沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい

12 会いたい

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由佳とはデートを一度しただけで切れてしまった。
失恋したとは思うが、もやもやしたままだ。

あれ以来手話もさっぱりやっていない。
たまたま図書館でろう教育の本を見つけて読みふけった。
ろうの人がやる読唇とか読話と言うのは、相手の唇の動きを読み取ることらしい。
それで由佳は俺の口元を見ていたのか。口話はろう者が、声を出して意思疎通を図ること。
自分の声が聞こえないのに話せるのだろうか。
由佳の口話は聞いたことがない。どんな音声になるか聞いてみたい気もする。

彼女に猛烈に会いたくなった。別に二人の間にトラブルがあったわけではないと思う。
電話で野路に打ち明けた。
「絶対彼女は迷っているって。あきらめるな。お前らしくないぞ。本当にお前が嫌ならメルアド変えているよ。次のアタックをさっさとやれ。そして結果を必ず報告しろ」

でも再チャレンジしてだめだったらダメージが大きいよ。
とにかくスーパーなんかで彼女が来るのを待つより、きちんと会った方がいい気がする。
心を決めて木曜日の夕方、彼女の家に行った。

病院の玄関に入ろうとしたが、すでに医院は暗くなっている。今日はもう終わったのか。
迷いながら呼び出しボタンを押した。『木曜日の午後休診』という表示がぶら下がっていた。
何をやってもだめな時はだめだな。
帰りかけると入口の明かりがつき、三田島医師が顔を出した。
逃げるわけにはいかず、「今日が休みだと知らなくて・・」、とぼそっと言った。

「ああ君か。入りなさい」
医師は、私服でいつもの白衣と違う。
「どうした。また足が痛くなったのか?」

もうはっきり言おう。すがる思いで打ち明けた。
「由佳さんと前に会ってから連絡ができなくて、それでまた彼女に会えないかなと思って・・」
情けない説明だ。肩を落としている淳一に、三田島先生は待合室に入れてくれた。

「倉本君だったな。由佳はなあ、今まで男関係というか、あの子に手を出す奴がいて、それでナーヴァスになっていたんだよ」
男関係?手を出された?まだ高校生だろ? 

「それで男性に対してすごく恐怖心を持ってしまったみたいなんだ。それは親父の私にすら感じるみたいでな。それを君は気付かなかったか」
だから手を握られることを嫌がっていたのか。

「あなた、もうやめて」
突然後ろから声がした。彼女の母親だ。受付で見る優しい顔ではない。
「もう帰ってください。由佳のことはもう忘れて。何であの子を追いかけるの?」

最後は詰問調だった。思わず言い返した。
「何で彼女に会ったらだめなんですか?」
父親が、苦笑しながら割って入った。
「まあ後は由佳次第だな。由佳の心がほぐれるのが果たしてひと月後か、半年後か、しばらく間をあけたほうがよさそうだ。それまで君は待てるか?」

はあ、と間の抜けた返事をした。
半年後?もう会うなっていう事か。
医院を出ると、すぐ鍵をかける音がした。

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