沈黙のメダリスト

友清 井吹

文字の大きさ
42 / 139
Ⅱ 君とオリンピックに行きたい

12 会いたい

しおりを挟む
由佳とはデートを一度しただけで切れてしまった。
失恋したとは思うが、もやもやしたままだ。

あれ以来手話もさっぱりやっていない。
たまたま図書館でろう教育の本を見つけて読みふけった。
ろうの人がやる読唇とか読話と言うのは、相手の唇の動きを読み取ることらしい。
それで由佳は俺の口元を見ていたのか。口話はろう者が、声を出して意思疎通を図ること。
自分の声が聞こえないのに話せるのだろうか。
由佳の口話は聞いたことがない。どんな音声になるか聞いてみたい気もする。

彼女に猛烈に会いたくなった。別に二人の間にトラブルがあったわけではないと思う。
電話で野路に打ち明けた。
「絶対彼女は迷っているって。あきらめるな。お前らしくないぞ。本当にお前が嫌ならメルアド変えているよ。次のアタックをさっさとやれ。そして結果を必ず報告しろ」

でも再チャレンジしてだめだったらダメージが大きいよ。
とにかくスーパーなんかで彼女が来るのを待つより、きちんと会った方がいい気がする。
心を決めて木曜日の夕方、彼女の家に行った。

病院の玄関に入ろうとしたが、すでに医院は暗くなっている。今日はもう終わったのか。
迷いながら呼び出しボタンを押した。『木曜日の午後休診』という表示がぶら下がっていた。
何をやってもだめな時はだめだな。
帰りかけると入口の明かりがつき、三田島医師が顔を出した。
逃げるわけにはいかず、「今日が休みだと知らなくて・・」、とぼそっと言った。

「ああ君か。入りなさい」
医師は、私服でいつもの白衣と違う。
「どうした。また足が痛くなったのか?」

もうはっきり言おう。すがる思いで打ち明けた。
「由佳さんと前に会ってから連絡ができなくて、それでまた彼女に会えないかなと思って・・」
情けない説明だ。肩を落としている淳一に、三田島先生は待合室に入れてくれた。

「倉本君だったな。由佳はなあ、今まで男関係というか、あの子に手を出す奴がいて、それでナーヴァスになっていたんだよ」
男関係?手を出された?まだ高校生だろ? 

「それで男性に対してすごく恐怖心を持ってしまったみたいなんだ。それは親父の私にすら感じるみたいでな。それを君は気付かなかったか」
だから手を握られることを嫌がっていたのか。

「あなた、もうやめて」
突然後ろから声がした。彼女の母親だ。受付で見る優しい顔ではない。
「もう帰ってください。由佳のことはもう忘れて。何であの子を追いかけるの?」

最後は詰問調だった。思わず言い返した。
「何で彼女に会ったらだめなんですか?」
父親が、苦笑しながら割って入った。
「まあ後は由佳次第だな。由佳の心がほぐれるのが果たしてひと月後か、半年後か、しばらく間をあけたほうがよさそうだ。それまで君は待てるか?」

はあ、と間の抜けた返事をした。
半年後?もう会うなっていう事か。
医院を出ると、すぐ鍵をかける音がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...