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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
13 暴行未遂
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医院では、母親の美智子が父親の浩輔にくってかかっていた。
「何も由佳の恥になるようなことを他人に言わなくてもいいでしょう?本当に由佳は何もなかったんだから。変な邪推をしてあの子を傷つけるようなこと言わないで」
「でも彼が真剣に付き合いたかったら、そんなこと気にせんだろう」
「由佳と一回デートしただけでしょう。うちは本山さんと十年以上の付き合いよ。最近は、宗太郎君と由佳が一緒になるかもしれないと思っていたくらいなのに」
「由佳にあんなひどいことをした奴に、まだ君付けをするのか。わしは本山のおばはんと親戚になるのは、前から嫌だと言ってただろうが」
聾学校に入学して以来、由佳は本山宗太郎と共に成長してきた。
ろう者と言っても、聞こえない者ばかりではなく、心身に別の障害がある重複障害者も多い。ろうの由佳は、他の障害を持っていないか、軽度の子供5人と幼い時から何をするにも一緒に過ごしてきた。
付き合いが長いだけに、親同士の交流も深まり、特に町工場を経営する本山家、サラリーマンの梶井家とは親密に付き合ってきた。
学生時代に柔道をしていた浩輔は、本山宗太郎を道場に誘い、基礎から仕込んだ。宗太郎は障害者の大会だけでなく健常者の試合でも活躍するようになった。
ところが最近は技が荒くなり、いくら助言しても直そうとしない。仕方なく彼と関わることをやめてしまっていた。
それに浩輔は宗太郎の母親が苦手だった。母親は、明らかに医師の娘である由佳に馴れ馴れしく接し、宗太郎の相手として目をつけている気配が感じられた。由佳が宗太郎と付き合っていると妻から聞かされ、本人が納得しているなら仕方ないと、不本意ではあるが半ばあきらめていた。
昨年の秋、休日にゴルフから帰宅した浩輔は、由佳と玄関で鉢合わせをした。
浩輔は娘の姿を見て愕然として大声を出した。
「なんだそのかっこうは!」
白いブラウスの上のボタンが何個もはずれ、唇の端が切れて血がにじんでいる。そういえば灰色のスカートも乱れているようだ。由佳は父親に目もくれず、逃げるように階段を駆けあがった。
「お前、だれに何をされたんだ」
大声を聞いて母親の美智子が出てきた。
「来ないで。私が聞くから」
由佳は宗太郎に誘われて映画に行ったらしい。
その後、母親が待っていると言われて彼の家に行ったが、家には誰もいなかった。不安を感じて帰ろうとすると抱きしめられ、必死に抵抗したが無理やりキスをされたり体を触られたりした。力が強いからこわかった。すきをみて荷物を置いたまま逃げた。これがあらましだった。
すぐに宗太郎の家に行った。出てきた母親に宗太郎に会いたいと言うと、顔をひきつらせ引っ込んだ。ずいぶん待たされてから彼が出て来た。ふてくされたような顔をして由佳が置いていったバックを渡された。浩輔は手話でゆっくり伝えた。
「これで終わりだ。二度と由佳に近づくな」
何年も柔道の指導をしてやったのに、恩を仇で返されたと思うと何とも悔しかった。
彼は返事もせず。浩輔に背を向け部屋に引っ込んでしまった。母親がおどおどして出てきた。
「あの子、何かお嬢さんに失礼なことしましたか?若いから無茶するかもしれないけど、若い者同士で話し合ったらなんとかなりませんか」
何をしたか知っている様子だ。
「何をしたか、あいつに教えてもらってください。それから二度とうちの娘に近づかないように言っといてください」
後で、あの程度では紳士的過ぎたと後悔した。裁判沙汰にする位は言うべきだった。
聾学校にも知らせ、二人が同じ教室で出会うことのないようにしてもらった。
本山宗太郎は、同級生に対する傷害と暴行未遂ということで無期停学処分を受けた。
残る心配は、本当に由佳は顔を殴られただけなのか。彼女を問い詰めたくはないし、妻は何もなかったというばかりだ。
「何も由佳の恥になるようなことを他人に言わなくてもいいでしょう?本当に由佳は何もなかったんだから。変な邪推をしてあの子を傷つけるようなこと言わないで」
「でも彼が真剣に付き合いたかったら、そんなこと気にせんだろう」
「由佳と一回デートしただけでしょう。うちは本山さんと十年以上の付き合いよ。最近は、宗太郎君と由佳が一緒になるかもしれないと思っていたくらいなのに」
「由佳にあんなひどいことをした奴に、まだ君付けをするのか。わしは本山のおばはんと親戚になるのは、前から嫌だと言ってただろうが」
聾学校に入学して以来、由佳は本山宗太郎と共に成長してきた。
ろう者と言っても、聞こえない者ばかりではなく、心身に別の障害がある重複障害者も多い。ろうの由佳は、他の障害を持っていないか、軽度の子供5人と幼い時から何をするにも一緒に過ごしてきた。
付き合いが長いだけに、親同士の交流も深まり、特に町工場を経営する本山家、サラリーマンの梶井家とは親密に付き合ってきた。
学生時代に柔道をしていた浩輔は、本山宗太郎を道場に誘い、基礎から仕込んだ。宗太郎は障害者の大会だけでなく健常者の試合でも活躍するようになった。
ところが最近は技が荒くなり、いくら助言しても直そうとしない。仕方なく彼と関わることをやめてしまっていた。
それに浩輔は宗太郎の母親が苦手だった。母親は、明らかに医師の娘である由佳に馴れ馴れしく接し、宗太郎の相手として目をつけている気配が感じられた。由佳が宗太郎と付き合っていると妻から聞かされ、本人が納得しているなら仕方ないと、不本意ではあるが半ばあきらめていた。
昨年の秋、休日にゴルフから帰宅した浩輔は、由佳と玄関で鉢合わせをした。
浩輔は娘の姿を見て愕然として大声を出した。
「なんだそのかっこうは!」
白いブラウスの上のボタンが何個もはずれ、唇の端が切れて血がにじんでいる。そういえば灰色のスカートも乱れているようだ。由佳は父親に目もくれず、逃げるように階段を駆けあがった。
「お前、だれに何をされたんだ」
大声を聞いて母親の美智子が出てきた。
「来ないで。私が聞くから」
由佳は宗太郎に誘われて映画に行ったらしい。
その後、母親が待っていると言われて彼の家に行ったが、家には誰もいなかった。不安を感じて帰ろうとすると抱きしめられ、必死に抵抗したが無理やりキスをされたり体を触られたりした。力が強いからこわかった。すきをみて荷物を置いたまま逃げた。これがあらましだった。
すぐに宗太郎の家に行った。出てきた母親に宗太郎に会いたいと言うと、顔をひきつらせ引っ込んだ。ずいぶん待たされてから彼が出て来た。ふてくされたような顔をして由佳が置いていったバックを渡された。浩輔は手話でゆっくり伝えた。
「これで終わりだ。二度と由佳に近づくな」
何年も柔道の指導をしてやったのに、恩を仇で返されたと思うと何とも悔しかった。
彼は返事もせず。浩輔に背を向け部屋に引っ込んでしまった。母親がおどおどして出てきた。
「あの子、何かお嬢さんに失礼なことしましたか?若いから無茶するかもしれないけど、若い者同士で話し合ったらなんとかなりませんか」
何をしたか知っている様子だ。
「何をしたか、あいつに教えてもらってください。それから二度とうちの娘に近づかないように言っといてください」
後で、あの程度では紳士的過ぎたと後悔した。裁判沙汰にする位は言うべきだった。
聾学校にも知らせ、二人が同じ教室で出会うことのないようにしてもらった。
本山宗太郎は、同級生に対する傷害と暴行未遂ということで無期停学処分を受けた。
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