沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅰ 未完のアスリート

31 見えない祝福者

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2月末、伊吹東高校の卒業式があった。

式が始まると最初に卒業証書の授与がある。
担任から名前を呼ばれたら、壇上で校長から一人ずつ証書を受け取る。
背の順なので、淳一はクラスの一番最後に並んだ。
頭を下げ証書を受け取った後、向きを変え、会場を見回した。

近親者はだれも来ていない。だれにも知らせてないから当然だ
中学の卒業式も一人だった。高校の入学式も卒業式も一人か。

その時、知る者がいないはずの会場から、祝福の声が聞こえた・・ような気がした。
次郎が、吾一が、ハリーポッターが、赤毛のアンが、オリバーツィストが、モモが、
バスティアンが、アトレーユが、ホビットのフロドも。スカーフをしたソーニャが。
そしてジャンバルジャンやコゼットも。母の声も聞こえた。みんなが声を上げた。

『おめでとう。よくやったよ』
『つらいこともよく我慢したな』
『偉かったぞ淳一』
『未来を信じるのよ』
階段を降り、自分の席に戻る途中から、涙が出そうになり、顔をゆがめた。唇をかんだ。
それでも涙が押さえきれなかった。

淳一の顔を同級生が不思議そうに見た。確かに泣くには早すぎる時間だ。
座席で卒業証書の筒を握りしめ目をつぶった。
俺を祝福してくれるのは、ここでは見えない亡くなった母と物語の主人公か。

教室では、花束をもらった吉見先生に、全員が「はるか、はるか」、のコール。
先生は感極まって泣き出した。吉見先生を好きなのは俺だけじゃなかったんだな。

教室を出た時、野路の母親が近づいて来た。
「彰人じゃなくて、あなたを見ていたら涙が出たわ。一人で本当によく頑張ったわね」
その言葉でまた泣きそうになった。

運動場では、浅岡先生と木ノ嶋さんが淳一を待っていた。この二人が親子だったのか。
木ノ嶋さんの大きな目が潤んでいた。どうして俺なんかに涙を?優しい子なんだな。
花束をもらって握手すると、本当に涙をぽろぽろこぼしたので戸惑ってしまった。
浅岡先生にも礼を言って頭を下げた。また会えることがあるだろうか。
俺は一人ではなかった。見守ってくれる人は母さんだけではなかった。

卒業生に取り囲まれている吉見先生に、少し離れたところから深く頭を下げた。
淳一に気付いた先生は、何か言いたげにこちらを見つめた。
けれど今日はもういい。

いつかまた会いたい。会ってお礼を言いたい。成長した自分を見てもらいたい。
先生のことが大好きだったということも伝えたい。

踵を返して一人で校門に向かう。思い出がいっぱいの3年間だった。
でももう振り返らない。俺には次のステージが待っている。


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