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しおりを挟む翌日、夕食後に談話室で雑誌を眺めていたらクロウの特集があった。
「わ、全部無表情」
まったく同じ表情で、髪を結っているか解いているか、外套を着ているか脱いでいるか、正面、横顔。などでかろうじてバリエーションを設けている。
「えーと、王国軍の炎、氷、顔の……?」
まだ読める単語が多くない。見出しでさえこれなので、もっと細かい文章をまともに読むのはまだ難しそうだ。
「ひより、何をしている?」
「クロウ様、お帰りなさいませ」
「ただいま」
クロウはソファの後ろから腕を回して私の肩を一瞬ぎゅっと抱いた。
本当は人に触れるのが好きな人なのだろう。いやらしい雰囲気がないときもわざと私に寄りかかって座ったり、髪を触ったりしてくる。
「クロウ様が載ってますよ。なんて書いてあるんですか?」
「ああ、以前広報が撮っていたやつだな。……なんだこれは?」
クロウが雑誌を取り上げて眉を顰めた。そしてぱたりと雑誌を閉じてしまった。
「読まなくて良い」
「そう言われるとますます読みたいです! 教えてくれないなら明日ミリネア先生に聞きます」
「これは破棄する」
「えー?!だめ、だめです返して。切り抜いて飾るんですから」
「は? あ、こら」
隙をついて雑誌を取り返し、腕を交差させて両手でガードする。
「取らないから答えなさい。飾るとは?」
雑誌の切り抜きを飾るのは一般的ではないだろうか?
「もしかして、この雑誌ってすごく高価でページを切り取るのは非常識ですか?」
「いや、高価なものではないが」
「そうですか?じゃあ、もう一冊買ってください。保存用に」
クロウは呆れて首を振ったが私は本気だ。
「私の写真を飾る意味があるのか?」
「意味? 別に暇な時に眺めてにやにやする、いえ、ほら、クロウ様留守の時が多いから写真とかあると良いじゃないですか」
そこまでおかしいことを言っているだろうか? 奴隷が主人の写真を飾るのはまあ、変かもしれないが、クロウの屋敷にクロウの写真を飾ることはさほど変なことはないだろう。
「だめなら諦めますけど……」
クロウは腕を組んで悩んだ末「構わんが」と許可を出した。
「ただし、ひよりの写真も撮らせなさい」
「……えっちな写真ですか?」
半分本気、半分冗談でそう尋ねるとクロウは一瞬ぽかんと目
を見開いた後「よくそのような淫らなことが思いつくな」と私を睨んだ。
「普通の写真だ。暇な時に眺めてにやにやする用に」
結局文面は何が書いてあるのか教えてくれなかったので家庭教師のミリネア先生に聞いたところ『紅蓮の魔術を操る王国軍大佐、その素顔に迫る』『熱い瞳と絶対零度の横顔、氷を解かす乙女はいるのか』などと書かれていたらしい。
「本人はご存じか知りませんがこの手の雑誌ではよくお見掛けしますよ」
「そうなんですね。大人気なんだ」
「これを教材にすればひよりさんの意欲も保てそうでわたくしも助かりますわ」
記事によるとクロウは二年前の隣国との戦争でほとんど一人で敵をせん滅したとか、地位と名誉と美貌を持ちながら未婚を貫くのは本当に魔力が理由なのか、他に何か隠された事情があるのではないかとか想像を煽るような内容だった。
その日の夜、授業で読み解いた紙と雑誌を持ってソファで本を読んでいたクロウに詰め寄った。
「何か隠された事情があるんですか?」
クロウの目の前で雑誌を広げる。
「無い。だから読まなくて良いと言ったんだ」
「男性が好きなのでは?と書いてありますよ」
「私の性的嗜好はお前がよく知っているだろう」
「幼いころに結婚を誓った相手が隣国に攫われて殺されてしまったというのは?」
「知らん」
「実は無類の女性好きで一人に決めきれないから結婚しないのではとも書かれています」
「ひよりしか好きじゃない」
「……ん?」
「ほとんど嘘しか書かれていないから鵜呑みにするな。まったく。もっと役に立つ情報は載っていないのか?」
さらっと好きと言われたが、クロウは特別気にしていないようだ。
……私もクロウ様好きだし。
「クロウ様」
雑誌をぱらぱら捲っているクロウに自分から抱き着く。
あいにく現代日本で育った私には身分差というものが染みついていない。
クロウも怒らないので好きなように振る舞っている。
「前に雑誌で読んだのですが、男性は口で愛撫されるのが好きなんですって」
クロウが手を止めて抱き着く私を見下ろす。
喉がごくりと唾を飲んで動いた。
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