沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅰ 未完のアスリート

15 結婚しない?

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「私ね、小さい頃ママが家を出てしまって、すごくお祖母ちゃん子でわがままで一杯に育ったみたい。今もだとパパは言うけどね。でも友達に意地悪ばっかりしてたんは、私に本当の友達がいなかったからかな。学年初めは、みんな私の周りに来るけど、3学期になったら、だれも寄ってこない」

その不安感や母のいない負い目で、仲間外れなどを率先してやったらしい。祖母にうそを言って、自分を注意した担任を責めてもらったこと。妹はいくらいじめても素直で優しいので、それも自分にはプレッシャーだとか、とどまることなく話し続けた。

はじめ相槌を打っていた野路は、途中から持ってきた漫画を読み始めた。
淳一は、感動しながら話を聞いていた。みんなそれぞれ悩みを抱えているんだな。
彼女は一人で半時間も話し続けた末、突然トイレに行くと言って部屋を出ていった。

「女子ってややこしいんだな。俺なんか幼稚で世間知らずだから、あいつらのことよく分からん」
「あれだけカミングアウトする女も珍しいよ。要するにちょっかいをかけてきたんは、お前に惚れた裏返しの行動だった訳や」

彼の携帯がにぎやかな音を出した。短く返事をした後、淳一を見てにやりとした。
「じゃあ俺帰るな」
「待ってくれよ。俺、まさか角谷と二人だけなんて嫌だよ」
「いいじゃん。あいつに迷惑かけられたんやから、あいつを好きなようにしたらええんや。俺だれにも言わへんし」

片目をつむって、さっさと出て行った。何でこんなことになったんだ。
ともかく早く帰らせよう。もう7時前だ。いらいらしながら待った。
何でこんなに時間がかかる。何でいつも俺を困らせることばかりやるんだ。

廊下に出てトイレを見ると電気はついていない。
そこからすぐ階段で、2階には義兄の部屋がある。まさかと思いながら階段を上がり、洋二兄の部屋をのぞくと、彼女は机にうつ伏せていた。おずおず肩に手を置くとうるんだ目で淳一を見上げた。

「ごめんね。あんなに自分のことしゃべったの初めて。でもすっきりした。倉本君。私のこと大嫌いよね。謝っても許してくれへんよね」
勘弁してくれよ。こんな時、どうしたらいいんだろう。

「ほんとにごめん。私、何しにここに来たんやろ」
そう言うなり、淳一に体をぶつけてきた。思わず肩を両手で受け止めた。
そのまま体を寄せて来るので抱きしめてしまった。

彼女の頭があごに当たる。しばらくそのままにしていると麗奈の顔がだんだん上がってきた。
目を閉じたまま唇を向けている。キスされるのを待っているのか。
胸がどきどきして、顔がほてってきた。
でもなあ。彼女の肩を押して距離をとった。何か言わなくては。

「俺はこういうこと、本当に好きな子としたいと思っていた。今君のことが好きかどうか分からないし。もっとお互いがよく知り合ってから・・・・」
しどろもどろで言い訳をしたが、麗奈は、こっくりうなずいた。

「帰る。送ってくれる?」
野路がいないことについて何も聞かれなかった。玄関を出るとに淳一の左腕に手を回してきた。
「ねえ倉本君。いつか私と結婚しない?」
思わず足が止まってしまった。

「うちに倉本君が養子で来てくれたら、パパは大喜びすると思うな。私が嫌だったら妹でもいいのよ。今中3。私と違って性格いいし。けど顔は少し地味だけどね」
そう言って笑い出した。ほんとにもう降参だ。

いつも行くスーパーの前まで来たとき、向うから買い物袋を下げた女性が近づいてきた。
目が合った瞬間、お寺で出会った少女だと気付いた。
淳一の腕にぶら下がるようにくっついている麗奈を見ても、表情を変えることなく通り過ぎていった。変なとこをしっかり見られた。
名前も知らないのだから、気にしても仕方ないか。

「知り合い?」と聞かれたので首を振った。麗奈は組んでいた腕を抜いた。
「もう遅いからパパに迎えに来てもらう。」
携帯で話し始めたので、話し終えるのを待たず、手を振って別れた。

その夜初めてラジオの英語ニュースを聞いたが、集中できずほとんど勉強にならなかった。
明日から心機一転しなければ。

萩田の親は来なかった。結構だ。もうこちらも忘れたい。
 
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