43 / 139
Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
13 暴行未遂
しおりを挟む
医院では、母親の美智子が父親の浩輔にくってかかっていた。
「何も由佳の恥になるようなことを他人に言わなくてもいいでしょう?本当に由佳は何もなかったんだから。変な邪推をしてあの子を傷つけるようなこと言わないで」
「でも彼が真剣に付き合いたかったら、そんなこと気にせんだろう」
「由佳と一回デートしただけでしょう。うちは本山さんと十年以上の付き合いよ。最近は、宗太郎君と由佳が一緒になるかもしれないと思っていたくらいなのに」
「由佳にあんなひどいことをした奴に、まだ君付けをするのか。わしは本山のおばはんと親戚になるのは、前から嫌だと言ってただろうが」
聾学校に入学して以来、由佳は本山宗太郎と共に成長してきた。
ろう者と言っても、聞こえない者ばかりではなく、心身に別の障害がある重複障害者も多い。ろうの由佳は、他の障害を持っていないか、軽度の子供5人と幼い時から何をするにも一緒に過ごしてきた。
付き合いが長いだけに、親同士の交流も深まり、特に町工場を経営する本山家、サラリーマンの梶井家とは親密に付き合ってきた。
学生時代に柔道をしていた浩輔は、本山宗太郎を道場に誘い、基礎から仕込んだ。宗太郎は障害者の大会だけでなく健常者の試合でも活躍するようになった。
ところが最近は技が荒くなり、いくら助言しても直そうとしない。仕方なく彼と関わることをやめてしまっていた。
それに浩輔は宗太郎の母親が苦手だった。母親は、明らかに医師の娘である由佳に馴れ馴れしく接し、宗太郎の相手として目をつけている気配が感じられた。由佳が宗太郎と付き合っていると妻から聞かされ、本人が納得しているなら仕方ないと、不本意ではあるが半ばあきらめていた。
昨年の秋、休日にゴルフから帰宅した浩輔は、由佳と玄関で鉢合わせをした。
浩輔は娘の姿を見て愕然として大声を出した。
「なんだそのかっこうは!」
白いブラウスの上のボタンが何個もはずれ、唇の端が切れて血がにじんでいる。そういえば灰色のスカートも乱れているようだ。由佳は父親に目もくれず、逃げるように階段を駆けあがった。
「お前、だれに何をされたんだ」
大声を聞いて母親の美智子が出てきた。
「来ないで。私が聞くから」
由佳は宗太郎に誘われて映画に行ったらしい。
その後、母親が待っていると言われて彼の家に行ったが、家には誰もいなかった。不安を感じて帰ろうとすると抱きしめられ、必死に抵抗したが無理やりキスをされたり体を触られたりした。力が強いからこわかった。すきをみて荷物を置いたまま逃げた。これがあらましだった。
すぐに宗太郎の家に行った。出てきた母親に宗太郎に会いたいと言うと、顔をひきつらせ引っ込んだ。ずいぶん待たされてから彼が出て来た。ふてくされたような顔をして由佳が置いていったバックを渡された。浩輔は手話でゆっくり伝えた。
「これで終わりだ。二度と由佳に近づくな」
何年も柔道の指導をしてやったのに、恩を仇で返されたと思うと何とも悔しかった。
彼は返事もせず。浩輔に背を向け部屋に引っ込んでしまった。母親がおどおどして出てきた。
「あの子、何かお嬢さんに失礼なことしましたか?若いから無茶するかもしれないけど、若い者同士で話し合ったらなんとかなりませんか」
何をしたか知っている様子だ。
「何をしたか、あいつに教えてもらってください。それから二度とうちの娘に近づかないように言っといてください」
後で、あの程度では紳士的過ぎたと後悔した。裁判沙汰にする位は言うべきだった。
聾学校にも知らせ、二人が同じ教室で出会うことのないようにしてもらった。
本山宗太郎は、同級生に対する傷害と暴行未遂ということで無期停学処分を受けた。
残る心配は、本当に由佳は顔を殴られただけなのか。彼女を問い詰めたくはないし、妻は何もなかったというばかりだ。
「何も由佳の恥になるようなことを他人に言わなくてもいいでしょう?本当に由佳は何もなかったんだから。変な邪推をしてあの子を傷つけるようなこと言わないで」
「でも彼が真剣に付き合いたかったら、そんなこと気にせんだろう」
「由佳と一回デートしただけでしょう。うちは本山さんと十年以上の付き合いよ。最近は、宗太郎君と由佳が一緒になるかもしれないと思っていたくらいなのに」
「由佳にあんなひどいことをした奴に、まだ君付けをするのか。わしは本山のおばはんと親戚になるのは、前から嫌だと言ってただろうが」
聾学校に入学して以来、由佳は本山宗太郎と共に成長してきた。
ろう者と言っても、聞こえない者ばかりではなく、心身に別の障害がある重複障害者も多い。ろうの由佳は、他の障害を持っていないか、軽度の子供5人と幼い時から何をするにも一緒に過ごしてきた。
付き合いが長いだけに、親同士の交流も深まり、特に町工場を経営する本山家、サラリーマンの梶井家とは親密に付き合ってきた。
学生時代に柔道をしていた浩輔は、本山宗太郎を道場に誘い、基礎から仕込んだ。宗太郎は障害者の大会だけでなく健常者の試合でも活躍するようになった。
ところが最近は技が荒くなり、いくら助言しても直そうとしない。仕方なく彼と関わることをやめてしまっていた。
それに浩輔は宗太郎の母親が苦手だった。母親は、明らかに医師の娘である由佳に馴れ馴れしく接し、宗太郎の相手として目をつけている気配が感じられた。由佳が宗太郎と付き合っていると妻から聞かされ、本人が納得しているなら仕方ないと、不本意ではあるが半ばあきらめていた。
昨年の秋、休日にゴルフから帰宅した浩輔は、由佳と玄関で鉢合わせをした。
浩輔は娘の姿を見て愕然として大声を出した。
「なんだそのかっこうは!」
白いブラウスの上のボタンが何個もはずれ、唇の端が切れて血がにじんでいる。そういえば灰色のスカートも乱れているようだ。由佳は父親に目もくれず、逃げるように階段を駆けあがった。
「お前、だれに何をされたんだ」
大声を聞いて母親の美智子が出てきた。
「来ないで。私が聞くから」
由佳は宗太郎に誘われて映画に行ったらしい。
その後、母親が待っていると言われて彼の家に行ったが、家には誰もいなかった。不安を感じて帰ろうとすると抱きしめられ、必死に抵抗したが無理やりキスをされたり体を触られたりした。力が強いからこわかった。すきをみて荷物を置いたまま逃げた。これがあらましだった。
すぐに宗太郎の家に行った。出てきた母親に宗太郎に会いたいと言うと、顔をひきつらせ引っ込んだ。ずいぶん待たされてから彼が出て来た。ふてくされたような顔をして由佳が置いていったバックを渡された。浩輔は手話でゆっくり伝えた。
「これで終わりだ。二度と由佳に近づくな」
何年も柔道の指導をしてやったのに、恩を仇で返されたと思うと何とも悔しかった。
彼は返事もせず。浩輔に背を向け部屋に引っ込んでしまった。母親がおどおどして出てきた。
「あの子、何かお嬢さんに失礼なことしましたか?若いから無茶するかもしれないけど、若い者同士で話し合ったらなんとかなりませんか」
何をしたか知っている様子だ。
「何をしたか、あいつに教えてもらってください。それから二度とうちの娘に近づかないように言っといてください」
後で、あの程度では紳士的過ぎたと後悔した。裁判沙汰にする位は言うべきだった。
聾学校にも知らせ、二人が同じ教室で出会うことのないようにしてもらった。
本山宗太郎は、同級生に対する傷害と暴行未遂ということで無期停学処分を受けた。
残る心配は、本当に由佳は顔を殴られただけなのか。彼女を問い詰めたくはないし、妻は何もなかったというばかりだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる