高位魔力保持者の軍人童貞ご主人様と奴隷のひよりちゃん

小石

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クロウに買われてから正直良い暮らしをしている。

帰りたいとは今も思っているけれど、この生活が続くのなら帰らなくても良いとも思っている。

母さんに一言別れを告げたかった気もするけど、私がいなくなってもあまり気にしていないかもしれないとも思っている。
先にいなくなったのは母さんだし……。思い出したらまたどす黒い気持ちになってきた。

母は、私の奨学金を使い込んで飛んだのだ。

後期の学費の入金締め切りが迫っていた。
母と離婚後ほとんど連絡を取っていなかった父にメッセージを送って頼み込んだが『何十万もすぐに用意できない。大学は諦めて働いたら?ひよりと同じくらいの歳で働いてる子はたくさんいるよ』と返ってきた。

父さんと同じくらいの歳で娘の学費なんかぽんと出せる人たくさんいるよ。とよっぽど返そうかと思ったが、気分を害して家に怒鳴り込んで来られたら堪らないので耐えた。

働いたってい良い。だけど、人の生活を理不尽に奪って知らんぷりなんてあんまりだ。

ひよりは二回人生を奪われた。

だけど二回目はアフターケアが万全だ。

クロウには悪いけれど、自分と同じような魔力が皆無の人間が現れませんようにとひよりは心から願った。


***


屋敷の中に使用人は出入りしないが、馬の世話や庭の管理は通いの使用人が雇われている。

メイドを雇おうとは思わないのだろうか?

掃除や洗濯は魔術具が行うと言っても、洗濯物を洗い場に持っていくのだったり、洗いあがって乾燥した衣類をクローゼットにしまったり、ベッドを整えたり。細々とやらなければならないことはたくさんある。
そういった労働は自分がやると申し出ているのに、大抵クロウが先に済ませてしまっている。

「魔力を持っている人間すべてと相性が悪い」「魔力を抑える魔術具を身につけていないと互いに息苦しさを覚える」と言っていたので、クロウの魔力が問題なのだろう。

そして、魔力を抑える魔術具というのはクロウにとって煩わしい物なのだ。

いつも玄関でイヤーカフやピアスや指輪をいくつも付け外ししているので、姿見越しに観察していたら「別に気取ってつけいてるわけじゃない」と苦笑された。

「似合ってますよ?」
「……こういう、身を飾るタイプの男が好みか?」
「いえいえ、クロウ様だから似合うんですよ」

なんだか会話がかみ合っていないかもと思い話を戻す。

「ええと、好きでつけているわけではないと?」

クロウが姿見越しに軽く頷く。

「すべて魔力を制御する魔術具だ。つけていると重い荷で全身を圧迫されているような感覚があるので極力出かける直前につけるようにしている。まあ、もう慣れたが」

「大変なんですね」

まったくぴんと来ないまま適当に返事をすると、その軽さが良かったのか「そう。私は大変なんだ」と大仰にため息をついて見せた。

つまり、その魔術具をできるだけ身につけていたくないから、屋敷の中には人を極力置かないようにしている。ということだろう。

料理人のカミラがクロウのいない時間帯にしか滞在しないのも魔力の相性とやらを考慮してのことだ。

それじゃあセックスはおろか、抑圧された状態でなければ誰かとソファで一緒に寛いだり寝る前におしゃべりしたりもできないのか。……クロウが一人を選んだということは、あの魔術具はそれほど軽々しいものではないのかもしれない。

「クロウ様、今度カミラがアイスを作ってくれるんですって。味のリクエストはありますか?」
「アイス?……シンプルなのを頼む」
「ストロベリーチョコチップヨーグルト味にします」
「おい」
「お風呂上がりに一緒に食べましょうね」

そう提案するとクロウは「構わないが」と言いながら不可解そうな顔をしていた。
アイスを食べているクロウを想像すると楽しい気分になれる。いつかソファでお昼寝しているクロウを目撃したいものだ。
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