンと『あいた』が同時に聞こえた時には
ティーカップは持ち上げていて無事だった。
椅子にスネ、腹をテーブルにそれぞれにつけたらしい。
『面倒くさいやつだな。紅茶はテーブルに置いてあるに決まっているし、テーブルがあれば椅子があるだろう。お酒じゃないんだから、立って飲み物でもない。ちゃんと考えて見ないと、そのうち穴に落ちるぞ』
そう言っている途中で僕の手からティーカップを攫いとった。
紅茶はしっかり見えるらしい。
それとも、ただ相当に喉が乾いていたのか。
『あなたがみるひとですか』
紅茶を優雅に飲みながら尋ねてきた。
そう、優雅な佇まいだった。
さっきはあんなに不様だったのに。
『そうだよ』
『今日は僕の誕生日なんですよ』
『知ってるよ』
『そうなんですか』
『驚きはしないんだね。』
『そういうものだと知っていたので』
『そうか、きみはこちらに近いひとだったね』
『だから、ここに探しに来たんですけどね。今日は僕の誕生日なんですよ』
彼は同じ言葉を繰り返した。
『知ってるよ。それで誕生日になにを探しに?』
『昨日会ったひとが誰だったか思い出せなくて』
『よい人』
『いや覚えてはいなくて、ただ帰りに、ここに寄らないと、とだけ強く思っていたので』
『ふーん。長くなりそう?』
『わからない 、だってここには何でもあり過ぎる』
『そうだね、特にきみにとっては。』
『どうする』
『お茶を飲んだら出て行くよ』
『わかった。僕も準備する』
『ありがとう』
そうして、僕はお風呂に入り
一糸まとわぬ肌の上に薄いローブを羽織り
その上から外出用のローブを身に纏う
『さあ行こうか』
そうして度に出た
無数の色の違う灰色の草木が道の両端を覆っているが、今日は土の道にレンゲ畑が現れ、空には冬の重い雪雲が垂れ込めている
相変わらず、ひとはみえないのに
世界は構築されている
2人並んで小川にかかる橋を渡り駅に向かった。
電車がホームにはいって来たが、運転手も車掌も、駅で、待つ客も降りる客もいない。
車内にも誰もいなかった。
駅を3つ通り過ぎたあとの駅で、背の高い女性が乗ってきたが、こちらを見る事は、なく、背景に馴染んで彼は見えていない様子だった。
しばらくして大きな川を超えて大きなターミナルで降り、さらに大きな駅で電車を乗り換える。
高架線から見える橋は赤く大きい。
彼はじっと眺めていたが、車内にいた女性客もまた、見えてはいないようだった。
どんどん走る電車は郊外に向かっているかと思えば山が迫る。チラっと振り向いた先に小柄な女性がいて彼は、目配せをする。相手も手を振り返していて、そこの席だけ陽光がさしていたけれど、2人が近づく事はなく、その内降りていった。
飛行機が飛び交い、その度に彼はじっと眺めていたが、海が近づいた駅で降りた先のレストランで食事を頼んだ。赤いケチャップと薄いマカロニとチーズの層。やっと食べれた、と向かいの女性と笑いあっている。
ずいぶんと和やかでいて結婚生活はどう?とお互いの近況を報告し店を出て別々の方向に歩き出した。
駅のそばからは近くに港があって、彼はへさきの先に立っていた。
イルカが追いかけっこする先に飛び魚がキラキラと跳ねている。
彼は子どもになっていて、そのまま眼鏡をかけさせたら、彼の子どもとそっくりだな、と思ってしまう。
船内に戻ると多くの男の子、女の子に混じって楽しそうにくつろいでいた。
船が港につくと、僕の隣を歩いて一緒に下船した。
『どうだい』
『どこにもいない』
『まだまだかかりそうだ』と歩き出した。
『いいところがある、一緒に行こう』とまた電車に乗り込んだ。
ガタンゴトンガタン
昔の電車の音がする。今の子たちに電車ごっこを誘っても、ガタンゴトンガタンじゃ伝わらない
白黒の景色が前にあってそのまま後ろに流れていく。濃い灰色の煙が山頂から出ている山は
何という山なんだろう。
降りてしばらくした先で、僕も砂に埋められた。
重みが気持ちいいけれど
意外と重たくて
砂は重いのだなと当たり前に驚いた
彼は案内してくれていた女性とよく話をしていた
それでも『違う』そうだった。
帰りは飛行機で、あまりお客と好んで接しないイメージのCAと呼ばれる女性と何度も笑顔で会話していたので驚いた
『昔の知り合いだった』らしい。
空港には降りず、僕たちはパラシュートで降下した。
空はどこまでも青くて、雲は白くて
雲の上で飛び跳ねて遊んでからもう一度
緑溢れる世界へ飛び降りたかと思えば、あっという間に灰色だけの世界が現れた
そもそも
彼の街には緑はない。
『ただいま』
ドアを開けるけれど、彼の家にひとの気配は無かった。
おいで、と言われて入ると
今度は彼が紅茶葉の上下運動を楽しんでいて
そのまま紅茶を淹れてくれた
『おいしい』
『どうも』
直ぐに紅茶はみえたわけだ
おいしい紅茶だった
『さて、今日はいちど戻ろう』
そう言って、靴をはいて並んで歩いて帰った
『どんな1日だったんだい』
『何でもあって何もない1日だったよ。たくさんのひととあって、だれともあえなかった』
『そうだったね。明日もがんばれそうかい』
『そうするつもりで来たからね』
『また明日もよろしく』
『もう眠るのかい』
『ここはいつでも朝で昼で夕方で夜、だよね』
『そうだね、おやすみ。良い夢を』
彼は寝てしまった。
僕はしばらくは用事が無くなる。
それでもそばから離れないでいるのは
朝がくるからだ。
僕は朝の紅茶の用意をする。
アールグレイを用意する。強い香りが鼻を優しく刺激し始める。
『おはよう』
『おはよう。紅茶はいかが?朝はアールグレイにした。』
『そんな香りに包まれているね』
ガタン、あいた
今朝も昨日の繰り返しだった。
『どのくらい?』
『紅茶を準備する間くらい』
『そんな感じなんだね』
『そんな感じなんだよ』
『いつに出る』
『そうだねお風呂に入ったら』
『僕も準備をしてくるよ』
『一緒に入る?』
『そうだね、そうしよう』
先に湯船から出て髪を流す。
彼がゆっくり髪を洗ってくれている
シャワーで丁寧に泡を流して
『先にあがるね』
『もう少し浸かって出るよ』
この後の彼のお風呂はずいぶんと長い
僕の髪が乾く頃
僕がローブを羽織り出すとあがってきて
直ぐに準備を終える
僕が外出用のローブを纏えば靴を履き、同じタイミングで家を出る。
『きょうも同じコースをいくのかな』
『そうだね、でも逆回りで行く事にするよ』
灰色の街を歩き郊外に出て
腕を広げて目をとじる
彼の背には大きな羽根が、僕の周りをには風の輪が出来上がって包み込む
ふわっと持ち上げた身体を風が背に乗せて舞い上がる
雲で飛行機を待って乗り込み
彼はCAにおはようございますと挨拶を交わしていた。
その後も、砂に埋められて、船に乗って電車を乗り継いで、歩いて彼の家に寄り
紅茶をご馳走になって帰ってきた。
『きょうは、どんな1日だったんだい』
『何でもあって何もない1日だったよ。昨日と同じさ。たくさんのひととあって、だれともあえなかった』
『そうだったね。また、明日もがんばれそうかい』
『そうするつもりで来たからね』
『また明日もよろしく』
そうやって布団に入る
『一緒に眠るかい?』
『そうだね、まだ今日はひとりで眠るよ』
『わかった。また明日』
紅茶のお湯を沸かしにいく。
『今朝は僕が淹れよう』
『ありがとう。よく眠れたのかい』
『ぐっすりだよ』
『何にする』
『きみのいえのブレンドえおおしえてよ』
『そうだね、ここには同じものがそろってる』
『ダージリン』
『そう』
『アールグレイ』
『そう、香り付け程度に』
『気分?』
『そうだね、プラス気候。ま、それも気分といえば気分だね』
『いかが』
『おいしい。あったまる感じがする』
『そう、だから今日はちょっとアールグレイ多め』
『ふ~ん。いつもひとりで』
『奥さまと、というより奥さまに。』
『喧嘩の解消法?』
『そう。少し前まではね』
『今日はひとりで先に行くよ』
『どこで待てばいい?』
『僕の家にきてくれたらいい。そのくらいで戻る予定です』
『紅茶は?』
『用意しておきます』
ふふっと優しい笑顔だ。
そんな顔が出来るようになったのだなと思う。
ドアを、開けて出ていく後ろ姿を見送り
ゆっくりと湯船に浸かる
湯船から溢れる乳房がずいぶんと大きくなり始めた。
シャワーに打たせるとお湯が弾く
ローズの香りを身に纏うように久しぶりにゆっくりとお風呂の時間を過ごした
肌にローブを羽織って、外出用のローブを身に纏う。
いま彼はどのあたりを旅しているのだろう
そう思いながら、ドアを開けて緑の中を歩いていく。
木々を抜けて小川を渡れば彼の家はある。
実際には僕の家の目と鼻の先にある彼の家。
そのことにもう気づいているのだろうか。
コンコンとノックする。
中から彼が出てきた。
シューシューとお湯が沸く音が聞こえる
『お待たせ』
『どうぞ』
テーブルに座ると紅茶が出てきた
目の前のお皿にはカットりんごの縁に砂糖飴がついたデザートが用意されていた
『りんご飴をカットしたものです。どうぞ。』
見た目も可愛らしいりんごを齧る。
りんごの甘さと綿菓子の甘さのようで美味しかった。
『りんご飴って苦手だったけど、これなら食べやすい』
『そうなんですよね。先にりんごがきて、後で飴が来るから、普通に齧るより美味しく感じて』
『この準備をしていたの』
『この準備をしていました』
『ありがとうございます』
『こちらこそ』
『この後、どうする予定ですか?』
『そうですね。』
珍しく答えに時間がかかるようだった。
『一緒に来てください』
『わかりました』
家を出ると駐車場に向かって車に乗り込んだ
キュルキュルっとエンジンが始動する。
車はゆっくりと駐車場を出て街の小路から大通りを経て高速道路に入った。
目の前に海が広がる。
西陽が雲を突き抜けて光の梯子を作り出していた。
高速道路を降りてからは一転山へ向かう。
山の中腹のニュータウンを抜けた先の駐車場に到着した。
『歩きます』
そのまま、彼が手をつないできたので、そのままつないで、山に向かって用意された通路を一緒に歩いた。
急な階段や段差では『そこに気をつけてください』と声をかけてくる
『うちのテーブルと椅子には毎回ぶつかるのに年ね』
『山道は得意なんです』
不意に視界が開ける
周囲はすでに濃い灰色に包まれていたのに
目の前は光の海だった
『来てみたかったんですよね』
『僕でいいんですか』
『いろんなひとと、こちらに来て出逢ったんですけどね』
『なんか違うんです』
『あなたと一緒に行きたかったのかと言われると、それもよくわからないんですよね』
『今日の予定を聞かれた時になんとなく』
『そうですか。でもありがとうございます』
目の高さより低い位置を飛行機がラインを残して消えていく。
ずいぶんと遠くに大きな橋も見える
『ここから見えるという事は、遥かに遠いあの橋からも僕たちは見られてるということですよね』
『そういう事になるはずだね』
気づけば、後ろから抱きしめられるような格好になっているけれど、黙って過ごしていた。
十分に時間を過ごした後、山を下る階段を降りていく。
ずっと手をつないだままだった。
『そろそろ帰ります』
『あなたの世界へ?』
『いえ、まだあなたのいる家へ』
『明日も行かないと行けない場所がある気がするのです』
車が山を降りて高速道路の入り口に差し掛かった時に彼は、そういった。
『朝はわたしが、用意しますね』
『お願いします』
そう言って二人で同じベッドに入った。
朝を迎える
紅茶のいい香りが部屋を満たしている
起き上がると、彼がぶ厚めのパンを焼いて用意してくれていた
『あなたが、ここのきた時に言った、探しているひとは、わたしではないですよ』
『それはわかっていますよ』
『ただ』
『ただ?』
『ただ、あなたがこうしてほしそうな顔をしているので』
『そうなのですね。それでは甘えさせて頂きます』
『ゆで卵は半熟ででてきたりしますか?』
彼が後ろを向くと、片手鍋に玉子が2つグツグツとお湯にかけられていた。
『本当にわたしの顔には色々な事が書き込まれているようですね』
『ほんとうに。色々浮かんで来ていますよ』
『お風呂も用意してますから』
そう言って、バスタオルを入り口の横に置いている。
二人でゆっくり朝食をとる。
朝の陽が差し込んできている。
最近灰色の朝陽を見ることが無くなったと思う
ゆで卵は良い具合に半熟で、除きこんだ彼の目が喜んでいることがわかる
『行きましょうか』
『今日も車です』
外出用のローブもすでに持ってくれている。
一緒にドアを出ると背中からかけてくれた。
助手席に座り、シートベルトを締めた事を確認すると、エンジンをかけて、ゆっくりと駐車場をでた。
『昨日見た橋に会いに行こうかと思います。遠くから見た事や、橋を渡った事はあるのですが、近く、とか下からとかを見た事がないのです。』
前を向いたまま説明があり、ハンドルを切って太陽を背にしながら走っている。
『わかりました』
答えながら、眩しい朝の光だなと想う。
彼に、僕はどう映っているのだろうか。
ここには色々なひとが、やってくる。
彼は最初から僕を見て、その誰かと勘違いをした。
すぐに訂正していたし、その後一緒に行動しているが、僕に誰かを投影している風ではない事がわかる。
思い出をなぞっているのか、
思いを果たそうとしているのか。
昨日夜景の中、遠くに小さく見えた橋橋、近づくにつれて大きさを増し、視界に収まりきらなくなった。
ただ、残念な事に、直ぐそばまでは近づけるものの、真下からは見る事は出来なかった。
駐車場に車を停めて、海辺の道を歩きブイだとか船着場ではないものの、そういう雰囲気を作り出しているテラスを並んで歩く。
いつからか、手をとられていて、そのままつないで歩いた。
明るい光でキラキラ光る水面を眺めながら歩く様子は、どこか照れくさそうでいて、どことなく緊張している様子も感じられた。
それでも力強く握られた手は温かくて穏やかな気持ちが流れてくる。
彼ももう少ししたら帰るのだろう。
『気づかなかった事がたくさんあって、その理由は、ここに来た時にすぐにわかった。』
『きみがいた。』
『勘違いしていきなり蹴り上げられたけどね』
顎をさすりながら笑っていう。
『やっぱり、なんで?とは聞かないんだね。みんながそう言う様に、お見通しなんだろうね。』
『そう、きみがいて、世界はモノクロームに包まれた世界だった。』
『僕はね、グレーという感覚が好きなんだ。3色以上を混ぜ合わせると、すべて灰色になると知った時、妙に納得した。日本語は灰色。すべて燃やしてしまえば灰になる。だけどあまり灰という色は儚さだったり、終わりのイメージ。曖昧のイメージを持つグレーとは違うよね。』
『何が言いたいの?っていう顔もしないんだ。それこそお見通しってことなのかな。』
『僕は何か説明を始めると、途中で答えも問さえもわからなくなることがある。これで結構困ってるんだけどね。』
『まあ、いいや。グレーの話。僕は写真をやっていたからか、グレーについては少し、思い入れがある。』
『トーン。グラデーションみたいなものかな、イメージすると。グレートーン。なめらかに白から黒に変わるまでの色の連続。そしてグレーはすべてを含む色。何色にもなる。』
『グレーをしてナチュラルと表したりする。そう、グレーはナチュラルなんだと思う』
『そう思って生きてきた僕の前にきみが現れた。』
『僕がそれまでの人生で、まったく関わらなかった様なひとだった。』
『何が?って。わかってるよね本当は。』
『きみの思考には白と黒しかなかった。白と黒の間のグレーがない。曖昧を許せないひとだった。』
『びっくりしたし、戸惑いの連続だった。だって世の中に純粋な白と黒なんて存在しないと思って生きてきていたから。』
『そうだよ。曖昧っていうのは処世術だ。白黒しっかり決着つけるということは争いも呼びやすいし、責任も伴ったりする』
『どうしても、その白黒思想を受け容れられんなくて、ここまで来た』
『きみの言動に、どうして僕を信頼してくれない、と何度も思ったよ』
『ひとのこころには、それぞれ踏み込ませられない領域を持っていると思う。それぞれ大切な思い出はいつだって、そのひとのものだ』
『でも、きみはそれを許せない、と言った。』
『大切なひとの大切な人は、僕にとっても大切なひと、という理論は成立しないというから、それも納得出来なかった。』
『でもね、ひとを愛するって言うことは、そういう事かも知れない、ってきみを見ていると想い始めた。』
『グレーでは何も解決しない。いつだって何色にも変わってしまう。それを優しさだと捉えてしまうことは、愛すると言うのであれば罪だ』
『世界には色がある。ここに来た時に、すぐにきみを見つける事が出来た。』
『きみにだけ色があった。』
『ぼくがきみを求めていたということだと、気づいたよ』
『光があって、光を失った時、白と黒はある。』
『きみは光そのものなんだなって』
『相変わらず、一方的だねえ』
僕は、そう言ってつないだ手を緩めて、ひとりで歩き出す。
何故、という顔で困惑する瞳が揺れている。
戻りの車は渋滞にはまって動かなかった。
無言でハンドルを握りテールランプを眺めている。
『どうして』
そう口の中で繰り返しているのだろう。
明石海峡大橋がライトアップされて明滅している。
ずいぶんと時間をかけて家に戻ると、彼は黙って浴室にいき、湯船につかってしばらくでてこなかった。
シャワーを浴びに行くと、背中を流して、今日も丁寧に髪を洗ってくれた。
『そういうとこだよ』
そう言って、先にあがる。
髪を乾かしていると、紅茶が入ったと声がかかる。
湯気のたったティーカップに香りが漂う空間。
『そろそろ帰ろうと思う』
『そうだね』
ゆっくりと彼を抱きしめてキスをする
少し驚いた表情に『そういうとこだよ』と呟く
『好きだよ』
彼の耳には届いただろうか。
風が吹き抜けてローブをはためかす
世界は安定を取り戻してモノクロームの風景が続いていく
もう一度、服を脱いで
水に沈む
すーっとどこまでも堕ちていく感覚の後、ゆっくりと底に横たわる
ぷかぷかと泡沫がのぼっていく
ありとあらゆるすべてが混ざり
僕は、僕に戻っていく
浮び上がれば、きっともう新しくこちらにやってくるひとが、いるのだろう
それまで、しばし
『良い旅を』
すべての色があるけれど、とにかく物憂い
すべてが、揃っているから
自分が用意するものを探すのが、かえって難しいのだ。
例えば、今朝食べたい物がカレーパンだったとして、おふくろの味カレーから、ホテル〇〇謹製カレーパンが100種類に、パン工場特定の一般的なカレーパンが、各会社分とかあったら、朝ご飯を決めている間に会社や学校には間違いなく遅刻する。
すべてあるということは、結局選べないと同義語で、選ぶものが見つからないが対義語になる。
そんな事はどうでもよくて
今朝は、困った男がやってきた。
『会いたいひとがいる。ここにいると聞いてやってきた』
そう言ってドアを叩くので、開けた瞬間に
『ここにいたのか』
ぐふっぅぅ、ぐふ。ゥゥゥ
膝を水月にいれて落ちてきた顎に廻し蹴りをくれてやった。
あれから、15分。
まだ床で伸びている。
紅茶の葉がふわふわと上下に浮き沈みするのを眺めて
一気に高いところから、紅茶をカップに移す。
今日はセイロン茶のミルクティ
甘い香りが心地よい
この男がやってきて、世界がざわめきだした
長くなりそうな気がする
なにせ、いきなり僕に抱きついて来た
みる目がなさすぎる
ふ~っとため息をつく
『お~い、お茶が出来てるぞ』
もそもそと、顎と腹を抱えて起き上がってきた
もう傷は回復しているはずだ
ずるずると両手を、だらん、と垂らして歩いてくる。
不様な格好だ。
『お茶ってどこですか』
ガタンと『あいた』が同時に聞こえた時には
ティーカップは持ち上げていて無事だった。
椅子にスネ、腹をテーブルにそれぞれにつけたらしい。
『面倒くさいやつだな。紅茶はテーブルに置いてあるに決まっているし、テーブルがあれば椅子があるだろう。お酒じゃないんだから、立って飲み物でもない。ちゃんと考えて見ないと、そのうち穴に落ちるぞ』
そう言っている途中で僕の手からティーカップを攫いとった。
紅茶はしっかり見えるらしい。
それとも、ただ相当に喉が乾いていたのか。
『あなたがみるひとですか』
紅茶を優雅に飲みながら尋ねてきた。
そう、優雅な佇まいだった。
さっきはあんなに不様だったのに。
『そうだよ』
『今日は僕の誕生日なんですよ』
『知ってるよ』
『そうなんですか』
『驚きはしないんだね。』
『そういうものだと知っていたので』
『そうか、きみはこちらに近いひとだったね』
『だから、ここに探しに来たんですけどね。今日は僕の誕生日なんですよ』
彼は同じ言葉を繰り返した。
『知ってるよ。それで誕生日になにを探しに?』
『昨日会ったひとが誰だったか思い出せなくて』
『よい人』
『いや覚えてはいなくて、ただ帰りに、ここに寄らないと、とだけ強く思っていたので』
『ふーん。長くなりそう?』
『わからない 、だってここには何でもあり過ぎる』
『そうだね、特にきみにとっては。』
『どうする』
『お茶を飲んだら出て行くよ』
『わかった。僕も準備する』
『ありがとう』
そうして、僕はお風呂に入り
一糸まとわぬ肌の上に薄いローブを羽織り
その上から外出用のローブを身に纏う
『さあ行こうか』
そうして度に出た
無数の色の違う灰色の草木が道の両端を覆っているが、今日は土の道にレンゲ畑が現れ、空には冬の重い雪雲が垂れ込めている
相変わらず、ひとはみえないのに
世界は構築されている
2人並んで小川にかかる橋を渡り駅に向かった。
電車がホームにはいって来たが、運転手も車掌も、駅で、待つ客も降りる客もいない。
車内にも誰もいなかった。
駅を3つ通り過ぎたあとの駅で、背の高い女性が乗ってきたが、こちらを見る事は、なく、背景に馴染んで彼は見えていない様子だった。
しばらくして大きな川を超えて大きなターミナルで降り、さらに大きな駅で電車を乗り換える。
高架線から見える橋は赤く大きい。
彼はじっと眺めていたが、車内にいた女性客もまた、見えてはいないようだった。
どんどん走る電車は郊外に向かっているかと思えば山が迫る。チラっと振り向いた先に小柄な女性がいて彼は、目配せをする。相手も手を振り返していて、そこの席だけ陽光がさしていたけれど、2人が近づく事はなく、その内降りていった。
飛行機が飛び交い、その度に彼はじっと眺めていたが、海が近づいた駅で降りた先のレストランで食事を頼んだ。赤いケチャップと薄いマカロニとチーズの層。やっと食べれた、と向かいの女性と笑いあっている。
ずいぶんと和やかでいて結婚生活はどう?とお互いの近況を報告し店を出て別々の方向に歩き出した。
駅のそばからは近くに港があって、彼はへさきの先に立っていた。
イルカが追いかけっこする先に飛び魚がキラキラと跳ねている。
彼は子どもになっていて、そのまま眼鏡をかけさせたら、彼の子どもとそっくりだな、と思ってしまう。
船内に戻ると多くの男の子、女の子に混じって楽しそうにくつろいでいた。
船が港につくと、僕の隣を歩いて一緒に下船した。
『どうだい』
『どこにもいない』
『まだまだかかりそうだ』と歩き出した。
『いいところがある、一緒に行こう』とまた電車に乗り込んだ。
ガタンゴトンガタン
昔の電車の音がする。今の子たちに電車ごっこを誘っても、ガタンゴトンガタンじゃ伝わらない
白黒の景色が前にあってそのまま後ろに流れていく。濃い灰色の煙が山頂から出ている山は
何という山なんだろう。
降りてしばらくした先で、僕も砂に埋められた。
重みが気持ちいいけれど
意外と重たくて
砂は重いのだなと当たり前に驚いた
彼は案内してくれていた女性とよく話をしていた
それでも『違う』そうだった。
帰りは飛行機で、あまりお客と好んで接しないイメージのCAと呼ばれる女性と何度も笑顔で会話していたので驚いた
『昔の知り合いだった』らしい。
空港には降りず、僕たちはパラシュートで降下した。
空はどこまでも青くて、雲は白くて
雲の上で飛び跳ねて遊んでからもう一度
緑溢れる世界へ飛び降りたかと思えば、あっという間に灰色だけの世界が現れた
そもそも
彼の街には緑はない。
『ただいま』
ドアを開けるけれど、彼の家にひとの気配は無かった。
おいで、と言われて入ると
今度は彼が紅茶葉の上下運動を楽しんでいて
そのまま紅茶を淹れてくれた
『おいしい』
『どうも』
直ぐに紅茶はみえたわけだ
おいしい紅茶だった
『さて、今日はいちど戻ろう』
そう言って、靴をはいて並んで歩いて帰った
『どんな1日だったんだい』
『何でもあって何もない1日だったよ。たくさんのひととあって、だれともあえなかった』
『そうだったね。明日もがんばれそうかい』
『そうするつもりで来たからね』
『また明日もよろしく』
『もう眠るのかい』
『ここはいつでも朝で昼で夕方で夜、だよね』
『そうだね、おやすみ。良い夢を』
彼は寝てしまった。
僕はしばらくは用事が無くなる。
それでもそばから離れないでいるのは
朝がくるからだ。
僕は朝の紅茶の用意をする。
アールグレイを用意する。強い香りが鼻を優しく刺激し始める。
『おはよう』
『おはよう。紅茶はいかが?朝はアールグレイにした。』
『そんな香りに包まれているね』
ガタン、あいた
今朝も昨日の繰り返しだった。
『どのくらい?』
『紅茶を準備する間くらい』
『そんな感じなんだね』
『そんな感じなんだよ』
『いつに出る』
『そうだねお風呂に入ったら』
『僕も準備をしてくるよ』
『一緒に入る?』
『そうだね、そうしよう』
先に湯船から出て髪を流す。
彼がゆっくり髪を洗ってくれている
シャワーで丁寧に泡を流して
『先にあがるね』
『もう少し浸かって出るよ』
この後の彼のお風呂はずいぶんと長い
僕の髪が乾く頃
僕がローブを羽織り出すとあがってきて
直ぐに準備を終える
僕が外出用のローブを纏えば靴を履き、同じタイミングで家を出る。
『きょうも同じコースをいくのかな』
『そうだね、でも逆回りで行く事にするよ』
灰色の街を歩き郊外に出て
腕を広げて目をとじる
彼の背には大きな羽根が、僕の周りをには風の輪が出来上がって包み込む
ふわっと持ち上げた身体を風が背に乗せて舞い上がる
雲で飛行機を待って乗り込み
彼はCAにおはようございますと挨拶を交わしていた。
その後も、砂に埋められて、船に乗って電車を乗り継いで、歩いて彼の家に寄り
紅茶をご馳走になって帰ってきた。
『きょうは、どんな1日だったんだい』
『何でもあって何もない1日だったよ。昨日と同じさ。たくさんのひととあって、だれともあえなかった』
『そうだったね。また、明日もがんばれそうかい』
『そうするつもりで来たからね』
『また明日もよろしく』
そうやって布団に入る
『一緒に眠るかい?』
『そうだね、まだ今日はひとりで眠るよ』
『わかった。また明日』
紅茶のお湯を沸かしにいく。
『今朝は僕が淹れよう』
『ありがとう。よく眠れたのかい』
『ぐっすりだよ』
『何にする』
『きみのいえのブレンドえおおしえてよ』
『そうだね、ここには同じものがそろってる』
『ダージリン』
『そう』
『アールグレイ』
『そう、香り付け程度に』
『気分?』
『そうだね、プラス気候。ま、それも気分といえば気分だね』
『いかが』
『おいしい。あったまる感じがする』
『そう、だから今日はちょっとアールグレイ多め』
『ふ~ん。いつもひとりで』
『奥さまと、というより奥さまに。』
『喧嘩の解消法?』
『そう。少し前まではね』
『今日はひとりで先に行くよ』
『どこで待てばいい?』
『僕の家にきてくれたらいい。そのくらいで戻る予定です』
『紅茶は?』
『用意しておきます』
ふふっと優しい笑顔だ。
そんな顔が出来るようになったのだなと思う。
ドアを、開けて出ていく後ろ姿を見送り
ゆっくりと湯船に浸かる
湯船から溢れる乳房がずいぶんと大きくなり始めた。
シャワーに打たせるとお湯が弾く
ローズの香りを身に纏うように久しぶりにゆっくりとお風呂の時間を過ごした
肌にローブを羽織って、外出用のローブを身に纏う。
いま彼はどのあたりを旅しているのだろう
そう思いながら、ドアを開けて緑の中を歩いていく。
木々を抜けて小川を渡れば彼の家はある。
実際には僕の家の目と鼻の先にある彼の家。
そのことにもう気づいているのだろうか。
コンコンとノックする。
中から彼が出てきた。
シューシューとお湯が沸く音が聞こえる
『お待たせ』
『どうぞ』
テーブルに座ると紅茶が出てきた
目の前のお皿にはカットりんごの縁に砂糖飴がついたデザートが用意されていた
『りんご飴をカットしたものです。どうぞ。』
見た目も可愛らしいりんごを齧る。
りんごの甘さと綿菓子の甘さのようで美味しかった。
『りんご飴って苦手だったけど、これなら食べやすい』
『そうなんですよね。先にりんごがきて、後で飴が来るから、普通に齧るより美味しく感じて』
『この準備をしていたの』
『この準備をしていました』
『ありがとうございます』
『こちらこそ』
『この後、どうする予定ですか?』
『そうですね。』
珍しく答えに時間がかかるようだった。
『一緒に来てください』
『わかりました』
家を出ると駐車場に向かって車に乗り込んだ
キュルキュルっとエンジンが始動する。
車はゆっくりと駐車場を出て街の小路から大通りを経て高速道路に入った。
目の前に海が広がる。
西陽が雲を突き抜けて光の梯子を作り出していた。
高速道路を降りてからは一転山へ向かう。
山の中腹のニュータウンを抜けた先の駐車場に到着した。
『歩きます』
そのまま、彼が手をつないできたので、そのままつないで、山に向かって用意された通路を一緒に歩いた。
急な階段や段差では『そこに気をつけてください』と声をかけてくる
『うちのテーブルと椅子には毎回ぶつかるのに年ね』
『山道は得意なんです』
不意に視界が開ける
周囲はすでに濃い灰色に包まれていたのに
目の前は光の海だった
『来てみたかったんですよね』
『僕でいいんですか』
『いろんなひとと、こちらに来て出逢ったんですけどね』
『なんか違うんです』
『あなたと一緒に行きたかったのかと言われると、それもよくわからないんですよね』
『今日の予定を聞かれた時になんとなく』
『そうですか。でもありがとうございます』
目の高さより低い位置を飛行機がラインを残して消えていく。
ずいぶんと遠くに大きな橋も見える
『ここから見えるという事は、遥かに遠いあの橋からも僕たちは見られてるということですよね』
『そういう事になるはずだね』
気づけば、後ろから抱きしめられるような格好になっているけれど、黙って過ごしていた。
十分に時間を過ごした後、山を下る階段を降りていく。
ずっと手をつないだままだった。
『そろそろ帰ります』
『あなたの世界へ?』
『いえ、まだあなたのいる家へ』
『明日も行かないと行けない場所がある気がするのです』
車が山を降りて高速道路の入り口に差し掛かった時に彼は、そういった。
『朝はわたしが、用意しますね』
『お願いします』
そう言って二人で同じベッドに入った。
朝を迎える
紅茶のいい香りが部屋を満たしている
起き上がると、彼がぶ厚めのパンを焼いて用意してくれていた
『あなたが、ここのきた時に言った、探しているひとは、わたしではないですよ』
『それはわかっていますよ』
『ただ』
『ただ?』
『ただ、あなたがこうしてほしそうな顔をしているので』
『そうなのですね。それでは甘えさせて頂きます』
『ゆで卵は半熟ででてきたりしますか?』
彼が後ろを向くと、片手鍋に玉子が2つグツグツとお湯にかけられていた。
『本当にわたしの顔には色々な事が書き込まれているようですね』
『ほんとうに。色々浮かんで来ていますよ』
『お風呂も用意してますから』
そう言って、バスタオルを入り口の横に置いている。
二人でゆっくり朝食をとる。
朝の陽が差し込んできている。
最近灰色の朝陽を見ることが無くなったと思う
ゆで卵は良い具合に半熟で、除きこんだ彼の目が喜んでいることがわかる
『行きましょうか』
『今日も車です』
外出用のローブもすでに持ってくれている。
一緒にドアを出ると背中からかけてくれた。
助手席に座り、シートベルトを締めた事を確認すると、エンジンをかけて、ゆっくりと駐車場をでた。
『昨日見た橋に会いに行こうかと思います。遠くから見た事や、橋を渡った事はあるのですが、近く、とか下からとかを見た事がないのです。』
前を向いたまま説明があり、ハンドルを切って太陽を背にしながら走っている。
『わかりました』
答えながら、眩しい朝の光だなと想う。
彼に、僕はどう映っているのだろうか。
ここには色々なひとが、やってくる。
彼は最初から僕を見て、その誰かと勘違いをした。
すぐに訂正していたし、その後一緒に行動しているが、僕に誰かを投影している風ではない事がわかる。
思い出をなぞっているのか、
思いを果たそうとしているのか。
昨日夜景の中、遠くに小さく見えた橋橋、近づくにつれて大きさを増し、視界に収まりきらなくなった。
ただ、残念な事に、直ぐそばまでは近づけるものの、真下からは見る事は出来なかった。
駐車場に車を停めて、海辺の道を歩きブイだとか船着場ではないものの、そういう雰囲気を作り出しているテラスを並んで歩く。
いつからか、手をとられていて、そのままつないで歩いた。
明るい光でキラキラ光る水面を眺めながら歩く様子は、どこか照れくさそうでいて、どことなく緊張している様子も感じられた。
それでも力強く握られた手は温かくて穏やかな気持ちが流れてくる。
彼ももう少ししたら帰るのだろう。
『気づかなかった事がたくさんあって、その理由は、ここに来た時にすぐにわかった。』
『きみがいた。』
『勘違いしていきなり蹴り上げられたけどね』
顎をさすりながら笑っていう。
『やっぱり、なんで?とは聞かないんだね。みんながそう言う様に、お見通しなんだろうね。』
『そう、きみがいて、世界はモノクロームに包まれた世界だった。』
『僕はね、グレーという感覚が好きなんだ。3色以上を混ぜ合わせると、すべて灰色になると知った時、妙に納得した。日本語は灰色。すべて燃やしてしまえば灰になる。だけどあまり灰という色は儚さだったり、終わりのイメージ。曖昧のイメージを持つグレーとは違うよね。』
『何が言いたいの?っていう顔もしないんだ。それこそお見通しってことなのかな。』
『僕は何か説明を始めると、途中で答えも問さえもわからなくなることがある。これで結構困ってるんだけどね。』
『まあ、いいや。グレーの話。僕は写真をやっていたからか、グレーについては少し、思い入れがある。』
『トーン。グラデーションみたいなものかな、イメージすると。グレートーン。なめらかに白から黒に変わるまでの色の連続。そしてグレーはすべてを含む色。何色にもなる。』
『グレーをしてナチュラルと表したりする。そう、グレーはナチュラルなんだと思う』
『そう思って生きてきた僕の前にきみが現れた。』
『僕がそれまでの人生で、まったく関わらなかった様なひとだった。』
『何が?って。わかってるよね本当は。』
『きみの思考には白と黒しかなかった。白と黒の間のグレーがない。曖昧を許せないひとだった。』
『びっくりしたし、戸惑いの連続だった。だって世の中に純粋な白と黒なんて存在しないと思って生きてきていたから。』
『そうだよ。曖昧っていうのは処世術だ。白黒しっかり決着つけるということは争いも呼びやすいし、責任も伴ったりする』
『どうしても、その白黒思想を受け容れられんなくて、ここまで来た』
『きみの言動に、どうして僕を信頼してくれない、と何度も思ったよ』
『ひとのこころには、それぞれ踏み込ませられない領域を持っていると思う。それぞれ大切な思い出はいつだって、そのひとのものだ』
『でも、きみはそれを許せない、と言った。』
『大切なひとの大切な人は、僕にとっても大切なひと、という理論は成立しないというから、それも納得出来なかった。』
『でもね、ひとを愛するって言うことは、そういう事かも知れない、ってきみを見ていると想い始めた。』
『グレーでは何も解決しない。いつだって何色にも変わってしまう。それを優しさだと捉えてしまうことは、愛すると言うのであれば罪だ』
『世界には色がある。ここに来た時に、すぐにきみを見つける事が出来た。』
『きみにだけ色があった。』
『ぼくがきみを求めていたということだと、気づいたよ』
『光があって、光を失った時、白と黒はある。』
『きみは光そのものなんだなって』
『相変わらず、一方的だねえ』
僕は、そう言ってつないだ手を緩めて、ひとりで歩き出す。
何故、という顔で困惑する瞳が揺れている。
戻りの車は渋滞にはまって動かなかった。
無言でハンドルを握りテールランプを眺めている。
『どうして』
そう口の中で繰り返しているのだろう。
明石海峡大橋がライトアップされて明滅している。
ずいぶんと時間をかけて家に戻ると、彼は黙って浴室にいき、湯船につかってしばらくでてこなかった。
シャワーを浴びに行くと、背中を流して、今日も丁寧に髪を洗ってくれた。
『そういうとこだよ』
そう言って、先にあがる。
髪を乾かしていると、紅茶が入ったと声がかかる。
湯気のたったティーカップに香りが漂う空間。
『そろそろ帰ろうと思う』
『そうだね』
ゆっくりと彼を抱きしめてキスをする
少し驚いた表情に『そういうとこだよ』と呟く
『好きだよ』
彼の耳には届いただろうか。
風が吹き抜けてローブをはためかす
世界は安定を取り戻してモノクロームの風景が続いていく
もう一度、服を脱いで
水に沈む
すーっとどこまでも堕ちていく感覚の後、ゆっくりと底に横たわる
ぷかぷかと泡沫がのぼっていく
ありとあらゆるすべてが混ざり
僕は、僕に戻っていく
浮び上がれば、きっともう新しくこちらにやってくるひとが、いるのだろう
それまで、しばし
『良い旅を』
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