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Ⅳ オリンピック代表
18 医療少年院
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本山宗太郎は、夕食後、医療少年院の食堂でマラソン中継を見ていた。
テレビ視聴はいつもなら午後8時までだが、今日は特別にマラソン終了の10時半まで見ることができるそうだ。
柔道には興味があるので応援して見ていたが、結果は惨敗ともいうべき結果で、自分が出ていればとすら思った。まあ傷害事件を起こした俺に可能性はないが。
テレビに映ったあいつの顔はすぐ分かった。駅前のコンビニにいた奴だ。
あの日、由佳に一言謝ろうとして待ち構えていたのに、俺の顔を見たら逃げようとした。
つかまえようとしたらあいつに邪魔をされた。背の高いやつだったが、殴って投げ飛ばしてやった。
卒業式でやったことはもう忘れたい。何であんなことをしてしまったのか、今でも分からない。
家から短い鉄パイプを卒業式に持っていったのは、うざい担任を脅かすだけのつもりだった。
自分を押さえられず由佳まで大けがを負わせてしまった。
鑑別所での一か月は長かった。5月の審判で、3年以上5年以内の不定期刑と決まった。
京都の医療少年院に移されて三か月が過ぎた。特別少年院に行くはずが、ろう者ということで配慮されたと聞いた。
それをうれしいと思う気持ちは全くない。
「家を空けとくから由佳ちゃんをよんだら?」とたきつけたお袋は一度も会いに来ない。
あれがけちのつき初めだ。
お袋もあほだが、その言葉に惑わされて由佳にレイプまがいのことをした俺も大馬鹿だった。
由佳は俺に親切だったが、それが好意や愛ではないことはとっくに知っていた。
めったに顔を合わさなかった親父が、面会に来た。
今住んでいる家は売り払うそうだ。
「鉄工場は、お前が帰ってくるまでやりくりして残しておく」とノートに書いて帰った。
親父もお袋も手話はできない。ここで会話した内容は全部記録される。
先月、聾学校高等部の副担任が面会に来た。
聾学校は複数担任で、頭を鉄の棒で殴り重傷を負わせた相手が主担任だ。手話と口話の会話をした。
「お前が怪我をさせた市内先生はようやく退院できた。三田島さんの指はもう一生くっ付かないそうだ。お前だけ元気でいいな」
こいつ何しに来たんだ。睨み付けた。
「2年の吉沢明日葉を知っているな?お前、あの子に手を付けただろう。やりたい放題だな。あの子が妊娠をしてしまった。もちろん彼女の両親は生まないことを望んでいる。私もその方がいいと思っているが、吉沢が堕胎を拒んでいる。お前の気持ちが知りたいそうだ。だからそれを聞きに来た」
頭が混乱してきた。
明日葉は、ずっと前から俺に気があることを隠そうとしなかった。
だからあいつに、学校内でもキスをしたり胸に手を入れたり好き勝手してきた。
停学中、何度も家に呼んであいつを抱いた。
あいつは由佳のように抵抗しなかった。
でも軽度の知的障害のある明日葉とは、何か話が通じにくいもどかしさがあった。
妊娠なんて考えもしてなかった。
「では、お前が子供はいらないと言ったと伝えておく」
元担任が監視の職員に手を上げた。来て5分も経っていない。振り向きもせずドアに向かった。
宗太郎は出せない声で叫んだ。何かが咆哮しているようなわめき声。
元担任の脚に飛びついた。監視人と元担任が引き離そうとするが必死でしがみついた。
だめだ、絶対だめだ。今、明日葉を失ってしまったら俺は完全におしまいだ。
彼が泣いていることが分かり、二人の大人は顔を見合わせて動きを止めた。
彼は元担任の足に抱き着いたまま、ここに来て一度も流したことのない涙を流し続けていた。
次の日のテレビニュースで、あいつがゴールしてから手話で由佳に謝っている姿が出てきた。
あいつら付き合っていたのか。
それにあいつ馬鹿か。銀メダルを取って謝るか。
まあいい。俺だって、明日葉とまだ見ぬ子供が待ってくれている。
テレビ視聴はいつもなら午後8時までだが、今日は特別にマラソン終了の10時半まで見ることができるそうだ。
柔道には興味があるので応援して見ていたが、結果は惨敗ともいうべき結果で、自分が出ていればとすら思った。まあ傷害事件を起こした俺に可能性はないが。
テレビに映ったあいつの顔はすぐ分かった。駅前のコンビニにいた奴だ。
あの日、由佳に一言謝ろうとして待ち構えていたのに、俺の顔を見たら逃げようとした。
つかまえようとしたらあいつに邪魔をされた。背の高いやつだったが、殴って投げ飛ばしてやった。
卒業式でやったことはもう忘れたい。何であんなことをしてしまったのか、今でも分からない。
家から短い鉄パイプを卒業式に持っていったのは、うざい担任を脅かすだけのつもりだった。
自分を押さえられず由佳まで大けがを負わせてしまった。
鑑別所での一か月は長かった。5月の審判で、3年以上5年以内の不定期刑と決まった。
京都の医療少年院に移されて三か月が過ぎた。特別少年院に行くはずが、ろう者ということで配慮されたと聞いた。
それをうれしいと思う気持ちは全くない。
「家を空けとくから由佳ちゃんをよんだら?」とたきつけたお袋は一度も会いに来ない。
あれがけちのつき初めだ。
お袋もあほだが、その言葉に惑わされて由佳にレイプまがいのことをした俺も大馬鹿だった。
由佳は俺に親切だったが、それが好意や愛ではないことはとっくに知っていた。
めったに顔を合わさなかった親父が、面会に来た。
今住んでいる家は売り払うそうだ。
「鉄工場は、お前が帰ってくるまでやりくりして残しておく」とノートに書いて帰った。
親父もお袋も手話はできない。ここで会話した内容は全部記録される。
先月、聾学校高等部の副担任が面会に来た。
聾学校は複数担任で、頭を鉄の棒で殴り重傷を負わせた相手が主担任だ。手話と口話の会話をした。
「お前が怪我をさせた市内先生はようやく退院できた。三田島さんの指はもう一生くっ付かないそうだ。お前だけ元気でいいな」
こいつ何しに来たんだ。睨み付けた。
「2年の吉沢明日葉を知っているな?お前、あの子に手を付けただろう。やりたい放題だな。あの子が妊娠をしてしまった。もちろん彼女の両親は生まないことを望んでいる。私もその方がいいと思っているが、吉沢が堕胎を拒んでいる。お前の気持ちが知りたいそうだ。だからそれを聞きに来た」
頭が混乱してきた。
明日葉は、ずっと前から俺に気があることを隠そうとしなかった。
だからあいつに、学校内でもキスをしたり胸に手を入れたり好き勝手してきた。
停学中、何度も家に呼んであいつを抱いた。
あいつは由佳のように抵抗しなかった。
でも軽度の知的障害のある明日葉とは、何か話が通じにくいもどかしさがあった。
妊娠なんて考えもしてなかった。
「では、お前が子供はいらないと言ったと伝えておく」
元担任が監視の職員に手を上げた。来て5分も経っていない。振り向きもせずドアに向かった。
宗太郎は出せない声で叫んだ。何かが咆哮しているようなわめき声。
元担任の脚に飛びついた。監視人と元担任が引き離そうとするが必死でしがみついた。
だめだ、絶対だめだ。今、明日葉を失ってしまったら俺は完全におしまいだ。
彼が泣いていることが分かり、二人の大人は顔を見合わせて動きを止めた。
彼は元担任の足に抱き着いたまま、ここに来て一度も流したことのない涙を流し続けていた。
次の日のテレビニュースで、あいつがゴールしてから手話で由佳に謝っている姿が出てきた。
あいつら付き合っていたのか。
それにあいつ馬鹿か。銀メダルを取って謝るか。
まあいい。俺だって、明日葉とまだ見ぬ子供が待ってくれている。
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