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Ⅲ ロンドンへの道
17 障害の責任
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三田島家のリビングで浩輔と美智子が、長時間話し合っていた。
「もちろん資格を取らせるのは大事だと思うが、何も今すぐじゃなくてもいいだろう」
「あなたは由佳が学校を卒業して、家事手伝いでいいと言うの?他の子の進路は決まっているのよ」
「この半年、由佳があれだけ何かに打ち込んだのは、淳一君のおかげだろう。今まで何かしてもらうことばかりで、人のために一生懸命になることは初めてじゃないか?」
「あの子、今まで勉強も運動も何でもできたじゃない。早く看護師の資格を取ってほしいのよ」
「そのために、今やっている淳一君のサポートを止めさせるのか?」
「できる範囲でやればいいでしょ。休みの日に付き合うとか。とにかく試験は受かったんだから、それをみすみす捨てることはないわ」
ここで一息ついた。
「君自身、看護師資格を持っているから、分かっていると思っていた。講義が全く聞こえない中で、三年間、唇だけ見て理解しろというのか」
「あの子ならできると思う。やってきた人知っているし。人工内耳にしたらもっと楽になるかもしれない」
「俺は、これまであの子が少しでも悲しい思いをしないようにしてきたつもりだ。それを君が、将来のことを考えたら甘すぎると思っているのは分かっている。しかし今、あの子は淳君と夢を目指している。それを取り上げて看護学校に放り込むのは酷じゃないか」
「あの子たち姉妹が、障害を持ったのは私たちの責任。それを乗り越えさせることも私たちの責任でしょう?」
二人で部屋に入った時、母親の最後の言葉、「障害を持ったのは私達の責任」という言葉が聞こえた。どういうことだろう?緊張しながらテーブルに着いた。ともかく話を始めなければ。
「あの、僕のせいで、由佳さんやお二人にご心配かけてしまって・・」
全部言う間もなく、父親が口を挟んだ。
「淳一君、もういいよ。私は由佳が幸せでさえあればそれでいい。母さんが看護学校に行けと言うのも由佳のためだ。しかし決めるのは由佳自身だろう?母さん」
「そうね。由香の人生だしね。淳一さんはどうしてほしいの?」
言葉に詰まった。
「3月4日に滋賀県でマラソン大会があります。そこででいい結果が出せれば目標達成です。そしたら8月までサポートを頼みたいと思っていました」
「可能性あるの?入学金の払い込み期限は来週末よ」
「頑張りますとしか言えません」
「入学金の百万円を払い込むかどうかはあなた次第になるわね。もしかしたら一年間、由佳は学校も行かず無職少女よ」
言葉を失い、うなだれてしまった。
由佳は、母親を睨み付けた。雰囲気で分かったようだ。
父親が口を開いた。
「こうしよう。看護学校には入学する。これで母さんの気は晴れるな。もし淳一君の願いがかなったなら、前半は休学するなり、取れる分の授業を受けながら、彼のサポートをする。これでいいだろう?」
3月のマラソンでだめだったら・・・。その可能性の方がはるかに大きい。
彼女は看護学校。俺は大学で陸上と勉強。
もし夢がかなったら彼女は休学してサポートを続ける。やっぱりそんなことはありえないか。三田島先生もオリンピックという言葉は出さなかった。信じているのは由佳だけか。
話し合いの後、彼女の部屋に行った。由佳は先程と違ってうれしそうだ。
「明日から、またジュンと一緒に走れるね。後二か月もないから、頑張ろう」
まだ気持ちがもやもやしている。何のためにオリンピックを目指すのか分からなくなってきた。
彼女が心配そうに淳一を見つめた。
「大丈夫。私がいるから。二人ならできるとあなたが言ったでしょう。ジュンがロンドンで走る姿を見たい。私の夢をかなえてくれる?」
大歓声を浴びながら、由佳の前を走る自分の姿が頭に浮かんだ。
体の中から何か押さえきれない気持ちがあふれて来た。
彼女を思い切り抱きしめ、ベッドに倒れこんだ。キスだけ。キスだけならいいだろう?
彼女は、目を閉じて力を抜いた。いいのか?今、この部屋で本当に?
ため息をついて体を離した。もう少しだけ我慢しよう。今でなくてもいい。
これからいくらでもチャンスはあるはずだ。
「もちろん資格を取らせるのは大事だと思うが、何も今すぐじゃなくてもいいだろう」
「あなたは由佳が学校を卒業して、家事手伝いでいいと言うの?他の子の進路は決まっているのよ」
「この半年、由佳があれだけ何かに打ち込んだのは、淳一君のおかげだろう。今まで何かしてもらうことばかりで、人のために一生懸命になることは初めてじゃないか?」
「あの子、今まで勉強も運動も何でもできたじゃない。早く看護師の資格を取ってほしいのよ」
「そのために、今やっている淳一君のサポートを止めさせるのか?」
「できる範囲でやればいいでしょ。休みの日に付き合うとか。とにかく試験は受かったんだから、それをみすみす捨てることはないわ」
ここで一息ついた。
「君自身、看護師資格を持っているから、分かっていると思っていた。講義が全く聞こえない中で、三年間、唇だけ見て理解しろというのか」
「あの子ならできると思う。やってきた人知っているし。人工内耳にしたらもっと楽になるかもしれない」
「俺は、これまであの子が少しでも悲しい思いをしないようにしてきたつもりだ。それを君が、将来のことを考えたら甘すぎると思っているのは分かっている。しかし今、あの子は淳君と夢を目指している。それを取り上げて看護学校に放り込むのは酷じゃないか」
「あの子たち姉妹が、障害を持ったのは私たちの責任。それを乗り越えさせることも私たちの責任でしょう?」
二人で部屋に入った時、母親の最後の言葉、「障害を持ったのは私達の責任」という言葉が聞こえた。どういうことだろう?緊張しながらテーブルに着いた。ともかく話を始めなければ。
「あの、僕のせいで、由佳さんやお二人にご心配かけてしまって・・」
全部言う間もなく、父親が口を挟んだ。
「淳一君、もういいよ。私は由佳が幸せでさえあればそれでいい。母さんが看護学校に行けと言うのも由佳のためだ。しかし決めるのは由佳自身だろう?母さん」
「そうね。由香の人生だしね。淳一さんはどうしてほしいの?」
言葉に詰まった。
「3月4日に滋賀県でマラソン大会があります。そこででいい結果が出せれば目標達成です。そしたら8月までサポートを頼みたいと思っていました」
「可能性あるの?入学金の払い込み期限は来週末よ」
「頑張りますとしか言えません」
「入学金の百万円を払い込むかどうかはあなた次第になるわね。もしかしたら一年間、由佳は学校も行かず無職少女よ」
言葉を失い、うなだれてしまった。
由佳は、母親を睨み付けた。雰囲気で分かったようだ。
父親が口を開いた。
「こうしよう。看護学校には入学する。これで母さんの気は晴れるな。もし淳一君の願いがかなったなら、前半は休学するなり、取れる分の授業を受けながら、彼のサポートをする。これでいいだろう?」
3月のマラソンでだめだったら・・・。その可能性の方がはるかに大きい。
彼女は看護学校。俺は大学で陸上と勉強。
もし夢がかなったら彼女は休学してサポートを続ける。やっぱりそんなことはありえないか。三田島先生もオリンピックという言葉は出さなかった。信じているのは由佳だけか。
話し合いの後、彼女の部屋に行った。由佳は先程と違ってうれしそうだ。
「明日から、またジュンと一緒に走れるね。後二か月もないから、頑張ろう」
まだ気持ちがもやもやしている。何のためにオリンピックを目指すのか分からなくなってきた。
彼女が心配そうに淳一を見つめた。
「大丈夫。私がいるから。二人ならできるとあなたが言ったでしょう。ジュンがロンドンで走る姿を見たい。私の夢をかなえてくれる?」
大歓声を浴びながら、由佳の前を走る自分の姿が頭に浮かんだ。
体の中から何か押さえきれない気持ちがあふれて来た。
彼女を思い切り抱きしめ、ベッドに倒れこんだ。キスだけ。キスだけならいいだろう?
彼女は、目を閉じて力を抜いた。いいのか?今、この部屋で本当に?
ため息をついて体を離した。もう少しだけ我慢しよう。今でなくてもいい。
これからいくらでもチャンスはあるはずだ。
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